ユーコン川漂流記

ユーコン川漂流記〜8日目〜酔いどれトム

8/19(木)

現在10:00。

ユーコン特有の、カヌーの底がシャラシャラと炭酸水の上を漕いでいるかのような音を聞きながらこれを記す。



昨日夜眠りにつこうと思ったら、数人の男の声がした後に銃声が二発聞こえた。

ハンターなのかクマ避けなのか。

かなり近くで生の銃声を聞いてビビりながらも眠りについた。


今朝は6:00に目が覚めて、早速朝からビッグな焚き火を起こす。

コーヒーを飲み、昨日のイクラの残りをパンに豪快に盛りつけて食う。

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ポロポロとイクラがこぼれても、まだ沢山あるから気にしない。


そして、おにぎり用のご飯を炊いて、直径20cmほどのイクラおにぎりを作製。

それでもまだ大量にイクラが残ってしまったので、そのイクラを捨てるという究極の贅沢にチャレンジ。

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焚き火の中に投入されていくイクラ達。

実にユーコン的情景。

イクラがパチパチとはぜて、とても香ばしい臭いが充満した。


8:30頃出発。

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ひょっとしたら今日中にカーマックスにゴールしてしまうかもしれないので、最後の朝のユーコンを目に焼き付けながら下る。

しかし結局晴れたのは最初の2日間だけで、あとはずっと雲か霧かよくわからん状態が続いたなあ。


遠巻きに見る和田さんの漕ぐ姿がとても美しかった。

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広いユーコン川。

まさに「ユーコン漂流」。


やがてEAGLE BLUFFという一枚岩っぽいのが出て来て、中々見応えがあった。

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どことなく古座川に似てて、朝日とのコントラストが美しかった。

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現在13:40。ユーコン上。


その後腹が減ったので、イクラおにぎりをほおばる。

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イクラおにぎりと言っても、正確にはご飯を具にイクラで握ったおにぎりだ。

くどすぎて1個が限界なので、もう1個はまたあとで。


途中ずぶ濡れのイタチに会う。

こえであとはカリブーでも出てこれば最高なんだが、ここいらにはいないだろう。


カーマックスまであと約17キロ。

ついにゴールが近づいて来た。

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久しぶりに「文明」が近づいていると思うとなぜか緊張する。

とりあえず2個目のおにぎりを食べて、残りのユーコンをじっくり堪能したい。


それにしてもハエがうざい。

ハエのくせに腹が黄色でハチみたいで、羽音がうるさく、止まっててもヴィ〜〜っとうねり声を出す。

何者なんだ?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


現在、カーマックスのキャンプグランドのテント内にてこれを記す。


その後の17キロが実に長かった。

たった17キロと言っても、日本なら出発するくらいの距離だ。


名残を惜しむようにユーコンの水に手をつけたりしながら下る。

ゴール手間のフィッシュキャンプの所で和田さんと合流し、一路カーマックスを目指す。

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やがてゴールまであと少しを表す電線をくぐった。

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久しぶりに見る文明の人工物。

まるでゴールテープを切るかのような瞬間だった。


そこから少し漕ぎ進むと、最後の島を抜けた所で家が見えてくる。

最後の力を振り絞って、COAL MINE Camp Groundの岸に横付けした。

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ついにゴールだ。

ジョンソンズクロッシングから実に370キロ。

およそ名古屋から東京くらいまでの距離だ。

8日間かけて、やっとゴールのカーマックスに辿り着いた。

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和田さんとも共に喜びを分かち合う。


しかし二人ともニコチン不足とビール不足で、まずはその補充が先決だった。

キャンプ場のピエロ売店で聞いてみるが、カーマックスの町まで行かないとないと言う。

歩いて20分くらいのとこなので行く事にした。

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道路を歩いていると大きな車が止まり、中のおっさんが「町に行くなら乗っていけ」と言ってくれた。

人生初の逆ヒッチハイクだ。

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やがて車はカーマックスの町(というか村)に着いた。

小さなスーパーとレストランとホテルがある以外何もないところだ。

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ユーコン川のほとりには、実に男らしく川を細い目で眺めるユーコンの男なんかもいたりする。

