楽しそうに川を下る男達。
しかし、こう見えても彼らは今「絶望」の真っ最中。
突然の敵の奇襲攻撃に対し、ついに打つ手が無くなって撤退を余儀なくされた瞬間だ。
一体彼らの身に何が起こってしまったのか?
誰もがワクワクの止まらないGW後半戦の初日。
そんな中で迎えたチーム・マサカズの今シーズンのカヌー開幕戦。
去年、気田川で壮絶な筆おろしを決めた彼らの2シーズン目が始まった。
その時の気田川では目も当てられない惨劇が繰り広げられた挙げ句に、チェリーたちの大暴走によって次々と僕の私物を破壊してくれたチーム・マサカズ。(参考記事:気田川デストロイヤー)
それだけに彼らにとっても、今年は「去年とのレベルの違い」を証明する大切なシーズン。
今回彼らは「もうチェリーだったあの頃とは違う」とばかりに、大人の魅力全開で僕の期待に応えてくれた。
そして強烈な意味での「去年とのレベルの違い」を見せつけてくれたのだ。
それは過去最大級に救いようのない悲劇。
そんな「板取事変」の一部始終を、今回はしっかりと振り返って検証してみる必要がありそうだ。
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GW後半戦の休みが始まった。
チーム・マサカズが集まったのは岐阜の清流「板取川」の川原だ。
随分と早い時間の集合だったのには意味がある。
今回、僕には嫁によって「タイムリミット」が設定されていたからだ。
それはこの日、地元のショッピングモールで15時30分からウルトラマンとの撮影会があるらしく、りんたろくんが楽しみにしているから絶対にその撮影会にはりんたろくんを連れて行けという重大なるミッション。
その約束が守れるなら川に行ってよろしいという嫁のお言葉により、何とか今回の遊びを許されていたのだ。
撮影会に間に合わせる為には、12時30分には帰路につかねばいけない。
万が一この時間を守れなければ、僕の今後の遊び計画に重大な影を落とす事になってしまう。
そればかりか、遊び以前に嫁によって命を奪われる可能性だってある。
なので今回はチームのみんなには無理を言って早出していただき、板取川もショートコースの設定で万全を期した。
よっぽどの事がない限り、間違いなく撮影会には間に合うはずだ。
よっぽどの事がない限り…。
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今回も陽気に出発準備を整えて行くメンバーたち。
ヒモで股間を強調する変態が現れたり、
国土交通省の現場監督が迷い込んだりして来る。
彼は出発前の記念撮影の為だけに、なぜか毎回現場ヘルメットを持って来る事が義務づけられている。
この頃はまだみんな和気あいあいと準備を整えて行く。
皆からも自然と笑顔がこぼれる。
何せこの日は、このチームには珍しく「大快晴のカヌー日和」。
もう楽しい事しか起きようのない抜群のツーリング日和。
今回ばかりはノントラブルで、ブログネタもなくて困った事になりそうだ。
そしてはやる気持ちを抑えながら準備を済ませ、出発前の記念撮影。
今回はゲリM、ビビるS、アゴ割れM、矢作C、僕の5名。
みんなとても良い顔をしているじゃないか。
こんなに楽しかったのに。
このわずか数分後。
彼らの顔から笑顔は消える。
そんな事も知らずに、のんきに出発する男達。
どこまでも優しい大快晴が微笑む中、どこまでも透明な板取川が迎える。
かつてないシチュエーションに、早くも浮かれてしまう男達。
今思えばこの時のビビるSの「バンザイポーズ」が、この先の出来事を予言していたのか。
彼はこの数時間後に再び「バンザイポーズ」をする事になるが、もちろんこの時はまだ何も知らない。
そして笑顔のスタートからわずか「2分」。
カップラーメンすら作れない衝撃的な速さで悲劇が訪れる。
僕の背後では、スタートから電光石火の速さで信じられない光景が展開されていた。
そこにあったのは、アゴ割れMと矢作Cコンビがテトラポッドに突入していく姿。
あれほど「テトラポッドは危ないから早めに回避してね」と注意したのに、アゴ割れMと矢作Cコンビは迷いなく一直線にテトラに突っ込んで行ったのだ。
案の定カヌーは強烈な勢いでテトラに張り付き、矢作Cは数十万円の一眼カメラとともに必死の脱出。
出会い頭にも程がある早漏クラッシュ。
去年の童貞喪失から全く進化してないばかりか、酷くなってるじゃないか。
彼らは僕に「もう去年のようなチェリーボーイじゃないぜ」と見せつけたつもりかもしれないが、こんなのは僕が求めた成長の方向性ではない。
去年カヌー童貞を卒業した彼らは、変態度のレベルを増した状態で再び僕の前に現れたのだ。
