◉日々のツレヅレ

不惑の庭男〜今宵はやさしくHold me tight〜

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あの男が帰って来た。

晴れた休日にどこにも行けない時に現れるダークヒーロー。

「庭男」である。


もはやすっかりシリーズ化してしまったこの哀れな企画。

今回はそんな彼の心の傷口にモンゴル岩塩を塗り込むかのような、さらなる自傷スパイスが加味されている。

ついに彼は禁断の荒技、「自分の誕生日を庭で一人で過ごす」というハードプレイに打って出たのである。


40歳になる節目の日に庭で過ごす。

彼にはちゃんと家族がいるはずなのに、一体何故?

人によってはこれほど悲しい情景はないだろう。

しかし彼は自ら望んでそんな自傷行為に突入して行ったのである。


とある地方に暮らす、そんなささやかな40歳ホヤホヤ男のお庭風景。

ハンカチ片手にサラッと振り返って行こう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


誕生日当日。

庭にはお馴染みのアイツの後ろ姿が確認された。

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この庭男シリーズの時は、毎回空はほんと透き通るような青空ばかりだ。

だからと言ってヒャッホイと叫んで遊び行ければ、こんなダークヒーローになんかなりはしない。

庭男はただただ恨めしそうに、その青空を眺める事しか出来ない。

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このように「喉から木が出てしまう」ほど遊びに行きたいがそうはいかない。

今日はこの庭でどうしてもテストしたい事があるのである。


この土日はどこにも遊びに行けないが、実は来週末は遊びの許可が出ている。

そこで男が狙っているのは「1泊2日・鈴鹿セブンマウンテン完全縦走」。

極限まで荷物を減らさないと達成不可能なこの企画に対し、男は初の「タープ泊」を目論んでいた。


しかし春と冬が行ったり来たりのこの時期、果たして虚弱で冷え性なこの体がタープ泊に耐えられるのか?

そのテストの意味を込めて、彼は「今日は試しに庭でタープ泊してみよう」と思い立ったわけである。

それがたまたま快晴の誕生日にぶち当たってしまったわけで、別に彼も好きでこの日を選んだわけではない。


そしてサササッとタープ設営。

やっと正式にお披露目の運びとなった、ローカスギアの「タープX・デュオ・シル」である。

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実は去年の夏の段階で購入し、沢泊で使うつもりだったこいつ。

しかしお馴染みの台風のせいで沢登りの計画は潰れ、その代わりに行われたのがあの「小太郎の悲劇」。

そこで僕は山頂でゲロを吐いた挙げ句に廃人になってうどんをすする羽目になり、このタープも日の目を見ぬままお蔵入りしていたのだ。


ちなみに最近になって、やたらと自分の中でタープ熱がアツい。

もうすっかり自分の中で「テント」という選択肢は無くなり、「シェルター」とか「非自立式」というワードに対してハァハァと興奮が抑えきれない体になってしまった。

特にタープの自由度や開放感たるや、その姿を眺めているだけで「男のロマン」という名の欲情が溢れんばかり。

ネットでやたら美しく張れてるタープを見るだけで、もう下半身は大変な事になってしまう。

このように居住性を上げるべくガイラインで引っ張った美しいケツを見るだけでも、何杯でもご飯が食べれそうなほどだ。

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この張り方は一番オーソドックス(なのか?)な感じで、この庭特有の伊吹おろしの突風ですらシャットアウトする。

そしてすかさず今夜の寝床をセッティング。

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ちょうどこの時、お義母さんが洗濯物を干しに庭に出て来て、「え!今日ここで寝るの?」と眉間にしわを寄せて驚いていた。

折り悪くお義父さんまで出てきて、「そんな馬鹿な」といった表情。

普通のテントでもご両親の理解を超えた行動だったのが、ついにタープという1枚布だけで庭泊宣言する謎の養子。

価値観が1800度も違うこの親子のカルチャーギャップは、もはや埋まる予感がしない。

ご近所の手前も「マジ勘弁」と思っている事だけは間違いないだろう。


これが中学生がすることならば「中二病」とでも言って諦めもつく。

しかし彼は本日40歳のお誕生日を迎えた立派な大人。

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中学生だった頃の自分に言いたい。

君がイメージしていた40歳ってもっとちゃんとした大人だったはずだ。

快晴のもと、庭でこんな事してるなんて想像もしてなかっただろう?

