御在所岳/三重

鈴鹿セブン五発目〜御在所岳〜後編

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因縁の御在所岳の頂を制覇した僕は、満足感に満たされながら東屋に移動した。

あとは東屋でのんびり昼メシを食って、樹氷を満喫して下山するだけだ。


東屋からは鈴鹿セブンの残党「鎌ヶ岳」の勇姿が見てとれる。

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恐らく鈴鹿セブン制覇の最終決戦の地になるであろう山だ。

さすがにあの急峻な山を冬期に登る勇気は無い。


鈴鹿セブンも残す所「雨乞岳」と「鎌ヶ岳」の2座のみ。

待ってろよ、ザ・魔雲天とバッファローマン。

雪が溶けたら貴様らの討伐に向かうからな。


と、こんな感じで余裕をこいていたら、なんとスプリングマンはまだ生きていた。

バッファローマンこと鎌ヶ岳が見えるこの東屋で、バッファローマンとスプリングマンのツープラトン技「スプリング・バズーカ」が炸裂することになる。

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東屋の椅子に腰掛けて、早速バーナーでお湯を沸かす。

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汗冷えしてはいけないので、ダウンジャケットを羽織って防寒もばっちりだ。


しかしここに来て鎌ヶ岳方面からの突風が激しくなって来た。

後で知る事になるが、今シーズン最大の寒波が今まさに襲来している真っ最中。

当たり前だが、すげえ寒い。


ふと鎌ヶ岳を見たら、バッファローマンが死んだはずのスプリングマンをこちらに向けているじゃないか。

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しまった。

「スプリング・バズーカ」だ。

バッファローマンの腕から放たれたスプリングマンは、強烈な寒さを伴った突風で僕に襲いかかる。


動いていないから強烈に寒い。

水を飲もうとリザーバーのチューブを吸ったら、完全に凍り付いている。

まったく水も飲めない。


おにぎりを食ってみるが、もはやおにぎり風アイス。

しゃりのシャリシャリ感を存分に楽しめる。

おにぎりのくせに、食ったら頭がキーンとしそうな程だ。


バーナーの火も全く勢いがない。

やはり寒冷地仕様のガス缶を買ってくるべきだった。

お湯を沸かすというより、ぬるま湯をキープするのが精一杯の火力。

いつまで経っても、翌朝のお風呂程度のぬるさから発展しない。

もうカップラーメンのふたを開けてしまっているだけに、なんとしても温かいラーメンが食いたい。


ここで思い出した。

何かの本に、寒冷地でガス缶の威力を上げるにはガス缶自体を温める必要があるってことを。

僕は賭けに出た。

素手でガス缶を覆って温めてみた。

すると、多少火に勢いがついた。

しかし、ガス缶はあり得ない程の冷たさを僕に提供してくる。

これは本気で凍傷してしまうぞ。

でもこの難関をくぐり抜けないと温かいラーメンは食えない。

かと言ってラーメンごときの為に凍傷で指を切断なんて事態になったらアホすぎる。

五体満足で生んでくれた両親に、何て申し開きすれば良いんだ。


ここからはガス缶を温めては、自分の両手を温める作業が交互に続く。

もはや寒すぎて座ってなんていられない。

僕は立ち上がって、時折その場で激しく立ちランニング。

寒すぎて「ぶふあ、ぶふあ」と妙な吐息が漏れる。


少しものんびりした昼メシではない。

周りから見れば、怪しすぎる真冬の変態行為。

正直この時点でかなり心が折れかかって来て、「帰りはロープウェイで下山しよう」などと弱音も飛び出す。

もうラーメンなんてどうでもいい。


しかしここで男は思い出す。

モンゴルマンの正体は「ラーメンマン」だったことを。

スプリングマンの最後のこの攻撃を、己の力で跳ね返してくれる。


僕は決断を下し、ほとんど「水」に近いぬるま湯をカップラーメンに注いだ。

そして3分間、火事場の立ちランニングでセルフヒート機能を発動。


3分後「味噌バターコーンラーメン」のフタを取り去って、箸を麺に突き刺す。

麺はお湯を入れる前の原形をとどめたまま、持ち上がる。

僕はその持ち上がった「麺と思われる固まり」に食らいつく。

もはやぬるいを通り越したキリリと冷えた麺が、バリバリと音を立てて僕の喉を通り抜ける。

これはもう食事ではない。

男と男の戦いだ。


中から白いキューブ状のものが出て来た。

おそらく熱湯によっていい感じに溶けるはずだったであろうバターキューブだろう。

もちろんガリッと食らいつく。

濃密すぎるバターの味が口に広がっている間に、残った麺の固まりをバリバリ食らう。

冷製スープとともに、すべてを完食。


勝った、勝ったぞ。

温かいラーメンは叶わぬ夢だったが、僕は指を失う事無くクソまずいラーメンを完食しスプリングマンに引導を渡した。

生涯この時のラーメンの味は忘れない。

もう雪山でカップラーメン作るなんてやめておこう。

焦がし味噌バター味の苦い後悔だけが後味として残った。


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スプリングマンとの死闘は終わったが、体が凄まじく冷えている。

一時も早く体を動かさなければ、この場所がKPPになってしまう。

すぐさま僕は山上スノーシューハイクへと向かった。

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御在所岳の山上公園は結構広くて、モンベルなんかがスノーシューツアーを企画する等結構人気なスノーシューコース。

しかし平日とあって、見事な独占感で中々にいい気分だ。

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でもひとたびこのような場所に出れば、下からの猛烈に寒い突風の急襲を受ける。

