西伊豆/静岡

西伊豆男塾 後編〜九死に一生スペシャル〜

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廃人田沢うどんのショックから立ち直るため。

お気楽気分で向かった西伊豆シーカヤック。


しかし優雅な砂浜ビーチツアーを夢見ていた田沢の前に立ちふさがったのは、鬼の訓練教官「乱坊少佐」。

シーカヤック経験が2回しかない田沢を、ハイパー難所に置き去りにするというまさかを炸裂。

だが田沢は何とかその難関を必死で乗り越えた。

しかし安心したのも束の間、その先に待っていたのは暴風に10時間晒され続けるという苦行だった。


そう、ここは西伊豆男塾。

死の淵まで己を追い込み、そこから自らの男道を切り開く訓練道場。

そんな訓練も2日目のメインディッシュへ突入した。


そのメインディッシュの名は、男塾名物「絶望狂尽愚(ぜつぼうくるーじんぐ)」。

海は前日のうねりを遥かに越えたうねり祭りで、なおかつ強風もプラスされて大フィーバー。

西伊豆で最も波と風が不安定な難所に、最悪の悪天候状態で突っ込む事になったシーカヤック3回目の田沢。

それは2回風俗行っただけの素人童貞が、いきなり3回目で「峰不二子を満足させてこい」と言われるに等しい難問だ。


それでも田沢は突き進む。

自分の中に、「男」を取り戻すために。


しかしその先に待っていたものは、リアルに死にかけた男の真実。

これはそんな死の縁から生還した男の、奇跡のドキュメンタリーなのである。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


2日目の朝が来た。

昨日のアホみたいな暴風は深夜に収まり、実に穏やかなる朝がやって来たのだ。

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今日は早い時間に出て、復路を戻ってスタート地点に戻ってから温泉&海鮮メシ三昧の予定。

天気も良いし、見た感じ海も昨日より落ち着いているように見えるから、今日こそノンマゾで優雅に楽しめそうだ。

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談笑しながらサクッと朝飯を済ませ、長くお世話になったこの浜ともグッバイ。

昨日は「10時間TMレボリューションコース」で風に晒され続けてツラかったが、いざグッバイとなるとやはり寂しいものである。

次ここに来れるのは何年後か。

その時はもっと穏やかなときに子供らと来て、磯遊びにでも興じたいものである。


やがて出艇準備が整った頃。

空はグレイッシュに変化し、急に波が立ち始めるというまさか。

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最初から大荒れならこっちも「やめよう」となるが、毎度スタート時は行けるか行けないかの微妙な状態。

そしてある程度進んで、のっぴきならない状態になった時に荒れ狂うのがいつものパターン。

田沢は己のそんな運命を痛いほど分かっているだけに、喉元まで「やっぱやめません?」と言いかけるが、この状況に対して乱坊少佐の目は爛々としているから言い出せない。


そして運命の出航。

田沢の予想した通り、結構早い段階から大きくうねり出す伊豆の海。

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ほんと、この写真見る限りはなんて事ないように見えるけど、実際の感覚はもっと「ぬわあああん」とか「ぬらああああ」って感じで気持ち悪い&超怖い。

進行方向的に常に横や背後からからのうねりを受けるから、艇も不安定にグラッグラ揺れる。


もちろんそんな中、早速そんな不安一杯の田沢をぶっちぎって置き去りにして行く乱坊少佐。

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田沢は必死で「ちょっと待ってくださーい!遅れてまーす!」と叫ぶが、乱坊少佐は聞こえてるのか聞こえてないのか漕ぐ手を一切休めない。

次第に恐怖に取り付かれて行く田沢。

昨日は無理矢理「あはは、たのしーなー」と自分を鼓舞して乗り越えたが、今日は完全に恐怖という魔物に心を支配されてしまった。


そう考えると、田沢得意のネガティブシンキングが冴えに冴え渡る。

岩壁に吸い込まれて大破….

沖に流されて漂流….

深海に沈んで土左衛門….


