鈴鹿セブン四発目は、7つの山の中で最も地味なネーミングの「藤原岳」(1,144m)。
なんか山の名前が地味だと、登ったあとの達成感も半減しそうだ。
例えば「藤原岳を登った」と「阿修羅岳を登った」では、人に与える印象は随分違ってくる。
しかしこの山、ひそかに御在所岳に次いで人気の山らしいが、その理由は花の山として有名だからだ。
しかし、花にまるで興味の無い僕にはやっぱり地味な山だ。
7人の悪魔超人で例えるならば、地味な正義超人ブロッケンJr.と地味な戦いを演じた「ミスター・カーメン」だろう。
後に作者が名前を忘れてしまったという逸話があるほどの地味超人。
「マキマキー」と叫びながら相手を布でくるくる巻きにし、ストローで水分を吸ってミイラ化させて倒すという地味な必殺技を持つ男。
なので今回は随分気楽な考えで、体力トレーニングがてら往復6時間のロングコース登山道を選んだ。
依然として乳首に微妙な痛みは残っているが、今回は楽にミート君の左足を手に入れることが出来るだろう。
しかし、後に僕は思い知らされる事になる。
ミスター・カーメンは過去の悪魔超人の中で最強の男だった事を。
この山の後半に僕を待っていたものは「リアル遭難」。
結局、トータル8時間半のヘビー登山となった藤原岳を振り返っていこう。
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朝、珍しく目覚まし時計が鳴る前に目を覚まして時計を見た。
「4:44」
起きがけから、「死」のフィーバー。
なんて不吉なんだ。
もそもそと起きようと思ったら、嫁も起きてしまった。
普通「おはよう」と来る場面だが、嫁はおもむろに「腰、揉んで。」と来た。
まさかこんな早朝に腰を揉まされるなんて。
せっかく早く起きたのに。
何か今日の登山に対する暗示なのだろうか?
再び眠りに落ちた嫁を残し、不吉な思いを抱きながらの出発となった。
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今回は聖宝寺道から木和田尾道の周回ロングコース。
スタートとゴールの中間にある簡易パーキングに車を停め、聖宝寺道目指していざ出発。
駐車場から、テーブルマウンテンのような山上台地がある藤原岳が見える。
この稜線をぐるりと歩いて来るのだ。
駐車場から結構歩いて、ようやく聖宝寺道の入口へ到着。
何やら書いてあるぞ。
「入山禁止」とは一体どういう事か。
その先にも柵がしてあって再び入山禁止と書いてあるではないか。
この登山口は聖宝寺という寺の境内にある。
坊主がトイレ掃除をしていたので聞いてみたら、「その道で問題ないですよ」というので再び登山口へ。
柵を越えて行ったが、さらに厳重な柵が出て来て不安でいっぱいになる。
再度トイレ坊主の所に行ったら、「住職に聞きましょう」といって裏口から寺の中へ連れて行かれた。
なぜか突然由緒ある寺の住職に面会することになり、挙げ句
「ダメだよ。あの登山道今閉鎖中だからダメだよ。」って言われてしまった。
トイレ坊主め、適当な事言いやがって。怒られたじゃないか。
仕方なく別の大貝戸道という登山口を目指す。
せっかくここまで登って来たのに(この寺、結構山の上にある)、再び下山。
なんかすごく損した気分だぞ。
下山後、知らずに聖宝寺道を目指して来ていた二人の登山者がいたので「閉鎖中だよ」と教えてあげた。
しかし、そこから大貝戸道へは3人とも同じ道で、特に会話もない何となく気まずいひと時を過ごす。
そうこうして、やっと大貝戸道の登山口へ到着。
駐車場を出て、もうすでに1時間が経っていた。
リングの上にすら立てないのかと思われたが、何とか登山スタートだ。
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猟銃の音らしき音が6発聞こえた。少々不安になる。
道は中々整備され、歩きやすいけどそこそこしんどいスタンダードな登山道だ。
