長良川/岐阜

ナガラデイズ 前編 〜濡れろ いい男〜

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長良川。


日本三大急流にして、全国のカヌー野郎たちの憧れの川。

そして僕の中で、気田川、熊野川とともに「三大ホームリバー」として数多くの川旅をさせていただいたこの川。

岐阜に養子として嫁いで来て以来、最も近い川として今後も大いにお世話になる川だ。


そこで今回は「あん時のアイツ」シリーズの記念すべき第20弾として、過去の長良川の日々を2回に分けていくつか簡単に振り返ってみよう。

そこには、あるシャクレ男の悲しみの物語も綴られている。



僕はカヌー人生の前半に何度もこのシャクレ男と共に川を下ってきた。(※今後は「シャクレY」と表記する)

川を下る度に足から酸っぱい匂いを出す問題児だったが、今後もこの男と川旅を続けて行けると思っていた。


しかしそんな彼も、この長良川でカヌー人生を「引退」するという事態に追い込まれる事になる。

川が一人の人間の心をバキバキにへし折った現場に僕も居合わせ、山田(仮)も目撃者となった。

その後シャクレYは「長良川」という言葉を聞くとガクガクと震え出し、定まらない焦点で虚空を見つめてから頭を抱えて発狂するといった日々を過ごす事になった。


そんな「元カヌーイスト」シャクレYを偲びつつ、ゆっくりと長良川の日々を振り返って行こう。


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実は長良川の最初の印象は酷いものだった。

いつだったかは覚えていないが、僕は川下り中に何度か鮎釣り師に石を投げられた事がある。

この川は日本で屈指の「本気」と書いて「マジ」と読む、なんだか必死すぎる鮎釣り師が多く残る川。

さすがに「本気」と書いて「マゾ」と読む日本屈指の変態の僕でも、そんな石攻撃に快感は見いだせなかった。

今の僕なら石どころか嫁の「言葉の鉛玉」を浴びせられ続けてタフになっているからいいものの、当時はガラスハートの好青年だったので泣きそうになりながら下った記憶がある。

だから、鮎解禁から秋にかけては中々下れないのがこの川の辛い所なんです。


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さて、まずは2003年の10月。

相当古い記録だね。

新美濃橋〜関観光ホテル前川原までの初中級者のゴールデンコースを僕とビビるSコンビで下って、関観光ホテル前川原〜藍川橋までを僕とシャクレYコンビに交代して下った時のものだ。


ここがこのコースで一番賑わっていた「魚道の瀬」。

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鮎がスムーズに遡上出来るように、川の右側に鮎用の水路があってそこを下って行った。

当時、カヌーを独学で始めて間もない頃の僕らには大冒険の瀬だった。

なんせ、静水用のレクリエーションカヤックだっただけに、中々勇気のある挑戦だったな。


その後もこんな感じのストレートな気持ちのいい瀬が何度も味わえる。

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この区間が楽しいのなんのってなかったな。


関観光ホテル前の川原でビビるSからシャクレYにチェンジ。

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在りし日のシャクレYの後ろ姿だ。

この頃は無邪気に楽しんでいた彼も、まさか数年後にこの川で生死を彷徨う事になるなどとは想像もしてなかったろう。


しかし「予兆」はこの頃からあったようだ。

僕はシャクレYに「関観光から下は穏やかで大した瀬もないから」と言ってこの川下りに誘っていた。

関観光から下流はこの時初めて下ったんだが、僕の下調べミスが発覚。

直前でなんとか回避出来たが、危うく地獄への入口に突っ込んで行く所だった。

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流れが一カ所に集中し、激しい流れが落ち込んだ先には無数のテトラポッド。

テトラポッドは激しい水流を吸い込む役目があるから、カヌーで突っ込めばたちまち大破して人間は絡めとられてバキバキになるという、カヌー野郎達の大天敵だ。


間一髪で事前に上陸して難を逃れたが、シャクレYはただ呆然とその地獄絵図を眺めていた。

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彼はこのとき僕に「殺す気か!」と息巻いたものだが、この数年後にも同じセリフを僕に吐く事になる。

