あの男が生きていた。
そう。
彼の名は孤高のパックトランパー「ジョージ・マゾリー」。
かつて北アルプスの高瀬ルートや雲ノ平ルートで、壮大なマゾピースを演じたあの男である。
彼は前回、新世界から帰還した折立の地で海軍に捕まり処刑されたはずだった。(参考記事:マゾピース5 大脱出編〜そして伝説へ〜)
しかしやはりマゾリーは生きていた。
しかもこの度、なんと彼はオリンピックの日本代表メンバーとして戻ってきたのである。
彼の長年の普及努力が認められ、ついにリオオリンピックから正式採用された新競技「パックトランピング」。
もちろん世界にパックトランピング人口は1人なので、マゾリーは金メダルの最有力候補。
メディアでもその注目度は破格の扱いなのである。
日本国民の期待の大きさは内村航平と同等だ。
「パックトランピング」
それはなにかと時間のない養子男が、限られた時間の中でどれだけ遊びを詰め込められるかのセルフSM競技。
2014、2015年は、「登山」「トレラン」「パックラフト」「テンカラ釣り」「野天温泉」「マゾヒスティング」の6種目だった。
そして今回の2016年大会。
今回は「野天温泉」が無くなり、「登山」が「トレッキング」に変更された代わりに、新たに2種目が加わった。
一つ目の追加競技は「ゲーリング」。
マゾリーはこの晴れの舞台に、過去類を見ない下痢状態で挑む事になったのである。
そして二つ目の追加競技は「8耐」。
本来はヒルに血を吸われまくる「ヒルクライム」の予定だったが、急遽「8耐」という競技に変更されたらしい。
しかしその全貌は現時点ではまだ謎である。
さあ、そんな2016・リオオリンピック新競技「パックトランピング」。
会場は何故かリオではなく、ミエの秘境「大杉谷」。
いわゆる日本三大渓谷の一つで、「西の黒部」と言われる大秘境。
そこを流れる川では過去に川下りの記録はなく、まさに前人未漕の挑戦である。
日本国民1億2000万人が固唾を飲んで見守る中、ついにマゾリーの金メダルに向けた挑戦が始まるのである。
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実況:「こちらパックトランピング大杉谷会場。実況はワタクシ富樫源次、解説は虎丸龍次さんでお送りしてまいります。虎丸さん、よろしくお願いします。」
解説:「よろしくお願いします。」
実況:「早速選手の入場です。競技人口は一人なので、日本代表のジョージ・マゾリー選手のみの入場となります。」
実況:「見た感じ仕上りの方はどうですか?虎丸さん。」
解説:「悪くはなさそうですが、天気が良いのがマイナスポイントですね。これはマゾヒスティング部門で大きな減点となります。」
実況:「しかし晴れたら晴れたで、毎度良い感じの代償を払うのが彼のスタイルですよね?」
解説:「そうなんですよ。前回の雲ノ平では出発前に信号無視で警察に捕まって大金払ってますし、現地では随分と沢山の私物を奉納しましたからね。今回も彼のまさかな巻き返し奉納に期待ですね。」
実況:「そういう意味では、今回彼はヒルまみれで有名な大杉谷にヒルの季節に来てしかも生足ですね。久々にヒル下がりのジョニーも持参していますし。」
解説:「あえて生足ってのがポイント高いですよ。それなのにヒル対策スプレー持ってきている矛盾もたまらないですね。まるで女の人がスタンガン握りしめながら全裸でスラム街に突入して行くような矛盾ですよ。このあたりが、彼がミスター後悔って言われる所以なんでしょうね。」
実況:「これは新種目のヒルクライム部門で高得点が期待出来そうです。」
解説:「期待しましょう。」
実況:「さあ、ここでついにスタートの笛がなりました。マゾリー選手の挑戦が始まります。」
解説:「この大杉谷会場はいきなりの秘境感&高度感ですよ。」
実況:「おおっと、マゾリー選手早くも腰が引けています。」
