西伊豆/静岡

西伊豆男塾 前編〜乱坊少佐のサバイバル訓練〜

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田沢は落ち込んでいた。

その原因は、先月に行われた「小太郎男塾」にある。

この時田沢は鬼のAV監督松尾に徹底的に追い込まれ、小太郎山山頂にてついに「リアル嘔吐」をかましてしまった。

そしてその後逃げ込んだ小屋では、まさかの「廃人田沢うどん」になってしまうという屈辱も味わった。

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この時、田沢は激しく己の「老い」を突きつけられて意気消沈。

下山後には同い年の虎丸と共に、ついに男塾へ休塾届を提出。

田沢は「私は暫く年相応なノンマゾアウトドアに身を捧げます。」と宣言し、男塾を去っていってしまったのである。

 

そんな田沢が心の傷を癒すために選んだ遊びのステージ。

それは「海」。

さすがにここなら変態黒乳首男に追い込まれる事なく、優雅にアウトドアを楽しめるはず。

もうゲロ吐いてヒイヒイ言うマゾな遊びとはオサラバなのである。

 

そしてそのステージの案内人を買って出てくれたのが、同期休塾生の虎丸。

彼は最近、西伊豆でかなり優雅な海上散歩&洞窟探検を楽しんでいるという。

田沢は彼の「西伊豆でシーカヤックやりましょう。そして楽しいビーチで豪勢な焚き火メシ食いましょう。」という誘いに乗った。

若干天気予報で、「海上にある台風25号の影響で太平洋側は大シケの可能性」という不安な一文が気になったが、経験豊富な虎丸が「問題ないです。大丈夫ですよ。」と言っていたからきっと大丈夫なんだろう。

シーカヤック経験が2回しかなく、海の無い岐阜県在住の田沢は、もう全てを虎丸に委ねるしかないのである。

 

しかしである。

山には山の追い込み人がいるように、海には海の追い込み人がいた。

田沢は知らなかった。

虎丸は海に出ると、途端に男塾訓練科教官「乱坊少佐」へと豹変してしまうという事を。

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男塾三海魔王の一人で、グリーンベレー出身の金鬼島島主。

塾生に向けていきなり発砲し、授業では本物のダイナマイトや地雷を用いるのでお馴染みの海の鬼教官である。

 

通常のシーカヤックツアーなら台風の影響で中止になる局面でも、乱坊少佐に言わせれば「絶好の命のやり取り日和」。

そんな事を何も知らない田沢は、ただただ優雅な海での浮かれタイムを夢見て伊豆に向かった。

どこまでも広がる静かな海、ステキな砂浜のビーチ、ゲロと無縁のシーパラダイス。

 

だがそんな田沢を待っていたのは、過去最高レベルの「死への絶望感」。

2日目に待っていた生き地獄は、リアルな海難事故と言ってもいい壮絶なシゴキの世界だった。

 

そんな田沢こと「伊豆のマゾり子」が、本気の死線を彷徨うことになる前日の模様。

まずは初日の訓練の様子をゲロりと振り返って行こう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

西伊豆の浮島(ふとう)海岸駐車場。

途中で鹿と正面衝突しそうになりながらも、岐阜からはるばるここまでやって来た田沢。

ここで虎丸と合流し、ワクワクしながら準備を進める。

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この西伊豆というステージは、全国のシーカヤッカー憧れの場所。

しかし気のせいか、周りには一人もシーカヤッカーがおらず、どことなく漁船の数もまばらだ。

一瞬田沢は「ほんとに大丈夫か?」と不安になったが、虎丸は「大丈夫ですよ。午前中は安定してますし、難所はすぐに終わりますから。」と言って田沢を安心させる。

基本的に虎丸が言う「大丈夫です」は大概大丈夫ではない状況が多いが、海の勝手が分からない田沢はその言葉を信じるしかない。

 

一抹の不安はあったが、いざ楽しい楽しい夢のビーチに向けて意気揚々と出航である。

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先月青木湖で軽く練習はさせてもらったが、やっぱうねる海の上では猛烈に不安定だ。

