「南アルプス」
そこは男塾発祥の地。
浮かれた北アや八ヶ岳に背を向けて、真の男道を極めんとする修羅が集まる聖域。
そんな南アルプスの中で、人気実力ともに兼ね備えるのが以下の4山だ。
「鳳凰三山」こと地蔵岳・観音岳・薬師岳。
「南アの女王」こと仙丈ヶ岳。
「南アの貴公子」こと甲斐駒ケ岳。
「南アの盟主」こと北岳。
山をやっている者なら誰もが知っているこの有名4山。
しかし、実はその4山に囲まれながらも、全くの無名を貫き通す男がいるのをご存知だろうか?
その男の名は「小太郎」。
別名「南アのいぶし銀」(勝手に命名)と呼ばれる孤独な山。
彼はこれだけ有名な山に囲まれながらも、ことさらに己を主張せず何者にもおもねらない。
ほとんどの登山者に豪快に無視されても一切気にしない。
男は黙って辛口一献。
そんな彼は、ちょうど有名4山の線と線が繋がるブラッディクロス上に鎮座している。
誰も訪れない孤高の男・小太郎。
彼に会うためには、日本標高第二位の北岳に登るよりも長くハードな行軍を強いられる。
これほど「男塾」に適した山が他にあるだろうか?
そこである塾生が動いた。
それは前回の厳冬期「甲斐駒男塾」で、一号生筆頭にまで登り詰めた「松尾」である。
彼はこの甲斐駒男塾以来、「歩荷と言えば松尾、松尾と言えばAV男優」と恐れられる存在に。
その後方からの鬼教官ぶりは、前回のマゾピース記事以降、山屋の間で「歩荷鬼六」と呼ばれて崇拝されている。
そんな鬼六が目を付けたのが、体力の衰えを理由に男塾を休塾宣言していた「田沢」と「虎丸」。
この二人が去年沢登りの計画を台風で流されて、松尾に無理矢理「白馬男塾」に連行されたのは記憶に新しい。
そして実は彼らは今年も懲りずに「沢登り」の計画していた。
しかし去年に引き続き、またしても沢登り前日に台風18号直撃。
結果見事に沢は大増水の運びとなり、宙に浮いてしまった二人の遊び計画。
そんな二人を松尾が見逃すはずがない。
彼は「台風一過で天気良いから小太郎山に行きましょう」と、その中年二人を男塾に強制再入塾させたのである。
楽しい沢登りが一転、まさかの展開に巻き込まれた田沢と虎丸。
老衰著しい二人に襲いかかる歩荷鬼六の圧力と、小太郎のいぶし銀な嫌がらせの数々。
いざ、ここに男塾名物「下呂下呂論愚直登行軍」開始の銅鑼が鳴る。
松尾の「100高山制覇」の夢の実現の為に、無理矢理付き合わされた哀れな中年二人の物語。
それでは長々とねちっこく振り返って行こう。
(注:お食事中の方は、食事がお済みになってからお読みください)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
松尾と田沢は、戸台からバスに乗って北沢峠にやって来た。
そのバスの中で松尾のやる気が充満しすぎてしまったのか。
バスから下りるなり、凄い勢いで飛び出す黒い稲妻。
まだ始まってもいないのに、早くも「鬼六モード」になる松尾。
その勢いと圧力は、さすが「黒部の朝青龍」と言われるだけある大迫力だ。
彼の鬼六モードの恐ろしさを肌で知る田沢は、この時点ですでに戦意喪失。
しかしこの北沢峠は、何と言っても「南ア男塾」発祥の地。
初めて松尾と田沢が男塾として冬の仙丈ヶ岳を落した時、ジョジョズホーリーナイトを堪能した「こもれび山荘(旧長衛荘)」を表敬訪問だ。
ここには写っていないが、ここで男塾塾長である江田島平八さん(こもれび山荘ご主人)との再会を果たす。
そこで塾長が「ワシが男塾塾長江田島平八であるッ!」と叫んだかと思うと、ハッピーデイズさんのゴキゲン山映像DVDと、お手製ブラウニーを餞別で手渡してくれた。
松尾の圧力に意気消沈していた田沢も、この塾長からの直々のエールに感激。
再び男塾への熱い心を取り戻した。
塾長への挨拶が済むと、虎丸との待ち合わせ場所「広河原」行きバスに向けて移動。
これでもかと荷物を歩荷する松尾の勇姿。
実は数日前に田沢がぎっくり背中になって負傷していたため、彼は田沢分の荷物やメシまで歩荷している。
さすがは頼りになる便利な一号生筆頭、松尾鯛雄である。
