藤原岳/三重

鈴鹿セブン四発目〜藤原岳〜後編

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ミスター・カーメンとの延長戦が始まった。

一度避難小屋まで引き返して、ここからは稜線をつたって木和田尾の下山道を目指す。


しばらくは、大変気分のよろしい広々とした山上台地を歩いて行く。

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登山道というか、どこかの広い高原でも歩いているようだ。


起伏の緩やかな山上台地なので、トレイルランナーの人が数人いた。

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そりゃ、ここなら気持ちいいわな。


天気も大変よろしい。

何やらあれほど地味だった藤原岳が、急にオツな表情を見せ始めて来たぞ。

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避難小屋からの30分ほどは、実にいい気分だった。


後で思えば、この30分のみが僕に与えられた快楽時間だった。

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しだいに風が強くなって来たぞ。

しかもかなり寒いじゃないか。

気がつくと滋賀県側から、どんよりとした重い雲が僕を包み始めたではないか。

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そして瞬く間に僕の頭上は分厚い雲に覆われてしまった。

これから稜線で景色を堪能しながら、歩こうっていう時に。

景色の全く見えなかった登りの地味ゾーンではあんなにピーカンだったのに。

もちろん、本日の天気予報はバッチリの晴れだったから僕はここに来たのだ。


そう言えば、ブロッケンJr.対ミスター・カーメンの地味対決の途中で乱入して来た超人がいた。

謎の超人として登場したが、ラーメンマンだという事がバレバレの「モンゴルマン」だ。

彼は現れるなり、リングに煙幕を張ってミスター・カーメンを倒している。

この分厚い雲は、モンゴルマンの登場を示唆しているのか?

ブロッケンにとってはメシア(救世主)だったが、僕にとっては余計なお世話だ。



太陽が隠れて、体感温度が一気に下がる。

慌ててレインウェアを着込んで凌ぐが、手袋持って来てないから手がかじかんでつらい。

もう動いて体を温めるしかない。


そして先ほどまでの明るい雰囲気は完全に無くなり、鈴鹿お得意のちん毛ゾーンに突入して行った。

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雰囲気も何やら怪しげな感じで、寒々しさも倍増だ。

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岩には苔が張り付いているんだが、中途半端なので屋久島のようないい感じの雰囲気が出ない。


最初の目的地「天狗岩」が近づいて来た。

道は急峻な岩場となって行き、雰囲気がなんだか酷い事になって来たぞ。

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まるで地獄絵図だ。

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僕はいつの間にか、ピカソかダリの絵の中に入ってしまったのか。

あまりにも禍々しい光景が続いて行く。

そして、なんとか崖の先の「天狗岩」に到達した。

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「崖の上のマゾ」の誕生だ。


その崖の先っちょからは実に素晴らしい光景が広がっていた。

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実はここで絶景見ながら昼メシを食う予定だったんだが、アホみたいにオノレ撮りしてる最中に別の人にベストポジションを取られてしまった。

今後は、浮かれるのは場所取りしてからにしよう。


仕方なく、大分離れた所で風よけになるちょっと崖下の場所で飯を作る。

本日はカップヌードルのチーズカレー味だ。

3分の時間待ちしていたら、後から来た山ガール達が僕の背後に陣取った。


キャピキャピうるさくて、まるで落ち着けない。

挙げ句その後来た別の若い野郎の登山者が、その山ガールに写真を撮ってと頼み出す。

それをきっかけに僕の背後で、軽い山ナンパが繰り広げられる。

もう全く落ち着けないからさっさと食って立ち去ろう。

しかし、慌てすぎた僕は「ブホッ」と激しくむせた。


飛び散るカレー汁。


そして僕のザックと登山靴に見事に飛沫がヒット。

よりによってカレーというのが厳しい。匂いが残る。


くそう。

後ろの奴らはきっとこんな僕の姿をあざ笑っているに違いない。

いや、それは被害妄想だ。

僕は若い彼らに嫉妬しているのか。

地味なおっさんの単独行。

結局加齢臭にカレー臭を身にまとった惨めな僕は、さっさとその場を立ち去った。


先を急ごう。まだまだ先は長い。くじけるにはまだ早い。

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天狗岩まではそれなりに登山者がいたが、みんな引き返して行ったようだ。