写真では優雅に見えるが、寒さで足がガクガクしてます。

だってすぐ横の木の枝見るとこんな状態ですもん。

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そりゃ寒いですよ。

ずっとここにいたら、僕もこんな感じになってリアル・ミシュランマンになってしまう。

でもそんなつらさも吹っ飛ぶ程に素晴らしい世界が展開される。

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怪しいコソ泥忍者野郎が白銀をうろつく。

目指すは最深部「御嶽神社」だ。

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あの神社にお参りしてこそ、御在所岳完全制覇と言えるだろう。

そこまでの道は、まさに白銀パラダイス。

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一面の新雪の上をスノーシューで闊歩して行く。

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強烈に気持ちがいいぞ。

体も温まって来て、折れかけた心も再びアツい鼓動で満たされる。

雪山って奴はメリハリが激しすぎるわ。

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そして、やっとこさ御嶽神社に到達した。

ここからの眺めは中々に壮大で、鎌ヶ岳もすごそこだ。

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バッファローマンめ。

せいぜい冬の間だけ楽しむが良いさ。

雪が溶けたらそのロングホーンをへし折ってくれるわ。


神社には「がん封じ祈願」のドラがあった。

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ここは一発、がんに侵されない為にも高らかにドラの音を響かせてやろうじゃないか。

さっそく僕はその瞬間をおさめるべく、セルフタイマーをセットしてドラに向かう。

雪に埋まっていたドラ叩き用のハンマーの柄を持って持ち上げた。

するとハンマーの柄の先っぽが折れていて何も無いじゃない。

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「思いがけない展開にしばし時が止まる男」という写真作品が誕生した瞬間だった。


一応、その柄だけでドラを叩いてみたが、「バイーン」という乾いた音だけが響いた。

恐らく僕はがんで死ぬんだろう。

医者に見放される前に、すでに神に見放されてしまったから。


奥の方にも別のドラがあったから叩いてみた。

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基本的に寒くて撮った写真の確認は出来ないから、このような酷い構図になる。

まるで行き倒れだ。

フランダースの犬のように、天使に担がれて召されてしまいそうな絵だ。


しっかりとやる事はやったので下山を開始します。

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中々楽しい山上公園だった。

つらい事があってこそ、物事は楽しむことが出来るんです。

そう自分に言い聞かせてみた。


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ここからは再び来た道を戻るんだけど、一つ楽しみにしていた事がある。

それは「シリセード」だ。

登山用語なんだけど、要するに自分のケツをソリにして滑って行くという下山手法。


シリセードをするには持ってこいの場面がやって来た。

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しかし一つ大きな問題がある。

僕は「痔」という重い病に侵されているのだ。


万が一雪の中にごつい岩が隠れていたりした日には大惨事だ。

たちまち僕のケツが裂けることは避けられない。

シャレのようだがシャレでは済まない大事だ。

もし穴にスペシャルヒットしてしまったら、僕はこの白銀の世界に鮮血の赤いシュプールを描く事になるだろう。

人には色んな死に様ってやつがあるだろうが、ケツから血を吐いての失血死ほど救いの無い死は無いはずだ。


しかし、時に男は命をかけて挑戦をしなければいけない場面がある。

ここで逃げたら武士の名折れ。

全国のヂフレ(痔フレンド)達の為にも、ここはパイオニアとなる道を選ぼう。


僕は意を決してケツで滑って行った。

これがまた結構楽しいじゃないか。

少々意気込みすぎたか、思いのほかあっさりと下って行けた。

振り返ってもレッドラインは描かれていない。

成功だ。

ヂフレ達よ、恐れずに滑って行くが良い。

門を守りつつ、門をこじ開けたぞ。


こうして僕は無痔に下山して行った。


下山して、スカイラインを歩いて車に向かう。

この道路の上で、前回の打ちのめされた姿がこれ。

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そして今回見事に勝利を収めて、勝利のガッツポーズ。

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御在所岳との長い戦いに幕が降ろされた。

前回は悔しさから温泉にも入らず帰宅したが、今回は優雅に温泉につかりましたよ。


実はここでひとつ気づいた事がある。

山では余裕が無かったから、温泉から出てから何気に写真をチェックした。

すると、その日の写真が全てISOが1100になっていた。

これは分かり易く言うと、このピーカンの日にすべて「夜景モード」で撮影していた事になる。

当然写真を拡大すると、粒子感がハンパない。


これは写真を撮らない人には分からないかもしれないが、とてつもなくショックだった。

僕にはこんなに天気のいい日なんて、もう来ないかもしれないのに。

先ほどのガッツポーズの1時間後には、もううなだれて落ち込む男の姿があった。


終わり悪けりゃすべて悪し。


すかさず嫁からのメール受信。

「山行く時の約束ってどんなでしたっけ?」という文章。

以前恵那山遭難疑惑の時(参考記事)に、僕は反省文を書かされてその時の約束の事だ。

お義母さんには行き先と下山時間は伝えてあったけど、嫁とは話す時間が無くて伝えていなかった。

必死で釈明メールを打つ。

嫁から受信。

「ふ〜ん。」

うわあ、絶対怒ってるじゃん。

どうせあなた仕事なんだから、お義母さんに伝わってれば良いじゃない。

でもそんなことは言えない。


どうやらこれでまたしばらく山には行けないかもしれない。

もう御在所を制覇した達成感のカケラは、ミジンコのフン程も残っていなかった。

僕の頭は白銀の世界のように真っ白になり、心の中はホワイトアウトで先が見えない。


次に山に行けるのはいつになることか。

次の目標は中級レベルの百名山「伊吹山」と定めていたが、まずは上級レベルの家庭の恐山が立ちふさがる。

アルピニストへの道は長く険しいのだ。



鈴鹿セブン五発目〜御在所岳〜 完



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