8/15(日)10:50。
現在ユーコン川合流まで残り80キロ地点。
さきほどだだっ広い中州で、雄大なパノラマを眺めながらうんこをまってやった所だ。
今朝は4:30に目が覚めた。
相変わらず寒いので、朝から白菜入りサッポロ一番チキン味のうどんを食った。
早朝は野生動物がよく川に降りてくると聞いていたので、6:00前に出発。
空は昨日とは打って変わって曇り空。
というより空一面が霧に覆われている感じだ。
太陽は出ていない。
風は大分おさまっている。
扇風機で言えば弱といった所。
この寒さで雨が降ったらと思うとゾッとする。
出発して1時間半程。
森の中がガサガサいったので、とたんに緊張が走る。
すると森の中からひょっこりとデカイ亀のような物が出て来た。
双眼鏡で見ると、どうやらビーバーのような生物がそのまま水の中へ入って行った。
そしてまたしばらく進むと、遠くの方に何やら大きな影が見える。
双眼鏡で見ると動いてる。でっかい馬みたいな奴。
ムースだ!
ついに会えた。
見事な角を持ったでっかいムースが水を飲んでいたのだ。
必死で漕いで少しでもムースに近づくが、5mくらいの距離で慌てて森の中に姿を消した。
感激の数分間だった。
そのすぐ後に、目の前を巨大なハクトウワシが横切っていく。
やはり早朝は野生動物のゴールデンタイムだ。
その後も延々と漕ぐが、空が曇っているので気分が上がらない。
というか、昨日みたいに暖かくなってこない。寒い。
晴れと曇りの違いで、気温も風景も全く違う世界だ。
命というものを次第に意識し始める。
自分は今確かに、極北の最果てに向かって川を下っているいることを実感する。
やがてボズウェルリバーの流れ込みにつく。
この辺は流れが早く、時折瀬が発生する。
沈=死を意味するので、自然とパドルを持つ手にも力が入る。
ボズウェルリバー脇で釣りをするがアタリはなかった。
そういえば野田さんはこのボズウェルリバーを下ったみたいだが、見るからにとても僕には無理だ。
間違いなく彼らがうようよいる気配を醸し出している。
ふと見上げると霧越しに真っ赤な太陽が薄く出ていた。
いよいよ違う惑星にいるような気になってくる。
そのままさらに早い流れに乗ってインディアンリバーへ。
アツシさん曰くここが釣りのグッドポイントらしかったが、残念ながらアタリはなかった。
さらに延々と延々と寒さに震えながら漕ぎ続ける。
川の中州に上陸しうんこをして現在に至る。
先はまだ長い。
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現在12:30
モモヒキを履き、靴下も変えてちょっと人心地。
「冒険も三日もすれば日常になる」とは野田さんの言葉だが、全くもってその通りになって来た。
今、川の上を漂い、遥か極北の川を毎日下っていることがもう当たり前になって来て何の疑念も浮かばない。
それとともに、感覚が日々研ぎすまされていくのがよく分かる。
僕は日本に帰ってから、また元のように普通の生活が送れるのだろうか。
もう自分の心が後戻り出来ない所に来てしまった事を、強く感じる。
川を下れば下る程ゴールドラッシュ時の人々の凄まじさがよく分かる。
まさに夢なくしては先に進めぬ旅だ。
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現在14:15。
その後も漕いでいると、川の中に巨大な80cm程の赤い魚体のキングサーモンが3匹連なって通っていってかなりビビった。
ふいにあれだけ巨大な魚が通ると恐怖すら感じる。
その後、今後距離を稼ぐにはとにかく体力だと感じ、腹は減っていないがメシを食って昼寝をしようと上陸。
何の魚か分からないトマト漬けの缶詰を食う。
なかなか美味。
そして大量のハエと蜂が飛び交う中、死んだように1時間程寝た。
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現在17:15。
早い流れに身を任せて、今日のキャンプ予定地を目指している所だ。
昼寝した後漕ぎ始めたが、体力回復のはずがどうにも体がだるい。
流速も出て来たので、漕がずに流れに身を委ねた。
川の底を見ると、短距離走を走っている時の地面のように小石がビュンビュンと後方に飛んでいく。
これ以降ほとんど漕がずに進んでいく。
オブライエンズバーという所に上陸してみたが特に何もなかった。
そこから川を見るとすごい速い流れだった。
川の上にいると分からないのだ。
やがて島にあるgood campに青木さん(仮)がいた。
ついに彼に話しかけられた。
「どちらまで行かれるんですか?」
日本語だ。やっぱり日本人だったんだ。
僕「カーマックスまでです。」
青木(仮)「じゃあ明日の夕方までには着きますね。」
え?明日の夕方?
そんなに早く着くはずないのにどういうことだ。
僕「20日にカーマックスの予定なのでゆっくり下っていきますわ。」
どこから来たのか聞いてみたら、どうやら大阪の人らしい。
そのまま上陸して少し話したかったが、流れが速すぎて僕は流されながらの短い会話だった。
まさにハローグッバイ。一瞬の邂逅。
久しぶりに人と会話が出来て、少し晴れやかな気分になった。
しかし、彼の名前は分からずじまいだったので、まだしばらく青木さん(仮)だ。
しばらく進むととんでもないバンクが現れた。
バンクとは山の端っこをナイフでスパッと切ったような岸壁で、地図を見る際に大変良い目印になる。
そこのバンクはもうスケールでかすぎて、完全にSFの世界だった。
まるで別の惑星に僕一人取り残されてしまったかのようだ。
きっとこの光景は写真では表現出来ないだろう。
余韻に浸りつつ、もうしばし流されて次のgood camp上陸を目指す。
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現在20:30。
その後新田次郎の「アラスカ物語」を読みながら、ユラユラとgood camp地点まで流されて行った。
やがてgood campに近づくと、人の声が聞こえて来た。
双眼鏡で見てみると、8人くらいの外国人の団体が占拠していた。
こいつらが噂に聞くドイツ軍団か。(ドイツは長期のバカンス休暇があるので、集団でユーコンに来るらしい)
キャンプ地が占拠されてて結構ショックだったが、次のgood campを目指す。
頭上の空をカナダガンの群れが「シャアシャア」と南斗水鳥拳のレイのように通り過ぎて行く。
キャンプ地らしき所を通り過ぎてしまい、その先の河原でテントを張ることに。
しかし、ここの河原は「どうぞ燃やして下さい」と言わんばかりの流木のオンパレード。
よく乾燥していて燃えること燃えること。
この旅初の米料理、中華丼を作る。
ウマい。エアカナダのうなぎ丼以来の米だ。
夕日をバックに渡り鳥が見事な隊列を組んで飛んで行く。
今日は本当によく漕いだ。
約12時間漕いでいた事になる。
明日はついにユーコン川へ合流だ!
ユーコン川漂流記〜5日目〜へつづく
ユーコン川漂流記〜4日目〜別の惑星
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MATATABI BASE
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