でも思ったより波も高くなく、次第に落ち着いて来る田沢。

虎丸ガイドも、「この先難所があるんで、まず慣れるまでここで暫く練習しましょう」と優しく声がけをしてくれる。

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やっぱどこぞの追い込み若手AV監督に比べて、老い友である同年代の仲間は優しいな。

この調子なら今回は追い込まれずにじっくり楽しめそうだ。

で、ある程度慣れた頃にこのような洞窟をくぐり抜け、

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虎丸ガイドの「ここがなんとかって場所です。名前は忘れました。」というファジーすぎる説明を聞きながら、その難所へ突入。

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狭い水路内を波が通り抜け、複雑に隆起してうねっている。

結構怖かったが、最近川どころか沢でパックラフトのちょい漕ぎばっかやってる田沢としては中々新鮮な体験で面白い。

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そして難所と言われた場所も、楽しい気分で難なく通過。

 

しかし難所はむしろその先にあった「タイミングが良ければ漕ぎ抜けられる」という場所。

もちろんタイミングの悪さが代名詞のような田沢は漕ぎ抜けられない。

ゆえに荷物満載大重量のカヤックを、両腕の筋肉をはち切らせながら運ぶ事に。

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そしてお約束のように、磯のヌルヌル岩に足を取られて転倒して臀部打撲する田沢。

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さらにカヤックに乗り込む時、カヤック搬送で体力がヘロヘロになってて乗り沈。

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勝手に繰り広げられる田沢劇場。

しかしよく見るとガイドである虎丸も沈している。

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基本的にこの老人二人は、重い荷物や激しい運動をするとヨロヨロになってしまう。

悲しいけどこれが現実だ。

 

しかし、なぜ無理して干潮時にこの場所を進んでいったのか?

それはこの「天窓洞(てんそうどう)」という洞窟に侵入するためである。

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この天窓洞は朝早くじゃないと観光遊覧船がどんどこ入って来るから、シーカヤックで堪能するためにはこの時間に突入するのが吉なのである。

そしてこの洞窟内は、その名の通り天井にでっかい窓があったりするのである。

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下の方にいる点のような虎丸と比べれば、その迫力を感じていただけるだろうか。

田沢は「そう!これこれ!こうゆうの求めてたんですよ!」と、うどん食ってた頃とは全く違う笑顔の表情で喜んでいる。

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ホクホク気分の田沢。

急登地獄で10秒しか休ませてくれない松尾の追い込み登山と比べたら、今回はなんて優雅な旅なのだろうか。

 

洞窟から出てもホクホク気分は止まらずこの笑顔。

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虎丸ガイドの「あれがなんとか岩で…。あそこにあるのが…なんとか岩です。多分カメ岩とかクジラ岩とかでしょう。」という相変わらずファジーな解説を聞きながら、優雅なクルージングが続く。

そしてカメラを落としたらしたら即アウトのこの状況ですら、根性の己撮りをしてしまう強気さも。

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すっかりロマンティック浮かれモードになる田沢は、「いやあ、海って楽しいっすね。伊豆っていいっすね。」と浮かれが止まらない。

しかしである。

光あれば影がある。

浮かれあればマゾがある。

 

徐々に海の表情と虎丸の表情が変わって行く。

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虎丸はニヤリとしたかと思うと、田沢を置いてどんどん先に進んでいく。

それと同時にだんだん海のうねりが大きくなり始める。

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この急な展開に「怖いから一人ぼっちにしないでくれ」と必死で漕ぎ出す田沢。

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そしてこの段階で、だんだん体の中に異常を感じ始める田沢。

この懐かしい感じ。

首元まで異物が遡上して来るこの感じは…。

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き…気持ち悪い…。

これはあれか?

まさかの船酔いってやつか?

それともハードな盛り漕ぎによる胃酸の逆流なのか?

これじゃ小太郎と変わらないじゃないか。

 

なんにしてもこんな所で吐いてたまるか。

でも、だめだ。

本気でやばい。

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そもそもデッキにGoProを移動させたのは、カッコ良く己が漕ぐ姿が撮りたかったから。

決して己の嘔吐へのカウントダウンを刻々と記録するためではなかったのに。

 

だめ。

もうだめ。

なんとかこの場で吐けんかな。

でもこのカヤックもスプレースカートも虎丸からの借り物だし、そこに吐くわけにはいかない。

なんとか首伸ばしてマーライオンみたいに吐けないものか?

