因縁の敵。
ついにアイツとの決戦の時が来た。
僕が1年以上の歳月をかけて挑んで来た「鈴鹿セブン完全制覇」への道。
もうすっかり忘れてる人もいるだろうから書いておくと、鈴鹿セブンとは鈴鹿山脈が誇る7つの名峰の総称だ。
僕はこの7つの名峰を、誰にでも分かり易いようにキン肉マンの「7人の悪魔超人」に見立てて戦って来た。(思いのほか共感者が少なくて苦戦しているけど)
これは登山ではなく、あくまでもミート君の体を取り戻す戦いなのだ。
一発目の「ステカセキング(入道ヶ岳)戦」はりんたろくんとのタッグで挑み、水分不足と体力切れで打ちのめされたがなんとか撃破。
二発目の「アトランティス(竜ヶ岳)戦」では、セントヘレンズ大噴火で滑落寸前まで追い込まれたが、なんとか水中に引きずり込まれる事無く撃破。
三発目の「ブラックホール(釈迦ヶ岳)戦」は、吸引ブラックホールによって四次元空間へ引きずり込まれてついに遭難してしまうが、必死で巻き返してなんとか撃破。
四発目の「ミスター・カーメン(藤原岳)戦」では、山で出会った青年もろとも本気の遭難をして負けを覚悟したが、力を合わせてかろうじて撃破。
五発目の「スプリングマン(御在所岳)戦」では、ついに敗退を喫しウルフマンの命が奪われてしまったが、再戦リベンジマッチで味噌バターコーンラーメン惨劇を乗り越えて見事に撃破。
六発目の「ザ・魔雲天(鎌ヶ岳)戦」では、ガレ場での壮絶な断崖絶壁デスマッチで命を削られて、アブに足の指の股を刺されて大苦戦したがなんとか撃破した。
このように回を追う毎に戦いは壮絶さを増し、歴史的な名勝負を繰り広げて来てついに残す所1峰の所まで来た。
その相手の名は「雨乞岳」。
鈴鹿山脈の最深部に怪しくそびえ立つ鈴鹿セブン最高峰の山。
もちろん7人の悪魔超人に例えるならば、リーダー格の「バッファローマン」だ。
最終戦の相手にふさわしい超人強度1000万パワーの名峰である。
ついに迎えた鈴鹿セブン完全制覇の最終戦。
今回はそんな因縁の相手、バッファローマンとの決戦前日の「戦いの仕込みの模様」だけをお送りする回。
戦いは決戦前から始まっているのだ。
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実は僕は今年の春から、ずっと雨乞岳挑戦の機会をうかがっていた。
この山ではバッファローマンの餌食になるものが多く「遭難者多数の山」と言われる山だったので、万全の準備と好天候の日を狙い続けて来たのだ。
しかし、いざアタックデーだと思った時は必ず「当日に突然の天候の激変」「原因不明の背中の痛み」「嫁からの留守番指令」など、なんだかんだとずっと行けずにいた。
その中の一つには、雨によって雨乞岳登山を中止した事によって開催された「経ヶ峰地鎮祭」の悲劇がある。
この時に受けた経ヶ峰の呪いが、後のバッファローマンとの戦いに影響を及ぼす「伏線」になろうとは思ってもいなかった。
ここから負の連鎖が始まる。
経ヶ峰で破壊された僕の一眼レフカメラ。
販売店に修理に出してから、一向に連絡の無い日々が続いてた。
鈴鹿セブン完全制覇の大事な瞬間を普通のデジカメで撮る気にはなれないので、僕はひたすら一眼レフの帰りを待った。
そしてその間の天気の良さと言ったらどうだ。
結局カメラが入院中だった各週末は、見事な登山日和に包まれて晴れまくった。
しかもなぜか嫁も機嫌が良くて比較的遊びに行きやすい環境も整っていた。
それだけにこの期間中の僕の心は、雨乞岳と戦えないジレンマで激しく身悶えた。
結局、秋が終わり冬の到来を告げる時期にやっと一眼レフカメラが帰還して来た。
もうすっかり紅葉は散り、いよいよ山間には雪化粧が始まり出していた。
こうしてただでさえ難易度の高い雨乞岳が、まさかの雪山へとグレードアップした。
間違いなく遭難率もグレードアップだが、どうしても今シーズン中に完全制覇を達成したいんだ。
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雨乞岳に登る為には、鈴鹿スカイラインという道を車で走って登山口まで行かねばならない。
しかしこの鈴鹿スカイラインは、例年だいたい12月15日あたりから「冬期閉鎖」で通れなくなってしまう。
わざわざ電話で確認したら、今年は12月14日から(路面状況次第で早まる可能性有り)と言っていた。
つまり、今回の週末が今シーズンの鈴鹿セブン制覇へのラストチャンスという事だ。
それだけに僕のこの週末にかける想いは強烈なものだった。
土曜日は天気予報も今イチで、嫁の送迎もあったから大人しく翌日に備えてスタッドレスタイヤの取付け作業だ。
冬期閉鎖前とは言え、鈴鹿スカイラインが凍結している事は十分考えられる。
決戦の日は翌日の日曜日一本に絞って万全を期す事にした。
雪らしきものが降り始める中、寒さに震えながらタイヤ交換。
車は買い替えたけどエクストレイルからエクストレイルだから、以前使っていたスタッドレスを装着。
まだ買って2シーズンしか使ってないスタッドレスタイヤだったから、これが再び使えるってのも新車購入の際にエクストレイルに決めた理由の一つだ。
頑張って付替えを終え、いざ車を走らせたその時。
「ガガガガ、ズモモモ」という奇妙な音が鳴り響いた。
何事だ?