大急ぎで盛り漕ぎして救出に向かう僕。
楽しかったツーリングが一転、早くも悲壮感に満ち満ちた事故現場へ。
猛烈な水流がことごとくカヌー内に侵入し、浮力体も入れてないカヌーはビクともしない。
そこで、ビビるSも参戦させてなんとか力でカヌーを引きはがそうと奮戦。
しかしみんなテトラに乗っての作業で踏ん張れず、どんなに頑張っても全く動く気配もない。
このカヌーは「少しでも他の人にもカヌーを楽しんで欲しい」という願いで、僕が去年アゴ割れMに贈呈したもの。
決して「仲良くテトラポッドで力比べを楽しんで欲しい」と思って託したわけではない。
そんな中、わらわらとやってきた野次馬。
今回は参加せず、見学だけに来たチーム・マサカズの「小木K」親子だ。
ここに来て、前回の気田川カヌーで僕のパドルを壮絶に破壊したミスタークラッシャーが登場したのだ。
人が困っている姿を見るのが三度のメシより好きな小木Kが、実に嬉しそうにニヤニヤしながらこの惨事を見物している。
悔しいが、恐らく彼にとってはカヌーするより遥かに楽しい時間だったはずだ。
そんな好奇の眼差しに晒されながらも、相変わらず現場は必死の作業。
最終手段として、僕のダッキーを突っ込んで浮力体代わりにしてみるという不毛な作戦。
結果、ただの奇抜なオブジェが出来上がっただけで全くカヌーは動かない。
そして「もう人力では不可能だ」という結論に至り、絶望にまみれて川原に敗走する姿がオープニングの写真。
さらには、その川原に上陸する時に激しく体勢を崩す男が一人。
そして脇腹をツって苦しむという地味な追い打ちを楽しんでいる。
彼は何も悪い事をしていないのに、元自分のカヌーが大惨事に巻込まれた挙げ句に脇腹までツって実に憐れな男だ。
一方で脇腹男からカヌーを託された男アゴ割れM。
出発当初は現場ヘルメットで元気だったのに、すっかり落ち込んで一気に老け込んでしまっている。
呆然とテトラに張り付いたカヌーを見つめるアゴ割れM。
失敗を悔い込んでいる状態でも、彼のオシリだけは相変わらず食い込んでいる。
このチームは大惨事になる程に、必ず誰かが余計なシャッターを切っている。
どんな時でも油断は禁物だ。
万策尽きて、僕は周辺のカヌーショップに電話してカヌー救出方法を聞いてみる。
しかしショップとしてはレスキューできるシステムはあるが、一般向けには出動できないとのこと。
あとは水が引くのを待つしか方法はないとの事だった。
さらには「カヌーだけ川にあって人がいないとなると、人が流されたと思われて通報される可能性があるから警察には連絡しておくように」という事態に。
何やら大変な事になって来てしまった。
やがて僕の通報により、二名の警察官が登場。
たちまち現場は風雲急を告げる、まさかな展開に。
いくらまさかを楽しむアウトドアマゾ集団チーム・マサカズとは言え、ついに警察の厄介になってしまうなんて。
ひとまずこの場で状況を説明し、今後どうしたら良いかの指示を仰ぐ。
この状況、事情を知らない人から見たらこんな感じで写るかもしれない。
あくまでも誤解が無いように言うと、要は水が引くまでカヌーをこのままにするけど通報があっても驚かないでねって事を伝えているだけです。
怒られているわけではないので、家族のみなさんはご心配なきよう。
そんな職質の最中、大胆にも僕の大事なソーセージを盗み食いする悪党がいる。
僕が「ここぞ」という時に食べようと楽しみにしていた明宝ハムの高級ソーセージを、小木Kが勝手に食っているではないか。
僕はその場で警察官に訴えようと思ったが、彼は「だって落ちてたもん」とシラを切る。
いつか彼の大事な車を「だって落ちてたもん」と言って、ガリバーに持って行こうと心に決めた瞬間だ。
そうこうしている間も、水圧でメリメリとカヌーに埋まって行くテトラポッド。
思えば10年以上僕とともに全国の川を旅して来た思ひでの初代相棒。
言ってみれば僕にとっての寺脇康文。
何とかして助け出したい。
警察としても仲間の寺脇くんを助け出したいという事で、わざわざ車の整備工場に連絡を取ってくれた。
そして「4tのクレーン車なら、引っ張り出せるかもしれない」との情報を入手し、我々はそれにすがる事に。
そこからはひたすら警察官たちとともに、クレーン車の到着を待つ。
しかしGW初日だけあって、待てど暮らせどクレーン車はやって来ない。
この信じられない大快晴のカヌー日和に、ひたすら川原で待機する男達。
思えば我々がスタートしたのはこの橋のすぐ向こう。
距離にしておよそ100m。
ボルトならたったの9秒で走れる距離だ。
嫁との交渉の末に、やっと苦労して手に入れたこの午前中の素敵なお時間。
これは新手の拷問なのか?
