槍ヶ岳/長野

槍ヶ岳2〜マゾ場のくそ力〜

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雪渓に横たわる一人の男の屍がある。


彼は何故このような場所で息絶えたのか?

そして何故彼はこの場所で野グソを食べる事になってしまったのか?

振り返ってみよう。


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灼熱の塔の激戦をくぐり抜け、ついにラスボス槍ヶ岳の居城に侵入した遊者ご一行。

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完全に日陰は無くなり、ここからはノンストップ灼熱ダンシング。

そして登りの角度もハードになっていき、誰一人会話する元気もない程グハグハになっていく。

ミスター高山病のバターNに至っては、軽く嗚咽を漏らしながらのハードプレイが続く。


歩みは遅くなるばかりだが、後方からミシュランマンがどんどん忍び寄って我々をせかす。

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早く登らないと絶景が拝めないばかりか、テント場すら確保できない。

実にスリリングな展開だ。


しかしここからはとても美しく、いかにも3000mの山の雰囲気が展開された。

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写真だけ見るととても素敵な風景だが、登ってる本人達にはもはやそんなものを楽しむ余裕は無くなっていた。

人としての感性は失われ、ただただヨロヨロと登り続けるゾンビ軍団。

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バターNに至っては、もはや人相すら変わってしまった。

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いつも思うが、必ず高山病に冒されるのに毎回参加するこの男のマゾは天下一品だ。


負けてられない。

マゾ使いの僕も進んでその身を山に捧げた。


ぶしゅう、ぶしゅうと言いながら先行してガンガン攻めていく僕。

皆をある程度振り切った所で得意の己撮り。

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そして再び下ってカメラを回収する「小刻みピストン登山」を開始した。

この地味なカメラとの往復作業を取り入れる事で、通常より倍の体力を使ってお手軽にマゾれるのだ。

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表情は確認できないが、実際は肩で息をして苦悶の表情を浮かべている。

こうでもしないと、僕がカメラマンだから、最悪自分が写真の世界に存在しなくなってしまうのだ。

皆の写真も撮影しつつ、しっかり己もカメラに刻み付ける。

このプレイ、是非皆さんもやってみてはいかがだろうか?



それにしてもどこまでも雄大な景色。

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正直雄大すぎて、全く進んでいる気がしない。

上を見ても下を見ても、30分前の景色と代わり映えがしないという精神攻撃。

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遥か後方にはアリのようなバターNとB女房。

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遠目で見ても、彼らの限界が近い事が伺えた。

上を見ても近いようで遠い稜線がそびえて我々に本日何度目かのため息をつかせる。

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長いわ!

ここまでの行程が長過ぎる。

もう出発してからかれこれもう9時間が経過している。

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この9時間重いザックを背負って灼熱の太陽に照らされ続け、風もなくて滝のような汗を流し続けている。

見た目の華やかさとは裏腹に、いつまでも姿を見せないラスボス槍ヶ岳に苛立ち始める男達。

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僕に至っては一日目にして早くも靴擦れが始まって、本気でしんどい状態だ。

暑い、とにかく暑い。


そんな時、登山道からそれた斜度の激しい場所に妖艶に僕らを誘って来る「白雪姫」が見えた。

ついに幻を見てしまったんだろうか?

僕とB旦那は誘われるがままにフラフラと白雪姫に吸い寄せられた。

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危険を覚悟で飛び込んだ白雪姫の懐。

万が一足を取られたら、そのまま滑って姫との恋に滑落してしまう。

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それでも抵抗するなんて無理だった。

僕らのほてった体を優しく包み込む白雪姫。

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白く冷たい柔肌が、熱に侵された男共を瞬間冷却していく。

すっかりこの快楽から抜け出せなくなってしまった。(これが冒頭の屍写真に繋がります)


急がないとテント場が埋まってしまう。

でも彼女のエロティックな冷たさが我々の出発を許さない。


さらに遅れていたB女房とバターNも魅惑の姫の元に吸い寄せられて来た。

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そして見事にパーティーは全滅した。

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しかしすでにゾンビ化していたミスター高山病バターNは奇跡の復活を遂げた。

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まさしくこの白雪姫は天使だったのだ。

調子に乗った我々は、さらなる体力の回復を画策。


猛暑により完全に液体化して天寿を全うしたかと思われていたチョコレートを姫に投入。

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そして食らう。

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たちまちこめかみに激痛が疾走し、甘さと冷たさで僕はレベルアップした。

我も我もと食らいつく遊者。

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しかしどう見ても、絵的に「食糞族」にしか見えない。

このブログも倫理問題に触発して閉鎖になる恐があるが、これは紛れもなくチョコレートだ。


もう手に取るのも歯がゆくて、直接大地にワイルドに食らいつく男。

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大問題の衝撃映像。

何度も言うがこれはチョコレートだ。


これですっかり元気を取り戻し、みるみる力が湧いて来た。

これぞマゾ場のくそ力。


しかし、この雪渓遊びですっかり貴重な時間を失ってしまった。

こうしている間にもテント場が埋まってしまう。

急がねば。

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高山病のバターNはともかく、今回直前で急遽参加が決まったB女房も疲労度が凄まじい。

