◉ りんころ成長記

神々の理想郷〜デスゾーンの彼方に〜

ついにこの日がやって来た。

ここに辿り着くまで苦節8年。

このブログ上で何度も取り上げて来た長年の夢。

それは進撃の巨人よりも映像化不可能と言われて来た世界。

そう。

ついに「ファミリーキャンプ」の日がやって来たのである。


極度のアウトドア嫌いの嫁を、庭で日光を当てる事から少しづつ外に慣らす事8年。

この1年、その効果はコテージ泊やファミリー花見カヌーという結果となって実ってきた。

そしてこの度、満を持しての「キャンプ場テント泊」という最終地点に到達したのである。


キャンプ場選びにおいても、近隣のキャンプ場の情報を全て集めた。

嫁のキャンプ場への心証が、今後の「アウトドアファミリーへの道」に大きく影響してくるからだ。

とにかく今回は何が何でも失敗は許されない。

アラブの石油王をもてなすくらいの心意気が求められているのである。


キャンプ場の選定基準はキレイキレイなトイレがあり、温泉があり、虫が少なそうで、出来るだけ山の中じゃなく、なんだかやたらと爽やかな雰囲気の場所。

そして選び抜いた末に導き出されたのが、滋賀県米原市のグリーンパーク山東。

トイレは綺麗で爽やかで、キャンプ場と言いながら街の中にあり、車で5分の所にはコンビニまである始末。

普段の僕の行動範囲には絶対に入って来ない場所。

個人的にはもはや庭キャンと大して区別がつかないが、嫁からしたらこれでも大冒険のはずだ。

言ってみれば石油王をスラム街のモーテルに泊まらせるようなもので、嫁にとっては死を覚悟しての未知なる荒野なのである。


他にも考えられる限りのおもてなしの準備を整えた私。

なんせこの第一回目のファミキャンの成否によって、今までの8年に及ぶ努力が報われるかどうかが決まるのである。

人によっては「たかだかファミキャンだろ?」という奴もいるだろう。

しかしこれは僕にとっては「エベレスト南西壁冬季無酸素単独登頂」よりも難易度の高い栄光の道のり。

今後の人生がかかっている。


絶対に負けられない戦いがここにあるのである。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


なぜなのか?

なぜいつもこうなるのか?

大事な時に限っていつもこうだ。

なぜいつも当日になって「風邪」を引いてしまうのか?

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水のような鼻水が黒部ダムの観光放水のように止まらず、鼻栓なしには何も出来ない。

喉も痛くて頭もボーッとして、正直キャンプなんてやめて横になっていたい。

そもそも前回の記事で「15万円かけてちょっと風邪引かない体になった」と言った矢先に何と言う事だ。


しかしこれは「絶対に負けられない戦い」。

たかが風邪のせいで、この8年に及ぶ努力を無駄にしたくない。

嫁には「風邪引いたのか?やめるのか?」と言われたが、僕は「ぜんぜん風邪なんか引いてない!」と鼻声で言い放つ。

こいつは出だしから厳しい戦いだ。


やがてキャンプ場に到達。

ものすごくキレイキレイに区画化されたオートキャンプスペース。

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遠くには伊吹山がそびえ、爽やかさが大氾濫するピースフルワールド。

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普段の僕なら「しゃらくせえ!」と言い放って人のいない川原でテントを張る所だが、これはあくまでファミリーキャンプ。

全ての私情を捨て、家族をおもてなす事だけ考えろ。

いつも家のテレビの前にアンカーで固定されてる嫁を、やっとここまで引っ張り出したんだ。


ほら、この爽やかさにはさすがの嫁も喜んでるはず。

と思って嫁の表情を見てみる。

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すげえ無表情じゃないか!

そこからは感動や喜びなどという感情が全く読み取れない。

これは相当気合い入れて行かないといけないぞ。


本丸を攻めるには外堀から埋めて行く事が肝心。

まず子供たちを手なずけて行けばきっと嫁も喜んでくれるはず。

僕は「ペグ打ちは選ばれた正義超人の仕事だ。お前にはまだ早い。」と十分に「ペグ打ち」に価値をつけた上でりんたろくんにやらせてみる。

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案の定喜んでペグ打ちという雑務を遂行する男。

そして「いつかファミキャンの時のために」と以前購入した、シャングリラ3のネストを設置。

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ちなみに嫁の「シュラフなんかで寝たくない」という要望に応え、家から布団をダイレクトに持って来るという戦法もとっている。