この時から、僕とシャクレYは一歩づつ「その時」に向かって動き出す事になる。


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2004年の4月。

シャクレYの友達と、関観光ホテル前の川原でBBQをしようという事になった。

当時全く彼女の出来ない僕に、シャクレYが地元の女の子を連れてきて一席設けてくれたのだ。


もちろん、僕は前乗りしてBBQ前に軽く一発一人で下った。

BBQしている所に、カヌーで登場するという荒々しい「男っぷり」を見せつけてやるのだ。

たちまち女達は打ちのめされること請け合いだ。



この日の長良川は大増水。

「魚道の瀬」も水の下に埋もれてしまっている。

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逆にここまで増水すると男の血がたぎる。

しかも増水の川からの女性陣の前への登場が可能で、そのワイルドさにさらに磨きがかかるってもんだ。


あまりの激しさに、カヌーの中はもはや水風呂状態。

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水に滴るいい男。

悪魔超人アトランティス以来の水の似合うワイルドボーイ。

BBQと言えど、気分的にはコンパなのにずぶ濡れになって行く勘違い男。


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さあ、みんなが待つ川原まであと少し。

彼女がいない日々との決別まであと少しだ。



やがて壮絶なワイルドさで、激流から関観光ホテル前の川原に華々しく上陸。

しかし、川原にはまだ誰も到着していないじゃない。



川原に立ち尽くすびしょ濡れ野郎がひとり。

青春の切ない1ページ。

その男はその後四年以上、彼女が出来る事はなかったという。



30分後くらい後のすっかり体が冷え込んで来た頃にみんな到着してBBQ。

ビールですっかり気持ちよくなってしゃくれてしまっている男がシャクレYだ。

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酔って赤くなって随分と楽しそうだが、彼はこの数年後に真っ赤な顔で随分と苦しそうに「死を覚悟した」と呟く事になる。

ただ、その時もしっかりシャクレていた事は言うまでもない。


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2005年。

当時勤めていた会社の後輩を無理矢理連れてきた事もあった。

しかもなぜか「2月」の極寒カヌー。

初めてカヌーをやる人間に対して、一番チョイスしてはいけない季節だ。


「僕の祖先は村上水軍なんスよ」が口癖の海賊Iくんが、過剰なまでの防寒対策でやってきた。

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クソ寒い中、キンキンに冷えきったビール片手にブルブル震える後輩。

「寒いっすよ。本当に川下るんすか。死んじゃいますよ。」などと言い出し始める。

村上水軍の末裔として、彼も随分と血がたぎっているようだ。


武者震いの海賊I君を乗せて、いざ出陣。

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当たり前だが、信じられない寒さと水の冷たさ。

瀬で豪快に水を浴びる度に、次第に二人の唇は妖艶に紫色へと変化して行く。

いつものようにカヌー内は水風呂化し、我々を保冷する事を忘れない。

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ついには二人の顔から色が消えて行った。

美白効果バッチリで、真っ白な顔をして紫の唇をした美しい男二人が流れて行く。


そして冷やされ続けた僕らは鮮度を保ったままゴール。

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この後焚き火でうどんを作って食ったんだが、海賊Iくんが泣きそうな顔で「人生で一番ウマいうどんっス」と噛み締めていた。

よっぽど身も心も冷えていたんだろう。


その後僕一人自転車で上流の車を取りに行って再び戻ってきた時、川原で焚き火にすり寄って震えて待っていた後輩のけなげな姿を今でも忘れない。

きっと、変な先輩がいる会社に入社した事を激しく悔いていたに違いない。


彼はこの数年後に会社を辞めている。


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このように長良川は多くの人間の心をへし折ろうとあの手この手を仕掛けて来る。

次回の後編でも、多くの人間が悲しい出来事に遭遇する「魔の川」。


次回、ついに僕とシャクレYがガップリと長良の悪魔に飲み込まれる事になる。

シャクレYもそうだが、僕の人生の中でもあれほどの死の恐怖を味わった事は後にも先にも存在しない。

人間なんてモノは、川の自然の前ではあまりにも無力な存在だ。

そんな事を身をもって体験出来る、日本の誇るサディスティックリバー。


シャクレYのカヌー業界引退を含む、その後の長良川の様子は次回の後編でお送りします。



〜後編へつづく〜



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