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早速スーパーにてタバコを買う。

そしてビールを求めて町を練り歩く。


しかしどこにもビールを売っていそうな所がない。

たまりかねてホテルの人に聞いたら、ラウンジへ行けと言う。

ただビールを買いたいだけなので、ラウンジに行くつもりはなかった。


再度さまようが、やっぱり売ってないので今度はスーパーの人に聞いたらラウンジでテイクアウト出来るとの事。

日本の感覚でいると調子が狂う。


早速ラウンジでハゲヒゲおやじからカナディアンビールを6缶買う。

そしてユーコン川の見える歩道の椅子で、和田さんと乾杯してビールをぐびり。

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まったりとビールを飲んでいたら、お揃いのTシャツを着たインディアン親子の自転車が止まって話しかけて来た。

見るからにアル中な男はトムと言った。


野田さんの本で、よくインディアンに絡まれて酒をせびられるとは読んでいたが、まさか本当にそんな展開になるとは思ってもいなかった。

結局4人で1時間くらい談笑した。

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トムは31歳で息子は11歳。

他にトム曰く「チャイナドールのように可愛い」子供が4人いるらしい。


トムは話の合間でも、白人の若い女性を見るとそちらに夢中になる。

見知らぬ人が通りかかっても元気に挨拶を交わし、無視されると「ファック!」と罵る。

何やら随分面白い男だ。


彼は冬は凍ったユーコンを下っていき、ムースを銃で撃ってその肉を食べるんだと自慢げに話した。

試しに野田さんを知っているかと聞けば、

「その男は知らんがハンゾーなら知っている。ハットリハンゾーだ。」と言って我々を驚かせた。

なぜ彼が服部半蔵を知っているかはよく分からなかった。

多分そんな名前の忍者が出てくるテレビ番組でもあったんだろう。


彼は僕の名の「ユウキ」の発音が出来ずに「ユーク」と呼んだ。

インディアン達は川の向かい側に住まわされ、こっちはリッチ、あっちはプアーと悲しげに言った。

そして何故か、犬を二匹散歩している白人のおっさんの一匹をとって来いと息子に命令していた。


酔いどれインディアンのトムはその後もゴキゲンに喋り続けた。

よく分からんが「俺はサムライだ」とも言っていた。

そして「お前達はどこの国から来たのだ?」と何度も同じ事を聞き、その度に握手を求めて来た。

彼の息子もあきれた感じでその父を見ている。


「俺の家に来い。ヤク吸うか?」はさすがに断った。

どうも途中から大阪の酔っぱらいのおっさんと話している気分になって来たぞ。

期を見てバイバイと言って別れた。


すっかりビールが無くなってしまったので再びラウンジに向かった。

トムも着いて来て、僕らにビールを買ってくれようとしていた。

彼は酒をたかって来たんじゃなくて、単純に純真でいい奴だったようだ。


トムとは再びサヨナラをして帰りの橋を渡っている時、遠くから「俺んち来いよー」と手を振っていた。

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別れが惜しかったが、いよいよバイバイした。


その時、別の人がカヌーでトムの付近に上陸した。

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その人達も早速トムにつかまっていた。

どうやらトムは人と話す事に飢えているようだ。


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その後再びハイウェイを和田さんと二人で猿岩石のように歩き、キャンプ場へ戻った。

そこでなんと和田さんがキャンプ場代と晩飯をおごってくれた。

つくづく良い人だ。


どでかいチーズバーガーとフィッシュ&チップスをオーダー。

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そこのピエロ売店のお兄さんは、夏の時期は家族ぐるみでここにやってきてはバイトして帰っていくそうだ。

実に羨ましい。


バーガーは久しぶりの肉とあって、とてつもなくウマかった。

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バーガーを食っていると突然(本当に唐突にだった)カミナリの音とともに突風が吹き始める。


やっと落ち着いて肉のメシが食えるという時に。

あまりに強い風だったので、慌ててテントをペグでしっかり固定し直し荷物をテント内に放り込んだ。


再びメシを食い始めると、今度はついに雨が降って来た。

さすがの雨男日本代表もカナダでは通用しなかったかと思ったが、やはり最後にしっかり降ってくれた。

これで一人旅連続雨記録はまたも更新だ。

ちょっと前まで晴れていたのに、訳の分からん天気だ。



1時間ほどで雨も風もおさまった。

明日はついに迎えが来てしまう。

ホッとしたような寂しいような複雑な気分だ。


もう眠たいから寝よう。

現在23:30。

ユーコンの川の流れの音を聞きながら眠る最後の夜だ。



ユーコン川漂流記〜9日目〜へつづく



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コメント

  1. SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    とても魅力的な記事でした。
    また遊びに来ます!!

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