8/11(水)15:20
現在名古屋空港(筆者注:当時はまだ中部国際空港はなかった)の展望レストランにて遅い昼食を終えた所だ。
天丼を注文したんだが、海老が2匹乗っていて豪勢だと思っていたら、他の具が海苔とシソだけだという事に気づきがっかりした。
今は眼下に広がる滑走路を次々と飛び立つ飛行機を眺めながらこれを記す。
さて、今朝は6:30に自然に目が覚めた。
普段そんなに早く起きる事はないのに、やはりコーフンしていたということか。
はやる気持ちを抑えきれず、早く着く事が分かっていながらも高速バスで名古屋空港に向かった。
空港に着き荷物をカウンターに預け、日本円をカナダドルへ換えにいく。
1カナダドル=80円程だ。(2004年時)
1階のUFJ銀行にてトラベラーズチェック500カナダドル分と100カナダドルを5万2000円ほどで購入。
HISの受付時間16:00までまだ時間があるので昼メシを食って今に至る。
もう少しで憧れのユーコン川の旅が始まる。
思えば20代前半友達と行った四国一周の旅の際、四万十川で乗った体験カヌーが初のカヌーとの出会いだった。
その後野田知佑氏の本に深く影響を受け、自分のカヌーを買い、東海・信州・近畿地方の川を下りまくった。
そして今、憧れ続けたユーコン川に向けて旅立とうとしている。
初めての海外一人旅。
しかも普通の海外じゃない。
そこはほとんど人が住まない荒野の川だ。
どんなことが起こるのか?クマは出るのか?考えるだけでワクワクする。
さあ、そろそろHISの受付時間なので行くとしようか。
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驚きを禁じ得ない!
なんと僕が乗る予定のエアカナダの便が整備不良で出発時間がずれるとのこと。しかも4時間も。
毎度の事ではあるが、まさか出発前からこれほど予定を崩されるとは。
これが誰かと一緒だったら「これもいい思い出になるよ」とか言って励まし合う所だが、単独行の身ではそれもかなわない。
何といっても心配なのはバンクーバーからホワイトホース行きの国内線の乗り換えの問題だ。
現地にいるアツシさん(カヌーレンタルを依頼した現地業者の人)曰く、乗り換えは最低でも2時間半は欲しいところだと言われていたのに、1時間以内に乗り換えを完了しなくてはいけない大変スリリングな展開になって来た。
フルマラソンを1時間以内で走りきらねばならないような過酷な展開だ。
エアカナダの受付の女の子が申し訳なさそうに2000円分の喫茶券をくれた。
たった2000円で4時間をつぶせというのか。さっき850円自腹で天丼食ったばっかやで。
しかたなく、先ほどの展望レストランにまた戻り、ビールと普段では絶対高くて注文しないであろうスモークサーモン920円をオーダー。
みすぼらしい男が一人でビールを飲み、しゃれた皿にちょこんと盛りつけられたスモークサーモンを寂しげに食う。
ちょびちょび時間をかけて食べ終わってこれを記しているが、出発までまだ3時間以上ある。
最初のうちは飛び立つ飛行機を「ほ〜」と見ていたが、もはや見飽きた。
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あまりにも時間があるので、今回のユーコン単独行の旅までのいきさつでも書いておこう。
もともとユーコン川への憧れはあったが、現実的に行くなんて事は全く考えてもいなかった。
でも2年前当時付き合っていた束縛大好き彼女と別れ、その反動で自由を謳歌して、あらゆる日本の川を一人で下った。
そこで単独行の楽しさ、自由さ、辛さを多く味わい、同時に人生について深く考えるようになる。
のうのうと日々を暮らしていた僕は、カヌーで単独旅をしている時だけが生産的な気持ちで「生」を実感出来ていた。
そして再度野田さんの本を読むうちに、おもむろにユーコンの姿が現実的に頭に浮かぶようになっていた。
気がつけば、独り身の利点でそこそこ貯金も出来て来たので、本気でユーコン旅に向けて動き出した。それが去年の冬の事だ。
以来、ネットでユーコンを調べに調べ、ホワイトホースにあるクロンダイクカヌーイングレンタルスにカヌーレンタルを依頼する事にした。
正直、一般的にはホワイトホースでカヌーレンタルと言えば、野田さんの本でもおなじみのカヌーピープルという店が一番有名だが、カヌーピープルを辞めて1年前にポールという男が立ち上げたこのレンタル屋に決めた。
新しもの、マニアックもの好きな僕としては、その新しい営業努力に賭けてみる事にした。
ビーパルという雑誌でも、野田さんがクロンダイクのカヌーをレンタルして下っている記事もあったから心配はしていない。
日本人スタッフのアツシさんも電話やメールでとても丁寧に質問に答えてくれたので信頼している。
(筆者注:現在はこのアツシさんがオーナーとなって、日本人向けのきめ細かいサービスを行っている)
