因縁の槍ヶ岳とがっぷり四つに組む男の姿。
ザ・魔雲天にバックドロップを仕掛けるテリーマンのようなその勇姿。
ついに男と槍との頂上決戦の時が来た。
目指す場所は槍の先っちょ。
そのそそり立った穂先をへし折って、お前に植え付けられた高所恐怖症を克服して新しい自分を手に入れてみせる。
それでは早朝の殺生ヒュッテのテント場から振り返ってみよう。
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早朝のお約束と言ったらご来光だ。
でもさすがに槍ヶ岳山頂では狭いし人がごった返す危険があったので、あえて別の場所をチョイス。
槍のご来光渋滞が終わってから、我々は悠々と奴を料理する道を選んだ。
殺生ヒュッテの裏手からから20分程登って行くと東鎌尾根の稜線に出る。
見事に誰もいない。
ここでじっくりとご来光を拝んで、槍の討伐祈願だ。
燕岳越しにうっすらと白んで行く空。
どうやら本日も素晴らしい晴天のようだ。
なんか富士山まで丸見えだし。
正直、頭の中の辞書から「快晴」という言葉が消えかけていた悪天候男の僕は、この時点で激しい動揺を隠せない。
過去、たまに晴れた時は決まってその「代償」を払って来た。
「全身破壊」や「発熱朦朧」や「暴風寒波」を筆頭に、数え上げればきりがない。
僕はこの時覚悟した。
かつてこれほどまでの快晴無風の世界を体験した事が無い。
きっと僕は今日死んでしまうんだと。
せっかくの快晴を心から楽しめない悪天候男の悲しき性。
天候に恵まれた自分を受け入れる事が出来ない男。
結局悪天だろうと快晴だろうと、この男から悲壮感が抜ける事は無いようだ。
そして徐々に辺りは朝の光に包まれだし、因縁のライバル槍ヶ岳もその姿を厳かに見せつける。
決戦の前の静けさ。
戦いの前に互いにリアルな日の丸を拝んで国歌斉唱と行こうじゃないか。
お、来るか?
来るのか?
来ましたねえ。
やっぱりいいもんだね、ご来光は。
この場所は殺生ヒュッテのご主人に教えてもらった穴場スポット。
周りに人もいなくて最高のショータイムでした。
しかしご来光なぞは所詮前座にすぎない。
本当のショータイムはこれから始まるのだ。
日本屈指のサド山槍ヶ岳 VS マゾしこジャパン主将の僕
今大会屈指の好カードで、マゾしこ悲願の金メダル獲得なるかに注目が集まる。
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実はここから槍ヶ岳本戦に向けての「準決勝」が始まる。
せっかく登って来たから、このまま東鎌尾根の稜線を歩いて槍の穂先を目指すんです。
しかしこの東鎌尾根、もちろん槍の前哨戦だけあって甘っちょろい道ではない。
本当に槍に登る資格があるのかどうかがここで試されるのだ。
写真右手は見事な滑落コース。
好奇心の固まりのB女房はへらへらと笑っているが、もうすでに僕の喉の渇きがハンパ無い。
早朝だというのに体と脳の目覚めっぷりが凄まじい。
はしごなどが早くも登場し、大いに不安を煽る。
この程度で臆してはいけない。
でもどんどん体が硬直して行く高所恐怖症野郎。
そして目を疑いたくなる光景。
快晴の代償を払うにはあまりにも早すぎんじゃないのか?
まさか槍との決勝を目前にして臨終の時を迎えてしまうのか?
それでも何とか越えて行く。
しかし容赦のない東鎌尾根の波状攻撃が止まらない。
実はこの時点で僕はちょっと泣きそうになっている。
高所恐怖症の人なら分かってくれるだろうが、もう最悪な状況のイメージだけが頭の中でリアルな再生を繰り返す。
一度捕まったら中々這い出る事の出来ない滑落妄想のアリ地獄。
それでも必死で皆について行く。
そんな状況でも必死でシャッターを切る男の影が映っている。
この戦いに賭ける彼の並々ならぬ覚悟の程がうかがえる。
そしてついに東鎌尾根の「準決勝」を突破して決勝進出。
お月様のような銀メダル以上が確定した瞬間だ。
さあ、ここから先に狙うは金メダルのみ。
中学生以来の決勝の舞台。
20数年前ソウルオリンピックで大敗を喫したこの山に、今このロンドンオリンピックで雪辱を果たす。
決勝の会場前からは圧巻の眺めだった。
今回の決戦を一目見ようと集まった錚々たる観客達。
かつて僕と激戦を繰り広げた富士山。
そして、いずれ対戦するであろう燕岳。
で、反対側を見れば北アルプスの北方の雄達が大挙して押し掛けていた。
さすがはオリンピック決勝の舞台ともなれば観客達も豪華だ。
しかしどんな状況だろうと平常心を保つ事が勝利への鍵だ。
ここはひとつ、日本一の富士山をまたいで屁でもかましてやるか。
試合前に己を鼓舞するボルトのような貫禄。
そして詰めかけた観客を煽り、手拍子を促す。
会場の観客を味方に付けて、必死で自分を奮い立たせる高所恐怖症の男。
もうあの頃の僕じゃない。
こんな山ちょちょいと登ってさっさと終わらせてみせる。
さあ、祭りの始まりだ!
槍ヶ岳4へ 〜つづく〜
おや?と思われた方も多いだろう。
前回あれだけ煽っておいて、今回の記事でも頂上に登らないのかと。
いつになったら登るんだと。
別に連載終了間近のハイスクール奇面組みたいに、無理くり話を引き延ばそうとしている訳ではないんです。
槍ヶ岳以来強烈に忙しくて中々記事を書けないんです。
盆に入って実家にも帰らんと行かんので、次回アップは気長にお待ちくださいね。
次回こそは槍の穂先をワイルドにぶち折る僕の姿をお送りいたします。
槍ヶ岳3〜ソウルの借りはロンドンで〜
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兄貴!おかえりなさい!!
まさかの槍で伊調&吉田に次ぐ三連晴(覇)!!
もってますね~(笑)
ご来光の写真、めっちゃキレイっすね!!
生で見たら感動するだろうな~。
早くパート4が読みたいっす!!
P.S.僕は8/3「越百山」に登ってきました。いきなりの2600mは死にました(笑)
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なんとか生きて帰って来ましたよ。
この三連晴は「槍の奇跡」として語られるであろう快挙でした。
富士山の時も大快晴だったし、意外と大舞台に強いかもしれません。
でも大快晴のおかげで灼熱の長行軍と高所恐怖症を増大させる景色でした。
適度に風が吹けばよかったですが、それは欲張りってもんですね。
ご来光は奇麗でしたよ。
周りに人もいなかったし、富士山も見えて最高でした。
越百山行って来たんですね。
実は予定では昨日今日明日と僕もそこらへんを縦走する予定でした。
でもガッツリ雨なので延期です。
あの槍の快晴の代償で、今後半年は晴れる気がしないです。