養子の立場で田舎に暮らすという事。
そこには避けては通れない道がある。
オリンピックのように4年に一度の町のビッグイベント。
それは公民館の「ペンキ塗り」だ。
なぜ、わざわざGWの晴れた日に開催されなければいけないのか?
世が大型連休で浮かれてる最中に、なぜペンキを塗らねばならぬのか?
そして、僕は役員でもないのになぜ参加させられるのか?
本来であれば役員はお義父さんだから、僕は行く必要はない。
しかし嫁の「ポイントを稼いで来い」という指令が炸裂。
ご両親は「別に来なくてもいいよ」って言ってくれているが、嫁に言わせればどうやら僕は地域とご両親に「試されている」とのことだ。
家庭内での腹の探り合い。
僕は養子として、この家を継いで行く素質があるのかをアピールして行かねばならない。
「来なくてもいい」というご両親に対して、「是非行かせて下さい」と僕は答える。
全く行きたくない上に、なぜ寄りによってGWなんだと突っ込みたいのをグッとこらえる。
こうして僕の白髪は一本、また一本と増殖して行く。
さあ、宿命を受け入れるのだ。
DSY漕行記の翌日の朝。
てっきり朝早くからペンキ塗りかと思っていたら、午後の1時からだという事が判明した。
外を見たら快晴じゃない。
そしていつものようにハーツオンファイヤー。
これは午前中のわずかな時間、遊べるチャンスじゃないか。
すかさず嫁との攻防戦の末、僕の大技「土下座」が炸裂した。
昼までに帰って来るという条件で、外出を勝ち取ったのだ。
わずかな時間ですら、男は遊びに貪欲だ。
ここから一気にスペクタクルなタイムアタックが始まった。
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AM8:00
早送りのような凄まじい勢いで準備を済ませ、意気揚々と長良川に向けて出発。
そしてスタート15分後にして、いきなりの大渋滞に巻き込まれる男。
なんて事だ。
残酷なる神の仕打ち、大幅なるタイムロス。
AM9:00
随分余計な時間を費やしてしまったが、なんとか関観光ホテル前の川原に到着。
相変わらず、長良川は本日も美しい姿を露出しまくっている。
ああ、やっぱり最高だ。
ペンキなんて塗ってる場合じゃないぞ。
ここでのんびり出来たら最高なんだが、本日の僕に時間はない。
ここに回送用のMTBを置いて、スタート地点を目指す。
AM9:30
スタート地点の美濃橋下の川原にて、ゴエモンを目覚めさせる。
全力のポンプアップで、全身の筋肉がパンプアップし、痛めている腰もアップアップだ。
自慢のプリケツがプルプルと揺れて、この時点で汗ビッチョリだ。
前回は水郷巡りの静水だったから、本日が我が相棒「ゴエモン」ことNRSバンディット2の本当の意味での激流デビュー戦だ。
こんな慌ただしい中での長良デビューとなってしまってゴエモンには悪かったが、本日は「初の一人乗り」「初の川下り」「初の激流」でしっかりとお前の力量を見せてもらうぞ。
急いで帰らないと、僕が嫁に釜茹での刑を宣告されてしまうからな。頼むぞゴエモン。
時間がないくせに、さらにテスト。
数年前にワゴンセールで買って全く使わなかったパドリングジャケットと、最近全く出番がなかったウェットスーツを装着。
今まで激流を避け続けてきたチキン人生に本日は終止符を打つのだ。
戦闘準備は万端。
激流ロマン窃盗団「ゴエモン&マゾ」の船出だ。
AM9:50
スタート直後から凄まじい向かい風だ。
分かりにくいだろうが、川は右が進行方向だ。
向かいにあるのぼりがバタバタと逆方向に激しくばたついているのがお分かりだろうか?
