◉日々のツレヅレ

真夏のラマダン

僕はひからびていた。

激しい脱水状態が何時間も続いている。



僕の山旅ではお馴染みのこの脱水症状。

高度なマゾ技術のひとつで、選ばれたマゾのみが体験できる朦朧パラダイス。


しかしまだここは槍ヶ岳ではない。

実は健康診断の為に、昨晩からずっと断水絶食状態で歯も磨いてはいけないという厳しいお達しだ。


まあ健康診断だからしょうがない。

でも今この猛暑が続く名古屋での断水ミッションは命の危険すら感じてしまう。

なぜこの時期なんだ?

嬉しい事しやがって。



さすがに無給水の早朝ランニングは死へのビクトリーロードを走る事になるからやめておいた。

もちろん検査が終わったら走るけど。


ただ検査直前で水分よりも重大な問題が浮上した。

検便の便が出ないのだ。


いつもなら毎日快調に僕ベースから発進していく茶色いズゴック達。

しかし肝心の今日に限って全く出て来る気配がない。

焦れば焦るほど出ないのは世の常。

夏の地区予選では二桁安打で勝ち続けたチームが、肝心の甲子園初戦でタイムリー欠乏症に苦しむ原理と同じか。

結局僕は検便登頂の無念の撤退を決意した。


そしてこの排便トライ中に貴重な黄金水だけが垂れ流されていた。

よって、水分をとってない僕は検査直前の尿検査のコップとの壮絶な戦いに巻き込まれる事になる。


額に脂汗を滲ませながらの必死の抽出作業。

そのうちドモホルンリンクルが出てくるんじゃないかと思うほどの渾身の力み。

かろうじて子役の涙くらいの雫が美しくコップに舞い落ちる。


結局5mmくらいしか出なかったがちゃんと検査できるんだろうか?

でもこの5mmは僕の渾身の作品だ。

コップの底にわずかに溜まった黄金水が、僕には金メダルにしか見えなかった。



で、何気に人生初のバリウム。

今まで一度も飲んだ事がなく、周りの人の恐怖体験だけを聞いていて激しく緊張した。

そして飲んで一発目に絵に書いたようなゲップを披露。

Q太郎なら笑いを取れる場面だが、検査官はひとつも笑わずバリウム追加。

地獄のような数分間だった。

そして検査は終わり、バリウムで便が固まりやすいからと下剤を渡された。



今夜から僕は槍ヶ岳に向けて出発する。

それまでにバリウム便が排出されれば良いが、登山開始までバリウムズゴックが出動しないと槍に苦戦を強いられる事になる。

少しでも荷物を軽くしたいのに、余計な荷物を腸内に抱えながらの登山。

万が一、登山中に下剤の効果が発動したら大変な騒ぎになるだろう。

ついに奴はケツから白いエクトプラズムを垂れ流したと大騒ぎ間違い無しだ。


果たして僕は万全の体調で北アルプスの雄に挑む事が叶うのか?

それとも槍ヶ岳史上初の「ケツからバリウム野郎」の汚名を着せられる事になるのか?

何にしても今夜が山田。



汚い記事で申し訳なかったが、とりあえず今夜から出発です。

生還できなかったら、この記事が僕の絶筆となります。

もしそうなったら、誰かこの記事を削除しておいてください。



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