実況:「こういう場所での彼の腰の引けっぷりの安定感には定評がありますよね。」
解説:「ええ。ここでさらに注目していただきたいのは、彼は己撮りのためにこの場所を何度も往復してるってことですね。しかも実はだいぶ先まで進んでから己写真を撮ってない事を思い出して結構な距離を戻ってきてから改めてこれを撮っています。」
実況:「なるほど。そう言った目には見えない部分にもマゾが潜んでいるという事ですね。」
解説:「ポイントに直結はしませんが、マゾ部門の審査員の心証は良いと思います。」
実況:「それにしてもこの会場の川は本当に綺麗ですね。」
解説:「天下の大台水系の最上流ですからね。マゾリー選手はこの風景の川の写真をネットで見て以来、ずっとここをパックラフトで下る事を夢見てきたそうです。」
実況:「しかもかつて誰も下った記録が無いと言う前人未漕の区間なんですよね。」
解説:「基本的に彼は史上初という言葉が大好きですから。北アの湯俣川や薬師沢を下った時はだいぶ喜んでましたよ。」
実況:「しかし実際は他の競技でマゾリすぎて数mしか漕いでないなんて噂もありますね。」
解説:「そうなんです。それもあって今回彼は並々ならぬ決意でもってこの大杉谷に来ています。彼の目論見だと、3キロくらいは下れるという勝算があるそうですよ。」
実況:「さすがに今回は期待出来そうですね。おっと、そう言ってる間に大岩区間に入りました。」
実況:「この区間は想定内。この大岩区間を越えた先に彼がパックラフトで下ろうとしている魅惑の区間が現れるわけですね。」
解説:「そうです。そこはまさに大清流と大秘境が織りなすファンタジーな区間のはずだとマゾリー選手は言ってました。」
実況:「さあ、いよいよその大岩区間を越えました。さあ、どんな大清流が…」
実況:「あ…ああーっと!」
実況:「川が…川がありません!干涸びてしまっています!」
解説:「そんな馬鹿な!」
実況:「これは一体どうした事でしょう!本来そこにあるはずの大清流がただの水たまりだぁ!」
解説:「これじゃあ彼がパックラフト担いできた意味がわけわかめですよ!」
実況:「たった今情報が入りました。どうやらこの日、地元の人ですら“過去類を見ない大渇水ですよ”と言っていたほどのハイパー渇水だった事が判明しました。日本有数の多雨地帯なのにここんとこ全く雨が降らず、自慢の川がひからびてしまった模様。これは想定外だ!」
解説:「さすがですね。今まで晴れたら晴れたで暴風か濁流かがお約束でしたが、ついに渇水で川を消してしまうとは…」
実況:「これにはマゾリー選手、たまらず膝をついたー!」
解説:「これは早くも“技あり”ですね。」
実況:「凄まじいスタートダッシュです。」
解説:「ええ。わざわざパックラフト背負ってきて川がないんじゃ本末転倒ですよ。しかも彼はこれからずっとパックラフトを背負って行かないといけないですし。」
実況:「通常ならここでリタイヤですよね?」
解説:「しかし彼はすでに遥か先の桃の木小屋を予約しちゃってるから後に引けないんですよね。いつもは小屋泊なんてしないのに、この大杉谷はテント泊禁止ですから。」
実況:「ということは、彼は小屋泊のくせに使いもしないパックラフト背負って無駄に奥地へと進まなきゃいけないんですか?」
解説:「そうなりますね。実に彼らしいスタイルです。さすがですよ。」
実況:「小屋泊のくせにやたら重装備な背中が痛々しい。これは高マゾポイント間違いなしですね。」
実況:「さあ、これで恐らく今回も川を下れるのはスタート地点から数100mだけという事になりそうです。だったらそこだけ漕いで日帰りで帰れば良いですが、ここからどれだけ無駄れるかがパックトランパーの見せ所ですね。」
解説:「この辺の無駄感が競技人口が伸び悩んでる要因でもあるわけです。」
実況:「失意の中なんとか足を進めるマゾリー選手。暫く行くと再びチョロチョロと川が復活してきましたね。とても下れるレベルじゃないですけど。」