今年の春からは、全ての一人旅をプレユーコンと想定して川旅を続け、テント等必要なものを徐々に増やしていき、いよいよ今日の日を迎えたのだ。
もうこの半年は頭の中はユーコンで一杯で、今日を迎えてとても嬉しいのだ。
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今まだ18:30。
まだ2000円に達してないので、腹減ってないがサンドイッチを注文。
塩をふったら、思った以上に塩がドバドバ出て大変塩辛い。
こんなどうでもいい事を書いてしまう程にヒマなのだ。
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現在20:30。名古屋空港内。
予定ではとっくに太平洋上の人となってる時間だ。
しかし今は人もまばらになった搭乗カウンターで、持って来た本を一冊読破してしまいぐったりとしている所である。
他のカナダ行きの人達も待ち合いソファに軒並み寝そべり始める始末。
もうかれこれ僕は名古屋空港に8時間近くいる事になる。
空港内に軟禁されている状態が続いている。
読み終えた本は司馬遼太郎の「峠」。
陽明学の行動理念と先見性、武士道、自藩への強い想い、天才故の自忘生世の生き様。美しき侍の姿をそこに見た。
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現在23:45、太平洋上。
結局21:40にやっと機内に乗り込むことが出来た。
飛行機が飛び出した途端、名古屋の夜景が眼下に広がった。奇麗だった。
落ち着いた所で早速メシが来た。
フィッシュ オア チキンかと思いきや、ビーフ オア ウナギだった。これは予想外だ。
早速ウナギを頼むと何故かパンがついて来た。
うなぎとパンの食い合わせの悪さに少々驚きつつビールを飲む。
やがて、絶望的なアナウンスが流れる。
なんとバンクーバー到着が15:00くらいになると言うのだ。
ホワイトホース行きの国内線に乗るのが15:05だというのに!
5分で乗り換え出来るか!名鉄の乗り換えとは違うんだぞ!
もう頭は真っ白だ。初めての海外一人旅にこのトラブルは少々レベルが高い。
考えてもしょうがない。もう、後はなるようになれだ。
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機内現在5:45。
苦しい。寒い!
まるで冷蔵庫の中にいるみたいだ。冷房きき過ぎだろう。
とても眠れる状態ではない。間違いなく風邪を引いてしまう。
CAさんに頑張って英語で「俺は寒い。毛布をくれ。」と言ったら「No」と言われた。
なんて無情な対応なんだ。
評価は悪くなかったエアカナダだが、僕の中の評価はがた落ちだ。
つらい、ほんとうにつらい。
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現在カナダ時間で19:00。この時間でも真昼並みに空は明るい。
しゃれたカフェのテラスで外人に囲まれ、一人ビッグサイズのビールを飲みながらこれを記す。
とりあえずここまでの経過を書いていこう。
あの後、結局寒すぎて眠る事は出来なかった。
長い、長〜い時間が過ぎ、やっと朝食が出てくる。
その時、窓を開けてびっくり。
ロッキー山脈が眼下に広がり、さすがに圧倒される。
まるで宇宙船で違う惑星に来たみたいだった。
山は雪に覆われて、その遥か上空で冷房ガンガンかけてるんだもん、寒いはずさ。
山山山と景色が続いた後、突然バンクーバーの都市が現れた。
名古屋空港に着いてから実に18時間。
空路についてからは9時間というハードな移動だった。
バンクーバー空港に降り立ったが、乗り換えの問題があるので「カナダに来たぞ」っていう感動に浸れない。
とりあえず急いで荷物を受け取って、エアカナダの受付に行かねば。
しかし、特別に荷物が優先的に出て来てくれる手続きをしてもらったにもかかわらず、僕の釣り竿が出てこないじゃないか。
そうこうしているうちにAC010便の全ての荷物が出終わってしまい真っ青になる。
途方に暮れていると、遅れてスキー板等のコーナーに僕の竿が。
結局かなり最後の方に入国審査を終える。
急ぎエアカナダの受付へ。
英語が話せない僕に容赦のない英語の嵐。
聞き取れたのはわずかに「トゥモロー」「トゥナイト」「ホテル」だけだったが、その3語だけで今夜はバンクーバーに泊まらなければならない事は悲しくも理解出来た。
悲しみに暮れる僕に、遅れてやって来たエアカナダの日本通訳の人から、やはり明日の便なので今夜はサンドマンホテルに泊まってくれとの事。
エアカナダのミスなのに、にこやかに談笑しながらホテルのチケットを渡されとても気分が悪い。
サンドマンホテルの白いシャトルバスが来るからバス停で待てとの事。
しかし、バス停に行ったら来るバス来るバスみんな白じゃないか。
途方に暮れてバスを待っていると、外人さんが話しかけて来た。
雰囲気的に「○○ホテルに行くシャトルバスはここでいいのか?」的な内容だ。
知るか!
