◉日々のツレヅレ

庭男あおによし〜三連休の残像〜

人はたまに思いがけない行動を起こす事がある。

その行動は時として世の人に理解されず、異端児扱いを受ける者も少なくはない。

古くは地動説を唱えたガリレオしかり、発明王のエジソンなど数々の異端児達が歴史上に存在した。


彼らは自らを異端児だと思っていたわけではなく、ただ純粋に「夢」を追い求めた結果、周囲の人との価値観のずれが生じてしまっただけの事。

その心は実に愚直なものであり、時代が早かっただけで異端児扱いを受けただけ。

日本ではうつけ者から天下人となった織田信長などがその良い例だろう。

当時は決して彼の行動は理解されなかったが、現代の評価は非常に高い。


そして時は平成。

その信長が作った岐阜の地で、とある一人の異端児の姿が注目されている。


それがこの男なのである。

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彼は寒風吹きすさぶ「自宅の庭」で、家族の制止を振り切ってあえてテント泊という道を選んだ異端児。

しかも二泊も。


これには各方面の常識人から「なぜなんだ?」という声が多く寄せられたが、彼の目には少しの迷いも無い。

その目に宿るのは「夢」。

誰にも理解されなくたって構わない。

己の信じた道を突き進むのみ。



一体この庭男に何が起きてしまったのか?

果たして彼がした事は今は理解されなくても、100年後には「偉人」として評価される行為なのだろうか?

それともただの名もなき「変人」として、歴史の波に埋もれて行く運命なのか?


今回はそんなとある一人の偉人伝。

いつまでも語り継いで行きたい、とある異端児の哀しき物語である。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


三連休がやって来た。

すこぶるいい天気が続き、テレビのお天気お姉さんもニッコリと「行楽日和でしょう」と微笑みかける。


その男は「さあ、何して遊んでやろうか」と意気込んでいた。

そんな未来への夢と希望で一杯の男に対し、彼の嫁が突然3発の銃弾を撃ち込んだ。


ズドン!「金曜は私仕事だから子供達お願い。」

ズドン!「土曜は買い物だから子供達お願い。」

ズドン!「日曜はエステだから子供達お願い。」


瞬く間に男の「夢と希望」に3つの風穴が空き、破裂して粉々に砕け散った。

男はケネディー夫人のように、慌ててその残骸を拾い集めようとする。

そんな男の後頭部に向けて、嫁はとどめの一発を放つ。


ズドン!「家から出てくなよ。」


そしてその場にはピクピクと横たわる血みどろの屍が一つ。

こうして彼の三連休は瞬殺された。



しかし彼は素直に己の運命を受け止めようとはしない。

この快晴の三連休を大人しく家の中で過ごせる程、彼は出来た人間ではないのだ。


何とか今の私にも、子供の面倒を見ながら家で出来る事は無いか?

わずかばかりの「夢の残骸」は落ちていないだろうか?


そこでまず彼が子供の面倒見ながら始めたのが、「工作」という地味な作業。

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実は彼は次週、人生初の雪上テント泊に挑戦する予定。

そこでテント固定のためのお手製「割り箸スノーペグ」を、内職のように手作りする事で多少この気持ちを落ち着かせようと企んだのだ。


しかし窓の外からは燦々と日光が降り注ぎ、行楽日和さんが「そんな事してないで遊ぼうよ」と彼を誘惑する。

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それでも彼は出来るだけ薄目で光を見ないようにして割り箸一点に集中。

しかしもちろん邪魔に入って来るこーたろくん。

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割り箸と麻ひもが彼の恰好のおもちゃとなり、全く作業が進まないどころかどんどん散らかって行く。

りんたろくんは奥で死体みたいになってるし、全く落ち着いて作業が出来ない。

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それでも何とか苦心して割り箸ペグ完成。

思いのほかあっという間に完成してしまい、愕然とする男。

まだ三連休初日の午前中だと言うのに、わずかばかりの一大イベントをやりきってしまった。


そこで彼は1週間以上先のテント泊に向けた、気の早すぎる準備を開始。

子供の相手をしながらなので作業は困難を極めたが(オムツ替えや離乳食やウルトラマンごっこetc…)、なんとか汗だくになりながらもパッキングに成功。

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やはり雪山テント泊ともなると、60Lのザックではパツンパツンだな。