実況:「行けども行けども渇水の嵐。しかしたまに樹間から覗く淵はご覧の美しさ。」
実況:「ここを下れたらさぞや気持ちよかったでしょうね。」
解説:「ええ、マゾリー選手も同じ気持ちなのでしょう。通常水位だったら相当気持ちよかったんだろうなと、渇水の川を恨めしそうに眺めています。」
解説:「この下れそうで下れないってのが良いんですよね。見えそで見えない的なじらし感ですよ。マゾリー選手クラスになるとそこにすら快感を見いだせますからね。」
実況:「変態ですね。」
解説:「そしてここにも注目して下さい。彼のザックにくっついているアマゴの日釣り券。」
実況:「これは彼がテンカラのために慌てて買ってきた日釣り券ですね?」
解説:「ええ。実は彼はに後に知る事になるんですが、この大杉谷区間は漁協が管理してないから日釣り券なんていらなかったんですよ。しかも小屋の人の話じゃあんま釣れないしほとんど釣り人を見かけないなんて言ってましたよ。」
実況:「ということは、彼は必要のない日釣り券代を奉納して無駄に魚の釣れない場所にテンカラぶら下げてきたと言うわけですね。」
解説:「川も下れず、魚も釣れず。もはやパックトランパーでもなんでもなくただの重装備ハイカーですよ。」
実況:「そうですね。そうこうしてる間に、結局いつものようにグハグハ急登に突入しています。」
実況:「ここはアルプスとかと違って大した高地じゃないんでクソ暑そうですね。」
解説:「クソ暑いだけじゃないですよ。彼は前日から酷い下痢のクソ野郎状態なんです。通常の急登に使う筋肉にプラスして、一歩一歩ケツ筋を余計に引き締めてのハイクアップ。気を緩めたら大惨事です。」
実況:「それは過酷ですね。これが新種目のゲーリングですね。」
解説:「いかに漏らさずにマゾれるかが勝負のポイントです。」
実況:「さあ、マゾリー選手。そんな汚い行軍の末についにこのような美しい淵の場所まで辿り着きました。」
実況:「さすがは天下の大杉谷。そこを越えた先には遠くに“ニコニコ滝”を望む“シシ淵”と呼ばれる美しい淵が登場です。」
実況:「そしてここで今回一回目のダウンですね。」
解説:「暑いから淵に潜りたいけど潜っちゃうとお腹冷やしてゲーリングが加速するから潜れない、っていう葛藤が見て取れます。実は彼は今日中に最深部の“堂倉の滝”まで行こうと考えてるんで結構時間がないんですよ。」
実況:「行程がハードなくせに色々無駄が多いのが謎ですね。」
解説:「そこがプロのパックトランパーであり、ズサンプランナーの成せる技なんですよ。」
実況:「さあ、色々と達成出来てない中でなんとか堂倉の滝には辿り着きたい所。その後も良い感じのグハグハを維持しながら酷暑の中を進むマゾリー選手。」
実況:「それにしても足の筋肉だけやたらキモいですね。」
解説:「15万円ダイエットに失敗してからも懲りずにトレーニングは続けているようですよ。でもやり方がおかしいのか、お腹はプヨプヨのまま足だけムキムキになって相当キモい体になってきました。体重もアップしたそうです。」
実況:「でも相当体が強くなったんじゃないですか?…っと、言ってる側から腕をツッているー!」
実況:「ザックの水筒を取ろうとしただけで強烈なツりだっ!」
解説:「いいですよ!痛みの緩和よりも先に“とりあえず己撮りしておこう”のこの精神がナイスマゾです!」
実況:「細かい所でポイント稼いでますね。」
解説:「この小さな積み重ねが金メダルへの大きな一歩になるんですよ。」
実況:「そうこうしている間に、マゾリー選手、やっとこさ桃の木小屋に到達しました。」
解説:「通常の人はここで初日は終了ですが、マゾリー選手はここからが本番ですよ。」
実況:「その割にはいいんですかね?思わずビール買ってすごいニヤケてますけど。」
解説:「彼はちゃんと知ってますからね。行程の半ばでビール飲むと、そこからの後半がすごくしんどくてだるいってことを。きっと仕込みですよ。」