時間がないというのに、出だしからモリ漕ぎじゃないか。
しかし、晴れた日に激しく逆風が吹くっていう現象はいつものことだ。
圧倒的に軽い船体のゴエモンの「風テスト」には持って来いだった。
正直軽いから風に流されると思っていたが、軽い分一漕ぎ目の初速が重くないから結構突き進んで行ける。
やるじゃないか、ゴエモン。
そしてそのまま、快適な波立ち区間。
うああ、楽しーなー。
やっぱり晴れているとカヌーってゲロ出るくらい楽しいな。
実はここでもテスト。
一度西表島の仲間川でも使っているが、初めて激流での「一眼レフカメラ」使用という別の意味でのハラハラテストだ。
もちろん使用するのは、かなり初期の頃に紹介した一眼用防水ケースDiCAPacα WP-S10だ。(参考記事)
大作商事 デジタル一眼レフカメラ専用防水・防塵ケース DiCAPacα WP-S10 WP-S10 () ‘- 商品詳細を見る |
正直使い勝手はあまり良くなかったり、水滴が写真に入り込みまくったりで微妙ではあるが、その安心感はハンパない。
AM10:05
前方から凄まじい轟音が聞こえてきた。
一発目の難関「魚道の瀬」の登場だ。
まずは手前で上陸して、瀬の下見に向かった。
やや渇水気味かな?
魚道の瀬は、手前の水路のような魚道の「チキンコース」と、その奥の「チャレンジコース」(僕はこれを男前コースと呼んでいる)に別れる。
今までの僕は、迷う事なく「チキンコース」を選んでいた。
チキンコースと言っても、最後の大波で以前ビビるSが撃沈している場所だ。
しかし本日の僕は男前だ。
ゴエモンという相棒を手に入れた事で、ついにあの男前コースを下ってやるのだ。
写真では大したことないように見えるけど、相当な轟音で正直かなりビビっている。
しかし、今日に限って2名ほどの観客が堤防に座っている。
我々窃盗団の血がたぎったのは言うまでもない。
ゴエモンの所に戻って、突入前に神に祈る。
以前紹介した「長良川の悲劇」が脳裏に浮かぶ。
死に直面した当事者の一人として、この時の恐怖を分かってくれるのは引退したシャクレYだけだろう。
この時の胸のドキドキは、過去に好きだった子に告白しようとして黒電話のダイヤルの最後の数字を回して指を離した瞬間に似ている。
自分で望んで来たんだが、正直逃げ出したい気持ちで一杯だ。
覚悟を決めて男前コースに突入。
途端に前から横から1mクラスの大波がガンガン攻めて来る。
しかし怪盗ゴエモンはそんな捕物十手攻撃にはビクともせず、波を破壊して突き進む。
大波を被っても、穴の空きまくったセルフベイラーが続々と排水していく浮沈艦。
笑いが止まらない。
思わず声を出して「うおおッ」と叫んでしまう。
溢れまくるアドレナリン。
楽しくてしょうがない。
こんなに笑顔になったのはいつ以来だろう。
やがて圧倒的安定感を存分に発揮して、魚道の瀬を見事に突破。
僕はついに男前になった。
このどや顔がすべてを物語る。
男前というかひげを剃る時間もなかったただのおっさんだが、この表情が激しい緊張から解き放たれた快感を表現している。
AM10:30
ここからはしばしのんびりと流されて行く。
緊張の瀬を抜けた後の、至福の瞬間だ。
もう漕がずに、寝そべって流されて行く。
ゴエモンに一人で寝ると、実に調度いい感じで横になれる事が分かった。
別で買ったAIRE社のシートがちょうどいい枕になり、ダッキーでフロアが沈んでいない分「寝ながら漕ぐ」という新たな技を手に入れた。
