週末は、どうにも中途半端な天気予報だった。
風も強いし、晴れ間も少なそうだ。
まあどっちにしても、今週もお留守番で子供の世話を命じられていたから何も出来ないんだけど。
でもどっちみちジッと出来ないんだから、何かしなくてはいけない。
土曜日は「3.11」って事もあったから、僕は唐突に親孝行がしたくなった。
何となくそんな気持ちになったんですよ。
お義母さんは、いつもりんたろくんの世話をしてくれている。
たまにはのんびりと自分のやりたい事をしてもらいたい。
そして僕の実母にも、普段中々帰らないから孫の顔を見せに行ってあげよう。
いつも日帰りだから、ゆっくりと一泊して。
ということで土曜日の朝、僕とりんたろくんの二人で急遽実家に向かった。
嫁には言ってないけど、まあ許してくれるだろう。
嫁は仕事だから、初めて息子と二人だけでの帰省。
嫁もいないし、養子の重圧も無いから、これでもかってくらい僕の羽をピンッピンに伸ばすのだ。
親孝行という名の、ただの羽伸ばしな週末のお話です。
たわいもない事がダラダラ書いてあるだけなんで、まあ軽い感じでどうぞ。
その割には、二回に分けてお送りいたします。
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実家に向かう高速道路。
予想通り、りんたろくんがチャイルドシートで大人しくしているはずもない。
もがいて騒ぎ出すジッと出来ない息子。
その気持ちがわかるだけに、なんとかしてやりたい。
SAで、何かアニメのDVDでも買ってやることにした。
そしてそこには、僕も大好きなトムとジェリーのDVDがあった。
なんと4枚組で32話収録で、POPには500円と書いてある。お得だ。
別の高価な列車のDVDを欲しがるりんたろくんに、「お前ジェリー大好きだよな?」と洗脳して行く。
りんたろくんも見事に「ジェリー、すき」と言い出したのでレジへ。
するとレジの野郎が「1000円です」って言うではないか。
どうやら、このDVDだけ誰かが500円コーナーに入れてしまったようだ。
もったいないからやめようと思ったけど、すっかりジェリーに対して目をキラキラさせる男が横にいる。
自分で洗脳しておきながら、渋々1000円の出費。
でもやっぱり面白いトムとジェリー。
今見ると、サイレントなのにここまで楽しませてくれるとても秀逸な作品だ。
音楽との連携も素晴らしい。
しかし肝心のりんたろくんが楽しんでいない模様だ。
トムとジェリーを再生しているにも拘らず、「ジェリー見して、ジェリー見して!」と叫んでいる。
彼にとってのジェリーとは何者なのか?
なんとか高速を降りる。
まずは一路、僕が結婚するまで勤めていた会社に顔を出しに行った。
静かだった社内を、りんたろくんが狂ったように叫びながら走り回る。
繁忙期で大変そうだった社内を、結局荒らしただけの訪問になってしまった。
挨拶もそこそこに、実家に帰って昼メシ。
やはり実家は落ち着くものだ。
この時、僕は台所にいる母さんに「ちょっとコップ持って来て」と言ってハッとした。
普段、マスオの立場の僕は「ちょっとコップ持って来て」なんて言葉すら気兼ねして言った事が無い。
言う前に「今このタイミングで気を悪くしないだろうか?」「調子づきやがってとか思われないだろうか?」「敬語にするべきか、フランクに言うべきか?」とか色々考えた挙げ句、結局自分で取りに行くパターンが多い。
同居養子の悲しさよ。
そして、実家とはなんという落ち着く場所なんだ。
いつもはランニングに行く時も、「じゃあ、りんたろお願いします」と言ってご両親にお願いをして出て行く。
基本的にご両親に何かをお願いする事は、養子の身としては心苦しいのだ。
でもここは実家。ふっとわがままを言いたくなった。
「ちょっと走って来るで、あと頼むわ。」って言ってやった。
ノンストレス。
これだけの事がなんだか嬉しい。
そんな僕がちょっと悲しい。
母さんとりんたろくんが公園に遊びに行ったからランニング開始。
しかし忘れ物好きの僕は、肝心のランニングシューズを忘れて来ていた。
結局すごく重い登山靴で走った。
数十年ぶりに、もっこり山の神社を目指した。
このこんもりした小さな山には神社があって、子供の頃よく相撲大会が行なわれた場所だ。
でも相撲よりも、別の思い出の方が色濃く思い出される。
小学生の頃、この山の中腹に「秘密基地」があった。
そこは僕らの中で「聖地」と呼ばれた神聖な場所。