ここから先、突然周りに誰もいなくなり、登山者は僕だけじゃないかというくらい静まり返った。

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どんよりとした天気のせいかずっと夕方のような景色が続いて、何やら「寒々しさ」「怖さ」「寂しさ」が入り交じる切ない戦いになって来た。


その後は、晴れていて風も穏やかな日であれば気分の良い道と思われる区間が続く。

足下はフカフカの落ち葉ロード。

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今ここに落とし穴が設置されていたら、間違いなくひっかかるなと独り言。

そんな僕の悲しい被害妄想野郎っぷりに再度あきれる。


かと思えば、今度はフカフカの草原ゾーンだ。

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その先は、木がみんな風のせいで激しく斜めっているゾーン。

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これだけ沢山の木が斜めっていると、平衡感覚が鈍って気持ち悪い。


黙々と歩き続けて、やがて「頭陀ヶ平」に到達。

眼前には巨大ロボットのような無骨な鉄塔がそびえ立つ。

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もしくはミスター・カーメンのピラミッドリングなのか。

送電線が僕にはリングロープに見えた。

「お前を逃がさない。マキマキー。」と言っているようだ。


そしてここからは、展望が開けて下界が見える。

そこには予想通りの光景が見て取れた。

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下界、めっちゃ晴れてる。

曇ってんの僕の頭上だけじゃない。


そして、ついにポツリポツリとアイツが降って来た。

もはや何が降って来たかの説明はいちいちしないでもいいだろう。

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その後の道は、益々寂しさを醸し出し始める。

景色も暗いし、気分も暗い。何やら基本的に楽しくないぞ。

これだけ寂しい登山も久しぶりだ。

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あれ、おかしいぞ。景色が滲んで見える。

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きっとアレだな。汗が目に入ったんだ。

寂しくなんて….。


そうこうして歩みを進めていると、木和田尾道まであと少しの所で前方から一人の登山者が現れた。

彼は僕に話しかけて来た。

「あのう、下山する道はどこでしょうか?木和田尾道行ったんですけど道が怪しくなって来たんで戻って来たんですが…。」

どうらや僕が下る予定の木和田尾道から、道が分からなくて引き返して来たようだ。

しかし彼もほとほと運のない男だ。

よりによって登山初心者で遭難打率がイチロー級の僕に助けを求めてくるとは。

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今後、彼とは運命の行動を共にする事になった。

ちょうど寂しかった所だし、そんな怪しげな道であれば一緒に行動した方が良い。

彼はKさんといい、大阪から来た同い年の放浪野郎。

僕もKなので「遭難学園KKコンビ」のタッグを組んで、ミスター・カーメンに挑む。

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木和田尾道は地図にも「迷」マークが記載されているほど迷いやすいルートだ。

ピンクのテープだけが頼りで、注意していないとあっという間に方向を失う。


まだ最初のうちは、分かりにくいながらも紅葉の名残を見ながら我々は進んで行った。

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しかし、いつのまにかピンクのテープが途切れた。

Kさんがここまで来て怪しくなって戻ったという地点だ。


地図を見てもiPhoneのGPSを見ても、決してルートも方向も間違っていない。

とにかく尾根まで出ようという事になって、全く印のない道を激しく登って行った。


ありえないルートだったが、なんとか尾根まで到達したらピンクテープが復活した。

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そして危うく見落としそうになったが、647m地点のピークに出た。

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地図上でも確認したが、やはり間違ってはいない。

恐ろしく分かりづらい道が今後も続いて行く。


やがて鉄塔が出て来た。

ここが地図上で現在地を確認出来た最後の場所だった。

方向も合っている、それらしい尾根道があったのでその道を進んで行く。

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しかし、ここからがミスター・カーメンの本気ゾーンだった。