彼の頭の中で100通りくらいの死のリズムが刻まれる。

今ここで絶対に沈しちゃいけない…

絶対に沈しちゃいけないぞ…

絶対に沈しちゃいけないぞ!


神はこれを「押すなよ押すなよ3回目」的なフリと捉えたのか。

横波と風と岩壁からの跳ね返りのうねりが同時に田沢を襲う。

そしてグラッと…

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慌ててパドルのブレードで水面を叩いて体制を整えようとする。

しかし見事にパドルが縦に刺さって、スカッと空振り。

その勢いのまま完全に傾いてしまい、

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田沢は「やったー!」と大きく叫んだかと思うと、

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ついに伊豆の海に放り出されてしまった。

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こんな場所で沈した恐怖と、この漆黒な感じが一気に田沢の精神を破壊する。

慌てて「ぶはあっ」っとカヤックにしがみつく。

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遥か前方には点のような乱坊少佐。

少佐の背中は「そのピンチ、己で切り抜けてみるがよい」と語っているようだった。


田沢はとにかくパニックにならない事に集中。

正直急いで再乗艇しないと、どのくらいの時間で岩壁に吸い寄せられて大破するのか分からない。

でも深呼吸して、青木湖で一回だけ練習した再乗艇の手順を必死で思い出す。

あの時は静水だったが、現在はうねり祭りのセンターだ。

正直出来る気がしない。


それでもやらないと死んじゃうから、落ち着いてパドルフロートにパドルを突き刺す。

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これの浮力を足がかりにして、パドルをカヤックに引っ掛けて再乗艇するのだ。

乱暴少佐からは「パドルフロートだけは何があっても失くしてはダメです。マジでそれは死を意味します。」とキツく言われている大事なアイテムだ。


しかしそこは田沢。

パドルフロートをパドルにしっかり固定が出来てなくて、気づいた時にはパドルフロートが沖に流されて行ってるじゃないのさ。

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この時の衝撃がお分かりだろうか?

失くしたら死ぬと言われているアイテムが、今まさに田沢の元から去ろうとしているのである。


田沢は必死で泳いだ。

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カヤックからも離れられないからおもいっきり取りに行けない。

何度も指一本差で取り逃がすというデッドヒート。

それでも根性でギリギリキャッチ。

首の皮一枚で命が繋がった。


次は落ち着いて手順通り進めてエイヤッと再乗艇。

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でもさっき慌てて泳いだせいで思った以上に体力が無くなってる。

もちろん即座にバランス崩して最沈。

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まずは一回呼吸を整えないと。

田沢はあえて脱力して空を見上げながら流される。

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こんな事やってる間に岩壁が迫るかもしれない恐怖はあったが、今は体力の回復が最優先だ。

ここからいよいよ長い長い戦いが始まる。

(※っと、ここまでの記録が以下の動画。ヒマな人だけ田沢の気持ちを察しながら観てください。 沈/0:20 パドルフロート喪失/1:40 再乗艇アタック/3:08)




そしてこの厳しい局面で、ついにメシア(救世主)が現れる。

異変に気づいて引き返して来た乱坊少佐である。

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しかし乱坊少佐はそのままその場から再び消えた。

実はうねりが激しいのと、艇のコントロールが大回りなため中々近づけないのだ。

田沢はてっきり「少佐は私の根性を試しておられるんだ」と思い、再び自力での再乗艇を目指す。

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もう艇内に溜まった水のせいでグラッグラな上、前からは強烈なうねりの山。

体勢を整える間もなく、再び転覆。

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もの凄く厳しい。

やった人なら分かるだろうけど、うねった海での再乗艇は1回トライするだけで猛烈な体力を消耗する。

孫悟空の必殺技みたいに「打てて二発が限界だ」的な、そう何度もやれる作業ではないのだ。


そんな感じですっかり疲弊して浮かんでいると、再び波間からメシアの姿が。

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しんどすぎて声は出ないが、田沢は「頼むから通り過ぎないで!置いて行かないで!」と涙目で訴える。