その基地の中には、みんなが各地で拾って来た「聖書」と呼ばれるエロ本が沢山あった。
誰かが新作を拾って来ると、決まってこの聖地に集合した。
風雨にさらされ、パリパリになった聖書はページをめくるのも大変だった。
当時の「隠し部分」の処理は、海苔のように豪快な黒塗り潰し。
その海苔の先の世界がどうなっているのかという冒険心が止まらない。
その聖書を眺めていても、子供の僕らにはその悶々とした思いを処理する術が分からずにもがき苦しんだものだ。
そんな迷える子羊達を救う救世主は、数年後の桜木ルイの登場まで待たなくてはならない。
そんな事を思い出しながら、ランニングは続く。
このまま走って、地元の友達に会いに行って驚かせに行ってやろう。
はるばる30分ほど走って行ったら、友達は留守でした。
めげずに別の友達の所を目指す。
向かった先は愛知県で最も古いお寺の「真福寺」。
実はここの住職の息子とは同級生で、やんちゃだった彼も大人なしくここで坊主をしている。
しかし驚かす為に会いに行くと言っても、この参道をひたすら登って行かねばならない。
確実に「会いに行く友達のチョイスを失敗した」感が否めない。
ちょっとランニングのつもりが、結局いつもどおりのハードプレイと化した。
延々とダッシュで駆け上がって行く。
瞬く間に腿がパンプアップし、口の中に胃酸がこみ上げる。
何故か「歩いちゃダメだ」というセルフマゾルールが設定され、死にそうになりながら駆け上がる。
これも全て、ふいに顔を出して友達を驚かせる為だ。
そもそもそこまでしてそんな事をする意味が、自分でもよく分からない。
やがて最後の難関。
もの凄い斜度の階段が登場だ。
この段階で、さすがに歩いた。
腿がプルプルして、まともに走れなかったからだ。
登山級のしんどさだ。
ある意味、登山靴を履いて来て良かったようだ。
グハグハ言いながら、完登。
さあ、奴を驚かしに行くぞ。
中にいる友達に会いに行った。
友達は留守だった。
結果的に、一番驚いたのは自分自身でした。
こういう自分の間抜けな姿には今更驚きはしないけど。
こうして僕は、元来た階段地獄を下って行った。
もちろん、この下りで膝を痛めたのは言うまでもない。
せっかくなんで、懐かしい僕の母校の中学校に寄ってみた。
この場所に立って、当時に思いを馳せる。
奇しくもこれから卒業シーズン。
卒業の時、この場所で好きだった子に「第二ボタン頂戴」って言われて天にも昇る気持ちだった。
恐らく義理だったような気もするが、どっぷりとイケテナイ中学生だった僕には革命的な出来事だった。
今でもこの風習って残ってんのかな?
その後、男子校に進学した僕はずっとその子を想い続けていた。
いつまでたっても告白出来ないトゥーシャイシャイボーイ。
結局電話で告白したのは3年後。
当時は黒電話で「ジーコ、ジーコ」と回すダイヤル式。
携帯なんて無いから、その子の「家」に直接電話。
見事にお父さんにヒット。
全身から汗を噴き出しながら、娘さんに代わってもらう。
僕の人生で、この時ほど緊張したことはない。
完全にテンパっていた僕は「ずっと好きでした!」と叫び、その後の数秒間の沈黙に耐えきれず「ゴメンナサイ!」と自ら叫んで、自分から電話を切ってしまった。
相手からしたら、全くわけのわからない迷惑電話。
我ながら、言ってる意味が分からない。
甘く切ない青春のおもひで。
あの子は今どうしているかな?
僕は立派なマゾ野郎になったよ。
そんな事を思い出しながら、再び走り出して帰って行った。
家に着いた頃、嫁から怒りの電話がかかって来た。
僕は知らなかったんだが、どうやらりんたろくんがもう5日もウンコをしていなかったらしく、そんな彼を僕が連れ回して実家まで連れて行ってしまった事に怒っているようだ。
良い事をしているつもりだったけど、どうにもタイミングが悪かった。
ここから急遽「りんたろくん脱糞プロジェクト」が発動。
何も知らずに無邪気に遊ぶりんたろくん。
僕と母さんの魔の手が、ついにりんたろくんの肛門に忍び寄る。
数分後、彼はショッカーのような苦痛にまみれる事になる。
ーーつづくーー
帰省物語 前編〜思春期ランニン〜
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MATATABI BASE
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