こうなって来ると、実際背負ったらどんな感じに見えるのかチェックしたくなるのが戦士というもの。

彼はこのザックを担いで1階の洗面台の前へ。

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この時、歴史が動いた。


彼の中で何かがスパークし、もう居ても立っても居られない状況へ。

たまらなくこのまま外に飛び出して行きたい衝動が波紋となり、山吹色のオーバードライブが体中の血管内に疾走。

しかもちょうどこーたろくんがお昼寝タイムに突入した事により、彼の中にわずかばかりの自由時間が発生していた。


そして彼はこの状態のままリビングへ。

彼のご両親は「何事だ?」という顔で、さっきまでオムツを替えていた養子の突然の全力登山姿を呆然と眺めている。


いつもは出来るだけ己の存在を消して従順な養子を演じていた彼も、この日ばかりはひと味違った。

彼はその異端児オーラを全面に出しながら「本日、僕は庭で寝ます」と宣言。

ついに炸裂したマスオの反乱。


もちろんいつものように心配性のお義父さんが「今日は凄く寒いし風も吹いてる。きっと風邪を引くし、そもそもなんで庭で…」と動揺が隠せない様子。

明らかに変人を見る目だ。

しかしマスオだってたまには牙をむくって事を知らしめる必要がある。

男は「寒いからいいんです。風が吹いてるからこそいいんです。」と眼光鋭く言い切った。


そして彼はそのまま、ご両親の「何故だ?」という視線を背中いっぱいに受け止めながら家を出た。

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今はきっとご理解頂けないだろう。

なんなら近所で「うつけ者の養子がいる」とウサワになる可能性も高い。

しかしいつかは時代が私に追いつくはず。


彼はそんな強い意思のもと、寒風吹きすさぶ庭でいそいそとテント設営開始。

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ここに来てまさしくお義父さんが言う通り、伊吹おろしの烈風が吹き荒れて猛烈に寒いじゃない。

しかしそんな状況だからこそ、雪山テント泊のテストには持って来いの好条件。

もちろん、絶対に今必要じゃない出来立ての割り箸スノーペグのチェックもこなす。

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雪が無いというのに、益々何をやっているのか?


で、ひとしきり各種チェックを終えて設営完了。

たとえ庭とは言え、ついに念願の「自分だけの部屋」を手に入れてご満悦のマスオ。

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しかしどこか表情が冴えないのは、若干の後悔からなのか?


そんな中、もちろん彼は家の中と行ったり来たりの育児作業に没頭。

ある意味、アウトドアの現場よりも忙しくてストレスに溢れた落ち着かないテント場だ。


さすがにこーたろくんは無理だとしても、りんたろくんならこの素敵なテント場で面倒が見られる。

男はヌクヌクの家の中でYouTubeを鑑賞中のりんたろくんを無理矢理外に連れ出し、我が豪邸へご招待。

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いきなり変なおじさんに寒い外に連れ出されて、彼は「さむいよ…。ボク、あたたかいのがいいの。」と呟くりんたろくん。

しかし変なおじさんとしては、そんな状態の君に是非テストしてもらいたい事があるのだ。


それが今回の雪山テント泊に向けて新たにヤフオクで落札したこいつ。

日本が誇るダウンメーカー・ナンガの冬期用シュラフ「オーロラ900DX」なのである。

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快適使用温度-22℃で、使用可能限界温度-37℃というスペシャルシュラフ。

しかも生地が撥水加工されているから、結露の濡れにも強いシュラフカバーいらずの名品だ。

そして何よりこの「日の丸マーク」が、まるで海外遠征隊の一員にでもなったかのような気分にさせてくれるあたりが心憎い。

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まあ、実際は海外遠征どころか自宅の庭なんだが、テントの中に入ってしまえば外なんて見えないんだから後は想像力でカバーすれば良いのだ。

たとえ庭だろうと、今自分はチョモランマのベースキャンプにいるのだと強く思い込めばそう思えなくはないはずだ。


そしてこの新しいスペシャルヌクヌクアイテムに、すっかり気を良くしたりんたろくん。

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彼は「あったかい。あったかい」と喜び、「お外寒いからテントから出たくない」と実に嬉しい事を言ってくれた。

作戦成功。

こうしてまんまと父の罠にかかったりんたろくんをテント内に居座らせる事で、ご両親に対しても「私は今育児中なのであります」という大義名分が立つ。

そもそも家の中のパソコンでYouTube見てるくらいなら、断然庭でテントにでも入っていた方が良いに決まっている。

ちなみに彼のYouTubeでの最近のお気に入りは「食虫植物の捕食風景」である。


しかしそこは我がDNAを小さじ一杯程度引き継いでいるりんたろくん。

どうやら次第にテント内が気に入ったようで、みるみるテンションが高くなって行く。

やがてよく分からない行動に。

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やはり彼も一種の異端児なのか?

