京都一周トレイル/京都

京都一周トレイルラン〜東山コース前編〜

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「そうだ、京都でマゾろう。」

これは僕がトレランを始めるようになってから、フツフツと描き続けて来た野望。

それをこの度、いよいよ実行に移す時が来たのだ。



GWに入ってからの騒々しいマゾの日々。

冷戦カヌー8耐登山20キロトレラン、そして波乱の板取事変

いくらドMの僕でも、ここまで詰め込むといささかマゾ疲れというものが溜まって来る。

そろそろ「はんなりとしたマゾ」を楽しみたい所だ。


そこで選んだ場所が京都。

もちろん観光する気なんぞさらさら無い。

京都には「京都一周トレイル」と言われる道が整備されており、文字通り京都を取り囲む山々をぐるりと一周するという全長70キロのロングトレイルがある。

実は僕は一度、マゾ開花前にこの京都一周トレイルに挑戦した過去がある。

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この頃はまだ登山も始めてないデブデブ時代。

あっという間にスタミナが底をつきて雨も降って来て、やがて「ずっと山道ばっかだし、こんな事をわざわざ京都でやる必要があったのか?」という自問に飲み込まれてあえなく早期リタイヤ。

そのままこのデブデブ野郎は観光に走り、コロッケを食って帰って行ったという情けない過去がある。

あまりにも情けなすぎて、「あん時のアイツシリーズ」にも登場しなかったレアな旅路だった。


しかしまだマゾに開花していなかったあの頃の僕とは違う。

今の僕なら、きっと当時歩きでリタイヤしたあのトレイルを走ってマゾれるのではないのか?と思い立ったわけだ。

そんな思いもあって、4日前に足助の20キロトレランを敢行して自分の限界点をテストしたってわけです。


もちろん全長70キロを走破する自信はまだないので、今回は4つのコースに分けられている京都一周トレイルの「東山コース」25キロをチョイス。

そしてあわよくば、25キロ完走後に「宇治川」もカヌーで下ってやろうという無謀なる作戦。

なぜこのような無理をしようとしているかというと、実はこの日一日だけが嫁から単独で遊んでも良いと許可が出た記念すべきゴールデンデイだからだ。


この「一日フリー」という権利を手に入れるために、随分と屈辱的な事をさせられたがここでは触れずにおく。

とにかく大変な思いをして手に入れた重要な一日。

「子持ちのおっさんが一日でどれだけ遊べるのか」に鋭く迫る人体実験。

この自由な一日、血ヘドを吐いてでも遊び尽くしてみせる。


こうして緊急参戦の運びとなった、東山トレラン〜宇治川カヌーの「キョウトライアスロン2013」。

参加者は僕1名。

最終結果は「優勝か死か」の二つに一つ。

いよいよ雅なるマゾの祭典が始まった。


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スタート場所は伏見稲荷大社。

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夜中の3時に家を出て来て、現在早朝5時半。

前日の疲れと長い車移動もあって、この時点で早くもリタイヤ寸前だ。


普段は観光客でごった返す伏見稲荷も、早朝は数人の物好きがパラパラいるだけの静かなる空間。

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このような観光地は早朝か夜間の内に、さっさと通り抜けるのが吉だ。


そして早朝にここを走る一番の楽しみがこれ。

誰もいない伏見稲荷名物の「千本鳥居」を走り抜けるという快感。

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早朝で人がいないから己撮りも思う存分に楽しめ、何度も往復しているから鳥居も二千本くらいのお得感。

走ってても爽快で、なんだかワープしているようで楽しい。



鳥居を抜けたら幕末にでもタイムスリップしてしまいそうな感覚だ。

しかし僕は脳外科医でもなんでもない、ただの看板屋。

イラレやフォトショのない幕末では何の活躍も出来ず、一切の歴史を変える事無く庶民としてその人生を終える事だろう。


この先にはお馴染みの「おもかる石」なるものがある。

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この石灯籠の上に乗っている石を願いを込めて持ち上げ、自分の思ったより軽ければ願いは叶い、重ければ叶わないという運試しのような物。

もちろん僕はこのような時に必ず願う事がある。

僕は石に手をやり「嫁にあの頃の優しさが戻りますように」と願いを込めて持ち上げた。

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石は漬物石のような重みで僕の両腕にのしかかった。

ある程度重いのは覚悟はしていたが、さらにその覚悟の上を行く重さ。

変える事の出来ない運命の重さも感じた瞬間だった。


その後も延々と千本鳥居のトンネルは続いて行く。

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気持ちいいんだが、何気に後半になるにつれて階段まるけになって来て早くも息が荒くなる。