これが現実だ。

そしてもう一つだけ言っておく。

お前、とんでもないドSな女と結婚するから覚悟しておけよ。



と、ひとしきり惨めな気持ちに浸った所で次のテストへ。

鈴鹿セブン完全踏破のためには、さらに1gでも軽くしていかねばならない。

「じゃあさっさと痩せて身を軽くしろよ」という外野の声には耳を貸す気はさらさらない。

ってことで、今回はバーナーやガス缶を持って行かずに固形燃料で勝負。

それでちゃんとメシが炊けるか、というテストです。


使用する台?ゴトク?(この場合なんて言えばいいんだ?)はこちら。

こっちも半年以上出番がなかった散財アイテム、T’sストーブの「固燃Ti五徳」&エスビット固形燃料。

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猛烈な軽さ&上下可変式のニクい奴。

もちろんこんなマニアック商品は、お馴染みの闇商人・ランボーズデポのご推薦があった事は言うまでもない。

風はタープでシャットダウンしてるから、あえて風防も無しでトライ。

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あとはひたすら燃料を継ぎ足しながら炊けるのを待つ。

家の中ではお義母さんがせっかく美味しいスパゲティを作ってくれているというのに、あえて庭でメシを炊いてしまうというダンディズムだ。


そんな時、初めて子供会の会合に行っていた嫁がりんたろくんと共に帰宅。

そしてあろう事か、子供会で仲良くなったという他のお母さんとその子供まで一緒ではないか。

嫁としては「最初が肝心」とばかりに気張ってママ友を作って家にご招待したはいいが、いつの間にか庭で旦那がタープ張ってメシを炊いていたというまさか。

その顔からは「何やってんだ」「恥ずかしい」「死ね」というオーラが溢れまくり、戦慄におののく庭男。

ママ友さんも、「え?何?これが旦那さん?え?何この状況?」と行った戸惑いの苦笑い。


そしてりんたろくんがそのママ友さんに、「お父さんは今日ここで寝るんだよ」と余計な事を言う。

ママ友さんは、「へえ〜、そう..なんだ〜」と動揺しまくっているご様子。

こいつは早い段階で、子供会で妙な噂が広まりそうな予感がビンビンである。


やがてママ友さんは早々に帰って行き、嫁は「どうせ風邪ひいて終わるんでしょ。子供たちにうつすなよ」というありがたいお言葉を残して家に入って行った。

この日初めて嫁に会ったが、もちろん「誕生日おめでとう」なんて言葉は発せられる気配すらなかった。


さあ、気を取り直してりんたろくんと共に飯炊き再開。

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物心つく頃から父のこのような姿を見て来た彼は、この状況に何の疑問も持っていない。

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りんたろくんの「お父さん。雨って天使の涙みたいやね。」という謎のポエムを聞いていると、やっと飯炊き完了。

ちゃんとホカホカのおいしいご飯ができた。

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りんたろくんも「うめーうめー」と喜んでほおばる。

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もちろんご飯で腹一杯になってしまったりんたろくんは、この後昼ご飯のスパゲティを一口も食わなかった。

そして庭男は嫁に「なんで昼飯前にメシ食わしてんだ、このニンニク爆弾野郎が!」と言われてしまう事に。

ニンニクなんて食ってないのに…

しかもご両親の前で…

そして私今日誕生日なのに…




午後からは嫁と子供たち連れて庭から移動。

その時の車の中で「あれ?あんた今日誕生日だっけ?ハハ、忘れてた。」と言われる庭男。

中学生だった頃の私よ。

これが現実だ。


向かった先は名古屋の天白公園。

ここには「てんぱくプレーパーク」というものがあり、子供たちは木に登ったり火をおこしたり穴掘ったりノコギリ使ったりって感じで実に自由な感じが良いらしい。

と、調べてはるばる来たのはいいけど、いつものように「閉園時間」に現場に到着するというズサンプレー。

で、結局そこの裏山をハイキングすることに。

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正直ここに来たのは子供たちのためというより、嫁に少しでも自然に慣れてもらおうと画策した我が策略。

この誕生日という一日を、全て「テスト」に費やすと覚悟したのである。

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しかしのどかで何の危険もないハイキングだったんだが、どんどん嫁の機嫌は悪くなる一方。

挙げ句子供が石を持てば「危ない!」、木の棒を持てば「危ない!」、少しよろければ「危ない!」、はしゃぎ回れば「危ない!」と、果てしなくめんどくさい事に。

男の子から木の棒を取り上げるなぞ、武士の魂を取り上げるようなものだ。

ここはさすがに庭男も「あんたは“あぶない刑事”か!大人が危ない危ない言ってたら子供は何も出来ないじゃないか!」と徹底抗戦スタイル。

すると嫁の口から本年度もこのような名言が飛び出した。


「うるさいね。顔に犬の肛門押しつけるよッ!」と。


しばし時が止まり、事態の把握に奔走する庭男。

全く話が繋がっていないように感じたのは私だけか?

ちょっと反抗しただけでさすがに顔に犬の肛門はキツい。

そっちのが木の棒を持つよりよっぽど危ない気がするのは私だけだろうか?