天によるこの新しい仕打ちに、今にも感謝して泣いてしまいそうだ。
そしてそうしている間にも刻々と時は刻まれて行く。
ここを12時30分には出て帰らないといけないのに…。
どれほど時が経っただろう。
ついにクレーン車到着。
実にこの時12時15分也。
ついに諦めて嫁に電話で事情を話す。
「あのね、ちょっとと言うか大分遅れそうなのね」と。
すると電話口からは嫁奥義「漆黒の無言」。
僕はガタガタ震えながら「いや、のっぴきならない状況でね。何だか色々あって警察が来てクレーンが来てこの場を離れられないのよ。遊んでるわけじゃないんですよ。」と必死で訴える。
しかし嫁は「知らんがね。はよ帰って来い」とピシャリ。
こうなった以上、とにかく今出来る最速でカヌーを救出して帰る必要がある。
こんなことで命を落としたくはない。
ダメなりに頑張ったという形を整えて、誠意を示す事が重要だ。
僕は快晴の楽しいカヌーツーリングをしに来たはずだったが、結局いつものようにスペクタルな展開の中に身を置いている。
何故いつもこうなってしまうんだ?
とりあえず僕とビビるSがクレーンのロープ固定係となり、クレーン車のあんちゃんとの共同作業。
クレーン車のあんちゃんも川からカヌーを引き上げる経験なんて初めてなだけに、現場は全員が手探り状態。
何とか試行錯誤の末、ビビるSの活躍で取付け成功。
スタートの記念撮影していた頃、数時間後にこんな状況になっているなんて誰が予想しただろうか?
もはや「本格的な事故現場」的なビジュアルで、警察官もいるもんだから地域の野次馬もワラワラと集まって来る始末。
そんな中で必死の見せ物作業をするピエロたち。
何とかカヌーがズルリと移動。
その瞬間、水流を堰き止めていたカヌーが外れた事により、流れが全て僕に襲いかかる。
結果僕はその場に滞留する事敵わず、空しく押し流されて川原へ漂着。
あとの運命は、全てビビるSとクレーンあんちゃんに委ねられた。
何だかビビるSがテトラに埋まってて、凄くシュールな絵だ。
そしてあとは上げるだけの状態かと思いきや、カヌーの先っちょが岩と岩の隙間に入り込んでしまうという奇跡的な追加アクシデント。
そこに隙間があった事も驚きだが、その隙間にピンポイントで突き刺さるあたりはさすがチーム・マサカズだ。
現場ではビビるSが必死の作業で反対側へロープを移動させる。
恐らくこれであのカヌーは無傷で救出される事は無くなるだろう。
10年来の長い付き合いで、今まで数々の困難を切り抜けて来た寺脇くんだったが、ついにお別れの時が来たようだ。
僕は全てを諦め、寺脇くんの名誉ある殉職に合掌。
するとこの祈りが、変な形で天に届いた。
僕は何かの呪文を偶然にも唱えてしまったのか?
過去、落雷やみぞれなど多くの気象を操って来た僕に新たなる力が。
ついに現場に「竜巻」が発生した。
皆さんは目の前で竜巻が発生する現場に出くわした事があるだろうか?
そして自分の大切な防風ジャケットが、天に舞って行く姿を呆然と眺めた事があるだろうか?