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しかし今回はさすが「キョウトライアスロン2013」。

今大会は、地元ボランティアによるエイドステーションが各地に配備されているのだ。


エイドステーションとは選手に水やバナナなどを提供するという、選手にとってのオアシス。

いよいよ疲れがたまって来た時、今大会最初のエイドステーションに到達した。

そこには水やバナナではなく、猫が配備されていた。

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参加者が僕一人しかいないのに、わざわざ来ていただいた地元ボランティア猫の暖かさ。

猫好きの僕のための最高の癒しステーションだ。

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こんなに猫好きなのに、結婚した自分の嫁がまさかの猫アレルギーだったというこの憐れな選手。

日頃猫と触れ合えない分、この時の彼の感激は相当なものだったはず。

これで元気100倍と言った所だが、癒しを補給しすぎて足腰がふにゃふにゃに。

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この頃には「もういい加減、鳥居いいよ」ってくらいの気分だが、鳥居・階段コンビはこれでもかとばかりに延々と続いて行く。

しかしやがては山に抜けて行き、鳥居の勢いも弱まって来る。

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でも個人的には華々しい鳥居のトンネルよりも、このような奥まった場所にある京都的な深い空気感の方が好きだ。

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あまり人が訪れる事の無い場所で、ひっそりと歴史の空気を滞留させているこの雰囲気。

これがわざわざ京都の山を走る醍醐味なのかもしれない。


そんな雅な心にひたっていると問題発覚。

今回初めてリザーバーごとヘルシアウォーターを凍らせて来たんだが、なんと未だに凍っててどんなにチューチューしても一向に水分を補給できないという現実。

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車で移動中に足元の暖房である程度溶かして来たんだが、チューブの取付け位置周辺がまだ凍ったままだったのだ。

これは早くも脱水プレイの予感。

2Lの水分をわざわざ背中に背負っての脱水野郎ほど悲惨なものは無い。

このまま脱水死体で発見されたら、氷は溶けてるから「なぜこの男は持って来た水分を飲まなかったのか?」という山村美紗的京都ミステリーが巻き起こることだろう。


こうなったら必死に走って、早めに背中の熱で溶かすしか方法が無い。

でも必死に走ると、みるみる脱水状態になって行くという悪循環マゾ。

さらには走ってる最中、口の中に虫が入り込むアクシデントに見舞われるが、それを押し流す水分も無い。


そんな感じで、前半戦にして早くもセルフ仕込みマゾを堪能しながら必死で走り抜けて行く男。

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序盤は町や山を交互に走り抜けて行く。

歴史的な建造物や見所が所々現れるが、この選手はマゾ的建造物「階段」にしか興味は無い。

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もう、絵的に京都とか関係ない風景。

近所の野球部の特訓風景のような階段攻めに、この選手の悦びもひとしおだ。


しかし今回、そんな感じで疲れが十二分に溜まって来た時の秘密兵器を用意してある。

運動量の激しいトレランでは、適度にエネルギー補給しないと動けなくなってしまう。

でも疲れまくっていると、固形物でのエネルギー補給が困難な事は前回の足助トレランで学んだ。

その時の反省を元に、今回から導入したのがこのパワージェルだ。

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初めて今回コイツを飲んだが、信じられないまずさ。

もうクソ甘いジェルを濃縮しまくった強烈な練り砂糖と言った感じで、甘さと飲みにくさが爆発だ。


しかし京都だからってお洒落な和スイーツにには目もくれずにコイツを飲む。

今の僕にはこのマゾスイーツこそが必要なのだ。


しかしよく見ると「水で流し込むと飲みやすい」と書いてある。

しかし残念ながら今の僕の所持水分は凍っている。

結局ダイレクトで濃密なジェルを飲み、口の中が甘々の状態で猛烈に喉も乾くという結果に。

エネルギー補給どころか、逆に追い込まれている気がしてならない。



ここからいよいよ道は本格的に山道に。

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走っての登りはヘビーだが、やはり京都の森はなんとなく「意志」というものを感じる。

こんなに街の近くの山なのに、森は実に生命感に満ちているのだ。

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時折現れる道しるべも、歴史オーラを感じさせて実に京都らしい風情。

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ただ歴史風情がありすぎて、字が読みづらい事この上ない。

左と右は分かるが、清水寺はどっち方面なんだ?