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だめ、無理っぽい。

何とかして上陸までこぎつけないと吐けない。

 

一生懸命漕ぐ田沢。

またこのまま廃人うどんコースなのか?と不安が頭を駆け巡る。

頼みの虎丸はそんな田沢を置き去りにして遥か彼方へ。

田沢は気づいていないが、この頃には虎丸はすっかり乱坊少佐へと変化しているのである。

 

そしてどれほどの時が経過しただろう。

そこにはもはや漕ぐ事すら出来ずに、必死に己の遡上物と戦う田沢の姿が。

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しかもあれほど雲一つない快晴だった空が、やたらとモクモクにまみれてグレイッシュに。

まるで今の田沢の心情とリンクしているかのようなどんよりさ。

 

すれでも踏ん張って漕いで行くが、一漕ぎする度に胸が圧迫されて喉元まで酸っぱい感じがスプラッシュ。

そのあまりにも苦しすぎるのどごしを堪能しつつ、かろうじて上陸を果たした田沢。

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この田沢の姿を見て、乱坊少佐は満足げに大爆笑。

小太郎山の時もそうだったが、基本的に男塾の塾生達は「大丈夫か!」とか言って駆けつけてはくれない。

 

しかしそんな事に構ってられない田沢は、生まれたての白ブタのようにヨロヨロとカヤックから脱出。

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そして首を締め付けて嘔吐サポートをしてくるフルドライスーツを大急ぎで脱ぐ。

しかしそこで無理な体勢になってしまったことで、激しく右上腕部をツッてしまう田沢。

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デッキ上のGoProはそんな地味なマゾも見逃さない。

そして田沢は大急ぎで浜の奥へダッシュ。

そこで見事、「二ヶ月連続リアル嘔吐」という偉業を達成したのである。

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ここまで来るともはやプロオーター。

しかも嘔吐前にしっかりカメラをセットしてから吐いているあたり、彼の職人魂を感じてならない。

いつか全日本嘔吐選手権が開催されたら、間違いなく彼はぶっちぎりの嘔吐をかます事だろう。

 

ひとしきり胃の中をスッキリさせ、多少動けるようになった段階で再び出艇。

目の前に見える「烏帽子岩」をぐるっと巻いて行った先に、次の休憩地点があるらしい。

 

それにしてもなんだかやたらと海がうねり始めて来たぞ。

というか、かなりうねって来てないか?

どんどんうねって来てるぞ!

 

そして烏帽子岩手前の段階で乱坊少佐が叫ぶ。

「こっから先が西伊豆で最難関の場所です。心してかかってください。」と。

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ちょっと待て。

スタート直後に、このルート上の難関は越えたと言ってたよね。

そっから先はお気楽だと言ってたじゃないか!

 

騙された。

よくよく聞いてみれば、ここから先は北アルプスで例えるなら「大キレット」に匹敵する超難関である事が判明。

シーカヤック3回目のビクビク男に突きつけられた絶望的真実。

それを「もう後戻りの出来ない場所」で突然告げられるというまさか。

田沢も思わず「それ、今言うのー!」と本気叫んだほど。

そして平常時でも波のうねりが複雑で突風が吹く区間だというのに、折からの台風25号が発生させたうねりも絶賛増量中。

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猛烈に怖い。

写真や動画では全く伝わらないだろうが、4mほどの大きなうねりが横から後ろからモワアアアアッッっと迫ってはカヤックを持ち上げて翻弄。

「波」って感じではなく、海面が広い範囲ごとドゥワアアって隆起したり凹んだり。

気持ち悪いを通り越して、圧倒的な恐怖しか感じない。

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しかも岩壁に近づくほどうねりは複雑化し、そのまま壁に引き寄せられれば座礁&大破間違いなし。

