槍ヶ岳/長野

槍ヶ岳1〜僕らの熱中時代〜

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20年来の因縁にピリオドを打つ時がやってきた。



何も知らない純真無垢な中学生だった僕に植え付けられたトラウマ。

行き先もよく分からないまま母親に連れて行かれて、死を覚悟したあの忌まわしき記憶。


場所は北アルプス「槍ヶ岳」。

山頂への登りで激しい恐怖を体験した僕は、その日を境に「高所恐怖症」が体内に埋め込まれた。

それ以来、看板屋のくせに脚立の一番上にも立てないほどのトラウマとなった因縁の山だ。


それと同時に、槍ヶ岳は憧れの山でもある。

脱登山初心者のためには避けては通れない北アルプスの雄。

往復約20時間という魅惑のロングマゾ登山。

そろそろ挑戦しても良い頃合いだろう。


そして何より「あの時」から20数年の時が経ち、臆病だった中学生の僕に別れを告げる時が来たようだ。

因縁のあの場所で高所恐怖症を克服し、同時に脱登山初心者宣言をするという偉大な挑戦が始まった。


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健康診断による腸内バリウムの余韻を残しつつの出発。(参考記事

バリウム放出の為に飲んだ下剤が思いのほかヒットし、僕は激しい下痢に苦しんでいた。

出せども出せども、白い「湯葉」のようなものしか出て来ない厳しい戦いだ。


いつものように事前に体調を崩すベストコンディショニング。

決戦に向けての仕上がりは万全だ。



木曜夜のうちに移動。

高速道路の各サービスエリアに僕のバリウムをマーキングしながらの北上。

新穂高温泉の登山者無料駐車場に着いた頃には、すっかりゲッソリした男の姿があった。


木曜日の夜だというのにすでに駐車場は満車状態。

その日はそのまま車中泊。


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勝負の朝が来た。

満車のため別の駐車場に車を停めたB旦那ご一行と合流。

今回はB旦那・B女房とバターNとの4人体制だ。

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この写真は朝っぱらからB旦那とバターNが公衆の面前で変な事をしているわけではない。準備をしているんです。


どうでもいいが、男3人女1人の4人パーティーだと何やらドラクエ的で冒険心が煽られるのは僕だけだろうか?

遊者のB旦那、戦死のバターN、マゾ使いの僕、踊り子のB女房。

こうして我々は世界平和の為に、ラスボス槍ヶ岳討伐に向けて冒険を開始した。


まずは冒険の書に記録を書き込む事から始めよう。

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この冒険の書(登山届け)に記入しておかないと、何かあった時にリアルなゲームオーバーになってしまう。


しばらく進んでいくと意外と地味な登山口へ到達。

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天下の槍ヶ岳の割には貧相な入口だ。

とりあえず我々は臆する事なくそのダンジョンを突き進んだ。

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やがて「夏山近道」と書いてある怪しげな看板に従って側道へ侵入。

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しかしその「夏山近道」の宝箱はなんとミミックだった。

その近道は北アルプスのくせにジャングルのように鬱蒼と茂り、地味にちょいハードな登りを提供して来た。

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物語序盤からのミミックとの対決は実に酷なものがある。

まだホイミも使えない薬草頼りの我々は、テント泊用の重い荷物も手伝ってあっという間に疲弊していった。


やがて穂高平避難小屋に到達。

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ここのおばちゃんに「早く行かんと山頂のテント場はいっぱいだよ」との情報が。

出発に出遅れた我々は、早くも窮地に立たされた。

急がないと今夜の寝床がなくなってしまう。


しかし先を急ぐ我々は、新たに強烈なダンジョンに入り込んでしまったようだ。

そこに展開されたのは「灼熱」の地獄だった。

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我々は槍ヶ岳ではなく、間違って牛魔王のフライパン山に迷い込んでしまったのか?