周りを見渡しても布団持って来ているキャンパーは皆無だろう。


そして子供たちもエンジンがかかって、水場と見るや喜んで水遊びを開始。

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僕はこれを微笑ましく見ながら、「これでだいぶ嫁の表情も和らいだかな?」と思って嫁を見る。

すると何やらとてつもなく不穏な気配が。

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何だか凄く機嫌が悪いぞ。

どうやらあまり着替えを持って来てないのに、早くも全身がびちゃびちゃになってしまった子供たちを見てキレているご様子。

そもそも僕が風邪を引いたからなのか、この日がやたら晴れてて暑いのなんの。

その暑さのせいでイライラが止まらないようで、とてもアウトドアを楽しむなんて気持ちには到達出来ていないようだ。

しかも空腹もピークらしく、目から電流が流れてしまっている。

というか、例のごとく家の出発時間が「嫁待ち1時間半遅れ」だったせいですでに「14時」。

それで「腹減った」と文句言われてもたまらない。


しかし相手はアラブの石油王。

どんな理不尽も笑顔で乗り切らねばならない。

これはいけないとすぐさまタープを張って日陰を作り、美味しいもので機嫌を直してもらおうとBBQスタート。

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そもそもアウトドアが好きなだけで、こういう料理が得意とか思われがちだが僕は違う。

普段はマルタイ棒ラーメンかカロリーメイトだけでとりあえずこなしているだけなのだ。

過去に一度だけ嫁にメシを作ってあげた事があるが、その時は「なんか雨に濡れた犬の匂いがするから食べれん」と言われた事もある。

しかし今日ここでマズいメシを提供したらそれでジ・エンドだ。

だがBBQならよっぽど失敗なんてしないだろう。


僕は慎重に慎重に肉や野菜を焼いた。

そしてじっくり焼いたジャガイモを嫁に提供。

するとそれを食った嫁の表情が一変。

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カタンと箸が落ち、彼女はこう言った。

「お前は素材の味を殺すマジシャンだな…」と。


そんなはずはない!と僕もジャガイモを食ったら、ホクホクを通り越してカッチカチのバリカタポテトになってるじゃない。

どうやらじっくり遠赤外線で焼き過ぎて、素材の水分が全部飛んで行った模様。

他のアスパラも茄子も「フリーズドライ?」って位の水分の飛びっぷりで、クソマズいのなんの。

おまけに僕は食わないけど嫁のために炊いたご飯が、僕得意の「目分量水加減」によって、からだにやさしい「おかゆ」として出来上がってしまったという大失態。

僕は覚悟した。

こうなる↓事を覚悟した。

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しかし嫁もグッと堪えてくれて、何とかその場は事なきを得たが明らかに機嫌が悪い。

そんな時に限って僕は粗相をしてしまう生き物。

自分の白いTシャツに焼き肉のたれをこぼしてしまったのだ。

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これが今後の運命を大きく変える事に。


実は僕は「たとえキャンプ場だろうと、装備はミニマムで行ってこそ漢。」という妙なチャレンジ精神が出てしまって、この日パンツと靴下の替えしか着替えを持って来ていなかった。

たれをこぼしたTシャツは即座に洗ったからもう着替えがない。

おかげで裸にシャツのみという南米スタイルで過ごす事になり、瞬く間に腹部を冷やしてゲリ状態に。

そして夕方になるにつれて体がみるみる冷えて行って、より風邪が悪化するという非常事態。

これ以降、僕は朦朧とした意識の中でのサバイバルキャンプに突入して行く事になる。


若干からだがふらついて来たが、それでも必死のヨイショは続く。

しかし肉を食って少し機嫌が直りかけたとき。

ここで次男こーたろくんの猛烈な「イヤイヤタイム」がスタートだ。

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最近の彼は度を越えたイヤイヤ期に突入しており、世の中の全てが気に入らないんじゃないかと思うほど怒って泣き叫ぶ。

とにかく5秒に一回の割合で慟哭して己のイヤイヤを訴える。

「水が飲みたいー!」とキレるのでペットボトルのフタを開けて渡せば、「フタ取りたかったー!」とキレられ、新たにフタが開いてない水を渡せば「これ違うー!」とキレられ、その隙にりんたろくんが他の水に手をかければ「それ僕の水ー!」とキレて奪い、しかたなくりんたろくんが他の水に手を出せば「それも僕のー!いやぁあああ!触らないでー!」となり、テーブルにはフタの空いたペットボトルが散乱する。

そして肉を食えば「熱いー!」と怒り、冷まして渡せば「冷たいー!」とキレて、やっと普通に食ったと思えば「タレが落ちたー!いやぁああああ!」と泣き、それを拭こうとすれば「やめてぇぇぇ!」となって、嫁が「いい加減にしなさい!」と怒れば、「ぐおあぁぁぁっっ!」と絶叫。

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嫌いなアウトドア、日光の暑さ、ジャガイモのまずさ、旦那の粗相、こーたろくんのイヤイヤ、マイペースで新超人の話が止まらないりんたろくん。

機嫌が良くなるどころか、このストレスのデパートの中でいよいよ嫁の表情がこんな事に。

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まずいぞ!