彼女は今回が本格登山2回目にして槍ヶ岳なので無理もない。


本来は参加する予定ではなかったB女房。

しかし予備日に「万水川でカヌーする」なんていうプランを聞きつけた彼女は、その持ち前の好奇心を抑えきることが出来ずに参加を決めたそうだ。

なので彼女にとっての目的は槍ヶ岳登山ではなく、あくまでも万水川カヌー。

言ってみれば槍ヶ岳は「ついで」で登っているという、恐ろしいまでの北アルプスに対する侮辱っぷり。

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彼女を突き動かしているのは下山後のカヌーのみ。

みんなの憧れ槍ヶ岳も、B女房にとっては邪魔な障害物に過ぎない。

僕もよく己の女房に邪魔者扱いされるが、槍ヶ岳も「まさかこの俺が」的な気分を味わっているに違いない。



そんな槍ヶ岳だが、どこまで進んでも相変わらず姿を見せない。

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少し進んで行ってはグッタリを繰り返す。

もう正直、この登山のスタート地点の出来事が思い出せないほどに遠い記憶に感じる。


そして出発から10時間が過ぎた辺りで、やっと稜線上に到達した。

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ひいひい言いながらここまで登っていくと、左前方から殺気を感じた。

何者かが僕を見下ろしている気配。

恐る恐る僕は顔を上げる。


そこにはどどんとラスボスが鎮座していた。

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やっと捉えたぞ、槍の穂先め。

20数年の時を越えて、ついに対峙した槍と男。

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そのそそり立ちっぷりに威圧され、当時の恐怖が蘇る。

よくよく見るとダニのような登山者達が穂先にへばりついている。

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僕は激しく引いた。

どう見ても高所恐怖症の男が来るべき場所じゃなかった気がする。

でも今はまだ考えないでおこう。


視線を外せば、稜線の反対側の絶景が広がる。

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やっと報われた感がある。

10時間歩き続けた末のご褒美としては十分だ。

皆も追いついて来て、何時間ぶりかの笑顔の記念撮影。

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まだゴールではないのに、すっかり達成感に浸ってしまった4人。

我々の中に「もう十分だ」という気分が蔓延していた。


バターNに至っては汗が塩の結晶になってしまうほどの辛い登山だった。

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己のバターでプリントTを作れてしまうのが彼の特技だ。


しかし悠長に達成感に浸っているわけにはいかない。

急いでテント場を確保しなくてはならない。

電池切れのバターNとB女房を置いて、ひとまず僕とB旦那で槍ヶ岳山荘を目指す。

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ちなみに翌日はこの奥に見える稜線を越えて南岳経由で下山の予定だったが、この時点で我々の中に厭戦ムードが広がっており諦める事になった。

所詮これが今の僕らの実力だ。


やがてテント場に到着すると、絶望的な光景が広がっていた。

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テント場は見事に埋まっていた。

しかしかろうじて一張り分だけ空いていた事を確認。

大急ぎで槍ヶ岳山荘のテント受付へ駆け込む二人。

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おっさん曰く。

「ちょっと前に受付しちゃったから。残念だけど間に合わなかったねえ。」


ジーザス。


心当たりはある。

あの雪渓で余計な遊びをしていなければ間に合ったはずだ。

喜んでうんこ食ってる場合じゃなかったんだ。


とりあえずここから反対側に20分下った場所にある殺生ヒュッテのテント場まで下る事にした。

ネーミングからして我々にピッタリだ。


寝床は確定したけど、どうしてもここでやっておかねばならん事がある。

お約束の重要な儀式。

シルバーに輝く聖杯に入った黄金水を、この汚れた体に注入するお時間だ。

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いちいちこの儀式をしなくてはいけないのが、めんどくさくてかなわない。

この嫌そうな顔といったらどうだ。

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ほんと、めんどくさいわ。


やがてゾンビ2名が追いついて来て、臨時パーティー会議が始まった。

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果たしてこのまま槍の頂上を目指すのか、それとも今日はここまでにしておいて明日の早朝にアタックをするべきか?

時間的に今アタックをすれば、テント場はまだここではないので暗くなってしまう。

かと言ってこの晴天が明日も続いているとは限らない。

当然早朝アタックとなれば、殺生ヒュッテから再びここまで登って来てからのアタックなので明日の行程はさらにロングなものとなる。

槍ヶ岳も「おい、やんのか?やんねえのか?」とイラついているご様子だ。

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悩みに悩んだ末、全てを天にゆだねる事にした。

100円コイントスで「桜」が出れば今からGO、「100」が出れば早朝アタック。


で、結果はこちら。

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内心、皆がホッとした空気が流れた。


山頂アタックを持ち越しにしたが、我々は怖じ気づいたわけでも疲労で限界ってわけでもない。

あくまでもこれは神のご意志である。

行きたいのは山々だが、ここはこらえて殺生ヒュッテのテント場へ下降していく。

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快晴のこの時間のご褒美「槍影」もご登場。

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正直、僕には悪魔の影にしか見えない。

本当に明日、あそこに登らなければならないのか?

しかしトラウマにグッバイする為には避けては通れない道なのだ。


やがて殺生ヒュッテに到達。

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スタートから11時間の時が流れていた。

体の芯から疲れたよ。

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さあ、明日は早朝からいきなり奴との対決が控えている。

いよいよ因縁の槍との頂上対決。

軽々とねじ伏せて、高所恐怖症の原因となったあの頃の自分に強烈なグッバイを食らわすのだ。

待ってろよ、この槍野郎。



槍ヶ岳3へ〜つづく〜



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