すぐにピンクの目印を見失い、我々はあっという間に方向感覚を失った。

現在地を確認しようとIphoneのアプリを立ち上げたが、よりによって僕の作って来た地図がこの場所でトリミングされていた。

強烈な凡ミスだ。


コンパスで方向を見定めて進むが、当然もう道ではない。

坂は急に落ち込んで行き、このまま進んで行けば転落の危険性も出て来た。

どでかい野生の鹿まで出て来る始末。

お互い口にしないが、明らかに我々は遭難していた。

鉄塔の位置まで戻ろうにも、ちゃんと戻れるかも分からない状態。


いつの間にか、我々はミスター・カーメンの布に徐々にマキマキされていたのだ。

そして弱った所でストローを突き刺してきて、水分を吸ってミイラにする気だ。

地味だが強いぞ、ミスター・カーメン。

鈴鹿セブン四発目にしてついに挫折なのか。

というか生きて帰れるのか?



このままコンパスだけ信じて下山方向に突き進めば下界に出られるかもしれないが、やはりここは基本に立ち返る事にした。

登山初心者にして「遭難のベテラン」でもある僕の予感がアラームを鳴らしていたからだ。

とにかく現在地が確実に把握出来た鉄塔まで戻ろう。

我々KKコンビは自分たちが遭難している事をお互いにしっかり確認し、とにかく上を目指し登って行った。


急坂をガッシガッシと登って行く。

Kさんはトレッキングポールを持っていなかったから、僕のを1本貸して助け合う。

彼は大分体力が尽きて来たのか、ぜぇぜぇ言ってどんどん遅れて行く。

お互いが離れてしまってはさらに被害は増大だ。

二人で励ましあいながら、道なき道を何度も転びながら必死で高度を上げて行く。

正直、もし一人きりだったら僕は絶望していただろう。



やがて見覚えのある木が出て来た。

「マキマキの木」だ。

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ツタが3本マキマキしていたから印象に残っていた木だ。

ここから鉄塔までは、なんとか記憶を辿りながら進んで行けた。

そして我々は鉄塔まで戻る事に成功した。


よかった。

まだなんとか生きてるぞ。

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落ち着きを取り戻し、再び鉄塔周辺をくまなく調査する。

すると進行方向と逆方向にもう一つ道があった。

その道はU字にカーブして、正しい方向に進んでいた。


そしてついに我々を歓喜させる漢字一文字が現れた。

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「善」

なんて甘美な響きだろう。

これでもう間違いないはずだ。少なくとも「悪」い事は起きないはずだ。


本当に合ってるのかと思わせるような道だったが、ピンクのマークは続いて行く。

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やがて、ついに普通の登山道に辿り着いた。

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普通だ地味だとあれ程馬鹿にして来た登山道が、今の僕にはレッドカーペットのように華やかな道に見えた。

「普通」って事は「善」って事なのだ。

深い哲学がそこにはあった。


そして無事に下山完了。

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戦友のKさんとガッチリと勝利の握手を交わす。

この瞬間、やっとミート君の左足を取り戻した。

ミスター・カーメンよ、実に強かったぞ。

ゆでたまご先生が忘れても、僕はお前の事は忘れないぞ。

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帰りしな、我々が彷徨っていた山中を仰ぎ見る。

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ちょうど二本目の鉄塔が、遭難の分岐となった鉄塔だ。

最悪、送電線を目印に降りるつもりだったが、絶対に無理だった。


やっぱり鉄則は、自分の位置を見失ったらとにかく戻る事。

なんなら人生を見失いがちだから、一度独身に戻ってみるか。

しかし嫁のマキマキからは逃れられそうにない。

すでに僕はミイラ化していて、ファラオには逆らえない。



さあ、鈴鹿セブン制覇まで残す所あと3つ。

徐々に超人難度が上がって来ているぞ。

というか僕は登山に向いてないんじゃないかと思うほど、毎度トラブッてる。

無事に帰ってこそ冒険だ。

今後はこれでもかと調査してから挑みます。

ご心配おかけいたしました。


ーー鈴鹿セブン四発目〜藤原岳〜完ーー



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