まったく、最高の相棒だ。
周りから見るとこんな感じ。
おや?と思われた方も多いだろう。
そう、これはセルフタイマーの己撮り。
ついに己撮りのエキスパートになってきた僕は、「カヌーで寝ながら流れて行く私」という難易度の高い写真の撮影に成功したのだ。
わざわざ上陸して高台にカメラをセットし、インターバルタイマーで5秒に1枚という設定をして、ダッシュでカヌーに戻り急いで立ち位置(漕ぎ位置)まで全力で漕ぎ上がり、そして優雅に寝そべって流れて行く「ふり」をしながら流されている状態だ。
なので、やがてこのように流されてフレームアウトして行き、
再び必死で漕ぎ上がって来るという情けない舞台裏もバッチリ記録される。
単独行はいつだって、このようなセルフマゾの世界に満ちている。
そしてこの馬鹿な行為によって、大幅に時間を費やしてしまった。
AM11:00
やばいぞ。もう11時じゃないか。
どう考えても昼までに帰れやしない。
もう割り切って、今は先の事を考えるのはやめよう。
前方の方から、またしても凄まじい轟音が聞こえてきた。
再び上陸して下見に向かう。
祭りだねえ。
随分と大賑わいじゃないか。
もちろん、ここもゴエモンのパワーで突き抜けて行きました。
ここでも、改めてゴエモンの力を再認識。
これはいいテストになった。
今後、新たな川に向けて一気に視野が広がった瞬間だ。
美濃橋〜関観光の区間は、ほんとに気持ちいい区間だ。
出来れば夏場に下ってみたいが、鮎釣り師達に占拠されてしまうので残念です。
AM11:20
大満足のツーリングを終えて、関観光ホテル前の川原に到着。
いやあ、ほんと大満足だった。
本来はペンキ塗ってるとばかり思っていた午前中に、まさか長良川を下っているとは思いもよらなかった。
そしてeTrex20で取ったログがこんな感じすね。
より大きな地図で 長良川 を表示
しかし、感動に浸っている場合ではない。
残り時間はわずか40分。
釜茹での刑までたったの40分しかない。
大急ぎで回送作業を済ませて帰らねばならない。
ここでもゴエモンの威力が発揮される。
ゴエモンを選んだ一番のポイントはその「軽さ」。
なんと片手でひょいと持ち上げられるのだ。
さすがは盗賊の軽い身のこなし。
随分と尻の軽い野郎だぜ。
そしてその軽さは僕に「新しいカヌー回送法」を発明させる。
今までの僕はこのままカヌーをゴールに置きっぱなしにして、MTBで車を取りに行って、またゴール地点に戻るというやり方だった。
しかしこのやり方だと、いつもカヌーが盗まれるんじゃないかというスリルを味わいながらなのであまり気持ち的によろしくないし時間もかかる。
しかしゴエモンは軽い。
カヌー一式を背負って、MTBに乗って行けば戻る必要も盗まれる心配もいらないではないか。
という画期的な発想で本日最後のテストです。
いつものように力づくでゴエモンをバッグの中に押し込めて、パドル、シート、ポンプ、ライフジャケットを括り付ける。
いくらゴエモンが軽いと言っても、総重量は20キロ以上。
果たして、無事に車まで戻っていけるのか?
巨大な荷物を背負ってMTBに乗車。
周りのBBQで来ている人達が、明らかに異質なものを目撃した時のような顔で僕を見ている。
この回送法でまず大事な事は、「人の目を気にするな」という鉄の心を持つ事が重要だ。
凄まじい勢いで、僕の肩にめり込んで行く荷物一式。
この男は新手のアメリカンヒーローなのか?
それとも姨捨山にババアを捨てに行く所なのか?