そして道は非常に良く整備されていて、最高に走りやすい。

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まさに京都一周トレイルは、トレランに最高に適したフィールドだ。


やがて清水山山頂に到達。

最高最高と言っている割には、非常に疲労の色の濃い男の姿がそこにあった。

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ここから下山すれば清水寺なんだが、もちろんそんな観光地に行く気はない。

そういうのは家族旅行で来た時に嫌という程行けば良い。

今はこの、GWだというのに誰一人いない山中を宮本武蔵のようにストイックに駆け回るのみだ。

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一乗寺下がり松の吉岡一党に一人で立ち向かうバガボンド気分。

武蔵もこんな感じで京都の山を駆けて行ったんだろうか?


そして黙々と走り続けて行くと、やがて東山山頂公園へ到達。

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ここは観光客も車で来れる場所。

そこで早朝の静かな時間を楽しんでいた観光客カップルの前に、突然森の中から「バサッ」と男が走って現れたから奴らもビックリした事だろう。


そしてここからは京都の町並みが一望のもとの展望台がある。

何やらビジュアル的には「京都の平和を守るバットマン」のようではないか。

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しかし実際には、遊びすぎて家庭の平和すら守れないバッドマン。

いつか我が家のジョーカーに惨殺される運命の哀しきダーティヒーロー。

伝説は壮絶に終わるのか?


そんな切ない翼の折れたバッドマンへ再び援軍。

今大会二つ目のエイドステーションだ。

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ああ、たまんねえ。

身悶える程に癒される。


こうして早朝の公園で一人でハァハァし始める男。

家庭内で乾いてしまった心にしっかりと癒しを補給して、潤いチャージ完了。

意気揚々と先を急ぐ。

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そんな中でも神社が現れれば必ず参拝。

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どうせ「嫁が優しくなりますように」は毎度却下されるので、この時は「嫁の猫アレルギーが治って猫を飼えますように」と願っておいた。

独身時代の僕は、いつも神社では「優しくて猫好きな女性と出会えますように」と祈っていたものだった。

決して多くは望んでいないつもりだったが、神は「ドSで猫アレルギーな女」を引き合わすという荒技でその願いに応えてくれた。

毎度の悪天候といい、僕の前世はよっぽど罰当たりな男だったんだろうか。



やがて一度街まで降下。

そして「ねじりマンポ」と言う名の、何とも陽気なNGワード的トンネルへ到達。

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トンネルの中のレンガの配列がねじれているのね。


せっかくなんでここでいつのもように己撮りしたいんだが、さすがにこの時間になって来ると街には人が溢れ出す。

結果的に恥ずかしくてポーズを取る事も出来ず、「挙動不審で落ち着きの無い男」という作品を撮るのが精一杯だった。

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やはりこの選手は街には向いていない。

インクラインを必死で駆け上がってさっさと街からはグッバイだ。

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そして橋を渡ってそのまま山に逃げ去って行く。

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彼はもう街では生きられない哀しきフランケンシュタイン。

しかし文明に愛されない彼も、京都の懐の深い雅な道は優しく迎え入れてくれる。

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やがて、神々しいまでの「光る木」が現れた。

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この時間帯の日照角度によって起きた奇跡。

まるで木自体が発光体になっているかのような光景だ。


でも非常に感動的な情景なんだが、街からのロングダッシュですっかり疲れ果ててしまったフランケン。

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ちょっと無理しすぎたでガンス。


しかしこの猛ダッシュのおかげで、この頃にはなんとか背中の氷も溶けてやっと満足な水分補給が可能に。

クソまずいエネルギージェルも快適に水分で押し流せ、再度肉体を奮い立たせる。


そしてここまでは所詮序章。

ここからがいよいよガッツリと二つの山を越えて行くハードな旅路が始まる。

まずは大文字焼きで有名な「大文字山」へ向けて男は急登を突き進む。

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この大文字山を乗り越え、一旦銀閣寺まで降りて再び最終目的地「比叡山」を目指すのだ。

先はまだまだ長い。


この先では大量のおマゾさんが「おいでやす」と待ち構える。

果たして東山コース完走はできるのか?

比叡山での「3つの願い」は叶うのか?

そして宇治川カヌー敢行で、悲願のキョウトライアスロン2013を制覇できるのか?

もしくは死して屍拾う者なしの末路を迎えるのか?



ひとまず今回は時間が無くなってしまったので残りは次回でございます。



東山コース後編へ 〜つづく〜



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