そしてシャウトしながらテント内でローリングを始め、

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決めポーズ。

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目の前で展開されて行くリアルクレヨンりんちゃん。

彼はテントというものを変態オンステージと勘違いしてやいないか?


それでも妙に嬉しい変態お父さん。

思えば彼は長年ソロテント泊ばかりで生きて来た男。

なんだかんだと念願かなって、今己の子供と二人きりでテントの中にいるという幸せ。

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その記念すべき現場がまさかの「庭」というあたりに若干の違和感は感じるが、やはりこんな感じで徐々に慣れさせて行くのが良いんだろう。


感慨に浸る庭男。

しかし彼の感動を引き裂くように、こーたろくんの鳴き声が家の中から聞こえる。

慌ててあやしに行くが、携帯が鳴って「迎えに来い」というお嫁様からの指令。

やはり現場が庭だと、現実逃避に浸っていても「現実引き戻し」までのレスポンスが早すぎる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


数時間後。

突然自宅に侵入して来た一人の変質者。

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ストーカー臭がプンプンと立ちこめているが、これは間違いなくあの庭男。

子供達をお風呂に入れて、歯磨きやら絵本読み聞かせやらの試練を乗り越えた後の彼の姿なのだ。


無事に一日の役目をこなし、彼は「父」という顔から「マゾ」という顔にチェンジ。

次に彼が目指したものは、これまた新たに導入した「ダウンパンツ」と「テントシューズ」の保温力テスト。

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前から持っていたダウンジャケットが黒だった事により、必然的に全身真っ黒人間になってしまってその変態度はとどまる事を知らない。

まあこれなら完全に闇に同化するから近所の目もごまかせそうだ。


しかしこのような防寒対策は、猛烈冷え性野郎のこの男にとっては死活問題。

もちろんこのダウンパンツとテントシューズも、シュラフと同じく「ナンガ製」。


今回はこの寒い庭で、新たに仲間になった「ナンガ三兄弟」が我が相棒として問題がないのかを試すチャンス。

雪山テント泊に向けた新防寒システムの保温力をテストするのだ。

↓ナンガ三兄弟(オーロラ900DX、スパーライトダウンパンツ、テントシューズロング)

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これで極寒のテント泊でも死ぬ事は無いだろう。

やはりダウン製品はナンガのものに限る。

これを参考にしても良いが、どうかナンガと間違って「テンガ」を買わないように注意されたし。

あんなものを雪山に持って行ったら、下半身の凍死は決定的。

凄く恥ずかしい姿で春に発見される事になるから気をつけるべし。


そしてそそくさと闇に消えて行く喪黒庭造。

もちろんそんな庭男に対し、お義父さんは改めて「本当に外で寝るのか?」と念を押す事を忘れない。

だが庭造はニッコリ笑って「ええ、いい案配の寒さです」と言うと、夜の闇に消えていく。

いつか分かってもらえる日が来るはず。



早速テントに潜り込んでみる喪黒庭造。


暑い…。

もの凄く暑い…。

とても寝られない…。


やはり極寒仕様のナンガ三兄弟は、庭ではオーバースペックも良いとこだった。

まあある意味テストは成功だろう。

やっぱりナンガは暖かいって事と、私はバカだという事がしっかりと認識できた。


そんなこんなで寝ようとしていたら、何やらテントの外でガサガサと音がする。

「しまった。ついに通報されたか。」と戦慄が走る。

しかしそのガサガサの正体はなんと「りんたろくん」だったのだ。


彼はなんと「お父さんと一緒にテントで寝るの」と言って、家を飛び出して来たというではないか。

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この時の我が喜びを想像していただけるだろうか?

