御在所岳/三重

さよならウルフマン〜御在所岳〜

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こんなはずじゃなかったのに。


前回の池田山で華々しく雪山デビューを果たしたゴールデンルーキーが(参考記事)、二試合目の登板でめった打ちを食らった。

吹雪の中、まさしくプロの洗礼をその一身に受ける姿が上の写真だ。

この直後、心が折れてしまった彼は敗退して無様に下山して行った。

場所は御在所岳6合目。6回の裏のマウンド。

勝利投手の権利を得た直後の、めった打ち降板だった。



そもそも御在所岳は鈴鹿セブンの一角だから、本来ならブログタイトルも今までの流れで「鈴鹿セブン五発目〜御在所岳〜前編」とかになるはずだった。

しかし登頂は叶わず、鈴鹿セブン初の敗退記事となってしまったので、今回は「さよならウルフマン」というタイトルを付けさせてもらった。

例のごとく、御在所岳を7人の悪魔超人に例えるならば「スプリングマン」だ。

本来御在所岳は鈴鹿セブンのリーダー格の山だからバッファローマンで行きたかったが、やはりバッファローマンは最終戦に取っておきたい。


御在所岳は難易度的にはあまり高くなく、他の山を攻める際の足がかりにもなる山。

いわゆる「ホップ・ステップ・ジャンプ」で言う所の「ステップ」に当たる山だ。

なので、強引だが全身バネ超人であるスプリングマンに繋げてみた。(だんだん苦しくなって来たか?)


そのスプリングマンに見事に敗退してしまったアイドル超人が「ウルフマン」である。(※TV版ではリキシマン)

鳥取砂丘においてサンドデスマッチでウルフマンと対戦し、必殺技「デビル・トムボーイ」でウルフマンをバラバラにして惨殺した超人だ。

そして今まさに、僕はスノーデスマッチで心をバラバラにされてしまったわけだ。

そんなウルフマンの敗退の記憶を辿ってみよう。


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そもそも今週は山に行くつもりは無かった。

まだアメリカから雪山装備が到着していなかったからだ。(参考記事

しかし天気予報を見たら、日曜日の午前中はずっと晴れで午後から曇りの予報。

なので、僕は我慢出来ずにスプリングマンの挑発に乗って御在所岳へと向かってしまったのだ。


しかし、御在所付近を走る僕の目の前には明らかに「晴れ」ではない光景が展開されていた。

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本来であれば御在所岳が見える場所なんだが、思いっきり雲の中に隠れていらっしゃる。

なにやらポツポツとフロントガラスに水が滴ってるし。

証拠として、上の写真と同時に撮ったiPhoneの現在地の天気予報が下記のものだ。

IMG_0167.png

僕はパラレルワールドに入り込んでしまったのか?

何度見比べてみても、目の前の光景とIPhoneの画面の内容とが合致しない。

晴れマークな上に降水量は「0」となっている。

ウェザーニュースよ、フロントガラスを濡らすこの水をどう説明してくれるんだ。


しかし、せっかくここまで来てしまったんだ。

とりあえず出発地点の、鈴鹿スカイラインの冬期閉鎖ゲート前の駐車スペースへ移動した。

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なんとか雨は上がったが、上空は分厚い雲で覆われて御在所岳は見えない。

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まさに今の僕の心の中の情景をビジュアル化したかのような空模様だ。

全く気分が上がらない。

そもそもこんな状況で、ついこないだ雪山童貞を喪失したばかりの初心者が挑んでもいいのか?

こんな浅い経験値と技量で、相手を満足させることが出来るのか?

まあ、とりあえず行ける所まで行ってみよう。

最悪、この山はロープウェイがあるからそれで下山出来るし。


というわけで、裏道登山口までしばらくはスカイラインを歩いて行く。

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トンネル手前の右側の登山口に入れば、いよいよスノーデスマッチのゴングが鳴る。

しばらくは普通に苦もない道が続くが、徐々に積雪が増えてくる。

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まあとりあえず風もそんなにないし、この時点では結構行けるんじゃないかって思ってた。

確かにウルフマンも、出だしは突っ張りが決まって試合を優勢に進めていたはずだ。


やがて凍った木の橋が現れる。

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前方の単独女性登山者を狙っているストーカー野郎に見えるが、単にビビっているチキン野郎だ。

