気を取り直して、展望台に立ってみた。
わざわざ展望台を作るくらいなんだから、さぞや凄い展望なんだろう。
しかしそこからの眺めは、ほとんどが木でチラ見で遠くの山が微かに見える程度だ。
なにも展望出来ないぞ。
一体何のためにこの展望台を作ったんだ?
何もない頂上を少しでも華やかにしようという努力は認めるが、必要だったのか?
一応インターバル撮影で展望台に立つ己を撮ってみる。(一番上の写真)
優雅にさすらっている姿を数枚撮っていると、急な突風でカメラがゆっくりと倒れていったのが見えた。
いかん、大事な一眼が壊れてしまう。
家に帰って確認すると、「必死で駆け下りる私」という写真が撮れていた。
単独行はいろいろと大変なんです。
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展望台の奥には奥宮があった。
いつものように「嫁が優しくなりますように」と願い、ついでに「雪山お願いしますよ」と祈りを捧げた。
一つ目の願いは毎度無視されるので、せめてアイゼンのテストだけは今日やっておきたい。
しばらく進むと、早速祈りの効果が現れた。
ついに僕の眼前に「白銀の世界」が現れた。
冬山の女神が目の前に降臨したのだ。
「雪だ!雪山デビューだ!」
そしてこの雪が本日見た最初で最後の雪だった。
一応これで華々しい「雪山デビュー」を飾った事になるのか。
勇ましく「星になる」と覚悟を高らかに宣言して来た手前、この結果を素直に受け止めることが出来ない。
いっそ、アイゼン着けてみるか?
しかしこれでアイゼンを装着したら「私は馬鹿です」と周囲にアピールするだけだ。
僕は一体帰宅後どんな内容でブログを書けばいいのだ。かなり恥ずかしいぞ。
というわけで僕の「雪山童貞喪失物語」は随分と安い結果に終わった。
JAROに訴えられる前に、過大な表現があった事をお詫びいたします。
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とりあえずメシを食うために、頂上の先にある避難小屋を目指す。
雪はないが、霜はそこそこ木に付いていて雪山気分を多少だけ味わう。
なんだかとても中途半端だなあ。
ファンデーションを塗り始めた、スッピンの女性のような中途半端さだ。
キレイな化粧後か、いっそスッピンのが魅力的なんだよ。中途半端が一番いけない。
雪化粧を塗るなら塗る、塗らんなら塗らんとハッキリしていただきたい。
「普段はこんなんじゃないのよ、今日はちょっと時間がなくて…」とENAさんは言うだろうが、こんな中途半端な状態の女性で雪山童貞を失いたくはなかったぞ。
やがてトイレと避難小屋が見えて来た。
中々立派なもんだ。
避難小屋の裏の岩場を登っていくと、やっと景色を展望出来た。
中々の眺めだぞ。
ますます頂上の展望台の意味が分からないが、まあいいだろう。
ぐるーっと見ていたら、思わぬ山が見えた。
恥ずかしそうにコチラを覗いている女がいるぞ。
富士子ちゃんじゃないか。
頭しか見えないが、相変わらずいい女だ。
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展望の岩場を降りて、避難小屋へ行った。
天気もいいし風も弱まったからメシは小屋の外で食うつもりだけど、小屋の中がどんなもんか見たかったからだ。
すると小屋の中から奴が出て来た。「ホクロ」だ。
しきりにホクロは僕を避難小屋へ誘導してくる。
「中でメシ食った方がいいよ。暗いけど外より暖かいし。そうしなよ。その方がいいよ。」
相変わらず自分の意見を押し付けてきやがる。
他人に自分の意見を押し付ける人間はあまり好きではない。
それに風もおさまってるし、外は晴れて気持ちいいから僕は外で食べたいんだ。
多少寒くたって、僕はドMだから何の問題もないんだ。
むしろ好きでやっているんだ、放っといていただきたい。
というわけで、外でメシを食った。
後から来た若い登山者二人が見事にホクロに捕まっていた。
小屋の中からはホクロの自慢話が延々と聞こえてくる。
寒いけど、僕は外でメシを食って本当に良かった。
こうして僕は下山をしていった。
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登山口近くまで下山して来たが、一つ後の楽しみで取っておいたものがある。
「風穴」と書かれた標識があったから、下山の時に行ってみようと思っていたものだ。
表記の文字がギャルっぽい字だが、どんなもんだろうか。
この手のものは意外と想像以上に凄いものだったりする事がある。
しかし60mと言えど、中々ハードな道のりだった。
ちょっと藤原岳を思い出すかのような不明瞭な急坂で怖じ気づいたが、凄い風穴のために頑張るぞ。
しかし行けども行けどもそれらしいものが出てこない。
挙げ句、川まで出て来てもう先へ進めない。
見落としたのか?一体どこに風穴とやらがあったんだ?