今この時を楽しんでないどころか、間違いなく不機嫌になっていらっしゃる!


しかしこれをなだめようにも、実はこの時の僕はすでに意識が朦朧とし始めてしまったほどに風邪が超悪化。

僕自身の顔からも生気と表情は失われ、ここまで気を張り続けていたせいでまともに喋る事も出来ない状態に。

恐らくこの時、平熱35度台の僕でも体感的には38度を余裕で越えていたように思う。


それでもここで横になるわけにはいかない。

やはりキャンプとは遊んでこそナンボ。

自然の中で楽しそうに遊ぶ子供たちを見れば、きっと嫁も機嫌を直してくれるはず。

ってことで、お父さんは病身にむち打って皆をアスレチックへ。

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しかしここに嫁の姿はない。

何故なら彼女は「行かない」とハッキリ宣言し、スマホ片手に仕事を始めちゃったから…。


まさかキャンプ場で仕事を始めるなんて完全に想定外だった。

しかし子供たちもちゃんとおもてなししないといけないから38度のお父さんは歯を食いしばってアスレチックコースへ突入です。

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またここのアスレチックコースが想定外にちゃんとしすぎてて、「少しで終わるだろう」と思っていたら20以上もの難コースが出現。

僕はフラフラになりながらも、りんたろくんの「お父さん持ち上げて!」とか「一緒に登って!」とかのリクエストに応えつつ、兄のする事は全部マネしたいこーたろくんの「僕も!僕も!イヤァァァァ!」という絶叫をなだめながら担いでアスレチック。

この発熱状態で二人を抱えながらこなす20コースは、恐らく北アルプスの大キレット突破よりもハードなプレイ。

これにて完全に僕は精根尽き果て、もう立っているのもやっとの状態に。


しかしテント場では嫁が待っている。

ここで立ち止まっては8年間の全てが水の泡だ。

気を緩めると意識が飛びそうだが、とにかく前に進むんだ。


やがてアスレチックコースを完走。

二人を交互に肩車しながら死んだ目で必死でテント場に戻る。

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休むな。

休むなんて俺はゆるさないぞ。 

休む時は死ぬときだ。

生きている間は休まない。

俺が、俺に約束できるただ一つのこと。

足が動かなければ、手で歩け。

手が動かなければ、指で歩け。

指が動かなければ、歯で道を噛みながら歩け。

歯も駄目だったら、目で歩け。

目でゆけ。

目でにらみながら歩け。

目でも駄目だったら、それでもなんでもかんでもどうしようもなくなったら、

ほんとうにほんとうのほんとうにどうしようもなくなったら、ほんとうにほんとうに

ほんとうにほんとうにほんとうにどうしようもなく、ほんとうにだめだったら、

もう、こんかぎりファミキャンしようとしてもだめだったらほんとうにだめだったらだめだったら

ほんとうにもう動けなくなって、動けなくなったら、


思え。


ありったけの心でおもえ。



想え。




伝説のファミリーキャンパー・マゾ丈二、嫁々の山嶺を目指して決死の行軍。

時折「ファミリーキャンプって…こんなに…こんなにキツいものなのか…」と折れそうになる心を鼓舞しながら心で進む。

まさにここはキャンプ場という名のデスゾーン。

そしてテント場につく頃には、ここに来てまさかまさかの「雨」なのである。

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そりゃないだろう…。

8年頑張って来て、失敗の許されない一発目のキャンプでそりゃあんまりだ…。

さっきまであんなに晴れてたじゃないか…。


正直全てを投げ出してもう逃げてしまいたい気がしたが、すでに酒飲んじゃってるからそれもできない。

嫁を見れば、空を見上げてこの表情。

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そして「やっぱりこうなるんだな..」とボソリ。

もはやここまでか?