もう今更何が起きても驚かないさ。
ここは「板取川ゴールデンウィークフェスティバル」の会場。
警察もクレーン車も竜巻も入り乱れ、皆で仲良くワッショイワッショイだ。
そして祭りのコーフンが最高潮に達するメインイベント。
この地方に300年伝わる伝統行事「上げカヌー」で、五穀豊穣を神に祈る瞬間がやって来た。
今年の年男に選ばれたビビるSの渾身の上げカヌー。
観客からはヤンヤの歓声。
ついに長い長い戦いの末、見事に上げカヌーの神事をやってのけた年男ビビるS。
カヌースタート直後以来の「バンザイポーズ」が飛び出した。
祭り囃子が鳴り止まない。
会場は興奮のるつぼと化し、縁起男にあやかろうと我も我もと押し寄せる観客たち。
上げられたカヌーに触れると、その1年は無病息災と言われている。
さらに縁起がいい事に、なんとあれ程絶望視された寺脇くんは無傷だった。
恐るべき頑丈さ。
次回からは「上げカヌー」ではなく、ちゃんと川を下らせてやりたいものだ。
そして無事に神事を終えた我々は、クレーン神社へ15,000円を奉納。
これぞチーム・マサカズ流の進水式。
これで今シーズンは無事故で楽しめそうだ。(今回のは事故ではない。神事である。)
そう思えば安いものだ。
そしてこの時点で13時15分。
ウルトラマン撮影会の15時30分まで、頑張ればひょっとして間に合うかもしれないという光明が。
天はまだ僕に「生きろ」とおっしゃってくれているのか?
嫁に殺されるにはまだ惜しい男だと言ってくれているのか?
事後処理を済ませ、僕だけ急いでその場から撤収。
一体何しに来たのだろうか?
一応GPSで取ったログを載せておこう。
この「板取川ウルトラショートコース」を、是非今後の参考にしていただきたい。
より大きな地図で 板取川事件 を表示
・カヌータイム:2分
・待ちぼうけタイム:2時間
・上げカヌー神事:1時間
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壮絶な板取川GWフェスの会場からの脱出。
そこから猛スピードにて帰還して行く男。
嫁と電話で協議の末、嫁とりんたろくんはお義母さんの車で直接現地で待つということになり現地集合へ。
そしてフラフラになりながらショッピングモールにたどり着いたのは「15時20分」。
汗だくになりながら、大急ぎでショッピングモール内を駆け抜ける異質な男。
そして見事にりんたろくんと合流した時には、ちょうどガリガリのウルトラマンが登場して来たタイミング。
ドンピシャのタイミングで命をつなぎ止めたぞ。
そしてりんたろ先生にはバルタン化していただき、
ウルトラマンとの会合の席へ。
後ろもつかえているので、サクサクと写真を撮って、
終了。
このたった数分間のために、お父さんは随分と長く戦って来た気がする。
今のお父さんなら、このガリガリのウルトラマンなんて簡単に倒せるぞ。
しかし川帰りの汗だくお父さんは、ウルトラの母に「クッサ!恥ずかしいで近寄らんといて!」とサドリウム光線を浴びせられて爆死。
頑張ったんだけど、やはりこうなる運命だったのか。
こうして長い長い「板取川カヌーツーリングもどき」が終わった。
壮絶なるGW後半戦のスタートだ。
そして男はそんな絶望的な疲れを引きずったまま、翌朝3時に旅立って行った。
のんびり回復している場合ではない。
向かった先は京都。
もちろん観光なんてしない。
目的は「M」、その一点。
哀しきウルトラマゾは、M78星雲へと消えて行った。
祭りはまだまだ始まったばかりなのだ。
板取事変〜警察のちクレーン時々竜巻〜
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MATATABI BASE
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テトラにハマって船だけで良かったですね。
下手すりゃ命の危険もあります。
気を付けましょう。
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前々から「一番に気をつけるべきはテトラです」と教えてたんですが、見事に彼らは突っ込んで行きました。
ほんとにヤバい所はポーテージ必須でやるんですが、何ぶん驚く程簡単な場所だったんで驚愕でした。
今後はもうちょっとちゃんと教えて行こうと思いますが、気田川の時もそうだったけど予測不能の動きをするんでハラハラです。
とにかくけが人が出なくてほんと良かったです。
これを教訓に彼らも成長してくれるでしょうし、僕自身良い経験になりましたよ。
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はじめまして、大爆笑です!楽しい文面と写真 しかし気をつけましょうね!
ここ東京では、奥多摩に出没のゴルゴです。カヌー安全に楽しみましょう! バンテッド検索でたどり着きました。
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ゴルゴさいとう(いい名前ですね)さん、訪問ありがとうございます。
この回は各地のカヌー野郎たちに波紋が広がった問題作でした。
ほんと、反省というか情けないというか、悲しい男たちです。
次回車を買い替える時はクレーン車と決めてます。
ちなみにNRSバンディットは最近「アウトロー」と名を変えて(相変わらずすごいネーミングです)、仕様も変わってしまったようです。
内底がボード型になったみたいで、居住性がアップした代わりにちょっと重くなってしまったようですね。
今後ゴルゴさんもこの人たちのように惨めで危ない目に遭わないように気をつけてくださいね!