あれ程嫁のインドアDNAに支配されたりんたろくんが、ついに自主的にこのようなアウトドアな蛮行に付き合ってくれたのだ。

お父さんは猛烈に嬉しいぞ。

異端児として注目された父も、まるで司馬懿仲達のように「我が家にも麒麟児が生まれていたか…」と感激しきりだ。


こうして何故か「自宅の庭に親子で寝る」という不思議な構図が出来上がった。

しかしただでさえ暑苦しかったのが、一人増えた挙げ句同じ寝袋に入るもんだから灼熱のテント内。

すっかり寝汗をかきながら、それでも幸せな夜は更けて行った。


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三連休2日目の朝が来た。

もちろん家の中には入らず、彼はあえてクソ寒い庭で新聞を読む。

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まるで本日の日雇い仕事を探すホームレスのような爽やかな朝だ。


もちろん彼があえてそんな寒い中で新聞を読んでいるのは、ダウンパンツとテントシューズが停滞時にどの程度まで寒さを凌いでくれるかのテストをしているからだ。

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さすがに中スポの芸能コーナーを読む頃には、足先が寒くなって来た。

そこでもう一つ試したかったアイテムのテスト。


「テントシューズにもレイヤリングという考えを」という万全の防寒システムの一環として、インナーに100均で買った「男の防寒ルームシューズ」を配置。

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そしてテントシューズの上に、アウターとして10年以上前に買ったモンベルのオーバーシューズを被せてみる。

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これなら防風性も防水性も保温性も飛躍的にアップ。

総合すると、ファイントラックのインナーソックス〜スマートウールの最厚手ソックス〜男の防寒〜テントシューズ〜オーバーシューズという「足下5レイヤードシステム」の完成だ。


「これはやりすぎだ」とう意見が聞こえて来そうだが、足先冷え性人間としてはこのくらいが丁度いいのである。

通常の人間達には冷え性の辛さなんて分かってたまるもんですか。


一方、ヌクヌクのオーロラ900DXでいつまでもスヤスヤと眠っている庭男2。

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気持ち良さそうに寝ているが、彼は最近「おねしょ」がひどい。

もし今、この高級シュラフ・オーロラ900DXに、彼のオーロラをデラックスにぶちまかれた日にはお父さんは立ち直れない。

なので彼には悪かったが、早々に叩き起こしておウチの中へインしてもらった。



さあ、今日も張り切って庭でレッツアウトドア。

まあそうは言っても結局やってる事は基本的に家の中での育児作業全般なんだが、庭にテントが張ってあるって言う事実が心を落ち着かせてくれる。


そしてこの日も嫌みなほどの行楽日和。

比較的風も穏やかになって来たので、なんとか庭で子供達の面倒を見る。

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試しにこーたろくんを人生初のテントに入れてみた。

しかし彼はテントに入るなり号泣。

その泣き顔は「俺はまだそっちの世界の人間じゃない」と言っているようで、ちょっと切ないキモチのお父さん。


そんなこんなで、結局庭にテントがあるだけのことでいつも通りのお留守番の一日が終わった。

もちろんそれでも二泊三日という「旅感」を味わいたい庭男は、嫁に対して「私は本日も庭で寝ます」と宣言。


嫁に至っては驚いたり怒ったりもしない。

むしろ何の感情も興味もないのか、その表情を漢字一文字で現すならば「氷」といったところ。

雪上テント泊のテストには持って来いの状況だ。


しかしその後、なんと彼女の口から「死なんといてよ」という心配のお言葉がが飛び出した。

いつもなら「死んで来い」とか「乳首もぎ取るぞ、このハゲ豚野郎」とか言うあの嫁が、私のような名もなき奴隷の心配をしてくださっている。

だが彼女は続けてこう言った。


「死体の処理がめんどくさいでよ」と。



庭男は静かに庭に向かった。

嗚咽の声とともに、肩を小刻みに揺らしながら…。



もはや安らげる場所は庭しか無い。

所詮奴隷は奴隷でしかないし、サウザーはサウザーでしかないのだ。


しかしまだ私にはテストしたい事があるのだ。

そう、それは「夜景撮影」。


普段山でテント泊してる時は余裕が無いし、なんせ今まで悪天候のおかげで「夜空」というものに出会った事がなかった。

そこで今回、この余裕のある状況で夜景撮影のお勉強だ。


で、iPhoneで色々調べながら実践。

なんとかそれっぽいやつが撮れたぞ。

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これで夜空にオーロラでも発生してれば最高なんだが、ここはアラスカではなく岐阜の自宅なので写るのは私の切なさだけだ。