そしてそんな事を言われちゃった私。

何度も言うが、今日はお誕生日です…。



余談だが、何故かこの時りんたろくんが突然カミングアウトをした。

「僕ね、保育園のみんなに“僕のお父さんは大人なのにウンコを漏らした事があるんだよ”って言っちゃった」と。


なんて事をしてくれたんだ、りんたろう。

確かに二十歳を超えてから4回ばかりウンコを漏らしたが、それを言っちゃあいけないぞ。

むしろあんた「うんこマンJr.」とか変なあだ名つけられるぞ。

というか、お父さんは悲しいぞ。


もはやご近所でも子供会でも保育園でも「不思議な人」で通って行ってるような気がしてならない。

もう、なんか色々どうでもいいや。



さあ、気を取り直して次のテスト場所へ。

夢のファミキャンに向けて、少しでも嫁にテントでの団らんの楽しさを知ってもらう第一歩として向かったのがここ。

グランピング気分が味わえる「8カフェ」でございます。

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インドアだけど、シャレオツなキャンプ場的な雰囲気を醸し出し、テントの中でメシを食うというコンセプトのこのカフェ。

個人的にはこのオシャレ洪水に「くっ、こしゃくな…」的な気分になってしまうが、嫁的にはこれ以上ない「第一歩」な場所。

しかも特筆すべきは、この場所は嫁が見つけて予約したってこと。

これは夢のファミキャンに向けての大きな前進ポイントだ。


そんなこんなもあって、少々落ち着きがない庭男。

実は嫁が予約する時、何らかのバースデーサプライズをお店側に頼んでいるんじゃないだろうか?

突如照明が暗くなり、スピーディーワンダーの「HappyBirthday」が流れてクラッカーが鳴るんではないか?

そしてなんか火花がバチバチなってるケーキなぞが運ばれて来ちゃうんじゃないのか?


ソワソワし続ける庭男。

しかしいつまで経ってもスピーディーの曲は流れない。

やがて普通にデザート頼んじゃってる嫁と子供たち。

そして何事もなく全てが終わった。


所詮庭男に似合うのはケーキではなく、犬の肛門だけである。

家に帰った庭男は、暖かい家庭の光に背を向けて静かにタープの中に入って行った。

その頭上には、いつも山ではお目にかかれない満天の星空が。

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こうして彼の記念すべき誕生日の夜が更けて行く。

夜空には流れ星がひとしずく。

そして庭男の頬にも何かがキラリひとしずく。

彼が静かに願いを唱える。


誰か私を…

やさしく抱きしめて….



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


こうして華々しい40代のスタートを切った庭男。

毎度この庭男シリーズは涙なしには直視出来ませんね。

ちなみに翌日、彼の渾身のタープは子供たちの恰好のサッカーゴールになってました。

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トレッキングポールとタープにバシバシボールや足が当たって、お父さんはヒヤヒヤでした。


そんなこんなな厳しすぎた誕生日を乗り切ったのも、全ては今週末の鈴鹿セブン完全踏破のため。

最近の平和ボケしたこの体に喝を入れ、昔のようなくだらない無茶がしたくなったのである。

そしてそんな覚悟の庭男の前にはこのような週間天気予報が。

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天からの小粋なバースデープレゼント。

庭では散々晴れる男も、やはり現場はいつも通りの安定感。

雨の日にタープデビューなんておマゾが過ぎるぜ。


ってことでさすがに嫁に頼み込んで日・月(祝日)に予定変更。

でも、もう正直今回は景色なんてどうでもいい。

あくまでもこれは男塾訓練。

久々のがっつり論愚覇威苦。

二日間での累積獲得標高は実に5,000mオーバー。

もちろん今回共にアタックするのは、追込み請負人「モンゴリアン松尾」。

しかし鍛え抜いた?このボディで、今度は奴を吐かせてみせる。


ってことでその日は鈴鹿のどこかにこの松尾・田沢コンビが出没します。

物好きな人はぜひ救援物資・ゲロ袋などを持って応援に駆けつけて来てくださいませ。

そしてどうか田沢をやさしく抱きしめてやって欲しい。

何ならバチバチ火花のケーキとか持って来てもらっても良い。

とにかく犬の肛門以外だったらなんでもウェルカムである。



とりあえず華の40代のスタート。

現在の老衰っぷりから考えると、恐らく52歳くらいで死んでしまう気がする。

なので1秒1秒、全て遊びに費やして生きて行ってやる。

と言いながら来週あたり、鈴鹿で身元不明の変死体が2つ発見されるかもしれないけど。

美しく張られたタープの下で。


そうならないよう強く生きて行く。


とりあえず、俺。


ハッピーバースデー!






不惑の庭男 〜完〜



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MATATABI BASE

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コメント

    • tmt8gen
    • 2016年 3月 19日

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    鈴鹿ということで気になりますね〜。田中陽気が御在所に来た時よりもずっと気になりますね〜。笑
    どっちからスタートされるんですか?

    • yukon780
    • 2016年 3月 19日

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    どうもです!

    明日は早朝3時くらいから藤原岳に向けてスタートです。
    宿泊地は上水晶谷予定。
    藤原5:20
    竜8:30
    釈迦12:50

    雨乞7:30
    御在所10:00
    鎌12:30
    入道15:30

    の予定。
    ただあくまで予定なんで多分ズレズレになっていくでしょう。
    もしくは竜ヶ岳辺りで下山かましてる可能性も….

    とりあえず、3回吐くまでは頑張ってみようと思います!

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