明らかに積載オーバー気味だ。
このバッグは腰で止められないから、全重量が全て僕の双肩にのしかかる。
しかし、こちとら養子の重圧を常に両肩に背負って生きているのだ。
この程度の重みなど気にするものか。
頑張っていたが、15分ほど漕いで行くとある重大な問題が発覚した。
その重みで僕はMTBのサドルに押し付けられる格好となり、僕の股間の血流が止まるという事態に。
結果、僕の「マグナム」さんの頭が強烈にしびれ出す。
実際はマグナムというより銀玉鉄砲程度の威力しかない銃口だが、このしびれは新しい感覚だ。
あの「正座して足がしびれる」って感覚が、僕の尖閣諸島に凝縮して襲いかかる。
これは凄いカヌー回送法を編み出してしまったようだ。
肩にめり込むほどの重量で筋トレを楽しみつつ、新鮮な感覚を下半身で噛み締めながらの汗だくサイクリング。
僕はこの回送法を「エキゾチック・マゾバック方式」と名付けた。
いずれはオリンピック競技になってくれると期待している。
PM12:18
フラフラになりながら、なんとか美濃橋まで戻ってきた。
渾身のマゾバックもむなしく、ついに12時を過ぎてしまった。
こんな所でマゾってる場合じゃないぞ。
まあ、一応自転車回送する人用にログ載っけとくね。
より大きな地図で 自転車回送ルート を表示
載っけるまでもなく、ただ単に川沿いなんだけどね。ご参考までに。
そして、僕は猛烈な勢いで帰っていった。
家に帰ると嫁の目は据わっており、アシュラマンの冷徹の仮面へと変貌を遂げていた。
もうすでにお義父さんは公民館に行ってしまったようだ。
大急ぎで準備して、公民館に13:20着。
集合時間13時に対し、無念の20分オーバー。
明らかに、あの無駄なセルフタイマー撮影が原因だ。
この遅刻は地域の皆さんの手前、そしてお義父さんの手前非常にヘビーで僕の居心地の悪さは群を抜いていた。
肩で息を切らせながら、大人しくペンキ塗りを開始。
朝、家を出てから一切の休憩なしでここまで突っ走ってきて、ペンキ塗る前から汗だくだ。
何度も言うが、どうしても今日じゃなきゃダメだったの?
しかし文句一つ言わず、最高の笑顔で僕はペンキを塗る。
地元のおっさんが「ムラにならんようにな。若いからってムラムラしちゃいかんぞ。ガッハッハ。」などと言って来る。
本来であればこの手の言動は激しく無視するんだが、立場上そうも行かない。
かといって変に同調して愛想笑いをかますのもプライドが許さない。
結果、「うぅああ」という、うめき声のような相づちを打つのが精一杯だ。
そして3時間、快晴の空の下でペンキを塗り続けた。
この日の夜、僕は泥のように眠った事は言うまでもない。
これが養子カヌーイストの日常的な風景だ。
男は常に何かしらの重い責任を背負って生きて行く生き物だ。
GWの前半に家族サービスに徹した(?)男の二日間がこうして終わった。
なんだかんだと結果的にカヌーしちゃっている自分に乾杯したい。
仕事も家庭もカヌーも充実してこそのダンディズム。
情熱と冷静と嫁と養子と近所付き合いの狭間で、男は今日も逞しく生きて行く。
さあ、そのフラストレーションをぶつける時はもう間近に迫っているぞ。
いよいよGW後半の四国カヌー遠征が近づいてきた。
しかし気持ちとは裏腹に、全身の疲労感が凄まじい。
まだまだ僕のGWの戦いは終わらない。
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初めまして。
まさに、あの日あの時
隣でファルトを組み立てていた犬連れの夫婦です。
初めての長良川だったのでローカルな川情報を尋ねて見ようと
思っていたら、あっという間に出発していらっしゃって・・・
私たちが、モタモタしすぎ??
って思っていたら、あっという間に自転車で戻っていらっしゃって
また声かけようと思ったら
もう、車が走り去っていた・・・ってな感じでした。
深い事情があったのですね。
またどこかでお会いした時は、ご挨拶させていただきますね。
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ああああ、どうも!
覚えていますとも。
あの時僕も話しかけたかったんですが、何せ意図せずタイムトライアル中でしたので吉野家みたいなリバーツーリングでした。
じゃあ、僕が自転車回送中に追い抜いて行ったのがご主人だったわけですね。
中々出会えないマニアックなカヌー人同士、もっと情報交換出来たら良かったですねえ。
恐らく、僕はいろんな川に出没しますんできっとどこかでお会い出来るかと思います。
その時はちゃんとお声かけさせていただきますね!
それにしても夫婦でカヌーって僕からしたら夢の国のお話です。
僕も嫁と来れたら、あんなせわしないカヌーじゃなくのんびり出来るんですがねえ。
今度秘訣教えて下さい!