そして虎丸合流前に、実はあの男達とも合流している。
チーム・マサカズの「小木K」と「矢作C」のおぎはやぎコンビである。
実はこの二人、もちろん小太郎なんて変な山には行かずに1泊2日で北岳を攻める予定なのだ。
男塾は行程が変態設定になっているから彼らとは一緒に行動出来ないが、途中まではルートは同じなんで今後何度か出会うことだろう。
そんなおぎはやぎと共に、広河原のテン場を目指す。
そのテン場で、芦安方面から来る虎丸と合流予定。
バスの時間的には虎丸のが1時間遅いバスだから、まだ彼は到着していないはずだ。
しかしである。
広河原のテン場に入ると、何やら不審な男が寝ているではないか。
この荒々しい後ろ姿。
そして「ごろ寝」という、実に男らしい登場の仕方。
こんな漫画みたいなアウトローな奴はアイツしかいない。
その男の元にそっと忍び寄り、松尾が重量ザックの重さを利用して渾身の早朝バズーカ。
もし人違いだったら殺されてもおかしくない賭けだった。
しかし「う…ううむ…」と言って目覚めたのはまさしくあの男。
虎丸龍次、その人である。
実は彼はバスではなく、乗合タクシーにて先に到着していたのだ。
そして当日の朝4時まで仕事をしていた彼は、ここに着くなり意識を失ったというわけだ。
現場で初めて虎丸の仕込み芸を目の当たりにしたおぎやはぎコンビも、「これがウサワの不眠虎丸か」と感心しきり。
基本的に虎丸は、毎回不眠状態で男塾に突入する熱い根性の持ち主なのである。
ただ単に遊びすぎて仕事のツケが回って四苦八苦しているだけなので、不眠だろうが誰にも同情はされない。
以後この場所は、白馬の「矢作Cたそがれベンチ」に次ぐ名所、「虎丸根性ベンチ」として語り継がれて行くことになる。
それを見た矢作Cも「俺の跡を立派に継げるナイスベンチだったぜ」と言ったかと思うと、
小木Kとともに北岳登山道に消えて行った。
その後我ら3人はベースキャンプを設営し、小太郎撃破に向けて準備万端。
左から「寝てない虎丸」「ぎっくり背中田沢」「AV男優松尾」。
皆それぞれがすでに傷だらけで、闇を抱えた四十路目前トリオ。
それでも無理矢理生足を露出し、若き根性を取り戻す意気込みだ。
見た目はもはや企画ものの集団AV男優達にしか見えないが、これが中年男塾の根性なのである。
しかもである。
田沢に至っては、背中に男塾名物「腐乱洲犯」を掲げて男度を天下に示す覚悟。
彼は「これ合理的な行動食じゃない?」と自慢していたが、後に彼自身がこの腐乱洲犯に苦しめられることになるとはこの時点では思ってもいない。
何はともあれ広河原出発。
普通に小太郎山往復ならコースタイム11時間。
もちろん我々は男塾の塾生なので、そこに余計な北岳往復をプラスして13時間20分コース。
天下の北岳を、「ちょっと近くに来たからついでに寄ってみたwww」的な軽いノリで落してやる予定だ。
というかそういう予定を松尾に立てられてしまった。
正直沢登り気分だった田沢と虎丸は、気持ちが追いつかなかったりする。
しかも折からの台風で、案の定沢は大増水。
そして溢れた沢の水が登山道にまで浸水していて、早くも足下ビシャビシャに。
図らずもこんな所で念願だった沢登りをする羽目になった田沢と虎丸。
このまさかな滑り出しに対し、松尾までも悦びのあまりケツから大増水。
どうやらリザーバーの水が漏れまくっていただけで、コーフンして潮を噴いたわけではなさそうだ。
そんなこんなで猛烈ハイペースで駆け上がって行くと、早くもおぎやはぎコンビに追いついた。
小木Kは己の顔が卑猥なのを自覚してか、葉っぱでしっかり自主規制だ。
時間もないので早々に立ち話を切り上げ、塾生達は先を急ぐ。
すると突然前の登山者が、「あれ?ブログの人ですか?」と声をかけて来たではないか。
彼の名はクレーマーKさん。
「いやあ、いつも読んでますよ。あなたがランボーさんで、こちらが…えーと…朝青…AV….ジョンボーAさんですね。」と感激の一言。
こんな身内だけの変態ブログを読んでる人とバッタリ出会うなんて。
嬉しくてすっかり立ち話も長くなり、時間は刻々と過ぎて行く。