すると乱坊少佐は勇ましく艇をコントロールしながら、見事にマッスルドッキング成功。

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少佐の力を借りて、なんとか再乗艇成功。

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少佐は「いやあ、凄い体験でしたね。深呼吸して。」と語りかけてくれるが、田沢はもう頷く事しか出来ないほど疲弊している。

それでもうねりは酷くなるばかりだから、そうのんびり掴まってると二艇とも沈して伊豆の藻くずコースまっしぐら。

田沢は急いで再出発の準備をして、呼吸を整えてからいざ再出撃。

しかしわずか数十秒で再び轟沈。

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苦労して救出した乱坊少佐も「ちっ…この早漏野郎が…」といった表情で田沢を見下している。

もちろんこれによって再び乱坊少佐は大回りで戻って来なきゃいけないから、少佐はすぐに助けられない。

もうほとんど体力は残ってなかったが、田沢は再び自力での再乗艇に何度もトライ。

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もちろんうまくいかない。

それどころか、足に紐が引っかかって動けなくなるという奇跡的なアクシデントにも見舞われてパニックに。

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それでも歯を食いしばって、失敗しても何度も再乗艇を試みる。

2回もやればヘロヘロになる再乗艇アタックを、すでに6回くらいやっている。

でもやらなきゃ死んじゃうからやらざるを得ない。


実は後で気づく事になるが、この時田沢は文字通り致命的なミスを犯していた。

なんとフルドライスーツのチャックが5mmだけ開いていたことが後に発覚。

実はこの時点でスーツ内に浸水が始まっており、すでに両脚に大量の水がたまった状態。

言ってみれば両脚に合計8ℓくらいのペットボトルの足かせが着いている状態。

そんな状態で再乗艇のために足が上がるわけがないのだ。


でもそんな足かせがある事に気づいていない田沢は、「リアルに体力が無くなって来ている。きっと低体温症だ。こうなったらなんとしても再乗艇してやる。」と根性だけで這い上がろうとする。

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足の筋肉をブチブチに破裂させながら、根性の再乗艇。

GoProは頭の上だから表情は撮れてないが、この時富樫の顔を借りるとこんな顔をしていたと思われる。

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体中の穴という穴から血を噴き出しながら、なんとか乗り込む。

しかし海のうねりはそんな小さな人間の根性など、無情なほど簡単にひっくり返してしまう。

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じ…地獄だ…。

リアルに頭の中に「死」という文字が煌煌と輝き出す。

だがそれを認めたくない田沢は、なんとかして無謀な再乗艇にトライする。


極度の緊張と極度の疲労。

するとやがて人はどうなるか?

そう。


吐くのである。

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何度も何度も吐くのである。

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田沢慎一郎 39歳。

時には2,725mの山頂で。

時には海抜0mのまっただ中で。

今日も彼は吐き続ける。

誰よりも雄大に。

そして誰よりも美しく。


(※そこまでの動画がこちら。ゲロシーンはモザイク入れてますが心して観てください。 再乗艇からの再沈/1:00 メシア登場/1:50 マッスルドッキング/2:27 足絡ませ/4:37 嘔吐/4:56)




これにて「山頂嘔吐マン」に次いで、ついに「洋上嘔吐マン」の称号までも手に入れた田沢。

船酔いならぬ己酔い。

自分のボディをうねりの中でムーブさせる事によって、己に酔っちゃうという究極奥義。

そして必要以上な筋トレ再乗艇のせいで、吐き気の威力も倍増。

これぞ男・田沢の真骨頂である。


文章だとあっという間だが、この時点で最初に沈してから40分ほどの時間が経過している。

ドライスーツ内に浸水した水のせいで低体温症も始まっており、手の痙攣も始まって体中がガタガタしている。

もしこのまま浸水が酷くなれば海の中に引きずり込まれる。

この体力ではもうそれに抵抗する事なんて不可能。

出来るだけ体力を温存させ、最後の再乗艇アタックに全てを賭ける。


そんな田沢の覚悟を受け取った乱坊少佐が、うねりを乗り越えて再び田沢の元へ。

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これはこれで命がけ。

なんとか回り込んだ少佐と再びマッスルドッキング。

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そして最後の力を振り絞って、ど根性再乗艇。(この時点で両脚10キロくらいの重さ)

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乗った!