かと言って沖に流されすぎると、そのままどこまでも沖に持って行かれて海の藻くずに。

絶対に沈してはいけないという、強烈な緊張感が田沢に襲いかかる。

 

そんな中ふと乱坊少佐の方を見てみると、焦点の合わない目で「こんな激しいの初めてですよ!コーフンしますね!ゾクゾクしますね!」とよだれを垂らして喜んでるではないか。

そして彼は「うへへへへ」と笑いながら、またしても田沢を置き去りにして凄いスピードで去って行く。

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なんてガイドだ。

ここで沈したら誰も助けてくれないぞ。

 

そう思った田沢は、死んだ気になって漕ぎに漕ぎまくる。

恐怖に取り付かれた瞬間全てが終わってしまいそうだったから、無理矢理「あはは!楽しい!たのしーなー!」と強引に自分を鼓舞する。

だってラリった乱坊少佐は、素人をぶっちぎってもうあんな所にいるんだもの。

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まさか最難関の場所で見捨てられるとは…。

確かに過去に松尾(ジョンボーA)が、初めてパックラフトやった時も早々に置き去りにされていたな。

こいつはとんでもないガイドさんに身を任せてしまったぞ。

 

そこからはもう記憶がなくなるほど全身の筋肉をバッキバキにしながら漕ぎ続けた。

どんなに喉が渇いても、水を飲む隙もない。

風もどんどん強風になって行き、パドリングをやめて水筒を取ろうとした瞬間即転覆しそうな気がして水分補給が出来ない。

 

それでも田沢は顔面蒼白になりながら漕いだ。

結局山でも追い込まれ、海でも追い込まれている。

もう私に普通のアウトドアは許されないのか?

 

そして数十分後。

田沢は激しい波と共に、強引に陸に打ち上げられていた。

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まさに地獄だった。

しばらくはとてもじゃないけど立ち上がれるような状態ではなかった。

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そして素人シーカヤッカーを死の恐怖に追いやった乱坊少佐は、散々気持ち良くなったのかすっかりイッてしまっている。

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田沢が事前にあれほど「台風の影響ないですかね?」と言ったのに「大丈夫ですよ」と言い切っておきながら、「いやあ、さすがに危なかったですね。これ相当荒れてますよ。さすが台風です。普通のツアーなら中止ですよ。」と嬉しそうに言っているではないか。

 

ただただ楽しく優雅なシーカヤックを夢見ていた田沢に突きつけられた真実。

前半はあんなに楽しかったのに、後半はハッキリ言って生き残ることしか考えられなかった。

 

それでもやはりそこは天下の西伊豆。

 

やっっとこさ周りの景色を見る余裕が出て来ると、中々壮大な世界観に身を置いているではないか。

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こうなって来ると、どんなにしんどくても「男の血」が騒ぐもの。

ここで乱坊少佐が「ふっふっふ。グリーンベレー時代…、よく血の気の多い連中たちとヒマをもてあましてやっていたもんだぜ。」と言いながら「ナイフ・ザ・タイトロープ」の勝負を挑んで来た。

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…ように見えるが、実際は海岸にアホほどある流木を集めての焚き火場製作風景である。

本当はもっと先のポイントまで行くつもりだったが、全く風もうねりも収まる気配がないから本日はここまで。

もう腹をくくってテント立てて落ち着こうってことに。

 

しかしここで「うっかり田沢」の本領発揮。

あれほど「ええ、今回は忘れ物ないですよ」と自信満々で言っていた彼だが、テントのポールを忘れて来るというハイパーミスを炸裂。

モノポールテントのシャングリラ3においてポールがないのは、ポール・マッカートニー不在のビートルズのようなものなのである。

 

だがここは乱坊少佐のサバイバル訓練場。

田沢はすかさず流木の竹をノコギリでカットし、(ポールは忘れても何故かノコギリは持っている)

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見事「現地調達竹ポール」をMYOGる事に成功。

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現地調達こそ究極のUL志向。

伊豆の海では命すらULになりかねないが、これはこれで笑けるからオールオッケーである。

 

そして猛烈な風の中、ブリザードステイクで無理矢理テント固定。

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正直田沢は穏やかな砂浜ビーチを想像していたからブリザードステイクを持って来ていたが、石にガツガツ当たって全く突き刺さらない。

