5月末。
6月の鮎釣り解禁前のラスト川下りチャンス。
この時期になると、毎年決まって現れるダークヒーローがいる。
その男は人知れずこう呼ばれている。
「必殺仕事人」と。
彼は有休休暇を取った挙げ句、仕事に行くふりして川に行ってしまう闇の使者。
「必殺」とは、嫁にバレたら「必ず殺される」という意味である。
彼は簡単には週末に家を脱出出来ない日陰者。
そもそも有給休暇なんだから好きにしたら良い話。
だが有給取ったと言おうものなら、「じゃあ子供達ヨロシク」となり家を出て行けない。
もちろん普通の週末も「子供達ヨロシク」となり家を出て行けない。
かろうじて外出許可を勝ち取っても、結局「子供達の面倒をご両親にお願いしちゃってる」という罪悪感から心から川を楽しめない。
しかしこのまま指をくわえていたら、カヌー野郎の祭典である5月が終わってしまう。
川に行きたい、行けない、でも行きたい….
そんな5月末。
マゾ養子は「必殺仕事人」へと変身してしまうのである。
これはそんな彼が、平日に脱出して心行くまで川を満喫してしまった物語。
決して良い大人はマネしないように。
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平日の朝。
今日も天気がよくて絶好の仕事日和だ。
僕はいつものように仕事に行くための身支度を進める。
そして嫁が風呂に入ったのを確認すると(嫁は朝風呂派)、僕はすかさず2階へ移動。
仕事道具(川下り道具)を車に運ばねばならないのだ。
しかし我が家は完全同居なので、玄関に行くにはご両親のいるリビングを通って行かねばならない。
そこでダークヒーローは一計を案じた。
荷物にロープを通し、二階のベランダから庭へ仕事道具をそっとドロップオフ。
一体朝から何をやっているのか?
完全にやり口がスパイか泥棒のようだが、一応これでも私はこの家の住人です。
こんな光景見られたら言い訳も出来ないから実に緊迫の瞬間である。
そして無事にドロップオフが済むと、何食わぬ顔でリビングへ。
いつものように子供達に「じゃあお仕事行って来まーす」とハイタッチ。
子供達も「いってらっしゃい」と、輝いた汚れのない目で働く父を送り出してくれる。
毎度この瞬間が一番心がチクチクするが、どうか分かって欲しい。
ヒーローとは正体がばれてしまったらいけないものなのです。
で、そのまま玄関を出ると、すかさず庭の荷物を車に積み込んでいざ出勤。
もちろん向かうのは会社がある方向ではなく、愛人の「板取さん」が待つ浮気現場である。
何かと言えば僕はこの愛人の元に足しげく通っているが、今回の逢瀬現場はいつもの場所じゃなくて「上流域」。
僕としても下るのは始めての区間で、以前からずっと下ってみたかった場所。
家族に内緒で浮気するには持って来いの山奥なのである。
現場付近に到着すると、早速ダークヒーローの表情は「仕事人」のプロの顔に。
さあ、初の上流板取さんはどんな顔をしているのか?
試しに橋の上から覗き見してみる。
前屈みが止まらない。
我が前屈みが止まらないのだ。
一体彼女はどこまで露出すれば気が済むのか?
