甲斐駒ケ岳/長野

甲斐駒ケ岳4〜下山防衛戦線〜

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新チャンピオン誕生に沸く甲斐駒ケ岳山頂。

南アルプスの貴公子の称号を手に入れ、一躍時の人となった男と5人の戦士。


しかしそんな華々しい新チャンピオンに早くも防衛戦の時が迫る。

我々に忍び寄ってきたのは実に地味な挑戦者。

それは「最終バスのお時間」。


出だしで無駄な1時間の放置プレイをした我々に、そのしわ寄せを楽しむ時間が来たようだ。

刻一刻と迫り来る最終バスの時間。

甲斐駒ケ岳からの脱出劇が始まった。


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まだそんなに時間を気にしていない山頂ののんきな人達。

真っ白な世界の中で、風を避けながらメシの準備だ。

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周りが真っ白すぎて、ドラゴンボールの「精神と時の部屋」のような山頂風景。

短期間でパワーアップできる、修行に最適な環境だ。


僕もしっかりと修行をする。

岩場に隠れてオシッコしたら下からの突風で僕の黄金水が巻き上がり、一人きりでの思いがけないシャンパンファイトを楽しんだ。


そしていそいそと岩の影で地道に湯を沸かしていたら、遠くの方で歓声が上がった。

「雲が晴れたぞ!」

岩陰から慌てて飛び出していくと、今まさに雲が再び景色を「隠す」瞬間だった。

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無念にまみれてまた岩陰に戻ると再び歓声が上がる。

「また雲が晴れたぞ!」

そしてカメラ片手に飛び出していけば再び雲に包まれるという嫌がらせ。

本当に雲が晴れたのかみんなの罠だったかは今となっては分からない。


そんな事を何度も繰り返し、息も絶え絶えになった頃にお湯も沸きカップラーメンで乾杯だ。

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偶然にもみんな日清食品のラーメンだったので、女優EのCM契約数アップに向けて宣材写真撮影を開始。

爽やかにラーメンを食べる姿を撮影して、日清食品へアピールだ。

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しかし張り切りすぎた横綱Kさんが、どう見ても不味くてリバースしちゃってる感が否めない。

少しも爽やかではない絵面。

おかげで女優Eよりも横綱Kさんに目を奪われてしまうという悲しい結果になってしまった。


そうこうしていると、急に辺りがパアッと真っ白な光に包まれた。

さてはキャトルミューティレーションか?と身構えたがさにあらず。

上空の雲がバッと開けて青空が広がった。

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突如ぽっかりと出現した青空。

日光慣れしていない僕と横綱Kさんは一瞬にして細かい砂となってサラサラと空に舞っていった。


真っ白だった景色も、少しだけ展望を見せつけて来た。

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そしてPUFFYポーズの女性陣が歓声を上げた。

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「富士山だ!」

見ると確かにPUFFY越しに富士山の稜線を確認できた。

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なんてことだ。

僕はこの「なんてことだ」という言葉ををあらゆる悲惨な状況で吐き捨てて来たが、今回ばかりは喜びの「なんてことだ」だ。



しかし彼らはまだ知らない。

これこそ今回の防衛戦の挑戦者「最終バス」の秘策だったということを。

奴はここで一発晴れておいて、この山頂に我々を足止めする魂胆なのだ。


そんな事も知らずに悠長に山頂を満喫し出すピエロ達。

B旦那は岩によじ登り、喜びの青いオーラを放ち始める。

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一瞬、B旦那のスタンド(ジョジョ参照)が現れたかと思ったがもちろんこれは例のぽっかり空。

周りが真っ白な世界だと、その青さがより際立つ。

しかし、こんな余計な事をやっている間にも最終バスの時間は刻々と迫っているのだ。


気がつけばすっかり時間は経過し、山頂は登山者で溢れていた。

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いい加減下山を開始しなくては。

それでもまだのんきに記念撮影をやめない新チャンピオン陣営。

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この油断こそが挑戦者の思うつぼだ。

実はこの時、名残惜しく撮影した頂上の看板越しに刺客達の姿が写っていた。

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奥に写っているのは、どこぞの中高生のワンゲル部の面々。

しかし後に彼らこそが挑戦者による山頂快晴作戦に次ぐ二発目の刺客達となる男達だったのだ。



さあ、下山の開始だ。

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帰りはアウトボクシングコースで巻いて下山していく。

行きはノーガードボクシングの暴風直登コースだっただけに、やっと優雅な山歩きを楽しめる。

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自然と各所で足を止めて余計な撮影タイムが始まってしまう。

挑戦者の足止め作戦とも知らずに、我々の無意味な悪ふざけで時間だけが過ぎていく。

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この浮かれた我々を横目に、例のワンゲル刺客達がここで追い抜いていった。

ここがこの試合の重要なポイントとなる。


それでも陽気なチャンピオン陣営は優雅に下っていく。

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そして前方には「摩利支天」という名の岩峰が現れる。

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この摩利支天の頂きには、信仰の山を象徴するように剣が刺さっているらしい。

遠目にもその剣の姿が確認された。

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ううむ、凄くあそこに行ってみたい。


でもこの頃にはB旦那がそろそろ時間がヤバそうだと気づき始めていたので、さすがに今回は回避した。

もし僕一人だったら挑戦者が仕掛けたこの餌に見事に食いついて、悲惨な末路を辿っている所だっただろう。


不思議な岩も多く、秘孔を突かれた奴もいたりする。

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「ひでぶ直前」のぐにゃり感が印象的だ。


そして時間がないというのに、岩に挟まるチャンピオン。

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こうした余計な事の一つ一つが、無駄に時間を喪失するきっかけとなる。