それどころか石でペグ打ちしながら、勢いで自分の親指の爪を強打してしまい悶絶する追加自傷行為。

なんだか全然落ち着かないぞ。

 

そして風はいよいよ暴風となり、シャングリラのバタバタした動きはテンションMAX時のふなっしー状態に。

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奥にいる乱坊少佐も髪型がスネ夫みたいになってて、とっても楽しげなテント場になって来た。

もはや3,000mの稜線上でシャングリラを張ってる気分だ。

色々落ち着かせるために張ったが、はっきり言っていつテントが天に羽ばたいて行くのか気になって何も手がつかない。

 

そうこうしていると、あんなに頑張って作った焚き火場が、満潮の波に押し寄せられて浸水していたというまさか。

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ヘロヘロの体ですげえ頑張って作ったのになんて事だ。

 

すかさず別の安全地帯で、再び肉体労働に従事する少佐と田沢。

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おかしいな。

素敵ビーチで優雅でのんびりっていうイメージと随分遠い所にいる気がしてならない。

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絵面が、もはや「シベリア強制労働」の一コマにしか見えないのは気のせいか。

死ぬ思いでここまで来て、なぜに石運びや暴風テント張りという苦役ばかりを強いられているんだろうか?

しかも乱坊少佐は「夕方になるほど風は収まりますよ」と言っていたが、夕方が近づくに連れてハイパー暴風になって来ているし。

あまりにも酷い風だから結局テント畳んじゃったし。

一体何のために苦労してテント立てたんだ?

せっかく休塾したのに、結局今日も男塾じゃないか。

 

そして1円の稼ぎにもならない強制肉体労働が終わり、やっと焚き火場設営完了。

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実に男らしい荒々しく荒涼とした世界観。

田沢が想像していたイメージとは随分かけ離れている↓

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しかしこれでこそ男塾。

暴風吹きすさぶ荒くれた世界で、口を真一文字にして黙って耐えるのが男の美学。

乱坊少佐はそれを田沢に伝えたかったのである。

 

その証拠に、ここで乱坊少佐がおもむろに「ワインでもどうぞ」と言ってくれたパックワインには「楽園」の文字が。

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そう、ここは男の楽園。

小洒落た砂浜や、穏やかで快晴の空なんて用は無い。

男は黙って耐風楽園ワイン一献。

そして仕事終わりの海女さんのように、黙々とその場でメシの準備をする。

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おいそこ、「なんだかかわいそう」とか言うんじゃない。

田沢と少佐は心からこの状況を楽しんでいるのだ。

 

そして風に当たりすぎて調子を崩した田沢が低体温症まっしぐらの時。

ついに乱坊少佐が焚き火に「怒りのアフガン着火」。

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折からの暴風にあおられ、火の勢いはメラゾーマクラス。

瞬く間に「これ、刀打てちゃうぜ?」ってくらいのマグマ的な焚き火へ。

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ここは鉄工所なのか?

焚き火ってもっと穏やかな気持ちでじっくり眺めるもんなんだが、熱すぎて近寄れない。

火の粉や爆ぜた木片が散弾銃のように「バンッ!」ってなるから、まるで戦場にいるようだ。

もちろん田沢は、遠くに畳んで置いていたテントに火の粉が降って穴を開けるという奇跡的な悲劇に見舞われている。

 

とあえず、ここからはこの暴風と暴火の中で男メシ。

炎が落ち着かないと何も焼けないから、とりあえずホットサンドクッカーにてエリンギやら厚揚げやらブロックベーコンを食らう。

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もちろん男・乱坊少佐は、箸なんて軟弱なものは使わず「竹」で食らう。

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絶対食いにくいだろうし、竹で厚揚げがボロボロになってたけど彼は気にしない。

 

そんな男の世界観が高まって来た頃、やっとこさステキなお時間がやって来た。

それがこの光景なのである。

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この場所、こんな光景が見られるとこだったってこの時初めて知った。