もう過呼吸が止まらないほど息も絶え絶えで、疲弊度は過去最大級。

もう絶対に落ちたくない。

というか「落ちる=海上保安庁救助要請」という選択肢しか無くなってしまう。


田沢ははやる気持ちを抑えながら、バランスを安定させるために必死で排水ポンピング作業。

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このポンプがまた、引く時に排水されるもんだから二の腕へのパンプアップ感がハンパ無い。

ここはゴールドジムなのか?


この猛烈筋トレ作業で、再び田沢の胃に火がつく。

もう乱坊少佐からの借り物のカヤックだと分かっていたけど、とても理性を尊重出来る状況じゃない。

田沢はカヤックの中に吐いた。

心行くまで吐いてしまった。

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乱坊少佐は「大丈夫です。気にせず吐いてください」と言いながら、実に切ない表情になっている。

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彼は彼で今回のシーカヤックを楽しみに来ていたはずだが、結果的にパートナーが勝手に沈して漂流し、助けてやっても沈してもがき、また助けてやったら自艇に吐かれるという踏んだり蹴ったりさ。

一蓮托生。

男塾の塾生はいつだって助け合い、マゾり合いの関係性でなくてはならないのだ。


田沢自身も「俺こんなに食ったっけか?」と思ってしまうほど、ゲロが止まらずに驚いている。

その気になればいつまでも吐けそうだ。

それでもなんとか落ち着かせて、排水作業を終わらせてスプレースカート装着。

そして別れ際に「最後にもう一度だけキスさせて」と言い寄る男のように、「すいません…最後にもう一度だけ吐かせて….オロロロロロロロッッッッ!」と最後っぺ。

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こうしてひとしきり胃の中の内容物が空になった田沢。

内容物と一緒に「諦める心」も吐き捨てた。

絶対に生きて帰るぞ。


(※ここまでが以下の動画。 嘔吐/2:00 マッスルドッキング2/2:30 ゴールドジム/4:25 嘔吐/4:27 最後っぺ/4:56)




そしてついに少佐から離脱。

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次こそは絶対沈しない。

沈したらもうそのまま救助要請だ。

行き先も変更して、今日スタートした場所に戻る事にした。

なんとしても生きて帰るんだ。

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もう緊張からか全身に力が入り、艇はフラフラして漕ぎ方がド素人のようにバシャバシャと水面を叩いてしまう。

自分でも情けないが、体の硬直がどうにもならない。

とにかく一漕ぎでも前へ。

もし沈したとしても、1mでも前に進んでから沈してやる。

浮かんでは消えて行く子供達の顔。

お父さんはこんなとこで死ぬわけにはいかない。


そんな戦うお父さんの前には最後の難関が。

それは潮の流れ的にそこを通らざるを得なくなった「千貫門」。

ちょうど昨日、ステキな夕焼けを提供してくれたあの門だ↓

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乱坊少佐が「あの門は荒れてる時には入らない方がいいと本にも書いてあります」と言っていた所。

そんな所に、この荒れ荒れの状態で先に突っ込んで行った乱坊少佐。

田沢も同じように、安全地帯への最短距離はこの門をくぐるしかない。

というかそこに吸い込まれて行く。

もはや生きた心地が1ミリもない。


しかも門が近づくにつれ、いよいようねりフィーバーはマックスに。

海底の複雑な岩のせいで、沖よりも沿岸部のがうねりは激しくなるのだ。

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怖い。

もう頭の中はその感情で一杯。

まるで怒った嫁の前に正座しているような気分だ。

でも行かないといけない。

千貫門周辺は、もう前後左右わけ分からん感じで盛り上がってはうねってる。

狭い門からわずかでも進路がそれれば、うねりの勢いで岩壁に叩き付けられる事は必至。

それでもなんとかラダー(舵)を操作して、門のセンターを突っ切って行く。

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門の中は海面全体が隆起し、沖からのうねりと沖へ押し戻す流れがぶつかって中々進まない。

もはや田沢は「生きて帰る!生きて帰る!生きて帰る!」しか頭にない。

体力はとうに尽き果てていたが、渾身の「マゾ場のくそ力」を発動。

喉はカラカラすぎて血を吐きそうだ。


そしてついに千貫門突破!