強烈な暑さでみるみる体力が奪われていく。

残念ながら誰一人かめはめ波を放てる者はいない。


この日は、悪天候男でお馴染みの僕には信じがたい快晴だった。

しかも無風の大快晴。

結果強烈な日差しが降り注ぎ、遠赤外線で焼かれる鮎のようにジワジワと焼かれていく4人。

この状況で片道10時間歩いて行くのは、まだ「トラマナ」の呪文を覚えていない我々には自殺行為のような行軍となった。

僕はここで、快晴でも十分マゾれるんだと知る事となった。


ここからはひたすらに地味な熱中行脚が延々と続いた。

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重量20キロのほどのザックと猛暑、そして地味で長い急登チックな登山道。

この区間はただひたすらに長く辛い拷問のような区間だった。


やがて命の泉を発見し、餓鬼のように水に群がる遊者ご一行。

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しかしこの瞬間勢い良く行き過ぎた遊者B旦那が、自身の装備アイテム「ユニクロサングラス」を水に落として紛失してしまう事に。

これによりB旦那の防御力は5ポイントほど低下した。

戦いは厳しさを増すばかりだ。


やがて半分ほどの行程「槍平小屋」にまで到達。

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読んでいる人は「あれ、もう半分来たの」って思った事だろう。

まるであっという間に着いたみたいな感じだが、ここまでの道のりがただ辛く地味すぎたため特記すべき事があまりなかったのだ。

というか、あまりの猛暑で朦朧としていていまいち記憶がない。

かろうじて記憶にあるのは、この小屋のトイレでオシッコしようとして大量のハエの急襲を食らった事くらいか。


そしてこの小屋にある最後の水場にて水浴びと食事を済ます。

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ここで一通りHPとMPを回復させ、再び我々は登り出した。

しかし徐々に樹林帯を抜けて来て、日陰ゼロのさらなる熱中時代が始まった。

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せめて風が吹けばいいんだが、完全なるカームベルト。

熱中グランドラインから抜け出す術はなさそうだ。

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垂れ流した汗を水分で補うという行為をただただ繰り返す。

そして徐々に道はその鋭角度を増していき、熱中急登パラダイスが始まった。

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いよいよダンジョンの冒険が終わり、ラスボスに向けての「灼熱の塔」の戦いが始まったのだ。

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実に厳しい戦い。

呪いをかけられている僕の腰痛が悲鳴を上げ始めている。

そもそも僕は縦走用の装備の上、なぜかテント二張り分を担いでいる。

渾身の魔法「マゾラゴン」を自らに食らわせてほくそ笑むマゾ使い。

マゾ使いという職業は仲間にしても一人で勝手にマゾっているのであまり役に立たないが、使い用によっては嬉々として荷物を運んでくれるから重宝する。


我々は少しづつ灼熱の塔の階段を駆け上がっていく。

しかし標高を上げるほどに、「あの男」が真価を発揮し始める。

ミスター高山病ことバターNだ。

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標高2,500mを越えた辺りから急速に動きが鈍っていき、軽い頭痛を訴え始める戦死バターN。

しかし残念ながら我々のパーティーには回復系の呪文を唱えられる者がいない。

攻める事しか知らないバランスの悪いパーティーの行軍が続く。



しかし灼熱だと言っても、晴れているのは素晴らしいものだ。

今は辛いけど、きっと山頂に着けば最高の景色が見られるだろう。


そんな事を考えていたら、皆が突然僕を非難し始めた。

振り返ってみるとその理由が明らかとなった。

雲一つなかった空に向けて、ムクムクと巨大な雲がミシュランマンみたいにせり上がり始めているではないか。

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追いつかれた。

余計な荷物を運んでくれるが、余計な物まで呼び込んでしまうマゾ使いの真骨頂。

悪天候野郎がここにきて予期せぬビッグモンスターを召還してしまったようだ。

テント場に間に合うかどうかの戦いに、新たに後方から迫り来る雲との戦いも始まってしまったようだ。


しかしこのあたりから一気に視界が開けて、いよいよ灼熱の塔を抜け出したようだ。

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ここからはいよいよラスボスの居城へと攻め込んでいくぞ。


すっかり疲れ果ててしまった我々だが、それとともに徐々に経験値を積んでレベルも上がって来た。

さあ、ここまではまだまだ序の口だ。

ラスボスはまだその姿すら見せていない。


槍の先っちょに向けて、遊者たちは再び力強く突き進んで行った。

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槍ヶ岳2へ 〜続く〜



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