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ほんと、この手のリアルに滑って落ちる事が簡単に想像出来るトラップは勘弁願いたい。

夜這い野郎のように、ソロリソロリと慎重に渡って行く。


なんとか渡ってホッとしたのも束の間、さらにグレードアップした橋が立ちはだかる。

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スプリングマンの容赦ない波状攻撃。

さらに慎重に、ジジイ並の牛歩で先へ進んで行く。


やがて、すっかり雪原になってきた。

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日曜日とあって、前日から踏みならされた後があるからアイゼンを着ければ問題は無い。

所々、極太のツララも登場して「雪山らしさ」を演出してくる。

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こいつでぶん殴られたら、たちまち絶命するだろう。


しばらく進んで行くと「藤内小屋」が現れた。

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以前ビビるSと裏道登山道を通って下山した事があるが、その時藤内小屋は大型台風の影響で損壊していて、当時ボランティアの人達がコツコツと復旧作業をしていたのを見た事がある。

あれから月日が経ち、もうすっかり立派な山小屋が復活していた。

規模は違えど、これを見れば被災地の復興にも希望が持てる。


小屋の休憩広場には二匹の可愛い犬がいた。

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とても人懐っこくて、愛らしい犬達だ。

ちょっとした名物犬の様で、登山者みんなから可愛がられているようだ。

ウチの嫁もこれくらい寄り添って来てくれると嬉しいんだが。


夢ばかり見ていてもしょうがないから、しばらくこいつらと戯れた後出発。

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徐々にあたりは深い雲に包まれて行く。

行く手の山は完全に雲の中で、不安がよぎる。

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とりあえず行ける所までは頑張るぞ。

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途中、信じられない程冷えきった水を飲んで一息つく。

夏場なら最高の冷えっぷりだが、この時期は痛いくらいの冷たさを堪能出来る。


次第に登山道は山深く入り込んで、積雪量もハンパなくなって来たぞ。

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いいね、雪山やってますって感じだ。

アイゼンを着けていても、やはり滑る所は滑る。

しかし今日はセンター試験で学生さん達が頑張っている。

君たちの為にもここで滑って転ぶわけにはいかない。

誰もそんな事は望んでいない余計なおせっかい登山は続く。


さらに途中でこんな強者も現れる。

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ホンモノの方ですね。

マゾってやがるなあ。

多分この先に「藤内壁」っていうクライマー達のスポットがあるから、ここをベースにして攻めてるんだろうなあ。

さすがに当分、僕はこの世界には足を踏み入れる事は無いだろう。


やがてその「藤内壁」への分岐点が現れる。

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そこに佇んでいた男の放つ雰囲気は、やはり初心者の僕とは明らかに異質なものがあった。