陸が見えた!

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沈してから実に1時間。

地獄のような男塾のシゴキがもうすぐ終わるぞ。


(※ここまでの動画です。 バタバタ素人漕ぎ/0:00 ぶっちぎり少佐/0:39 うねる海/1:00 千貫門突入/1:56)




田沢は最後まで気を抜く事なく、全身を硬直させながら漕ぎ続ける。

やがて陸に乱坊少佐の姿が。

「絶対に田沢は沈してる」と思っていた少佐は、陸に到着するなり漁船に連絡を取って救助要請しようと本気で思っていたらしい。

しかし千貫門の中から、昨日の夕陽よりも神々しく田沢が登場したので大喜びで駆けつける。

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これでほんとに助かったと思った田沢は、急に全身の力が抜けてその場に倒れ込んだ。

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まさに限界ギリギリの脱出劇。

激しい緊張から解放された田沢は「死ぬかと思ったっー!」と叫んだ。

正直泣きそうだったほどだ。

かつてグレートトラバースの田中陽希が、荒れた海に投げ出されて再乗艇して危機を乗り切った時、涙目で「死ぬかと思ったっー!」って叫んでたが、今の田沢にはそのキモチが痛いほど分かった。


しかし波の勢いは激しく、いつまでも感傷には浸らせてくれない。

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ヘロッヘロの体を何とか起こし、クソ重いカヤックを陸に上げる。

もちろん何度も豪快に転んでは全身を強打。

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しかし油田級にアドレナリンが大放出されてるから、全く痛みを感じない。

そうこう奮闘しながら、やっと安全な岸に倒れ込んだ。

そして乱坊少佐も、「これでお前も男だ」と健闘を称えてくれた。

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生き残った。

私は今確かに生きている。


西伊豆男塾。

なんて壮絶な道場なんだ。


(※これが最後の動画。 九死に一生の瞬間/0:05 ヘロヘロ転倒/1:18 生きてて良かった/2:03)




しばし放心状態の田沢慎一郎。

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漕ぎも漕いだり、吐きも吐いたりの壮絶な戦い。

完全に彼は真っ白に燃え尽きた。

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彼は静かな声で言った。

今はただただ子供の顔が見たい…と。

抱きしめてやりたい…と。

あと、温かいうどんが食いたい…と。


そしてこの時初めてドライスーツが大量浸水してて、本気でヤバかった事を知ってゾッとする。

排水してみると、大失禁かました変態潮吹きマシーンとなる田沢。

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もし最後の再乗艇に失敗していたりしたら土左衛門コース間違いないしだった。

いや、ドライスーツを着た土左衛門だから、危うく「ドラえもん」になる所だったぞ。


そしてスタート前に「長くお世話になったこの浜ともグッバイ。次に来るのは何年後か」なんて感慨に耽ってた1時間半後には、また同じ場所で焚き火して体を乾かしているというまさか。

そこでじっくりと体と心の回復を待った。

するとどうだろう。

あれ程荒れ狂ってた海が、妙に穏やかになっているというお約束が展開。

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かと言って、もう今日は二度と海に漕ぎ出す気にはなれない。

そしてここでリタイヤってことが何を意味するのかというと、初日にスタートした浮島海岸まで何とか戻って車を取って来なくてはならないってことだ。


ヘロヘロの体のまま山を越え、

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長い下りを経て里に下り、

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バス停を求めて国道を彷徨い、

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ロードムービーの一コマのように長時間バスを待ち、

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大きな街に出てからも乗り継ぎがうまく行かずに、フルドライスーツのまま散々待たされるという羞恥プレイとなり、

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すごい時間かけてやっと浮島海岸で車を回収。

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浜に戻ればすっかり夕方で、

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乱坊少佐は中東の武器商人のようになり、

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田沢はゴミ拾いじじいと化して、

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30キロほどの超重量荷物を肩にめり込ませながら山を越えて行く。

