北海道中膝栗毛

北海道中膝栗毛9

ツライツライ湖を漕いで行くとやがて釧路川の入口、眺湖橋が見えてきた。

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雨がすごすぎてもはや写真もよくわからない状態だ。

この橋を越えると突然川は原生林の中に吸い込まれて行く。

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感動的な場面のはずなんだが降り続ける雨でどうにも気分が上がらない。
北海道に来る前の週間天気予報では晴れだったじゃないか。

ちなみに単独行を始めて4年位になるが、日帰りだろうと数泊だろうと雨が降らなかった事が一度も無い。
最初から最後まで晴れてるカヌーとやらを一度は経験してみたいものだ。

しばらく進むとカヌー屋さんに教えてもらっていた鏡の間と呼ばれる場所に到着。

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ここは川底から湧き水が出てきており、水は果てしなく透明で水面は鏡のようだ…という話だったが、雨が肝心の鏡の水面を容赦なく叩き付けておりよく分からなかった。

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やがて、多くのカヌー事故が起きた難所「土壁」(本流が壁に向かって流れて、その先には倒木という最悪パターン)を越え、

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数々の危険な倒木を注意深く越えてゆく。

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その後進むにつれ、アブが1匹2匹と僕の目や鼻や耳の周りを飛び始め、やがてそれが数十匹の大群となって僕の周りを飛び始めた。
湖、雨、倒木、カヌーの墓場と言われる土壁などの難所で疲れきっている僕に追い討ちをかけるようなうっとうしさだ。
写真を見てもぐったりとうなだれ少しも楽しそうではない。

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どんなに振り払っても、奴らも「あんさんに置いてかれたらわてら死んでまうねん」とばかりに必死でついてきやがる。

こいつらに名前でもつけたら少しはかわいく見えるだろうと思い、俺親衛隊と名付けてみた。するとどうだろう、あんなにうっとうしかった奴らがかわいく見えてきたわけがなかった。

度々奇声を発しパドルを振り回し発狂寸前になりながら、ほうほうの体で昼頃摩周大橋カヌーポートへ上陸。

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まだ半日なのにこの疲労感と言ったらどうだ。

やっと雨が上がってきたので昼飯を食い、近くの温泉で疲れを癒そうと歩いて行ったら、温泉案内所で今日は人が多くて日帰り入浴は近場では入れんと言われ失意の中カヌーポートへ帰り再出発。

単独行はどんなつらい事も楽しめてしまう生粋のMッ子でなくてはならないのだ、などと愚痴りながら漕いでいると空に青空が戻ってきた。
青空一つで果てしない喜びに包まれるのが雨男の良い所である(?)。

しかしせっかく晴れたのはいいが弟子屈市街を通るこの区間はとても見れたものではなかった。
キレイキレイにピッシリ護岸され、底の浅い用水路のような味気ない区間で晴れてるのが逆に感じ悪かった。

こういった死に行く釧路川も片方の目でしっかり焼き付けるのも今回の目的であったので、精一杯苦々しく下ってやった。

そこを越えると、多少人工物が目に入るが牧歌的な風景になってきた。

上陸できそうな場所にカヌーをつけ、少しよじ登れば広い牧場が広がっていた。

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天気も良く、やっとこの川旅で初めてテンションが上がってた。
そうだ、俺の楽しい川旅はここから始まるのだ。

嬉しい気持ちでカヌーに戻るべくジャンプして草むらへ降りたら右足に激痛が走った。

なんとあり得ない事に釘を打った板が釘の方を上にして落ちており、今朝火傷した右足にジャストヒット。
たちまち靴を貫通し右足裏にブスリと突き刺さった。

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この広い北海道、広い釧路川で何気に上陸し、ピンポイントでその一点にジャンプするあたりさすがのツイテなさである。
釘を抜くと大量の血が流れ出し、川で冷やしていると、だんだん足の周りの川が朱に染まって行きさすがに焦った。
まるでラオウ来襲を告げる修羅の国の血の川のようだ(北斗の拳参照)。

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反省なのだが、こんな時に限って応急セットを持ってきておらず、ひとしきり冷やした後ウィスキーで消毒し、タオルをキツく縛って右足を上げたままカヌーで下った。

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なんとも奇抜なカヌー漕法である。



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