何も知らなかっただけに、この感動は中々なものだ。

ここはこの「千貫門」と呼ばれる穴から、何と夕陽が拝めてしまうというハイパーラブリースポットだったのである。

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これがいい感じな距離感の女の子と来ていたならば、間違いなく告白してしまうロマンティック局面。

沈み行く夕陽が、まるで消えかけたロウソクの火のように静かに揺れている。

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しかし今の我々にこのようなロマンティックは必要ない。

火は消えかけてはならない。

男の炎はいつだってビッグファイヤーであるべきなのだ。

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なんとかこの状態で肉を焼こうとするが、当たり前だが焼いて行く側から表面だけ即座に焦げて行く。

しかしそんな「表面はカリッと、中はフワッと」という、豚肉ではあってはいけない状態でも食らいつく。

そしてそんな危険な肉を食って腹一杯になって来た頃、やっと火が落ちついてきたからメインディッシュ登場。

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これを腹一杯のデザート段階で食ったもんだから、再び吐き気に襲われてしまった田沢。

それでも彼は昼間に吐いた分を取り戻すように食らい、

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乱坊少佐の「子供の頃サバイバルナイフで敵の体を効果的に切る角度を研究してましてね。自分の胸で試してみたらブシャッと血が飛び散ってさすがに親にナイフ没収されましたよ。」というチャッピーなトークを聞きながらガバガバと酒を飲む。

 

もちろん夜になっても暴風は勢いを増し、焚き火の炎はもはや真横に流れている。

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それでも乱坊少佐の「中学の頃なんだがやたら不良に絡まれたんですよね。僕は平和に過ごしたかっただけなのに。まあシルバーに染めたロン毛でしたけどね。」という、突っ込みどころ満載のチャッピートークは続き、田沢も飲みに飲みまくった。

やがて「ドライスーツのままテント張らずにダイレクトに大地に寝よう」となったが、フナムシくん達の大群に見舞われて断念。

真っ暗な中で、酒でフラフラになりながら無理くりテント立てて泥のように眠りに落ちた。

 

こうして壮大な初日の旅が終わった。

しかし翌日の「絶望の40分間」の悲劇の事を思えば、今日の出来事なんてマゾのマの字にも及ばない。

いつも田沢は、長良川で人間洗濯機になった時が一番命の危険を感じた時だったと公言しているが、翌日にはそれを越えた死線上の戦いが待っていた。

 

いよいよ運命の2日目へ。

本気で田沢を殺しにかかって来た乱坊少佐。

そしてうねり囃子が鳴り止まない西伊豆の舞台。

 

果たして田沢は生きたままこの訓練場を脱出する事が出来るのか?

まさかの2日連続嘔吐記録を樹立してしまうのか?

 

次回、

 

さよなら…

 

田沢慎一郎

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西伊豆男塾 後編〜九死に一生スペシャル〜へ   つづく





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コメント

    • モチック
    • 2015年 10月 30日

    SECRET: 0
    PASS: cad9823d17a4a7112728549b7060e62c
    こんばんはモチックです

    このシーカヤックは怖いですね~
    熊野川・北山川の瀞峡で遊船にあおられただけでも結構ゆれるもんなぁ
    海の上で全方位から読めない波ですか、恐怖そのものですね。。。
    波の写真がなくても十分伝わりますよ。

    でも、後半戦も期待しておりま~す!

    • yukon780
    • 2015年 11月 02日

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    どうもです!

    まさに熊野川の遊覧船のあのうねりのハードなやつが縦横無尽に押し寄せて来るイメージですね。
    艇が波に向かって行くならまだ対処出来ますが、ふいに横から大きなうねりが来るとあっという間にバランス崩れますね。
    ほんと、無理矢理「怖くない!楽しい!」って思い込ませないと不安に押しつぶされそうでした。

    まあ2日目は見事に押しつぶされて悲惨な目にあっております。
    やっぱ海は怖いっす。
    基本海はある程度穏やかな時に短い距離漕いで、人が行けない浜に上陸して遊び倒すのがいいかなあ。
    川に比べて生き物多いのが楽しいですし。

    ただ、やっぱ怖いす..
    しばらくはいかなあ。

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