前回は登山開始前から早くも南アルプスの貴公子の地味な先制攻撃に苦しんだ。
さらにまさかの「身内からの放置攻撃」を食らい、大いに不意をつかれる事にもなった。
そしてついに「待ちぼうけの貴公子」が登場してしまうという波乱の幕開けだ。
度重なる細かな攻撃に僕の体はじっとりと脂汗にまみれていた。
そんな男も仲間と合流し、やっと甲斐駒ケ岳制圧に向けて動き出した。
今回は甲斐駒ケ岳との決戦前の前哨戦。
双子山と駒津峰の二山との戦い。
決戦のリングに向けた長い長い入場行進が始まった。
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スタートからは地味な登りが続いていく。
この時はまだ知らない。
数時間後に同じこの道を走るように駆け下りて来る事になろうとは。
そして今回は珍しくB女房の登山参加。
今まではカヌー専門でしんどい登山を避けて来たようだが、ついに満を持しての山登場となった。
ついに氾濫する好奇心を抑えきれなくなったようだ。
ほんと受講料をお支払いするから、好奇心を失ってしまったウチの女房を調教してくれないかな。
僕と横綱Kさんが先行して突き進んでいく。
悪天候男、東西の横綱の夢のタッグ。
マイナスとマイナスで強烈なプラスイオンを発生させ、富士山では大快晴の実績を持つ二人だ。
横綱Kさんは最もラフな格好だが、最もタフな男だ。
地味でハードな登りをひたすら僕と喋り続けながらのタフガイ行軍。
中日ドラゴンズや嫁の愚痴などの多くの共通点が発覚し、おっさん二人のボーイズトークが止まらない。
かつて中日にいたダメ外人、マット・ステアーズを知っている者同士の意気投合は早いのだ。
一方、後方から颯爽と追いついて来る男が一人。
凄いスピードで登っているように見えるが、たまたまカメラがぶれてしまったもの。
実際は早くも虫の息のバターNだ。
矛盾アウトドアマンとして名を馳せるバターN。
首位打者級の高山病率を持ちながらも進んで高山に登り、虫や獣が強烈に苦手なのにキャンプが大好きという矛盾を抱える男。
今回も早くも高山病に冒され、のっけから疲弊を楽しんでいるようだ。
地味にしんどい道が続き、中々良い感じにぐったりして来たようだ。
そんな中でもタフガイの横綱Kさんが、奥の方でなんとB女房を襲い始めているじゃないか。
グッタリしているB旦那を横目にB女房のズボンを脱がそうとしているように見えるが、カッパを脱がせてあげてるんだね。
長く地味でしんどい道が続き、
やっと開けた場所に到達。
わずかながらに目指す甲斐駒ケ岳の山頂を確認。
天気も快晴だ。
僕の中ではこのレベルを「快晴」と呼ぶ。
やがて第一の目標の「双子山」2643mに到達。
でもこの時点でまだ半分にも達していない。
我々が目指す方角には不敵な厚い雲が待ち構える。
女優Eも必死で雲に向かって桃白白(タオパイパイ)直伝の「どどん波」を放つが、雲が晴れる事はなかった。
その後もひたすら進んでいく。
ハイマツの中に佇む妖精を発見し、思わず近づいていく僕。
すると突然大型の熊が現れて激しく威嚇して来た。
妖精の笑顔は罠だったのだ。
これ以上深入りしてたら、まともに熊のガスを食らって死ぬところだった。
今回は身内からの不意打ちにも気を使わねばならぬ。
ここから一度高度を下げて、次の「駒津峰」を目指す。
この目前の駒津峰の先の真っ白な世界に奴がいる。
南アルプスの貴公子までの道のりは遠く険しい。
再び森の中へ。
僕の後方から悲痛な声がしたので振り返ると林間にバターNの姿を捉えた。
叫ぶバターN。
「そこッ!そこに熊いませんか?絶対熊ですよ!」
虫と獣が苦手なミスター高山病が悲痛な声で僕に訴える。
しかし彼の目線の先にあるものは明らかにただの木だった。
恐らく色んな恐怖に取憑かれている彼は、あらゆるものが虫や獣に見えているんだろう。
高山病による幻覚症状が始まって来たようだ。
それでも彼は山を愛しアウトドアを愛する矛盾男。
僕は努力型のマゾの「野村型」だが、彼は天性のマゾの「長島型」なのかもしれない。
早く自分が持っているマゾな才能に気づいてもらいたいものだ。
森を抜け再びハイマツの道を登り駒津峰を目指す。
前方に横綱KとB女房の姿を確認。
何やら中学生の友達が女子を呼び出して告白しているのを見守っているような気分だ。
お、うまくいったようだ。
などというくだらない寸劇を見ていると、後方よりグッタリしたミスター高山病が追いついて来た。
僕はかつてこれほどまでに覇気のないピースサインを見た事がない。
相当に精神的に追い込まれて来ているのか?
恐らく何かとても面白い事を口走ったんだろう。
僕はかつてこれほどまでに分かり易く「腹を抱えて笑う人」を見た事がない。
サディスティックガールの女優Eがこれほど大笑いしてるという事は、バターNが「もう、しんどい。つらい。」などと弱音を吐いたからかもしれない。
腹を抱えるほど、彼女のサド心を満足させたと推測される。
延々と延々と登っていく。
ここでもタフに先頭を突き進むのは横綱Kだ。
もはや何十年もこの大自然で生息して来たかのような佇まい。
ワイルドとはこんな男のことを言うのだろう。
一方でどんどん元気になっていく女優E。
もうじき南アルプスの貴公子を足蹴にできると思うと自然と笑顔が溢れ出すのか。
早く頂上に行って甲斐駒ケ岳を罵りたくてうずうずしているご様子。
これは急いで登らないと、罵倒の矛先が我々に向けられてしまうぞ。
でも基本的に僕とB旦那とバターNの三人はマゾなのでちょっと期待してしまう。
仲間とはこのようにして成り立っていくのだ。
次第に天候が荒れ始めて来た。
いよいよ僕らは雲の中に吸い込まれつつあった。
本当の戦いはここからなのだ。
女優Eも武者震いで妖気を発し出し、ついに髪の毛が動き出した。
でもこれは妖気でも何でもなく、強風タイムセールが始まった事を現している。
ここからはひたすら強風と寒さとの戦いが始まった。
そんな中での駒津峰2750m到達。
バターNの表情を見てお分かりだろうか?
ここに来て強風のうえに、強烈な寒さが僕らに襲いかかっている。
僕もフリースと手袋を持って来なかった事を後悔した程だ。
ここから先は、ついに南アルプスの貴公子との取っ組み合いの戦いが始まる。
ここまではリングに上がるまでの入場行進に過ぎない。
強風・寒風吹き荒れる急登の岩場ヒットパレード。
真の貴公子を決める決戦場はすぐそこに迫っていた。
ーつづくー
甲斐駒ケ岳2〜決戦への入場行進〜
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MATATABI BASE
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