実に久しぶりの「鈴鹿セブン」シリーズ。
やっと五番目の山「御在所岳」を陥落させる時が来た。
前回の挑戦は見事な敗退を喫した鈴鹿山脈の主峰。(参考記事「さよならウルフマン」)
この時は天気予報のまさかの裏切りにより、吹雪の中で心をポッキリ折られての惨敗。
スプリングマンの必殺技「デビル・トムボーイ」で、ウルフマンは惨殺されてしまったのだ。
(このへんの悪魔超人のくだりが分からない人は、一発目の入道ヶ岳から読み直して下さい)
原作でもウルフマンはこの戦い以降、アイドル超人なのにその後目立った活躍が出来ずに消えて行く運命になる。
そんなウルフマンの無念を晴らし、ミート君の左腕を取り戻す絶好のチャンスがやって来た。
突然会社が休みになり、天気予報を見れば文句なしの晴天日で風速も穏やか。
これ以上無い雪山登山日和。
平日だから他に登山者がいなくて、足場も固まっていない恐れはあったが大丈夫だろう。
待ってろよ、スプリングマン。
今回はこのモンゴルマンが貴様の息の根を止めてやる。
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早朝4時起床。
起きた瞬間から、外の「ボボボボ」という風の音が耳に入る。
穏やかな風速の天気予報のはずだったのにどうしたことだ。
起き抜けから早速不安に支配されたが、一路鈴鹿を目指して車を走らせた。
早朝なので車はスイスイ進んで行く。
と思っていたら突然の大渋滞。
こんな早朝に何事だ。
何が起きてるか分からないが、少しも車の列は動かない。
意を決して細い道で迂回しようとしたが、道が複雑でどんどん遠ざかって行く。
やっと大通りに出たと思ったら再び渋滞。
普段なら1時間半で辿り着けるスタート地点へ、実に3時間近く時間をかけ到着。
さすがはウルフマンを惨殺しただけの事はある。
戦いは家を出た時から始まっているのだ。
すでに僕の顔には疲労の色がにじみ出ていた。
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前回同様、鈴鹿スカイラインの冬期閉鎖ゲート前に車を停めた。
前回は結構車が停まっていたのに、今回は2台しか停まっていない。
こりゃ何かあっても他の登山者の助けは期待出来ない上に、登山道も踏み固まってないからしんどい登山になりそうだ。
しばらく舗装路を歩いて、トンネル前の裏道登山口に到達。
前回よりは雪の量は少ない。
やがて、登山届けポストがある場所へ。
実は前回僕は見逃さなかった。
他の登山者がこのゲートを越えて行き、楽々コースでショートカットしていた事を。
ウルフマンの死は無駄にはしない。
彼の敗戦から得られた教訓を、余す事無く活かして行こうじゃないか。
僕はウルフマンに感謝しつつ、ショートカットコースを延々と進んで行った。
すると行き止まりになってた。
僕があの時見たショートカット登山者は何だったんだろうか。
まだ登山開始間もなかったのに、早くも幻影を見ていたのか。
結局ウルフマンの犠牲もむなしく、僕は引き返して行った。
余計に時間と体力が奪われてしまった。
やはりさすがはスプリングマン。
そう易々とは先に進ませてくれないらしい。
今回は雪が少なめの代わりに、地面が凍っている箇所が結構ある。
ツルッツルに滑るが、まだ地面が多く出ているからアイゼン装着にはまだ早い。
そんな中での一番の難関が登場だ。
正直、ここがこの登山で一番恐ろしい場所だ。
この場所で登山者は覚悟を問われるのだ。
一歩一歩全神経を集中させ、じじい牛歩スタイルで渡って行く。
頭の中は、次の瞬間滑落する自分ばかりが登場するイッツ ア ネガティブワールドに満たされて行く。
なんとか渡りきるが、ここ本当に怖いからどうにかして。
前回来たから知ってるけど、もちろん氷の橋渡りはつづく。
背中に荷物背負ってるからアシモっぽいけど、あんなに高く足は上げられない。
抜き足差し足のへっぴり腰で、情けなさで一杯だけどしょうがない。
ツルツル橋ゾーンを越えれば、耐尿ゾーンだ。
前回放尿を堪えながら下ったゾーン。