実況:「なるほど、そういう見方もあるんですね。ただ単に誘惑に負けたわけじゃないと?」
解説:「金メダルへの並々ならぬ執念を感じます。」
実況:「川の誘惑に負けて水浴びしてすっかり時間が経過してますけど大丈夫ですかね?」
解説:「この手の“伏線”を張らしたら彼の右に出る者はいませんよ。」
実況:「果たして堂倉の滝に間に合うかどうか不安になってきましたが、きっと彼はやってくれるでしょう。ところで彼の他にハイカーがほとんどいませんね。200人入れる小屋にも誰一人いませんし。」
解説:「何と言っても今日は記念すべき初の“山の日”の祝日ですからね。そんな日にあえて“谷”に来てる奴なんていませんよ。」
実況:「確かにこの時期はクソ暑いですしヒルまみれですしね。」
解説:「訓練を受けていない生半可な素人マゾが立ち入る季節ではないですね。」
実況:「さあ、そんなマゾリー選手。やたら時間かかった水浴びの後は、同じ日本選手団の錦織選手から祝福のエールを受けてエネルギー充填。次の戦いに備えます。」
実況:「さあ、ここで第一ピリオドが終了ですが、解説の虎丸さん。ここまでのマゾリー選手の戦いっぷりをどうご覧になりましたか?」
解説:「快晴だったのでコンディション的にはマイナススタートでしたが、立ち上がりから“川がない”というウルトラCを炸裂させましたからね。あれには審査員も度肝を抜かれました。」
実況:「ナイスマサカでしたね。」
解説:「ええ。そしてゲーリングの安定感は見ていて全く不安感を与えません。無駄な釣り券といい無駄なツり腕といい、良いバランスでここまで来てるんじゃないでしょうか。」
実況:「これは第二ピリオドにも期待が持てますね。」
解説:「ここからは小屋に荷物を置いて、トレッキング、マゾヒスティング、ゲーリングに続く第4種目のトレランです。」
実況:「ここまででも暑さで結構ヘロヘロですが、果てしてちゃんと彼は最深部の堂倉の滝まで走って行けるんでしょうか?」
解説:「行けないでしょうね。もうビール飲んじゃって戦意喪失してますし。」
実況:「気づいたら川原で2本目行っちゃってますね。」
解説:「追い込みますねえ。これは期待していいんじゃないですか。」
実況:「楽しみですね。それでは次回第二ピリオド“灼熱の堂倉トレラン”です。」
解説:「楽しみです。」
実況:「それでは一旦CM入ります。」
栄光への架け橋2へ 〜つづく〜
栄光への架け橋1〜喝采と渇水のリオデジャネイロ〜
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MATATABI BASE
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低速化されてからも面白さは変わりませんね。最高です!
私も下痢体質なんで、アウトドア活動は苦労してるんですけど、いつも下痢しながら攻めてく姿勢は尊敬しますよ!
また次回楽しみにしてます!
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ブーコロさん、ありがとうございます!
もう想像以上に時間がなくって中々更新がままなりませんが、書けば結局はなんだかんだと長くなってしまいますね。
本当は1回で終わる予定だったのに、余計な実況中継スタイルのせいでやたら長くなってしまいました。
まあこの無駄さもパックトランピングの種目みたいなもんなんで、時間見つけてボチボチ書いて行きます。
にしてもアウトドア遊びの時ってなぜこうもお腹に異変が起きるんでしょう?
かといって出発前はどんなにトイレで頑張っても気体しか出ないし。
ちなみに検便前もなぜか突然便秘になるけど、ハートがガラスすぎるんですかね?
とは言え、せっかく勝ち取った休みを下痢程度の理由で中止には出来ない所が時間のない養子男の悲しい所。
今後も彼のゲーリングとの水面下の戦いをお楽しみ下さいませ。