やがて彼が、「ブログで絶賛されてたザック買ったんですけどね。どうもあまり良くなくて質屋に売りましたよ。」と何気に現場クレームを開始。
田沢はその場で読者に直接平謝りするという、新型のオフ会を体験。
これが男塾名物「苦零武府庵感謝祭(くれーむふぁんかんしゃさい)」である。
数少ない読者だっただけにもっとゆっくり話をしたかったが、タイムアタック男塾中だったので先を急ぐ。
しかもここから急登パラダイスが始まるぞってタイミングで、松尾の中の「歩荷鬼六」が目覚めてしまう。
「オラ!虎丸!いつまでも寝てるんじゃない!」と後方でこの表情。
これは危険だ。
ちんたら歩いていたら、今にも我らのケツを掘って来そうな圧力だ。
それを見て逃げるように突き進む田沢と虎丸の前には、ででんと北岳。
前後の圧力に押しつぶされそうになる田沢と虎丸。
しかも田沢に至っては、前半のスタートダッシュがたたってリアルに吐き気を催している始末。
それでも鬼六松尾は、「おう!ファンと触れ合った時間分、きっちり巻いて行くぞ!」と容赦なく初老の二人を追い込んで行く。
これにはさすがの虎丸も、眠ったままうなされている。
寝ながらここまでついて来てるこの男も、ある意味で凄い。
そんな松尾の追い込みに嫌気がさして来た頃、バイオトイレのある地点で初の休憩。
ちなみにこの時の田沢はリアルに死んでいる。
この時点で謎の吐き気の勢いが加速し、常時脱水状態の生ける屍に。
それでもこの後の行程のことを考え、ここでしっかりと行動食を取っておく必要がある。
しかし自慢げに持参した「腐乱洲犯」が、全く喉を通って行かないではないか。
練乳ぶっかけて男らしくガッツリ食らいつくが、一口食うだけで猛烈にお口の水分が吸い取られてとても飲み込めない。
止まらない後悔と脱水症状と吐き気パラダイス。
結局この腐乱洲犯はその後一切食われる事なく、ただの背中の邪魔なアクセサリーとして輝き続けることになる。
それを見てほくそ笑む松尾と、「あれ?ここどこだ?」とやっと目が覚めた虎丸。
そして虎丸は「あれ?スタートからずっと靴ひも縛ってなかったよ。」という驚き発言。
さすがは男虎丸龍次。
彼なら恐らく便所のスリッパでもバットレスの直登が可能だろう。
そしてここで歩荷鬼六が、タコ入道のような顔して「おう!こっからが本番やで!」とさらなる追い込み宣言。
田沢は「このままだと本当に吐いちゃう…」と訴え、虎丸は「僕はそもそも冬以外の登山は興味ないんだよなあ」と愚痴が止まらない。
それでもここからがいよいよ本意気大急登の始まり。
窮状を訴える二人の初老たちに対し、後方のタコ入道は指で「Go to Heaven」しながら、さらに圧力を増して追い込んで来る。
すっかり忘れていたが、この北岳へ続く道はひたすら急登急登また急登の地獄だった事を思い出す。
前回は気楽な日帰り北岳だったが、今回は鬼入道松尾との小太郎アタック。
この腹立つ顔で、「なに?疲れちゃったの?もうダメなの?ねえ?ねえ?」とねちっこく追い込んで来るもんだからたまらない。
このねちっこさには、さすがの虎丸も渡辺裕之みたいな険しい顔になって若干キレかかっている。
しかも、本気で限界突破しているギリギリのおっさん達を見ても、
この感情のない鬼畜顔。
もう優しかったあの頃の松尾の面影はない。
人を追い込む事でしか生を実感出来ないモンスターになってしまったのだ。
やがてそんな悪魔に魂を売った鬼六タコ入道が、太陽の力を吸収してさらにパワーアップ。
太陽パワーがたまると、少しでも休んでる奴を見つけては得意の「チクビーム」を撃って来て休ませてくれない。
田沢も背中にそのチクビームを浴び続け、
すっかり人相が変わって、MAJIでゲロ吐く5秒前に。
なんだか変な寒気もしたりと、あきらかに体調がおかしい。
そこには演技を超越した、ドキュメンタリーな「本当に死んじゃう」というリアル悲壮感が漂っている。
これが鬼六監督がコアなファンから熱烈な支持を受け続ける演出方法。
演者の持つ最大限のマゾを引き出して、全国のサド野郎にステキな映像をお届けするのが彼の作品の魅力なのである。
次第に演者達も気分がノってきて、喜々として急登に身を捧げて命を削って行く。