では次に「夜景でも己撮りは可能なのか」というテスト。

結果的にスケスケの庭男が激撮されてしまった。

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まるで現在の家庭内における、私の「影の薄さ」を表現しているかのような一枚。

養子道を極めれば、ここまで己の存在を消す事が出来るのだ。


さあ、まだまだ夜は長いぞ。

家の中からテレビを見て爆笑している笑い声が漏れて聞こえているが、絶対に泣くもんか。


続いて一度は試してみたかったアレ。

ヘッドライト使ってマゾの「M」を書いてみました。

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思いのほかちゃんと文字になってちょっと感動。

調子に乗って、今度はヘッドライトを点けたり消したりして応用編。

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これは中々面白いぞ。

しかし庭で真っ黒な恰好した男がライトをチカチカさせてる状況は、事情を知らない人に目撃されたらかなり危険度が高そうだ。


それでもやめない庭男。

男なら誰しも書いて来た、あの書き易いキャラクターを夜空に登場させる。

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己の黒服を最大限に活用したウォーズマン。

いいぞ、徐々に腕が上がって来ている。


次はさすがに形にならないだろうが、何事も挑戦だ。

もう救難信号のようにひたすらライトをチカチカ。

そして出来上がった大作。

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カメラでこの思いがけないほどいい感じで出来たドラえもんに、思わず静かに一人で「ヨシ」と呟く庭男。


しかし次の瞬間。

急激に襲いかかって来た「空しさ」。

そして追い討ちをかけるように、明るい家の中から聞こえる家族の笑い声。

まるで自分が笑われているような切なさに教われるニワえもん。


彼は静かに三脚をたたんで、カメラにキャップをする。

そしてそのままテントの中に。


ドラえもん..

ドラえもんよぅ..

後悔を消してくれる道具を持っていないかい?


涙で枕を濡らす中年のび太くん。

しかしさすが撥水加工生地のナンガのシュラフ。

涙でダウンが濡れて保温性が落ちる事はなかった。

でもなんだが心の内側だけ、ちょっぴり冷えるのね。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


三連休、最後の朝が来た。

そこには昨日よりさらに猫背が酷くなった、くたびれたのび太くんの姿が。

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体はバッチリ温かいんだが、何故か心の中にすきま風が吹き荒れている。


さあ、本日も張り切ってアウトドア。

庭から出られない男に突きつけられる大快晴。

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どこにも行けず、今日も素晴らしい悲しみ日和だ。

まあ天気も良いし、子供の相手しながら庭で作業するには持ってこいだ。

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この二人なんてもうすっかりテントに興味示してないね。

今はまだ良いが、その内自分のお父さんが「他のお父さん達とはひと味違うんだ」と気づく時が来るだろう。

偉人の子供は何かと大変だろうな。


さあ、それではこの2日間のテストで得た雪山テント泊に向けた結果をまとめて行こう。

まずテント。

もちろん雪山に使える4シーズン用のテントなんて持ってない。

なので、必然的にこの「通気性抜群」のメッシュだらけのMSRハバHPを持って行くしか無い。

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冷気を遮断するどころか、全く冬向きではない冷気ウェルカム状態のテント。

でも一応フライにはベンチレーター(換気口)もあるから、テント内での調理は問題ないだろう。

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ただ寝ている時はこのベンチレーターとメッシュ地から冷気がドシドシ入って来る。

肌の露出した顔の部分は、常に冷房の送風口の前にいるかのような気分だった。

朝起きたら顔面だけ凍っているなんていう「氷結パック」で、蒼ざめた美肌が手に入るかもしれない。

やっぱ4シーズンテント欲しいなあ…。


で、この三連休初日でこしらえた割り箸ペグと、テント内調理台用に100均で買った鍋のふた。

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この程度のもんでテントが風で飛んでいかんか心配になるが、こればっかりは現地で飛ばされてみるまで分からない。


そして今回は雪山用の厚手のマットも無いから、通常のエアマットの下に新兵器を敷いてみた。

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これは「アストロフォイル」という遮熱度がスペシャルなニューアイテム。