そんな折を見計らって、ついに刺客達が動き出す。

ワンゲル部による「牛歩足止め作戦」が勃発した。

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まるで進むことが出来ずに、後方より大人の圧力をかけ続けるB女房。

しかし彼らはワンゲル部のくせに妙に歩みが遅く、我々が先に進む事を許さない。


ここからは渋滞の中、遅々として進まない下山が続く。

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挑戦者はKOは狙わず、地味に判定に持ち込むつもりらしい。

いよいよ焦りの色が隠せなくなって来たチャンピオン陣営。


刺客達との長い攻防戦の末、やっと追い抜く事に成功。

歩みを速めて行きに来た道に合流して、急いでジャブを繰り出しながら下山していく。

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行きは雲の中だったから分からなかったが、振り向けば随分と酷い所を直登していったんだな。

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何気に下山もハードだ。


そしてついに今回もやって来たお馴染みの時間帯。

膝痛JAPAN不動のツートップ、僕とB旦那のC3-POコンビには過酷な下山が始まった。

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この「なだらかだけど滑りやすい砂礫の足場」という奴が、我々の膝の痛みネットを揺らす絶妙なセンタリングとなる。

一歩一歩が膝にゴールを決める決勝点。

ここからは時間と膝との戦いだ。


そんな中で、タフガイ横綱Kさんが突然飛び立った。

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恐らく何者かが、摩利支天の剣を抜いて「はずれ」の穴に刺してしまったのだろう。

「横綱危機一髪」となった横綱Kさんはそのまま遠くの空に飛んでいった。


さあ、これ以上の犠牲者を出すわけにはいかない。

そもそも最終バスに間に合わなければ、我々は北沢峠に取り残される事になる。

僕としては朝たっぷりと北沢峠に滞在したから、正直もうあの峠に居続けたくはない。


我々はかなり速いスピードで、地味で長い登山道を掛け降りていく。

ガラスの膝小僧は絶叫を繰り返し、挑戦者の執拗なボディブローが蓄積されていく。

そしてついにチャンピオンが「ダウン」を奪われてしまった。

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濡れた足場で思いっきりずっこけてケツを痛打したチャンピオン。

このダウンによって、判定に持ち込まれた際は間違いなく防衛失敗となる。

こうなった以上、意地でも最終バスに間に合ってKOで勝利する以外に道はない。


後方からもみんな中々の勢いで駆け下って来る。

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ミスター高山病のバターNに至っては、高度が下がるほどに勢いが増す。

この男だけが下山すればするほどに元気になっていく。



やがて北沢峠を視界に捉えた時には、すでに最終バスが出発寸前の状態で停車しているのが確認できた。

大急ぎでバスに向かって駆けていき、世界を穫った渾身の右ストレートをお見舞いだ。


そして我々は見事に最終バスに間に合った。

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我々は汗だくになって、もはやチャンピオンの面影もない。

この頃には横綱危機一髪で飛び立っていった横綱Kさんも戻って来た。


そして挑戦者「最終バスの時間」のナイスファイトに、お互いの健闘を讃え合って記念撮影。

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そしてこのままゆっくりとする暇もなく、僕と横浜組は引きはがされそれぞれの最終バスに乗り込んだ。

まるで捕虜になった日本兵が、強制的にバスに押し込まれて別々のシベリア抑留地に護送されていくようなあっという間の有無を言わさぬ別れだった。


こうして仙丈ヶ岳に続いての慌ただしい脱出劇に幕が降りた。

急に一人ぼっちになった「南アルプスの貴公子」。

寂しさからなのか疲労からなのか激しくバス酔いしていく貴公子。

しかもよりによって陽気なバスの運転手が所々で停車してはユーモアたっぷりにお花の説明をしてくれる。

僕は気持ち悪いからいち早くバスから降りたいんだがそうもさせてくれない。

やはりタイトルマッチ2連戦は最後まで気が抜けない。


フラフラになりながら駐車場に着いた。

そんな僕をセクシーな木がカモンポーズでお出迎え。

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「ご自由に出入りください」という文言が素なのか狙っているかの判断に困る。

いくら一人になって寂しいと言っても、さすがに木を抱く気にはならない。


こうして長い戦いは終わった。

苦労の末に新しい貴公子の称号を手に入れ、再び男は歩き出す。

南アルプスの貴公子として恥ずかしくない行動をしていかんと。

しかし人間の僕が「南アルプスの貴公子」として出来る事が何も思い浮かばない。


まあいいや。


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〜おまけ〜

そんなフラフラな僕だが温泉前に日課のランニングは意地でもやるのだ。

選んだ場所は高遠城址公園。

軽く流す程度に走ろうと思っていた僕を出迎えてくれたのは階段パラダイス。

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バス酔いの名残なのか馬鹿な事をした報いなのか。

僕の胃酸は遡上し、酸っぱい思い出と激しい疲労&膝痛だけが僕に刻まれた。


温泉入ってさっさと帰ろう。

家には我が「王女様」が待っている。

余力を残して帰らないと、今の僕には彼女の罵りに耐えるだけの体力が残っていない。


こうして満身創痍で大満足の貴公子は王女の元に帰って行った。

貴公子のくせして養子なので、また慎ましい日々に戻るのだ。


貴公子は王になる日を夢見て今日も逞しく生きて行くのだ。



甲斐駒ケ岳編 〜完〜



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