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これが信じられないほどハードで、瞬く間に全身が汗でビショビショになって行く。

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しかし地獄はまだまだ続く。

この山をカヤック持って越えなければいけないという現実が待っている。

しかも何回も往復するのがイヤだったから、一度に二艇担いでの山越えアタック。

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これが信じられないほどキツかった。

そもそももう体力使い果たした状態からの、謎の「シーカヤック登山」。

やってる本人達も「俺たち一体何やってんだ?」と自問自答が止まらない。

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田沢に至っては、またしても嘔吐寸前の表情で青くなっている。

それでも頑張って山越えしないと、駐車場まで辿り着かない。

まさにマゾがマゾを呼び、マゾでマゾを洗う修羅場の訓練道場。

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陸に上がった乱坊少佐はすっかり虎丸に戻ってグッタリしている。

田沢の早期リタイヤのせいで、とんでもないマゾアタックに巻き込まれてしまったのだ。


それでも最後の最後の最後の力を振り絞って、汗だくになりながら駐車場へゴール。

見事、この西伊豆男塾を生きたままご卒業であります。

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壮絶なる戦いだった。

なんだか色々あったが、今回の旅で得た教訓は二つ。

「生きてるって素晴らしい」ってこと。

そして「虎丸の大丈夫ですはやっぱり大丈夫じゃない」ってことだ。


こうして二人は休塾宣言したにもかかわらず、結局今回も勝手に男塾してしまった。

所詮蛇の道は蛇。

マゾの道はマゾ。

我々の男度はいつだって冒険を求めて止まないのである。


次回虎丸から海へのお誘いがあった時。

その時田沢は姿をくらますかもしれない。

松尾を騙して向かわせるかもしれない。

それでも最終的には「楽しかった」と言えてしまうのが西伊豆の魔力。


なんだかんだで、結局毎回求めてしまう自分が恐ろしい。


そしてこの今後この吐き癖をどうしよう….。



そう思った田沢慎一郎であった。




西伊豆男塾 〜完〜


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今回はさすがに悲惨まみれでしたね。

さすがにこんな事やってりゃいつか死んでしまうよ。

というか田沢は穏やかな海で優雅なシーカヤックを期待して行ってたんだけどね。

所詮田沢は田沢なんですね。


それではおまとめ動画であります。

海に向けた冒険と言ったらこれでしょう。

今日も塾生達はsame ol’(飽きもせず)で冒険に向かうのであります。


さあ、男達よ


自分より強いヤツを倒せ!






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コメント

    • モチック
    • 2015年 11月 06日

    SECRET: 0
    PASS: cad9823d17a4a7112728549b7060e62c
    こんばんは、モチックです

    今回は一番笑わせていただきました。:.(:.´艸`:.).:
    電車で動画を見ることなんて今までありませんでしたが、見ずにはいられませんでした。
    もちろん無事な生還が前提で。

    これがシーカヤックなんですねぇ~
    リバーカヤックではそうそう命の危機を感じることはないですが、海は1つ間違うと危険ですね。
    ただ、海の魅力も十分伝わりました。洞窟や夕暮れ、テント泊など最高ですね。
    動画は、電動ドリーを使ったインターバル撮影でしょうか?動画の進歩がすごいなぁ
    「楽しかった」で終わり何よりです。

    練習ではできても本番でロールも出来ない。沈脱後のリカバリーのしんどさ。疲れきった状態での艇の運搬のキツサ!カヤックあるあるも共感満載でした。

    懲りずにカヤックネタもよろしくお願いします!
    乱筆失礼しました

    • yukon780
    • 2015年 11月 06日

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    モチックさん、どうもです。

    まさかあの動画を電車の中で見てしまったとは…。
    ある意味で公前わいせつ罪です。
    なんにしても生きてこうして笑い話にできてほんと良かったですよ。
    そしてしっかり一部始終を録画し続けてた己にも乾杯です。