前回の赤岳で一緒だったシェルパ族の男ランボーNが、親交のある東京の名店「ハイカーズ・デポ」さんからお土産で持って来てくれたものなのだ。

長々と説明書くのは面倒なのでこっち見て(参考)。


そして改めてこのオーロラ900DX。

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こいつもランボーNさんお墨付きアイテムで、当然ながら最高の保温力を提供してくれた。

この900g封入されたダウンの、驚異的な羽毛嵩の760フィルパワー。

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この760フィルパワーを超人強度に照らし合わせてみると、700万パワーの「ミキサー大帝」を遥かに上回る能力だと言えばその能力の高さが分かり易いだろう。

しかしこいつ、フィルパワーが強過ぎて袋に入れるのが大変なばかりか、とんでもないデカさ。

他の奴らと比べると、その主張っぷりが凄まじい。

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ちなみに赤い袋がテントなので、そのとんでもない「邪魔さ」がお分かりいただけるだろう。

もうこいつを素直に持っていったら、それだけでザックが埋まってしまう。


なので、急遽防水でeVent素材の圧縮袋「グラナイトギア eVentシルコンプレッサー」をご購入。

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こいつがまた、たかが袋のくせになんと4000円オーバーの強者。

しかしミキサー大帝をねじ込むには、そのくらいの猛者でないと圧縮なんて出来やしないのだ。


で、何とか力技でミキサー大帝と、隙間にダウンパンツも入れて封印。

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これで一応2/3くらいまで縮まった。

この押し込む作業だけで、ある程度体が温まりそうなほどに激しい戦いだった。


あとは細かい工作。

テント内で水が凍らないように、これも100均で買って来た遮熱シートで袋を製作。

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これで実際に凍らないかは現場テストになって来るが、うまくすればこの袋は座布団の下敷きにも使えそうだ。


とりあえず、これでなんとか現状装備で雪山テント泊デビューはこなせそう。

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こいつは次週が楽しみだぞ。



こうしてこの快晴の三連休を、見事に「準備とテストと育児」だけに費やしてしまった庭男。

でも恐らく何もせずに家の中にこもっていたとしたら、きっとストレスのあまり発狂死していた事は間違いない。

なのできっと収穫はあったはずだと思いたい。

だが逆に彼は、他に何か大切なものを失った気もしたりしなかったり…。


とりあえず今後しばらくは、ご近所で話題になる事は間違いなさそうだ。

ひょっとしたらご両親も、養子縁組解消の手続きを始め出すかもしれない。

嫁もそろそろ死体処理の資格とか取得するかもしれないね。


だが、ガリレオもエジソンも信長も最初はみんなそんな感じだったはず。

理解されなくたって構わない。

やがて100年後の登山雑誌で「平成版・孤高の人特集」でトップページを飾る事は間違いないはず。

なんなら「留守番ガーデニング」という名の新しい登山スタイルが確立されて、広く一般にも普及していく事だろう。


さあ、とりあえず涙を拭いて未来を見据えよう。

ついに今週末は念願の雪山テント泊だ。

こっちは一週間前から準備万端で、この庭での鬱憤を発散する準備はできているぞ。


さあて、週末の現地のお天気はどうなのかな?

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ほほう。

そうですか。

なるほどなるほど。


まああれだね。

今回の三連休がこんなに晴れたんだもの、しょうがないよね。

快晴の二泊三日のテント泊を楽しんじゃったんだからね。



静かに空を見上げる孤高の人。

そして彼は、何かがこぼれ落ちそうになるのを必死でこらえている。


小刻みに震える体。

時折漏れて来る「ウッ、ウッ…」という声にならない声。

やがて耐えきれず、庭に落ちるひと雫の水滴。

その雫はやがて雨のように庭に降り注ぐ。

そして彼は庭にうずくまり、子供のように号泣した。


そんな男の姿を月明かりが優しく照らす。

穏やかな風に乗って、彼の嗚咽声が岐阜の街に溶けていく。



その孤高の異端児は、ただ純粋に「夢」を追い求めただけ。

ただそれだけ。

今は理解されないだろう。

そして報われる事も無いだろう。

なんだったら雪山テント泊するチャンスすら与えてもらえないかもしれない。


それでも彼は夢を見続け、ロマンを追い求める。

何故なら彼は庭男。

庭でしか天候に恵まれないという選ばれし者。



次に彼が現れる庭。


それはあなたの家の庭かも知れない。




庭男あおによし 〜完〜



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