前回は全く余裕がなかったけど、今回は余裕はあるので動物の足跡なんか愛でながら登って行く。
いよいよ雪が幅を利かせ始めて来た。
相変わらず不安はあるが、なんせ本日は天気がよろしい。
今日は御在所岳を落とせる気がする。
女は落とせないシャイシャイボーイだけど、本気になれば目にモノ見せるぜ。
やがて藤内小屋に到達。
前回敗退を食らった直後に、ここで犬におにぎりを奪われるという屈辱を味わっている。
ある意味ここでとどめを刺されたわけだが、今日はあの犬達はいなかった。
せっかくあいつら用にお菓子を多めに持って来てやったのに。
結局一人寂しくお菓子をほおばる。
前回は恥ずかしめを受け、今回は放置プレイなのか。
犬にしては中々やる。
そしてここで秘密兵器をカメラにセッティング。
「空がより青く写る」というフィルターを取付けた。
僕は基本的に晴れないので、ずっと出番が無くて道具箱に埋もれていた奴だ。
さあ、ここからはいよいよアイゼンを装着。
ウルフマンの無念を晴らすべく、モンゴルマンは果敢に蒼穹の空に向かって登り出す。
粉雪が風に吹かれて、時折ダイヤモンドダストチックにキラキラと大気に舞う。
前回とは全く違う世界だ。
ちなみに前回はこんなでした。
そりゃウルフマンやられるわな。
逆によくがんばったよ。
やがて前回よく分からなかった「兎の耳」に出る。
正直、晴れていてもどの辺りが兎の耳なのかよく分からん。
僕には巨大な猫の横顔が景色を眺めているようにしか見えない。
進んで行くと、ツララがキラキラしていてとても奇麗だった。
微笑ましく眺めてから、進行方向に目をやると「鎖&氷の岩場」が目に飛び込んで来た。
途端に僕の顔から微笑みは消え、悲しみの表情に。
アシュラマン並みの表情切替だった。
ガシガシとアイゼンの爪を立てて、なんとか越えて行く。
やがて、クライマーのメッカ「藤内壁」へ到達。
本日も見事にそそり立っている。
あんな所を登ることを考えると、そそり立つどころかシナシナだ。
そこからさらに進んで行けば、ついに因縁の場所にたどり着いた。
前回の撤退を余儀なくされたウルフマン敗退の地。
僕はこの先に進んで行って吹雪の中、心を折られたのだ。
よく見るとちゃんと「×」マークが赤々と書いてあるじゃない。
このマークに気づかなかったなんて、逆に己のナチュラルマゾっぷりに呆れるばかりだ。
僕はこの先を進んで行き、不安と寒さと絶望にまみれて引き返す事になった。
正規ルートを進み、上から僕のKPP(心ポッキリポイント)を確認する。
ちょうどあの辺りか。
ちなみに当時のKPP画像は以下の通りだ。
あの頃のお前にサヨウナラ。
悪いが僕は先に進ませてもらおう。
さよならウルフマン、さようならチキン野郎。
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さあ、いよいよここからは未知の世界。
いよいよ雪も深くなって来て、緊張感は高まって行く。
眼下には鈴鹿の街並が丸見えだ。
登山道も滑落5秒前な雰囲気がぷんぷんと立ちこめる。
怖いじゃない。
足を踏み外せば、たちまち漫画みたいに雪だるまになって転がり落ちて行ってしまうぞ。
現実はあんなに可愛らしい結果にはならんだろうな。
バキバキに全身の骨は折れ、関節は逆方向へ曲がり、止まった頃にはジョジョになってるだろうな。
結局ジョジョも漫画だけどね。
そんなアホな事考えていたら、どんどん雪が深くなって道が見えない程になってきたぞ。
恐怖と美しさの夢の競演。
いよいよ木にも雪が付き始めて美しい反面、登山道を見失わないように気を張って歩く。
しかし、歩みを進める程に美の世界はどんどん色濃くなって行く。
キタキタキタキタ。
これぞ雪山の世界。
雪山の魅力をやっと満喫する時が来たのだ。
景色も藤内壁越しに絶景が広がる。
ああ、いいじゃない。
たまにはこんな思いしてもいいんじゃない。
しかし「そうはさせじ」とスプリングマンも必死の抵抗だ。
ついにアイゼンでも足がズボッと取られる程に、雪の深さは勢いを増して来た。
かかったな、スプリングマン!
