甲斐駒ケ岳/長野

甲斐駒ケ岳1〜放置物語〜

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人々は僕を賞賛し「貴公子」と呼ぶ。

僕が今までに手に入れた称号は以下の通りだ。

「ドMの貴公子」「悪天候の貴公子」「低血圧の貴公子」「奇行死の貴公子」「マスオな養子」etc…


そんな僕の前に立ちはだかる男がいる。

身長2967mの大男。

「南アルプスの貴公子」と呼ばれる「甲斐駒ケ岳」だ。

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これは去年「南アルプスの女王」こと仙丈ヶ岳から撮った甲斐駒ケ岳の写真。

その白くむき出したイカツい山頂部が実に挑発的だ。

「日本三大急登」と言われるだけあって中々のえぐれっぷりだ。


そしてこの度、ついに奴と決着をつける時が来た。

真の貴公子を決定する頂上決戦がここに始まったのだ。


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金曜日、仕事から帰宅し子供の「風呂」「歯磨き」「寝かしつけ」の「マスオ三大任務」をこなしてから出発。


途中、長野山中で道路に飛び出して来た鹿をひきそうになりビビる。

そんないつも通りの軽いウォーミングアップアクシデントをこなしつつ仙流荘の無料駐車場へ移動。

さすがに他にも沢山の車中泊野郎で駐車場は一杯だった。

そのままビールを飲んで車中泊。



4時半起床。

車から出る時に「ブッー、ブッー、ブッー」と激しい警告音が響き渡った。

うるせえなって思っていたら、何と我が車の防犯ブザーが鳴っているじゃないか。

周りにはまだ寝ている大勢の車中泊の車達。


初めての経験にどうしたらいいか分からない男。

今回も寝起きから緊張感溢れる展開だ。

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なんとかブザーを止める事に成功したが、明らかに僕が原因で多くの人がウェイクアップしてしまった。

登山前だというのにすっかり嫌な汗に支配される僕の汗腺。

さすがは甲斐駒ケ岳。

戦いはもう始まっているのだ。



始発のバスに乗車。

こんな悪天なのに多くの登山客でごった返している。

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家に帰ってから気づいたんだけど、この一番右に写ってるおばちゃんが明らかに僕に向かってカメラ目線でピースしている。

別に僕はあなたを撮りたかったんじゃないんだが。



40分程で北沢峠に到着。

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ここは長野側のバスと山梨側のバスが出会う場所。

ゆえに横浜組のB旦那ご一行とはここで落ち合う事になっている。


予定では15分遅れて彼らは到着するはずだ。

みんなが来る前に準備万端を整えよう。


急いで僕は混雑するトイレに並び、すかさず「荷物の軽量化作業」に取りかかる。

僕の大腸ザックから余計な荷物が勢いよく放出されて行く。

しかし勢いがよすぎて「ブッパッピーー」という時代遅れのギャグのような音色も解き放たれた。

トイレの外には順番待ちの多くの登山者達。


本日、早くも二回目の嫌な汗がダラダラ溢れ出た。

甲斐駒ケ岳の先制攻撃はとどまる気配を見せない。

さすがとしか言いようが無い。



それにしても皆が来るのが遅いぞ。

15分遅れの予定のはずが、かれこれ30分ほど経過している。

沢山いた登山者達も次々と消えて行き、いよいよ周りに人がいなくなって行った。


何やら嫌な予感がする。


今日のメンバーはあの伝説の富士山登山メンバー達。

あの悪夢の「極寒富士山頂放置プレイ」の悲劇が蘇る。

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頂上で合流のはずが、僕だけ皆と合流出来ずにひとりぼっちの夜を明かしたあの記憶。

日本一高い場所での日本一孤独な男のご来光だった。



そんな記憶を振り払おうと、ただひたすら待ち続ける悲しき貴公子。

バスが来るであろう山梨県側をひたすら見つめ続ける。

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今なら「大きな玉ねぎの下で」の主人公の気持ちがよく分かるぞ。

また僕は「待ちぼうけの貴公子」という新しい称号を得たようだ。


これはまさかはめられたのか?

実は彼らは別室のモニターで僕を観察して楽しんでいるんじゃないのか?

それでも僕はひたすら彼らを待った。


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もうかれこれ50分くらい待っている。

こんな事ならあんなに慌てて恥ずかしい思いをしてまでトイレに並ばなくてもよかったのに。

しかも時間があるからウォーミングアップのし過ぎで体はすでにふにゃふにゃだ。

中継ぎ投手が1回の表から肩を作り続けて出番を待ち、そのまま9回裏に突入してしまったような気分だ。



念のためバス停のおっさんに確認すると、もう山梨側の始発便は終わったよとの衝撃発言。

携帯も圏外だからどうにもならない。


ついに僕は決心し、一筆したためてバス停のおっさんに託した。

IMGP9010_20120718234005.jpg

まさかこのような展開になるとは。

完全に富士山のパターンじゃないか。


そして僕はたった一人で登山前の記念撮影。

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当たり前だが笑顔が出るはずも無い。

こんなに悲しみを帯びた記念撮影を見た事が無い。


そして甲斐駒ケ岳に向けて歩き出した僕に、別のバス停のおっちゃんが声をかけて来た。

「あと15分したら2台バスが来るみたいだよ。待ってみたら。」

思わぬ情報。

もはやその2台に賭けてみるしかない。




もうかれこれこの峠に1時間以上滞在している。

北沢峠の事なら何でも聞いてもらいたい程に堪能した。

そんな折、山梨側からバスが2台到着。


恐る恐る車内を確認すると、ついに彼らを発見した。

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奥でピースするサドガールはもちろんだが、横綱Kさんまでしたり顔だ。

出発前から僕にマゾを提供してくれるステキな仲間達だ。



で、やっと改めて記念撮影。

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やはり記念撮影はこうでなきゃ。


今回の甲斐駒ケ岳メンバーは右からミスター高山病ことバターN、放置貴公子こと僕、歩く好奇心ことB女房、鶴見のサディスティックガールこと女優E、囁き弘法大師ことB旦那、悪天候男東の横綱こと横綱Kさんの6人。

左のDさんと写ってないけどNさんの夫妻は今回はここから別行動。

ユーコン川を何度も長期滞在した強者で、カッパの補修跡からもかなりの猛者だとうかがえた。

次回はまたじっくりお話がしてみたい。



こうして、いよいよというかやっと登山開始だ。

結局今回も登り始めるまでで一発目の記事が終わってしまった。

相変わらず、今回も好調なスタートダッシュをかます事に成功したわけだ。


さあ、いよいよ南アルプスの貴公子を叩き潰すショータイムの開演だ。

しかしもちろんここからが本番。


壮絶な「突風デスマッチ」のゴングが間もなく鳴らされようとしていた。



〜つづく〜



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