やがて一気に空が開けると、
ついに「小太郎尾根分岐」に到達だ。
標高1,520mの広河原から2,840mのこの地点までのハイパーハイクアップ。
通常5時間のルートを、鬼六効果で半分の2時間半で登りきった。
しかしその代償は、体調不良の田沢にはあまりにも大きかったようだ。
ついに標高2,840m地点での大往生。
心臓のバクバクは全然収まる気配がなく、胃酸の遡上は鮭のごとし。
今にも寝ゲロを吐いてしまいそうだが、残念ながらここはゴールではない。
やっと小太郎山への「スタート地点」に立っただけの話なのである。
そして無情にも松尾鬼六の「さ、5分経ちました。行きますよ!」との大号令。
田沢はフラフラと小太郎山に向けて、死出の旅路についた。
限界の腐乱洲犯田沢の前には、「山頂が近そうで遠いアップダウン満載尾根」という登山あるあるな風景が広がっている。
そして晴れた土曜日だと言うのに、我々以外誰一人小太郎山に向かう登山者がいない。
なぜこんな悲壮な思いをしてまで、このようなマニアックな山に行かねばならないのか?
松尾の「100高山制覇」の欲望のために、全く望んでいない山行に巻き込まれてしまった本来「沢登り」の予定だった二人。
白馬三山の時もそうだったが、なぜこんな壮大な世界にまで追い込まれてしまったのか?
これを見て同じ被害者の虎丸も、さすがに西川くんになって気絶してしまっている。
だがそんなヨレヨレの3人の侵入者に対し、ついに小太郎のいぶし銀な攻撃が始まる。
ガッツリとヘビーに登らせたかと思うと、
せっかく登ったのに、ガッツリと降下させられる。
そしてそれは、何故か樹林帯の所まで下ろされてしまうというというハイパーな徒労感。
そして風の吹かないムンムンで歩きにくい樹林帯を泳がせる。
で、再び無駄に熱烈超急登。
これにはさすがの体力自慢のAV男優も、「クッ!クハッー!」と白目目前。
それでも小太郎は、まだまだいぶし銀な攻撃の手を休めない。
生足で頑張る我々に対し、ハイマツ藪漕ぎ攻撃で足下を急襲。
まるでモハメド・アリ戦で見せた、アントニオ猪木の足集中攻撃のような執拗な嫌がらせ。
それでも生足じじい達は、「いて、いて、いてててて」と言いながら、足を傷だらけにして直進行軍。
見さらせ、我らが男塾魂。
この3人が集えば、小太郎なんぞ屁のつっぱりにもなりゃしねえ。
さあ、いざこの岩場を駆け上がって、
山頂到達!
思わずガッツポーズの虎丸。
しかし慌てて松尾がそのガッツポーズに割って入る。
そう。
ここは登山あるあるpart2の「ニセ山頂」。
本当の山頂はまだまだ先だったりするのである。
正直虎丸もニセ山頂の事は知っていた。
しかし「もうここが山頂でいいじゃん」と言い張り、なんとかこの無謀な戦いを終わらせようとしてのニセガッツポーズ。
しまいには「田沢のフランスパン突き刺して、それ山頂の標識にして写真撮ればいいでしょ。」などと言い出す。
100高山制覇を目指す松尾は、「勘弁してくださいよう。ここで終わったらまた小太郎来なきゃいけないじゃないですか。せっかくここまで来たから行きましょうようよぅ。」と懇願。
それでも虎丸は「そもそも僕は沢登りしに来たんで小太郎山に用は無いです。」と言い張り、田沢も「元々小太郎山に何の思い入れもねえんだ!」とはっきり言っちゃう始末。
ニセピークでの中年二人の愚痴が止まらない。
すっかり慌てふためく松尾は、鬼六の仮面を捨てて「なんとか山頂まで…」と頭を下げる。
虎丸と田沢は「チッ」と言いながら、重い足を再び山頂に向ける。
だがそんな彼らに対して、小太郎はまたしても樹林帯まで大下降させるという信じられない嫌がらせに打って出た。
登山者がほとんど来ないから、道も男らしく荒れ放題で木々のはみ出しっぷりが凄まじい。
そしてまたその樹林帯を漕ぐように進み、気力と体力がごっそり奪われて行く。
だがその地獄を抜けると、ようやく小太郎山のてっぺんを視界に捕らえた。
ここから最後の力を振り絞り、塾生達のラストスパート。
最後まで抵抗する小太郎の薮々攻撃を漕ぎ抜けて、
ついに小太郎山、撃破!