さすがは上流階級のお嬢さん。
清楚と淫靡のバランスが絶妙である。
晴れ予報を十分に確認した上で、前日の夕方に有給願いを叩き付けただけあって空は快晴。
そして眼下には板取お嬢さんのあられもない姿。
はやる気持ちが抑えられない。
僕は前屈みのまま車を走らせ、さらに上流へ移動。
やがて以前ドゥイッチョ師匠から聞いていたエロポイントに到着。
本来はここよりちょっと下の板取温泉の川原からスタートが一般的(多分)。
しかし師匠曰く「できる男は銀座か六本木のようなところからスタートしない」って事で、このようにディープでマニアックな場所からのスタートをチョイスしたのだ。
僕は急いで仕事道具を背負い、股間のシャングリラを抑えながら内股でそこに突入。
気分は半年のマグロ漁から帰還してそのまま色町に繰り出す若きますらお。
しかしここで焦りすぎると死を見る事になる。
突然このような「電流鉄線」の罠が仕掛けられているからである。
危うく大仁田厚になるところだった。
普通に仕事に出て行ったお父さんが、こんな山奥で感電死体で発見されたらワイドショーは大賑わいだ。
やはり上流階級のお嬢様との逢瀬は簡単には行かない。
しかしその電流鉄線を越えて、山道を降りて行くとこんなステキな淵が登場。
どこまでも美しく、どこまでも気持ち良すぎる空間。
これだから川の逢瀬はやめられない。
しかも「他の人が仕事してる」っていう状況が、このダークヒーローに愛と勇気を与えてしまう。
彼は最高のクズなのである。
で、早速板取さんとくんずほぐれずで抱き合う。
この透き通るような肌。
というか透き通ってる。
そんなファーストコンタクトで、まずは火照った欲望を沈静化させる。
その後はパックラフトを膨らましてベッドメイキング。
そして「ジュテーム」と優しく囁いた後、ゆっくりとベッドイン。
最高の川タイムの始まりである。
青い空、鳥のさえずり、川のせせらぎ、木漏れ日、頬をくすぐるそよ風。
ここには人生の快楽が詰まりまくっている。
もはや川下りなんてどうでも良い。
この時間が永遠に続けば良い。
もはや時間の概念すら鬱陶しい。
これが普段は従順な養子のふりをしているヒーローの真の姿。
やはり僕はこの「仕事」が大好きだ。
そしてその場でしばしお昼寝(実際はまだ朝寝)。
目が覚めれば、テンカラで板取さんにちょいちょいいたずら。
もちろん本日も絶好調で釣れない。
もはや本人も釣れると思ってやってない。
しかし竿振ってるだけで、男ってやつは楽しい生き物なのである。
さあ、いい加減川を下ろうと思って元の場所へ。
すると風で吹き飛んだのか、パックラフトが随分下流の場所で岸に打ち上げられていた。
危うく「泳ぎ人間VS無人パックラフト」の新型パックチェイスに巻き込まれるところだった。
油断は禁物である。
さあ、ここからはいよいよ板取さんとの川下りデート。
スタートすると、さすが上流部だけに水量は少なく岩が多い。
そして瀬も多くて中々忙しい。
それでもパックラフトで行けるちょうど良いラインの難易度ばかりで飽きる事がない。
山間部のお嬢様だけに雰囲気は抜群に良いし、
時折見せるやさしさ淵も底抜けに透明だ。
そして景色が開けると、牧歌的な雰囲気を醸し出して安らぎを与えてくれ、
小洒落た小滝などを着飾って清涼感もアピール。
所々木漏れ日の気持ちいい川原でメロウな会話を楽しみ、
のんびりした後には、気持ち良いロングストレートな瀬を共に楽しむ。
やがて滑るように手をつないで優雅に流されて行くと、
彼女の情はより深く、美しいものとなる。
だが情が深まれば喧嘩もするもの。
怒った彼女は中々に猛々しく僕を責めて来る。
実は全体の半分くらいがこんな調子だ。
時には渇水&岩だらけで、話し合いにならない事もある。
こんな時は、長年の川人生における「流芯を見極める力」が試される。
パックラフトが切り抜けられるわずかな水深を狙って、巧みにコントロール。
どんなにプンプンに怒っていても、いつだって彼女は「わずかな隙」をあえて作ってくれている。
僕はそこをすかさずダンディーにすり抜けて行く。
酸いも甘いも、恋愛を知り尽くした大人の二人だからこそ出来る駆け引きだ。
そんな彼女の「無言の女心」にしっかり応えてあげると、彼女はここまで心をスケスケに開いてくれる。
僕も川底に影が映ってしまうほど、この浮気にすっかり浮かれてしまう。
そしていけない事とは知りつつも、どうしても何度も何度も上陸しては舐め回すようにその美しい姿を味わってしまうのだ。