彼の視線の先には、どどーんと「藤内壁」がそびえ立つ。

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見ているだけで恐ろしい断崖絶壁。

僕も大概マゾ野郎だが、ここを攻めて快感に浸れる程のアブノーマルさは持ち合わせていない。


よくよく目を凝らして見てみると、まさにこれから藤内壁に立ち入ろうとする一人のマゾ野郎を発見。

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僕がよく人に言われる言葉を彼にも贈ろう。

ほんと、やめときなって。



僕はさらに歩みを進めたが、6合目を過ぎたあたりからどんどん前方が霧に包まれて行く。

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気づいた時には、あっという間に僕は濃霧に包まれていた。

次第にみぞれが降り始め、風も出て来て悲壮感に満たされて行く。

でも頑張ろう。

逆境の中での雪山体験は、恐らく晴天時に比べて「はぐれメタル」一匹に相当する経験値が得られるはずだ。


しかし、いよいよ周りがよく見えんくなって来たぞ。

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分かりづらいだろうが、実は左側は結構落ち込んでいる。

足を踏み外せば、滑落して行ってしまう。

しかも所々、ズボッと足が膝まで取られたりして落とし穴パニックだ。

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なぜか人の踏み後も少なくなって来て、足場が悪い。

このわずかな足跡を辿らないと、いつどこでズボッと行って滑落するか分からない。

実は後で気づくんだけど、僕はこの時登山道が崩落した時の臨時迂回ルートを進んでいた。


それでもなんとか進んで行くんだが、いよいよ不安になって来た。

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なんだか映画とかでよく見る、遭難の風景とよく似てるね。


ここでようやく気づいた事がある。

あ、楽しくないって。


やや気づくのが遅い感があるが、そもそも僕はここにエンジョイ雪山登山をしに来たはずだ。

望んでマゾる必要なんて何も無いじゃないか。

はぐれメタルで一気に経験値を上げるなんて楽をしちゃダメだ。

やはりコツコツとレベルを上げて行こうじゃないか。


こうして男の心はこの瞬間ポッキリと折れた。

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もう…帰ろう…。


チキンと呼ばれてもいいさ。

そう、これは勇気ある撤退なんだ。

そして僕はスプリングマンの「デビル・トムボーイ」をまともに食らって、心がブチブチに引き裂かれた。

そして僕は元来た道の下山を始める。

何度も言うが、本日の天気予報は晴れでした。

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藤内小屋まで戻って来た僕は、頂上で食べるはずだった昼食を作り出す。

するとあの可愛かった犬達が豹変し、激しく僕に餌を要求してきた。

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すごいがっつきっぷりだ。

そしてその勢いで僕の食べかけたおにぎりを奪われてしまった。

敗退して撤収して来た上に、犬にごはんまで奪われるなんて。

のび太にも匹敵する情けなさだ。

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犬達の攻撃は止む事が無く、まったく落ち着いて飯が食べられない。

なぜなんだ、他にも登山者がいてバナナとか食ってるやつだっているじゃないか。

どうして僕なんだ?

負け犬だからか?

マスオという弱い立場の人間だからか?


収まらない被害妄想。

少しも飯がおいしくなかった。


オシッコしてから下山しようと思ったが、トイレ利用には100円の協力金が必要だった。

僕の所持金は1000円だったが、札だから100円硬貨が無い。

黙って使えばいいんだけど、変に律儀な性格だもんでグッと我慢した。


案の定そこからの下山は耐尿との戦いとなった。

ちょうどいい放尿スポットが無い。

たまに他の登山者とすれ違うから、放尿シーンを目撃されてこれ以上惨めな思いはしたくない。


もじもじと奇妙な動きで下山し、時折ヤバめな時は座り込んで尿意を落ち着かせる。

スプリングマンの容赦ない追い打ちが続く。

やがて大きな岩があったので、隠れて快感の放尿。

スプリングマンに一矢を報いる事だけは成功した。


やがて下山し、再びスカイラインをとぼとぼと歩いて行く。

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背中に敗北感が漂っている。

車に到着して、空を見上げると雲間から光が差し込んでいた。

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天気、良くなりそうですね。

僕は無言で荷物を車に放り込み、悔しさから温泉にも入る事無く帰宅した。


こうしてウルフマンはスプリングマンに完敗した。

しかし待ってろよ、スプリングマン。

もうすぐアメリカから、雪山装備が到着する。

それを身につけて、再びモンゴルマンとなってリングに立ってリベンジしてくれる。

それまでバネ洗って待っているがいいさ。

次こそは負けないぞ、この野郎。


鈴鹿山脈に負け犬の遠吠えがこだました。


さよならウルフマン〜御在所岳〜 完


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〜おまけ〜

失意の撤退から数時間後。

今回の登山をカウントされてはもったいないと感じたから、早速僕は家族サービスに邁進した。

向かった先は長島にある「なばなの里」のウィンターイルミネーション。


鈴鹿から岐阜まで帰って来て、再び鈴鹿方面へと移動する空しさよ。

でもここで家族サービスをしっかりこなしておけば、次回の御在所リベンジも行き易くなるってもんだ。

もうすでに、ここから僕の戦いは始まっているんだ。

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うむ。

僕は人工物には全く興味はないが、りんたろくんも喜んでいるからいいではないか。

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数時間前まであんな吹雪の中で、一人格闘していたとは思えないギャップだ。

実は僕はあの時死んでしまっていて、これは天国への回廊なのか?

結構奇麗じゃないか。

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日本の四季というコーナーでは「樹氷」をイメージしたイルミネーション。

本来であれば、僕は今日本物の樹氷と戯れていたはずだったんだが。

これは当てつけなのか?


そしてソツなく家族サービスを終え、帰宅した。

長い一日だった。


次回は美しい樹氷とともに、御在所岳の頂上に立つ笑顔の僕をお送りしますね。



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