二合目を越えて、三合目。変わり映えしない道は続く。
淡々と続く登山道。激しくはないが、地味にしんどい。
どれほど登って来ただろう。
景色は変わらず、地味な光景が続いて行く。
一体いつまでこの地味な感じは続いて行くんだ。
六合目と七合目。
間違い探しなのか。景色変わってないぞ。
うううううう。
地味だ。地味だ。地味だ。
「地味地味地味地味地味地味ィィィッッッ!UUURRYYYYYYYYYYY!」
ついに僕にディオが憑依した。
鉄仮面の呪いに侵された僕は、「ズキューーン」と無関節で登山道を登り、「バキュゥゥゥン」と高度を上げて行く。
僕が最初に聞いた銃声らしき音は、他の登山者がディオ化した音だったんだ。
僕の背景音は常に「ゴゴゴゴゴゴゴ」とうなりを上げた。
今までのような「急登」「痩せ尾根」「藪漕ぎ」といった登山道には、ある種マゾ的な「華」というものがあった。
しかし、これだけ「しんどいけど普通」が続くのも、ニュータイプの拷問だ。
「普通」と言う名の「苦痛」。
新しきマゾの世界。
徐々に奇妙な体験。
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さすが藤原岳。
地味なネーミングに恥じぬ地味な登山道。
ブロッケンJr.とミスター・カーメンの地味超人同士の泥仕合は続いていく。
そしてついに八合目。
沢山の登山者が、コンビニ前のヤンキーのようにたむろしている。
そんな場所はさっさと通り過ぎて行く。
登山道はやっと雰囲気が変わって来た。
何やら屋久島のような苔っぷりだ。
空もひらけて来て、やっと良い感じの登山になって来たぞ。
さらに高度を上げて行く。
そろそろしんどくなって来た辺りで、前方に色鮮やかなお花が見えた。
これはいよいよここから「花の藤原岳」の本領発揮なのか?
期待を胸に、奇麗なお花の場所まで行ってみた。
遭難死亡者の慰霊碑への献花じゃない。
少し嬉しかった気持ちが、一気に切ないものになってしまった。
実に不安をあおる演出だ。
やがてやっとこさ九合目到達。
ここからは員弁の街を見下ろすことが出来る。
よし、よし。登山らしくなって来た。
こういうご褒美がなけりゃやってられない。
ここからは開放的な登山道で、良い感じで登って行く。
しばらく進んで行くと、避難小屋が出て来たぞ。
登山口からここまでの参考時間は2時間30分と書いてあったが、すっかりディオに取り憑かれていた僕は1時間20分で登りきった。
地味すぎたが故の「ディオズ・ハイ」状態だったことがよく分かる。
ここまで来れば、後は山上台地が広がる。
避難小屋から、こんもりした藤原岳の頂上が見える。
ここから頂上まではご褒美タイムだ。
起伏が激しくないので、お散歩気分で歩いて行ける。
途中で振り返れば、だだっ広い山上台地が広がっている。
サッカーコートが4面くらいは入りそうだ。
タジキスタンのサッカー場よりは上質なグラウンドだろう。
そして、ついに鈴鹿セブン四発目「藤原岳」登頂だ。
山頂からの眺めは中々のものだ。
鈴鹿の山並みがズラリと眼下に広がった。
さあ、本来はここが目指す場所なんだが本日はロングコース。
まだこの時点で全行程の1/3しか来ていない。
どうやら他の大勢の登山者は、ここでゴール。下山を開始している。
しかし僕はまだミスター・カーメンを倒していなければ、ミート君の左足を取り戻せていない。
下山してから分かった事だが、この稜線の先に控える「木和田尾道」はエキスパートコースだったようだ。
山に慣れた、地図が読める人向けの道に迷いやすい登山道。
完全なる調査ミスだった。
地味だ地味だと馬鹿にしていた僕に対する、ミスター・カーメンの逆襲が始まる。
途中からモンゴルマンも乱入し、事態は混迷を極める。
何も知らぬ男は頂上を降り、稜線の先へと消えて行った。
ーー鈴鹿セブン四発目〜藤原岳〜後編へ続くーー
鈴鹿セブン四発目〜藤原岳〜前編
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