しかしここで僕は、実は起死回生の一策を残している。

この作戦で今までのダメダメを全てなかった事にしてやる。


実はこのキャンプ前日、僕は調べに調べてわざわざ韓国食材店に足を運んでいる。

それは嫁の大好物「サムゲタン」を作るための素材集めだった。

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これを僕はアスレチックに行ってる間に、ひそかにダッチオーブンに仕込んでじっくり調理していたのだ。


それを知った嫁の表情は一気に明るくなった。

ついに家族円満なファミキャンの夜がやって来たのである。

僕はテーブルにダッチオーブンを置き、「さあ!いよいよサムゲタンのお出ましだ!」とその場を盛り上げる。

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サムゲタンは鶏から滲み出た高麗人参ベースのスープがたまらない一品。

嫁はそのスープが何より好物。

僕は朦朧とした意識を必死でつなぎ止めながら、精一杯明るい声で「ジャジャァーン!」と言ってフタを開けた。


するとどうだろう。

スープが…

スープが…

ひからびて全て蒸発しちゃってるじゃないのよ…

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長く置きっぱなしにしすぎてしまった…。

ひからびて一滴もスープは残ってないばかりか、鶏の下半分はガピガピに焦げている。


ワナワナと震える嫁。

ブルブルと怯える僕。

やがて嫁がリアルに叫んだ。

「アアアッッ!モォォォッッ!!!」と。

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普段静かに怒る嫁がこんなに声を荒げたのは初めてだ。

もはやその服がビリビリに破けてしまいそうな迫力。

僕はその覇王色の気迫だけで卒倒しそうになってしまった程。



終わった。

ここで全てが終わったのだ。

やるだけのことはやった。

基本的に努力が全て空回りしていた感があるが、この世界は努力よりも結果だ。

絶対に負けてはいけなかった戦いなのに。

やはり僕にはファミリーキャンプは無理だったのだ。


痛い。

周囲のキャンパー達の楽しそうな晩餐の笑い声が心に痛い。

そして冷たい。

彼らには言い出せないが、僕の後頭部から背中にかけて雨がすごい当たっているんだ。

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他のキャンパー達のような立派なタープと違い、この狭いタープでは誰かが犠牲にならねばならない。

その犠牲を今38度越えの僕が一身に担ってるなんて事言ってはいけないのだ。


だめだ。

もう目もかすんできた。

意識も飛び飛びで何も話す元気がない。

楽しみにしてた焚き火なんて当然出来ない。

りんたろくんが楽しみにしていた、この日のために買って来たボードゲームもできそうにない。

ごめんよ、みんな。

お父さん、こんなんで、なんかごめんよ。

夢見てたファミリーキャンプだったけど、なんだかそもそも楽しくないや。

もう..いいかな…。


その後も温泉の場所が結構離れた所にあるのに、なんと傘を一本しか持って来たなかった事が発覚して怒られた。

しかしその辺りの記憶はもうほとんどない。


やがてテントで寝るべく皆でシャングリラ3の中へ。

しかし嫁が「臭いし、狭いし、暗いし、窓無いし。ちょっと無理っぽい。」と発言。

もはやこの言葉で「じゃあ根本的にテントでのファミキャン無理じゃん」と全てを諦めた僕。

雨の中、即座に車の中にスペースを作ってフラフラしながら布団を移動。

ここでまさかまさかの、「キャンプ場内車中泊」という信じられない光景が展開してしまったのである。

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これにて結局僕だけシャングリラの中で寝る羽目に。

広い広いシャングリラの中、一人ぼっちで見上げる天井。

IMG_0683.jpg

思えばこのシャングリラ3を買う時、「このテントならファミキャンの時に使えるな」って思って買ったんだっけ。

結局一人で寝てるじゃない。

シャングリラって「理想郷」っていう意味だったよね。

これが僕が8年かけて辿り着いた理想郷かあ。

随分と寂しいものなんだなあ。


だめだ..

もう意識が…

何も考えられない…


きし..

きしよぅ…

おれも、いきたいけどな

そこへいってやりたいけどな

まだ、ジョラスをのぼっているとちゅうなんだ

ファミキャンのとちゅうなんだ

さいごまでやらせてくれ..


さいごまで…..




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


こうして伝説のファミリーキャンパー・マゾ丈二は息を引き取った。

彼が最後に見たのは神々が住まう山嶺だったのか?

それとも全てを凌駕した理想郷の世界だったのか?