なんだか行程が変態過ぎたせいか、さっきまで愚痴ばかり吐いてた二人にハンパ無い達成感が満ちあふれる。
そして危うくニセピークの段階で、男塾名物「寸止め100高山」に見舞われるかと思われた松尾も、喜びのあまりガバッと小太郎に抱きつく。
そんな朝青龍の稽古志願に対して、快く胸を貸す小太郎関。
辛口一献のいぶし銀男との感動の和解を果たし、男達の間に熱い友情がほとばしる。
そしてここが「南ア有名4山」のブラッディクロス上にいるって事が何を意味するかというと…
目前にはどどんと、南アの貴公子「甲斐駒ケ岳」。
その左に優雅に佇むは、南アの女王「仙丈ヶ岳」。
そして後方には大迫力、南アの盟主「北岳」。
その脇には、天下御免の「富士山」。
そして華麗に羽ばたく、「鳳凰三山」。
まさに360度の大展望台。
そこにはこの苦難の男塾を切り抜けた、真の漢にのみ与えられる大絶景が広がっていたのだ。
松尾は感動しながら360度回転してその景色を堪能。
その次に、ふと標識の奥に目をやると、何やら様子がおかしい男がいる。
それはひたすらハイマツに顔を埋めている田沢。
このめったに見られないスペシャルな大絶景には目もくれず、彼は一体何をしているのか?
次の瞬間。
小太郎山に田沢の絶叫がこだまする!
「オゥッ…オゥェッ!オエエエエエェッッッッ!!」
男塾一号生「田沢慎一郎」
南アの女王が優しく見守る中
背中にフランスパンを背負いながら
小太郎山山頂にて
「嘔吐」
享年39
そのあまりにも唐突な田沢の男気に対し、下界で見守る男塾の仲間達は一斉に塾歌で彼の偉業を讃えた。
そう。
当ブログで今まで散々「吐きそう」とか「嘔吐寸前」とか書いて来たが、ついに「リアル嘔吐」の瞬間がやって来たのである。
必死で楽になろうと、さらに「オロ、オロロロロ!」と吐き続けるが、ろくに行動食食ってないから何も出て来ない。
胃液すら出て来ないのに、ゲロい衝動が収まらずに何度も「ウエッッ!ドゥウエオオゥエエッッ!」とえづき続ける田沢。
腹の筋肉もツりそうになるほどピクピクしている。
本来なら「大丈夫か!」と言うべき仲間の松尾と虎丸は、そんな田沢を見て大爆笑。
ここの塾生達の精神はまさに腐っているのである。
だが限界を突破してしまったのはゲロッパ田沢だけではない。
さっきまで大爆笑していた二人も、ここまでの疲労が爆発して急にグッタリだ。
そしてついに、3人揃って大往生の時を迎えた。
さすがの鬼六も「このまま動いたら全員死ぬんで一旦体を休めましょう」と言って大の字に。
しかしゲロッパ田沢の位置から松尾を見ると、松尾は己の小太郎山を突き出してこのセクシーアピール。
今にもよこちんがはみ出んばかりの不快アタック。
これでまた田沢が「ウプッ!」となってしまったが、もはやその場所を移動する力すら残っていなかった。
しかしいつまでも横になっていたら、ほんとに動けなくなって生足のままここで凍死してしまう。
我らは休憩もそこそこに、再びまたこのアホみたいな尾根を戻って行くのである。
この折り返しが猛烈にヘビーだった。
行きは初めての道だから新鮮味もあったが、帰りはそのアップダウンのしんどさを知ってるだけにキング・ザ・100tばりに気が重い。
そんな弱り切った中年達に、和解したはずの小太郎からいぶし銀な追い打ち。
樹林帯障害物ハイク中、虎丸の生足弁慶にぶっとい木がスマッシュヒットして大悶絶。
いよいよリアルな流血現場となり、男塾感がハンパ無い。
しかし虎丸ほど流血の似合う男も他にはいない。
一方で同い年のゲロッパ田沢も虎丸に負けてはいられない。
わざとなのか偶然なのか、ハイクアップしながら虎丸と松尾がステーキやハンバーグの話を開始。
それを聞いて肉々しい食べ物を想像してしまった田沢。
突然その場にうずくまり、「ウエエエエエッッッッ!!」と嘔吐アゲイン。
地獄だ。
考えちゃおけないって思えば思うほど、田沢の頭の中にギトギトな料理が現れては消えて行って胃酸の逆流がハイパーに。
以後、田沢は10分おきくらいに突然「オエッ!」とえずきながら進むという「AUTO嘔吐モード」へ。
もう彼本人の力ではこのえずきをコントロールできないのだ。