もはや今日が平日なんて事はすっかり頭から消え去っていく。
ここにはご両親への気遣いも、嫁の罵りも、子供たちの奇声も、貯金減りの焦りも、白髪増えの悲しみも、ドラゴンズの不甲斐なさも、将来への不安も何もない。
まさにノンストレスなユートピア。
こうして浮気ダークヒーローは、狂ったように板取さんの愛に溺れまくるのである。
夢のようなひととき。
今頃我が子供達は「お父さんは今お仕事頑張ってるんだ」と思ってる時間帯だろうか。
父の日も近いから、ひょっとしたら幼稚園でお父さんの絵を描いて「おしごとがんばってね」なーんて書いてくれてるかもしれない。
子供達よ。
今お父さんは全力で働いているよ。
どうか全力で軽蔑しておくれ。
そしてその後も愛人板取さんとの秘密の逢瀬は続いて行く。
やがて僕はすっかり彼女に骨抜きにされてしまった。
一瞬浮かれすぎて背骨が抜け落ちたかと思ってしまった。
鹿かなんかの骨だと思うけど、もしこの浮気がバレてしまったら我が末路は恐らくこんな感じなんだろう。
やがて腹も減ってきた所で、こんなステキ極まりない川原が登場。
ここで彼女とのランチタイムである。
早速板取さんにノンアルビールを抱かせてキリリと冷やし、
その隙にハーツオンファイヤー。
そしてすかさず一流シェフの焚き火メシスタート。
こんなに優雅な時間、出来合いのもので済ますなんて野暮な事は出来ない。
時間はかかるが、この待ち時間すら珠玉のエンターテイメントなのである。
米が炊けるのを待ちながら、僕はじっと板取さんの愚痴に頷き続ける。
ここでへたにアドバイスなんてしてはダメだ。
出来る男は、ただただ黙って聞き上手。
そうこうしているといい匂いが。
パカッとふたを開ければ、三ツ星レストラン提供の「ホカホカの白米にやきとり缶を添えたイタドリ風ランチセット」の出来上がりである。
この場所が6畳一間の空間なら日雇い労働者感がハンパ無いが、このステキな川原で食えば超高級料理に。
当たり前だが猛烈にウマい。
本来ならここにアマゴが2匹ほど主賓で迎えられる予定だったんだが、そこはシンプルイズベスト。
細かい事は気にしてはいけないのである。
そして腹が満たされれば、再びベッドインして昼寝。
これ以上の幸せってあるのだろうか?
久々に今回はソロで来たが、やっぱこういう川は単独行が最高だ。
自由万歳。
なんで他の人もやらないんだろう?
人ごみの中で高いお金払って行列に並んで渋滞にはまって文句言って疲れきって…。
どう考えてもこっちのが楽しいと思うんだが。
なんて感じでウトウト眠り、気づけばすっかり夕方に。
身も心もスッキリし、再びエイヤッと川に突っ込んで流れて行く。
別れを惜しむように、板取さんとの最後の熱い抱擁の数々。
しかしもうすっかり日が傾き始めている。
そうなって来ると、このダークヒーローはその姿を維持出来ない。
朝日を浴びたら消滅してしまうドラキュラのように、彼は夕陽を浴びると元の従順な養子へと戻ってしまうのである。
悲しいけど、地球が回ってる限りは楽しい時間は過ぎて行く。
やがてゴールの川原に到着。
でも久々に充実しまくった川旅だった。
独身の頃はこんなスタイルの川下りばかりしてたけど、最近は何だかやたら生き急いだ川下りばかりだったからね。
ウソついて来た罪悪感は凄まじいが、どうかそこんとこ許して欲しーの。
今はそういう時期なの。
だって男の子だもの。
そしてサクッと荷物を背負って移動。
ゴール付近にバス停はあったけど、気分良いから行ける所まで川眺めながらプラプラ歩きます。
やがて時間が迫ってきたからバス停でのんびりバス待ち。
板取川上流部は川沿いに無料のコミュニティバスが走ってるから、実にパックラフトの旅人向き。
スタートもゴールも思いのままである。(板取ふれあいバス:バス停マップ)
そしてこの間も、地元のあばちゃんと「あんた川下ってきたんかい。すごいねえ」などと話しながらのゆっくり時間。
実に優雅な一日だった。
しかしそんな彼がダークヒーローでいられるのもあとわずか。
時間が迫るにつれ、色々と帳尻合わせ工作が忙しくなる。
車に着くと、すぐに普段着に着替えてひとまず公衆トイレへ。
そこでスーパーマンのように、帽子で乱れた髪をしっかりセットし直してマゾ養子へ変身。
そしてすかさずトイレの洗面でウェアをサッと洗い、車内に吊るして洗濯作業。(家で洗濯したらばれちゃうからね)
後は窓を全開にして乾燥させながら帰路につくのである。