ただひとつ言える事。

それは、彼が長年夢見てきたファミリーキャンプ。

恐らくこれが最初で最後となるだろうという事だけだ。



彼が最後に残した手記によると、翌日彼の風邪はさらに悪化していたが、家族には「もうすっかり治ったよ」と無理に無理を重ねていたらしい。

そして窓を少し開けて車中泊していた嫁達はことごとく蚊に刺されて苦しい夜を送ったという。

こーたろくんも暗がりの中で泣き止まず、嫁はほとんど眠れない夜だったと振り返る。

そしてマゾ丈二は「おはよう」と言う前に、「ほんとごめんなさい。もう二度とファミリーキャンプしたいなんて言いません。」と平謝りしたという。



後悔はしていない。

マゾ丈二はあくまでも孤高の人。

今後も彼は一人で彷徨い、静かにマゾり続けて行くでしょう。


彼は最後のインタビューで有森的にこう言ったと伝わっています。



「初めて自分で自分を慰めたいと思います」…と。




サヨウナラ


俺の夢見たファミリーキャンプ






神々の理想郷 〜完〜



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コメント

    • ななし
    • 2016年 4月 28日

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    サムゲタンが残念でなりません。
    丸鳥できちんと用意してダッチオーブンまで使ってるだけに悲しさが倍増しですね。

    ローマは一日にしてならず、千里の道も一歩から
    結婚が終着点では無いと言われるように、いまやっと八年かけて口説き落とし、ファミキャンという結婚をしたようなもの
    ファミキャン道の一歩を歩み出したに過ぎません。
    今後はyukonさんの結婚道以上に険しい道かもしれませんが、
    アウトドアにはチームマサカズ等の仲間が沢山居ます
    りんたろくん、こーたろくんも居ます。
    なによりアウトドアはyukonさんのテリトリーです。
    今後ファミキャンカテゴリが必要になるくらいになる事を期待しています。
    現状dsy、りんころに入ってたり、前回の花見カヌーに至っては家族カテゴリにも入ってない悲しい期待度なのでw

    りいたろくんは経験値豊富だからこのレベルのアウトドアは余裕の風格ですね、いつも背中で寝ていたのが昨日のようですw

    • yukon780
    • 2016年 4月 29日

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    サムゲタンが「懺悔嘆」になってしまいましたよ。
    久々に自分で書きながら涙が止まらない悲惨な回となってしまいました。
    というか最近そんな記事ばっかりです。
    世の中の不幸な人がこれ読んで「ああ…この人の事思えばもう少しだけ生きてみようかな…」って思ってもらえたら幸いでございます。
    そして私のせいで哀れなガピガピ姿になってしまった鶏にも土下座したい気持ちで一杯です。

    我がファミキャン道は一歩目から雪庇を踏み抜いて滑落してしまいましたが、なんとかこの谷底スタートから這い上がって行こうと思います。
    第二回ファミリーキャンプは20年後とかになるかもしれませんが、その頃にはいい加減ちゃんとしたサムゲタンが作れるようになってるはずです。
    というかあのケンシロウばりの現状の嫁に対してもう期待はしない方が得策なので、りんたろくんの嫁と子供達のファミキャンに付いて行くじじいになりたいと思います。

    ファミキャンカテゴリは老後の楽しみに取っておきますよ…。

    • くさかんむり
    • 2016年 5月 14日

    SECRET: 0
    PASS: df4c29704bc9ed42b471d3b2c655a03e
    初めまして。
    シャングリラ3を探し彷徨っているうち、こちらにたどり着きました。
    最初、あらカワイイ息子さん達だことと読んでいましたが、わりとすぐに微笑みは消え、戦慄→恐怖→最後はちょっと目頭が熱くなってしまいました。
    私はとんでもない荒野に来てしまったようです。

    通りすがりの者ですが…
    yukon様、頑張ってください‼︎
    ご家族楽しくキャンプが出来る日を、心よりお祈りしております。

    とはいえ、楽しく読ませていただきました。
    ありがとうございます。

    • yukon780
    • 2016年 5月 16日

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    くさかんむりさん、はじめまして!
    せっかくシャングリラ3を調べようと来てくれたのに、このような汚れた荒野をお見せする羽目になってしまって恐縮です。
    世の中にはファミリーキャンプですらこのように激しい孤独な戦いに身を投じている戦士がいるのですね。
    我ながらやってて悲しくなる局面ばかりで、何度も心が折れて粉々になって煎じてこねて切り刻まれました。
    とりあえずファミキャンの夢はもうすっかり諦めましたが、老後に孫達を連れてこの無念を晴らしたいと思います。
    でも一応諦めずにもう少しもがいてみます!

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