それでもそんな「かなりえずき」の前では、特別マゾ劇場「渡る世界は尾根ばかり」が壮大に放映中。
この遠大な距離感に完全に心が折れかける田沢慎一郎。
それでも「踏ん張って頑張ろう」と重い一歩を踏み出す。
しかし追いマゾ好きな彼は、トレランシューズの一番柔らかい部分を尖った岩に引っ掛けて転倒。
そして大事なシューズに見事に穴をあけてしまうというセルフ追い打ち。
これで完全に心がバッキリ折れた田沢。
そのまま音もなくその場に倒れ込み、壮絶なるノックアウト。
いささかおマゾが過ぎてしまったか。
田沢は力なく「なんだか…山が…嫌いになりそうだぜ…」と、えずきながら言うのが精一杯。
そしてこの頃には他の二人も、もう爆笑する余裕もなくなって田沢の死体を横目にグッタリしている。
壮絶なり「小太郎男塾」。
今こそ我らの男度が試されている時だ。
その後もヘロヘロ行軍とグッタリ休憩を何度も繰り返し、ボロボロになって小太郎尾根分岐まで生還。
なんとか生きて帰って来たが、その表情は10歳ぐらい老け込んでしまっている。
本当はここから、「ちょっと近くに来たからついでに北岳寄ってみたwww」的な軽いノリで北岳に行く予定だった。
そして「北岳に来ただけ〜」と、余裕ぶっこいた写真を撮って浮かれるつもりだった。
しかしもうこの時、誰も北岳に行こうなんて言う奴はもちろんいなかった。
皆、「今」を生きる事で精一杯だったのだ。
だがとりあえず何か飯を食って休憩しないと、とても広河原までは体力が持たない。
ってことで、結局一番近い小屋がある北岳方面に向けて3人はまたしても登りの移動開始。
この限界を超えてからの30分の延長戦が、また地味にしんどかった。
それでも歯を食いしばって肩の小屋に近づくと、小木K発見。
数時間前に元気にお別れしたばかりなのに、すっかり変わり果てた塾生達の姿を見て彼も驚いている。
そしてこっちはこっちで、小木Kと一緒にいるはずの矢作Cが「現在失踪中」との事で軽い遭難騒ぎに。
しかし塾生達にはもう矢作C捜索の意欲は残っておらず、「どうせどっかのベンチでたそがれてるだけだろ」と言って小屋に吸い込まれて行く。(※後に矢作Cは無事に捕獲されました)
そして飢餓に苦しむ村人が神にすがるように、受付で「う…うどんと….コーラを….ください…」と蚊の鳴くような声で注文。
で、うどんが出て来た時に松尾によって激撮されたのが、本年度マゾリッツァー賞ノミネート作品となるこちら。
作品名、「廃人田沢うどん」である。
もはや老人ホームの食事風景にしか見えない。
ここが3,000mの世界だと信じてもらえないような、老衰の激しい廃人のいる光景。
マゾコレ珍百景に投稿すれば、MV珍間違いなしの痛々しい風景である。
そしてこの場で15分くらい本寝をかまし、わずかながらに生をつなぎ止める塾生達。
もはや夕方の16時だと言うのに、我々にはまだエキゾチックな下山が残っているのである。
そしてこのタイムアタック下山を前に、あの眠っていた男が再び目を覚ます。
追い込み請負人「歩荷鬼六」監督である。
完全に表情がVシネマの悪徳金融会社社長になっているではないか。
どうやらこの遅延を体で払わされることは間違いなさそうだ。
まだ廃人から立ち直ってない田沢と、ここまで不眠で頑張り続けた虎丸の背後から猛然と迫り来る「㈱鬼黒金融」。
その追い込み利息は、コースタイム「10分」を「1分」で払えという十一(といち)金利。
急がないと「泡の世界」に送り込まれてしまうぞ。
と思っていたら、小太郎までもが㈱鬼黒金融を援護。
我々の下山方向に向かって、己の体(尾根)から大モクモクを発生させている。
そしてまだこれから利息を払おうってのに、早くも「泡の世界」に包まれて行く田沢と虎丸。
そして周りはあっという間にバブリーでホワイティーな世界に包まれた。
そして我々は、その世界で調教されて美しい「泡姫」となった。
これぞ真のマゾの先にある男塾名物、「風呂痛献幻妾(ぶろっけんげんしょう)」。
こうして我々は華やかに着飾って、ここから猛烈な勢いで夜の下山世界へと落されて行ったのである。
虎丸も疲れのあまり薬物効果が出てしまったのか、焦点の合わない目で「空を飛びましょう」「氷壁を登りましょう」「ヨットで海を渡ってエーゲ海に行きましょう」などと言い出す幻覚状態に。