周辺をくまなく探索するが、やっぱり何もない。
結局またあのハードな道を戻っていった。
「風穴」こそなかったが、しっかりと僕の心に空しさという「風穴」があいたようだ。
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こうして「恵那山」登山が終わった。
初の雪山と意気込んで来たものの、ご覧のような結果だ。
見事なる不完全燃焼。
何一つ目的を達成する事なく、最後には心に風穴まであけてしまった。
結局買ったばかりのアイゼンは、一度もその力を発揮する事なくザックの中で眠り続けた。
恵那山 〜完〜
….。
ううむ。何か物足りないな。
どうしたもんかな。
こんな時はあれだな。
走っておくか。
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という事で、近くの昼神温泉に移動してランニングを開始した。
ひと山登ってからのランニングなぞは、ただのマゾの酔狂だ。
しかし、この「普段とは違う場所を走る」という事は思いのほか楽しいぞ。
昼神温泉の温泉街を走り抜け、ウォーキングコースなんかを走っていく。
僕は地元の人間ですよという顔をしながら走っていると、ふと目を引いたものがある。
なんだ?愚痴を聞いてくれるのか。
ものすごく愚痴は溜まっているぞ。聞いてもらおうじゃないか。
僕は愚痴聞き地蔵の横の木の椅子に座り、ぐちぐちとグチった。
「山行ったら雪なくて….風ないと思ったら突風で…ホクロがうっとうしくて…風穴なんてなくて….嫁が怖くて….」
お地蔵様は文句一つ言う事なく、僕の愚痴を受け止めてくれた。
その後もちょっとした山をトレラン気味に走って、温泉に入った。
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温泉から出てもiPhoneがずっと圏外のままだ。
山の中と言えど、普通の温泉街なのにどうした事だ。家に連絡出来ないな。
その後高速道路に入ってしまったので電話出来ず。
うかつにもそのまま家まで帰ってしまった。
家の駐車場に止めて気がついた。
なぜかiPhoneがまだ圏外になっているじゃないか。
さすがにおかしいので再起動したら、ちゃんと圏内になった。
すると、途端に大量の着信通知がなだれ込んで来た。
やばい、すべて嫁からだ。
どうやら僕がいつまでたっても連絡してこないし、ずっと圏外だから「奴は遭難した」と大騒ぎになっていた。
嫁は家に不在だったが、すぐさま僕に電話がかかって来て凄い勢いで怒られてしまった。
まあ正直、逆の立場なら怒るよね。公衆電話からでも電話は出来たはずだ。
さすがに猛反省した僕は、この歳にして「反省文」を書く事にした。
直接言い訳するよりも、多少は被害が抑えられると期待したのだ。
チラシの裏に謝罪文を書き込み、「なぜこんな結果になってしまったのか」という経過報告と、「今後の対策」を書いた。
夜、嫁を駅まで迎えにいって、反省文を提出した。
でも読んでくれなかった。
とても怖いじゃない。
これは今後の活動の厳しさを物語っている気がしてならない。
のんきに鈴鹿セブン制覇だなどと浮かれているうちに、役所に緑の紙が提出されてしまう。
くそ、ソフトバンクが圏外になっていなければこんな事には…。
もう一度愚痴聞き地蔵の所に行こうかな。
恵那山後編 〜完〜
雪と地蔵と謝罪と私〜恵那山後編〜
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MATATABI BASE
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