    多分一般的なシーカヤックとは違った世界観だったでしょうけど、基本的に僕は荒れた海しか知らないんでこういうもんだと思ってます。
    だからシーカヤッカーの人達を見ると、みんな超人に見えますよ。
    やっぱ落ち着くのは川っすね。海怖いっす。というかしばらくトラウマです。

    タイムラプス動画は電動ドリーなんていう高価なもんは使ってないです。
    基本的に静止状態のやつを、映像編集ソフトで横移動させてるだけですよ。
    ソフトがあればiPhoneでも全然出来ます。

    とりあえず、しばらくはカヤックいいかなあって感じっすね。
    行くなら鮎釣り師がはけた川かなあ。
    これから雪山シーズンも始まるから大忙しですよ。
    まあ年中大忙しなんですけど。主に遊びで。

    • たも
    • 2015年 11月 08日

    SECRET: 1
    PASS: b8da872ee930d50e04972b47c2fa9fc8
    はじめまして。
    毎回、楽しみにしていますが今回は(命に係わる体験で失礼ですが・・)とても面白かったです。
    自分もカヤックで烏帽子岩付近の大きなうねり経験してまして恐怖感よくわかります。再乗艇の疲労もよく分かります。出来ないと命に係わるのでそれは必死になりますよね・・ただ自分としては川で何度か大破、流された経験ありますので川の方が怖いですね。また次回楽しみにしています。
    たも

    • ミヤケ
    • 2015年 11月 10日

    SECRET: 0
    PASS: a173274fb25389cfd6026d494ce72655
    うどん廃人の回もすごかったけど、これは壮絶ですね!(*_*)私は川で沈脱したりあちこちうちつけたりする度、シーカヤックは優雅で呑気でいいよな。。。とか思ったりしてましたけど、これは!!!海、こえー!!!歩いて帰れて本当に良かったですね。行き先が島だったら。。。と思うとぞっとします。ご無事のご帰還、なによりです!

    • yukon780
    • 2015年 11月 11日

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    ミヤケさん、どうもです!

    僕も全く同意見派で、シーカヤックはなんだか大人しくて優雅で老後の楽しみにでも取っておくかと思ってた分野でした。
    今回も廃人田沢うどんの悪夢を払拭するために挑んだんですが、まさかそれ以上に吐き倒して生死の境を彷徨うとは思ってもいませんでしたよ。
    海は前々から意味不明な生き物だらけで恐怖の対象でしたが、今回の件で完全にトラウマになりましたね。
    これから数日間は平地でもユラユラしてましたし、しばらく悪夢にうなされたほどですよ。
    ほんと、あそこが無人島だったらとかもっと外洋だったらとか思うとゾッとします。
    それでも乱坊少佐は「次回はブリザードの厳冬期谷川岳。その次はヨットでアラスカまで行きましょう」とラリった目で言って来るから恐ろしいです。
    僕はいつか彼に殺される事でしょう。

    とりあえず生還出来て良かったですよ。
    しばし日常生活のありがたみを噛み締めながら生きて行きます!

    • HeadM
    • 2020年 8月 11日

    カヌー野郎の頃から楽しんでいましたが、ユーコンカワイチャンネルから 九死に一生 を見直して怖くなり、当時の記事はどうなっていたのかと戻って来ました。
    当時は楽しく読んでいましたが、見返すとゾッとしました。とんでもないですね。
    同伴者本当に酷いです。
    本当によく無事に還って来られました。

      • yukonkawai
      • 2020年 8月 11日

      コメありがとうございます。
      あの動画、なんかブログ読んでない人も単体で観ちゃってるみたいでやたら批判くらってますよね…。
      他記事から読んだらわかるかもだけど最乗艇の練習はした→はじめてのシーカヤック→荒れてる海って状況で、僕としてはベストを尽くしたし海を舐めてもいないし、一緒に行った人も大袈裟に書いてるだけで何も恨んでもないです。
      アウトドアは自分の身は自分で守るって世界だし、自己責任の世界なんでそれをリアルにお伝えしただけ。
      逆に誰かの教訓になればそれはそれで良いかなと思ってます。

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