そして下山も後半になると、すっかりお店の雰囲気にも慣れて自然とチュウチュウ顔になる二人。
さすがは教育が行き届いた名店「ホモっていいとも!」の、いいとも中年隊の二人である。
しかし仕事に慣れて来た時ほど、手痛いミスは起こりがち。
すっかり辺りが暗くなって来た頃、突然後方の松尾黒子ちゃんが「ぐおおおッッ!」と悶絶している。
暗くて見えなかった草むらに隠れてた岩を、松尾はおもいっきりヒザでキック。
他人を追い込むだけでは物足らず、ついに自分自身の追い込み段階に入った松尾。
たちまち虎丸に続いての流血者。
のちに彼女から送られて来た写真には、見事なラッキー7の傷跡が。
これで松尾は「ヒザに7の傷がある男」となり、また一つ歩荷神拳伝承者へと近づいたようだ。
こうして次々と傷物にされて行く塾生達。
それでも時間は容赦なく過ぎて行く。
そしてついにはヘッデン行軍へ。
暗闇の中、沢の様にびちゃびちゃになってる登山道をドブネズミのように下って行く3人。
やがて18:30。
4時間の下山ルートを2時間半でマゾりきり、とうとう広河原へと生還。
あまりにも長く厳しい戦いだった。
流血者2名、嘔吐者1名を出しての根性ハイク。
これぞ男塾なのである。
日本男児の生き様は
色無し 恋無し おマゾ有り
男の道をひたすらに
歩みて明日を魁る
嗚呼男塾 男意気
己の道を魁よ
嗚呼男塾 男意気
己の道を
魁よ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌日。
広河原のテン場に、二つの変死体が転がっていた。
一体の死体は、袋詰めされて運ばれる途中だったのだろうか?
袋から頭だけはみ出た状態でタープの下に遺棄されていた。
虎丸龍次 享年39
やりきった男の、実に綺麗な死に顔である。
一方「虎丸根性ベンチ」には、白髪の老人の死体が転がっている。
田沢慎一郎 享年39
吐ききった男の、実に綺麗な死に顔である。
その二つの死体の側には、二人を殺した犯人と思われる金融会社社長の姿が。
彼は「俺はやってねえよ!」としらばっくれながら、何やらひどく悔しがっているようだ。
実は彼はこの2日目、田沢と虎丸を引きずり込んで早朝から大縦走を開始するつもりだった。
それはマニアックな「早川尾根」にある、マニアックな「高峰」と「アサヨ峰」という100高山を2つ制覇して、そのついでに「甲斐駒ケ岳」も落す「18時間鬼コース」という壮絶なプランだったのだ。
2日間で総移動距離30km以上、獲得累積標高は実に5,000mオーバーという大男塾だ。
しかし初日で早々と二人の仲間を死に追い込んでしまい、さすがの鬼六も「このまま強行したら、友達がいなくなっちゃう」と反省。
一応田沢と虎丸に「どうします?行きま…」と質問しかけたが、二人の死体から食い気味に「行かない」と被せられてあっけなく断念。
これにより、2日目はまさかの「テン場でのんびりおでんを食う」というウルトラライトな企画に変更。
2日目の変態行軍が無くなり、急に元気が出ちゃっておしゃべりが止まらない虎丸と田沢。
虎丸の「昔アロンアルファで剥がれた爪をくっつけようとして激痛に見舞われた」という、チャッピーなボーイズトークに花が咲く。
松尾はそれを聞きながら、貴重な山仲間に捨てられないように必死でおでんを温め続ける。
あまりにも初日のマゾ行為との落差がありすぎる2日目のマッタリ感。
まさに「男塾」からの「おかま塾」である。
こうして彼らは、散々テン場でのんびりしてから家路についた。
だったら最初から無理な行程にせず、2日かけて小太郎山を落せば吐く事もなかったろうに。
しかしそれを言うのは野暮というもの。
腐っても我らは男塾の塾生なのである。
だが残念ながら田沢と虎丸は、再び老いを理由に男塾に休塾届を提出。
暫くは各自体力強化と、胃腸の強化に努めることになった。
全国の我こそはという男達よ。
そして浮かれた現代のもやし男達よ。
今すぐ男塾の門を叩くが良い。
我らが一号生筆頭、松尾鯛雄。
彼は今日もアルプス山中で、携帯を手に君からの電話を今か今かと待っているぞ。
【募集要項】
・20代から40代の壮健な男児