こんな時の為にアメリカのテリーマンから秘密兵器を輸入してあるのだ。
いでよ、スノーシュー。
ガシーンと装着。
僕はスーパーモンゴルマンと化し、新雪の上をもろともせず進んで行った。
僕のレッグラリアートが炸裂する。
たまらず悶絶するスプリングマン。
ざまあみやがれ。
このスノーシューって奴は相当に楽しいぞ。
膝まで埋まってしまう雪道も、バフバフ進んで行ける。
スノーシューを付けていない他の登山者の苦労の跡がこれ。
こんな大変な場所も優雅に進んで行く。
さらには僕のMSR EvoTourはヒールリフター付きだから、急坂でもまるでふくらはぎに負担がかからないから快適そのもの。
こりゃ、今後スノーシューで結構遊べそうだ。
そしてついに尾根に到達し、国見峠へ。
いよいよ木も凍り出し、「樹氷」が始まり出して来たぞ。
そして、ここからがスノーシューの真価を発揮する場面だ。
ついに全くの踏み後の無いバージンスノーロードが始まった。
平日だからこそ味わえる、僕だけの新雪世界。
散々苦しんだここまでの雪山体験。
ついにそんな僕にご褒美タイムが舞い降りる。
樹氷のトンネルが姿を現したのだ。
くううう。
僕はすっかり川平慈英になっていた。
いいのか?
こんな僕でもこんな時間が許されるのか?
苦労はしてきたけど、始めて良かったよ雪山登山。
樹氷越しの景色も最高だ。
堪能しながらさらに登って行くと、ふいに山頂公園の入口が見えた。
ここをズボッと抜け出ると、先ほどとはまるで違う世界が広がっていた。
なんだ?急に人だらけだ。
ロープウェイで上がって来た観光客の皆さんだ。
普通におばちゃんとかがワイワイと記念撮影してる。
なんだろう。
さっきまであんなに「雪山登山してるぜ」って感じだったのが、急にただの観光地になってしまった。
みんな普通に厚着してるだけな中に、全身「登山してます」といった格好の男がポツンと立ち尽くす。
当然誰一人スノーシューなんて履いている人なんていない。
「あの人、カンジキ履いてるわ。懐かしいわあ。」等という老夫婦のヒソヒソ声が聞こえて来た。
急速に恥ずかしさのストームに身をさらす事になってしまった。
休日だからか、おばちゃんばかりだ。
僕は東方神起のライブ会場にでも迷い込んでしまったのか?
まあ、ある程度は想定内さ。
完全武装の男は、スキー場を横目に頂上を目指す。
スキー合宿の子供達なのか、大量に同じ格好したやつらが滑ってる。
皆が僕を見て笑ってるんじゃないかという妄想を抱えながら進んで行く。
やがて人工氷瀑が登場。
こいつを見るのは二度目だが、やはり所詮人工物。
先ほどの樹氷の感動を越える事は無い。
次第に観光客も少なくなって行き、いよいよ頂上が見えて来た。
そして、ついにやりました。
前回の敗北の末に、やっとこの頂を踏むことが出来た。
ウルフマンよ、安らかに眠れ。
君のおかげでミート君の左腕を取り戻したぞ。
実に苦しい戦いだったぞスプリングマン。
僕は満足して、昼メシを作るべく近くの東屋に移動した。
戦い終えた僕は油断していたのだろう。
スプリングマンはまだ死んでいなかったのだ。
いよいよ残虐超人スプリングマンが本気で僕に襲いかかる。
後に「味噌バターコーンラーメンの戦い」と呼ばれる名勝負がついに始まった。
男に決断の時が迫り来る。
「凍傷」を取るか、「ラーメン」を取るかの究極の選択。
果たしてモンゴルマンの下した決断とは?
冬山の恐怖はまだ始まったばかりだ。
男の元に、本年度最高の寒波が忍び寄っていた。
鈴鹿セブン五発目〜御在所岳〜後編へつづく
鈴鹿セブン五発目〜御在所岳〜前編
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