やがて家の手前のコンビニで洗濯物を取り込み全てをザックへ。(ちなみにそのザックは翌日の早朝、皆が寝静まっている時に部屋に回収)
そして身だしなみを整え、静かに、そして深く息を吐き出す。
その瞬間、彼は必殺仕事人から普通のお父さんへ。
やがて何事もなかったように、いつもの時間に帰宅。
子供達が笑顔全開で「おとーさーん!おかえりー!」と抱きついて来る。
お父さんは「はっはっは。良い子にしてたかな?」と優しく語りかける。
しかしこの中で一番良い子にしていなかったのはこの男でなのである。
こうして彼はまたいつもの日常に帰って行った。
しかし彼はきっとまた来年の5月末に現れる事だろう。
この世に悪がある限り。
この男に悪い心がある限り。
ヒーローは戦い続けて行くのである。
必殺仕事人2015 〜完〜
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はい、今回も彼はやっちまいましたね。
毎度の事ですが、批判やお叱りは打たれ弱いので受け付けておりません。
ご了承くださいませ。
ではおまとめ動画をどうぞ。
必殺仕事人2015〜浮気男の浮かれ事情〜
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MATATABI BASE
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はじめまして、毎回楽しく拝見しています。私もダークヒーロー、年に1、2回変身することがありますがブログにアップする勇気はありません(笑)そこにしびれます、あこがれます。奥様はここをご覧にならないのですか?
これからもマゾ紀行楽しみにしています。
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エルさん、初めまして!
一瞬デスノートのLからのメッセージかと思い、ダークヒーローとしては戦慄が走りました。
しかもジョジョ的な賛辞までいただき恐縮の至りィィッッッ!!
ちなみに嫁は僕に1mmも興味がないのでこのブログは読みません。
徹底的な活字読みたくない病のテレビ大好き人間なので、こんな長文絶対読みません。
そもそもブログやってるのは知ってるんですが、基本的に普通の川下りや登山のブログという事になってるからさらに興味がないです。
まさか自分がブログ上でウイグル獄長になってるなんて微塵も思ってないでしょう。
まあ、バレたら絶対に撲殺されますけどね。
このブログの更新が急に途絶えたら、僕はもう彼岸に旅立ったと思ってもらって良いでしょう。
とりあえず生きてる間はよろしくお願いします!
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まだ子供も小さいうちにいっぱい遊んでください。子供が大きくなったら一緒に遊んでくれるようになるかどうかは、お父さん次第ですよ(*´∀`*)我が家は夫婦揃ってアウトドアだし、旦那さんは婿養子じゃないし、小遣い制度でもないけど(それぞれお金を支払って残りは自分のものにする)、どちらかというと旦那は一人でお出かけは好きじゃないので、ブログ主さんみたいに一人でお出かけしてくれたら私もソロで登山とか行けるのにな~と思ったりします。でも、隣の芝生は青く見えるってやつでしょうね
[絵文字:v-22]
また遊びに来ます♪
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Bbさん、どうもです!
ほんとはこんな嘘ついて遊びたくはないんですが、これも今だけと噛み締めてます。
同時に子供達が一番かわいい時期でもあるんで、そっちはそっちで噛み締めたいし。
なかなか今は微妙な時期というか、一番輝いている時期というかなんとも言えない感じです。
いっぱい子供と遊びすぎて(山と川に連れ出しすぎて)、若干アウトドアが嫌いになって行ってるような…。
夫婦揃ってアウトドアって最高ですね。
両親がアウトドアなら子供も疑問を持たずに来てくれそうですが、うちは僕以外全員インドアなので辛い所。
僕もソロで出かけるのが苦手なら多少良かったかもですが、なんせ孤独と北が大好きなもんで…。
僕から見たらBbさんの庭の芝生は青すぎて眩しいっす。
どっちにしても「明日寿命がつきる」くらいの気持ちでアウトドアと子供達と遊んで行きます!
今後もよろしくお願いします!