・追い込まれても愚痴やゲロを吐かない者
・社会不適合者優遇
・若い女子大歓迎(歩荷サービス有り)
TEL.0269-964-0153
「オニロクのクルシーオイコミ」まで
お気軽にご連絡ください
小太郎男塾 〜完〜
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
はい、長々と最後までよく読んでくれました。
やってる方も大変だったけど、これ最後まで読むのも結構長くて大変だった事でしょう。
益々変態化が進む松尾と、老いに抗えない田沢・虎丸の差がハッキリ出た回でした。
そんな南アのソウルキング松尾と、不愉快な仲間達のおまとめ動画であります。
Let’s Get Up!!
小太郎男塾〜歩荷鬼六と不愉快な仲間達〜
記事が気に入ったら
股旅ベースを "いいね!"
Facebookで更新情報をお届け。
MATATABI BASE
SECRET: 0
PASS: 7d2c9a79227020583b2d51ae38288f00
あの時、すごいスピードで登っていくなぁと感心していたんですけど、もしかして飛ばしすぎ?
僕は間ノ岳と北岳縦走しようと思ったのですが、2日目の風が強くて北岳にきただけーになっちゃいましたよ。
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
どうもです!
あの時のスピードは、トレラン仕様だったからいつものペースだったんですけど、どうも体調が良くありませんでした。
バイオトイレの時点ですでに吐きかかってましたからね。
その頃会ってたらいつものマゾな光景をお見せ出来たかもしれません。
今年は特に寄る年波の大波が激しく、かなり衰えを感じた年だったんで、しばしトレーニングに励みます。
2日目の風は、僕と接触した時点である程度覚悟しておかないといけませんでしたね。
まあ逆に晴れてたら鬼六監督の2日目の大男塾に突入だったんで、僕は命拾いしましたよ。
またいずれ山でお会いする事もあるでしょう。
そん時はまたゆっくり落ち着いて話しましょう!
SECRET: 0
PASS: 7d2c9a79227020583b2d51ae38288f00
ぜひまたお会いしたいです!
どこに行かれるか、事前に分かってたらいいんですけどね。
ところで、goproの自撮り棒を納めるギアに興味がわきました。あれは手に入るものですか? 自作?
僕もたまに自撮りするので、あれはいいなと。
また、山道具の解説もお願いします!
見てますよ。クレームはするかもしれませんが。
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
自撮り棒用のギアは、以前から使ってたトレラン用のポール入れです。
本来はトレラン中にポールが不要になった際、ザックを下ろさずに胸元に納められるアイテムです。
http://www.amazon.co.jp/THE-NORTH-FACE-ノースフェイス-TRフォールディングポールホルスター/dp/B00IZ6LPMS
でも自撮り棒だけだとスカスカになるんで、中にプチプチを入れて無理矢理埋めてます。
あとはショックコードと留め具を上部につけて、それでGoProを留めて落ちないようにしています。
このホルダー自体は、上下にカラビナつけてザックに固定してます。
正直もうちょっとスマートに出来ると思ってるんですが、現状はこれで落ち着いてるんで暫くはこのスタイルでしょうか。
普通にバンドで留めてもいいけど、出し入れがスムーズじゃないと撮る気無くなりますからね。
とりあえずクレーム大歓迎なんで、失敗して現地で「ダメじゃん」ってうなだれる行為を共に楽しみましょう!
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
リンクが貼れてなかったです。
こっちで。
http://www.amazon.co.jp/dp/B00IYHCHWK
SECRET: 0
PASS: 7d2c9a79227020583b2d51ae38288f00
だいぶ、工夫されてますね。
参考になりました。ぼくもやってみようかと思います。