車も妙に重たく感じるぞ。
慌てて車を降りて何度か調べてみると、何やらブレーキパッドについてる大きな部品がタイヤのホイールと接触しているぞ。
慌てて日産のディーラーの人に電話。
「以前のタイヤ装着出来るって言ってましたよね?なんかぶつかってるんですけど」と聞くと、
「確かに新型エクストレイルは16インチから17インチにサイズアップしてるんですが、ワンサイズ違いなら問題ないはずです」と言う。
その後色々調べた結果、僕は以前のエクストレイルにワンサイズ違いの15インチを付けていた事が発覚。
確かに僕はオートバックスで購入する際「エクストレイルが履けるスタッドレスを」と頼んでいるから、ワンサイズ違いでも「装着可」という事で購入していたわけだ。
結果、ツーサイズ違いとなってしまった現エクストレイルには装着不可という絶望的な結論が導き出された。
ディーラーの言う事をまとめると、標準の16インチのスタッドレスを着けていたという前提で「以前のものも装着出来ます」と言ったから、ディーラー側に責任は無いと。
お客様の判断で15インチだったわけだから、お客様の責任ですよと。
ちなみにスタッドレスタイヤ新規ご購入ですと「13万円」ですよと。
そして残り1セットしか在庫が無いですよと。
すぐ売れちゃうから今すぐ買うかどうかお返事くださいよと。
なんだこの色々と納得いかない感情は?
ニュースでは今週末は大寒波襲来で雪が降るって言ってるから、鈴鹿スカイラインどころか通勤の為にもどうしても今日履き替えておきたいのに。
大急ぎで近隣の自動車用品店に電話確認したが、在庫はないという。
結局泣く泣くディーラーでお願いする運びとなった。
出会い頭のとんでもない出費となったぞ。
一眼レフカメラが保障期間内で修理費請求されなくてホッとしていた矢先の強烈な右ストレート。
試合に勝ったと思って観客にガッツポーズしている所におもいっきり食らってしまったハードパンチ。
買う予定も無かった物に対し、いきなり13万円も支払うというこの精神的苦痛の重厚感と言ったらどうだ。
ゴング前にも関わらず、もうすでにバッファローマンの先制攻撃が始まっているのか?
まるで3日目のゲリ野郎のようにヨロヨロと嫁の所に行き、なんとか家計から資金を捻出できないかをご相談。
すると彼女は表情一つ変えずに「お前が悪いんだろ?自分で何とかしやあ」とピシャリ。
僕はそのまま静かにマットに沈んだ。
すかさずセコンドからタオルが投入される。
そして僕の預金終了のゴングが高らかに鳴り響いた。
もうこうなったら意地でも明日はバッファローマンと戦ってやる。
奴の1000万パワーに、僕のこの13万パワーの怒りをぶつけてくれるわ。
ディーラーは「最低でも翌日の夕方5時半までには来てください」と言う。
という事は早朝から戦って、早めに切り上げて5時半までに戻って来るというタイムアタック登山だ。
そしてそんなただでさえ厳しいタイムアタック登山に、ステキなスパイスを加えるのがいつもの僕流のやり方。
決戦前の「マゾの仕込み」が必要だ。
この日は以前から約束して楽しみにしていた古くからの友人達との飲み会の日。
年に一度あるかどうかのこの飲み会が、タイムリミットのある最終決戦前夜にヒットするあたり見事と言う他無い。
当然終電近くまで飲みまくり、帰宅したのは0時を回っていた。
痛飲してフラフラな状態で寝て、早朝ウェイクアップに見事に失敗。
時間制限のある登山で最もやってはいけない寝坊をぶちかました。
そして起き抜けから、頭の中がガンガンと陽気なドラマーがソロ演奏で観客を煽る。
頭痛と吐き気とまだ抜けきっていない酔いが、爽やかな朝をぶち壊すハードロック。
体の怠さがハンパない。
執拗なバッファローマンの先制攻撃になす術の無い男。
これで最終決戦に対する仕込みはバッチリだ。
こうして男は重い体と精神を引きずりながら、決戦のリングを目指して旅立って行った。
彼がこの決戦の為に、事前に支払った代償は以下の通り。
「カメラが無い期間の快晴登山日和の日々」
「予想外のスタッドレス13万円による心の路面凍結」
「二日酔いによる万全の体調の損失」
「寝坊によるタイムアタックのハードル上げ」
このようなベストコンディションを味方にして挑む最終決戦。
寒波による雪山登山が予想される中で挑む、鈴鹿セブン一の遭難率を誇る雨乞岳登山。
待ってろよバッファローマン。
今その自慢の角をへし折りに行くからな。
しかし男を待っていたものは新たなる絶望だった。
男は見事に鈴鹿セブン完全制覇を成し遂げるのか、無念の戦死を遂げるのか?
いよいよ最後の戦いが幕を開ける。
〜つづく〜
決戦前夜〜1000万vs13万の前哨戦〜
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