ただでさえ白いバスだらけで訳が分からんのに、その上英語でなぜ日本人の僕にそんな質問をするのだ。
そのへんの外人に聞いてくれ。
そうこうしてるうちにサンドマンホテルと書かれた白いごっついシャトルバスが来た。
乗客は僕だけ。
15分程でホテルに着く。
ロビーにエアカナダからもらったチケットを出し、また訳分からん英語攻めにあう。
その中で、電話を使うかと聞かれてノーユーズと答えてしまった。
現地のアツシさんに一日遅れることを伝えなきゃけなかったことを思い出し、やっぱり使いますと言いたかったが、英語で「やっぱり」をなんと言うか分からず結局言えずじまい。
たったこれだけの事で後々大変な思いをする事になる。
とりあえずアツシさんに電話をしなければ行けないので荷物を置いてホテルを出る。
まあコンビニ的な所で水でも買ってお金を崩して、公衆電話でかけようと思っていたのだ。
しかしホテル周辺は歩いても歩いても家しかない。
どうやら住宅街のようで、観光地よりも現地の人の生活を感じれる所が好きな僕は楽しかった。最初のうちは。
しかしいい加減同じような光景が続き、コンビニ的な店もなく札を崩す事も出来ず公衆電話もない。
しまいには方向音痴野郎の名に恥じず、きっちりと道に迷い北も南もさっぱりわからん状況に陥る。
こんなことならホテルで大人しく電話使うって言えば良かったとグチりつつ、2時間程バンクーバーの下町を彷徨い歩くはめとなった。
やがてホテルの近くで見た家の住所(家の前に番号がふってあるのだ)がジャスト10000だった事を思い出した。
その時点で10760の家の前。
ひたすら移動し番号を遡って、10096あたりでやっと見覚えのある場所に出ることができ、足をガクガクさせながらホテルへ到着。
この時点でもう3年くらいバンクーバーにいるような気分になる。
フロントの人に必死の英語で電話を使えるようにしてくれと頼み、カードを提示して電話を使えるようにしてもらった。
早速部屋から電話をプッシュするが、いつもの癖でいきなり0を押してしまい、フロントに繋がってしまってあせる。
なんやかんやでなんとかアツシさんに繋がり、遅れる事を告げることが出来た。
たった一本の電話をするのに3時間以上を費やしてしまった。
やはり僕は馬鹿な男だと再認識する。
本当にやっと落ち着いたのでホテル指定のカフェレストにてパスタを食う。
さすがカナダサイズ、パスタもビールもすごい量だ。
ビールがなくなったのでウェイトレスらしき人に「オーダープリーズ」って言ったら、なんと一般客の人だった。
お互い苦笑いで「ソーリー」。
あらためて2杯目のビールを飲みながらこれを書いている。
もうクタクタなので部屋に帰ったらさっさと寝よう。
まだユーコン川に着いていないのにやたらと日記に書く事があって忙しい。
テーブルチェックなんだけどおつりと一緒に会計帳も戻って来てしまい途方に暮れる。
結局よく分からんので会計帳ごとホテルに持ち帰っておいた。
ユーコン川漂流記〜1日目〜へつづく
ユーコン川漂流記〜プロローグ〜
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北沢峠でチラ見しただけですが、、、
モリヒロにブログ教えてもらい、のぞいてます。
まだ、これを読んだだけですが、2004年に僕はユーコン行ってます。もちろんあつしさんも知っています。きっともっと共通の知人がいると思います。
これから、読み進むのが楽しみです。
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おお!Dさん、訪問ありがとうございます!
もっとじっくり話がしたかったんですが、また次の機会にゆっくり語りましょう。
実は僕も2004年なので、同じ時に同じ空気を吸っていたんですね。縁ですねえ。
この世界は結構狭いので、間違いなく共通の知り合いがいますよね。
こうしてB旦那経由で会えたのもそうですもんね。
つたない文章と下らない内容ですが、お暇なら読んでやってください。
では、また山か川で!