8/14(土)
現在9:30、テスリン川をカヤックにて漂いながらこれを記す。
気持ち流れが出て来たので、ゆらゆらと流れに身を任せてみる。
そして実に今日は体調がよろしい。
さすがに10時間以上も寝れば、時差ボケも取れて調子が出てくる。
やはり必要以上にマイナスイオンが溢れすぎているせいか、まるでドラクエの宿屋のように一夜にしてHPが全快だ。
100マイルランディングに上陸しようと思ったが先客がいて、犬に吠えられて断念。
しばし快調に進んで行く。
すると奇麗な小川が流れ込んでいる所があったので、嬉々として水を補給する。
驚いたリスが慌ててスプルースを駆け上がり、僕と見つめ合う。
これでしばらくは水は大丈夫そうだ。
地図を見る限り川幅も徐々に狭まって行くようなので、頑張って漕いで流れのある所まで行こう。
今日も快晴だ!
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さっき100マイルランディングにいた二人と一匹が、モーターボートですごい勢いで横切って行った。
軽く手を挙げると手を挙げ返してくれた。
久しぶりの人の姿だった。
さて、ユーコンジャックというお酒について。
ホワイトホースで買ったこのウイスキーはなんと甘い。
小さい頃病院でもらう液体の甘い薬を思い出す味だ。
名前の割になんて貧弱な味なんだ、こんなん飲めるかと思ってたんだけど、これが中々どーして長距離カヌー時の体力回復に最適な酒だった。
甘い物不足なので、大変元気が出るし、アルコールも40度なので体がカッとして力がみなぎるのだ。
その名に恥じぬ、ユーコンを旅するに適した酒だ。
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現在13:40。
漕がなくても進んで行くから、もう川の上で日記を書くのが当たり前になって来てる。
あの後、ビール飲みながらのんびりと流されていった。
気持ちのいい場所があれば上陸して、至極の一服をかましたりする。
僕だけの世界が展開していく。
どんどん自分が自然に同化していくのを感じる。
この上ない幸せな時間だ。
さらに下って行くと、スィフトリバーの流れ込みの所に人影が見えた。
この旅で初めてのカヌー野郎との出会いだ。
彼はちょうどファルトボートに荷物を積み込んでいる所で、挨拶しようとしたがこちらに気づいていない。
なんとなく日本人ぽい感じだったがどうだろうか?
今後、彼とは何度かすれ違う事だろう。
(筆者注:この時の出会いが後に「八重山諸島放浪記」へと続く運命の出会いとなった。)
やがて地図に「Fast Water」と書かれた場所が近づいてきた。
ついにこの川旅初の瀬で緊張したが、ざざ波程度で大した事はなかった。
ただここを境に流れが速くなり、やっと快適なパドリング環境になった。
しかし、後ろに人がいると思うだけでなんだか落ち着かないな。
ここでは一人でも他のカヌーを見たら、それはもう渋滞だ。
そういえば今回の川旅を始めてから、一度も寂しさを感じた事がない。
この川の懐がでかすぎる事と、一人で生きて行く事で精一杯になってしまうからだ。
この川に団体で来る事を考えるとゾッとしてしまう。
一人だと苦しい事は本当に苦しいが、楽しい事は強烈に楽しい。中途半端がない。
この感じが分からない人はここに来るべきではない。退屈なだけだ。
これぞフルライフ。最高だ。
単独行バンザイ。
その後もユラユラ流されていると、さっきの人(青いファルトに乗っているから、とりあえず今後は青木(仮)さんと書く)が、いつの間にか後方にいた。
ちょっと鼻歌まじりだったので恥ずかしかった。
僕はエディに入って彼が通り過ぎるのを待つ。
今度はちゃんと挨拶が出来て、青木(仮)さんも手を挙げてくれた。
そんな感じでこれを書いてたら結構進んだ。
さあ、旅の続きだ。
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16:00
体力が限界に近い。
というのもあの後、地図上に別の細いルートが書いてあった事から始まった。
ずっと大河を下っていたから、例え大回りでも細い流れに乗りたかっからその小川を攻めてみた。
たまに船底をすってしまうが、ライニングダウンすれば奥まで行けそうだったので進んでみる。
だんだん奥に行く程、雰囲気がただならぬ感じになって来て、妙に何かの気配をビンビン感じるようになる。
その時、岸にクマの足跡がたくさん(しかも新しげ)あるのが目に入った。
細い川で、両サイドが深い森。
状況としてはバッチリだ。
大量のクマにジッと見られている感覚が抜けない。
心の底から恐怖に支配され、僕はカヌーを降りてカヌーを引っ張りながら全力でその場を離れた。
このバカな行為の為に、貴重な体力を大いに消耗しグッタリする。
そんなおり、おもいっきりな逆風(扇風機の強よりも強な感じ)が僕の行く手を阻む。
頑張ってひたすら漕ぐが中々進まない。
もうクタクタでパドルを握るのも億劫になって来た。
適当なキャンプ地があったら駆け込もう。
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現在20:05。
晩飯を食べ終わりグッタリしている所だ。
あの後もう目眩がしそうな程、体は限界に近かった。
逆風は続き、しまいには下を向きながら漕いでいたぐらいだ。
日本で日々の生活をしている時、一日で使えるパワーをフルでその日に使い切る事はなかったが、こちらの日常は毎日がフルパワーを使い切る日々が日常だ。
そういえば、今まさに遥か遠くアテネでオリンピックが行われている。
全く僕は蚊帳の外だが、気分は毎日フルマラソン。
メダルはもらえないが、それに勝る物を今僕は手に入れている。
紫外線が強すぎるので、唇がまるでバオー来訪者のようにバキバキに割れて来た。
疲れすぎてリップスティックを取り出す気にもなれない。
やがてやっとgood camp地に到着した。
古びたキャビンがあったが、なんかコワくてそこでテントを張る気になれず、少し離れた場所でキャンプイン。
近くにムースの足跡があるので、明日の朝あたり見られるかも。
テントも張り終えて、ちょっとフライフィッシングをしてみる。
グレイリング(北極カワヒメマス)がいるだろうクリークの流れ込みを狙ってみた。
すると1投目でいきなりヒット。
釣れると思ってなかったから、かなり動揺しつつも糸をたぐり寄せると30cm程のグレイリング。
今までの疲れが一気に吹っ飛び、フライを投げ入れるたびにヒットの嵐。
まさに入れ食いだ。
楽しくてしょうがないので、しばらく釣りまくる。
釣りすぎて困ってしまい、針の返しを潰して釣り続けたほどだ。
30分程で20匹近く。
日本ではあり得ない。
腹は減っていないから、キャッチ&イートが信条の僕もさすがにリリースした。
そして晩メシを食って、風のおかげで蚊が少ない外にてこれを記す。
これからクリークで歯を磨いて明日の為に寝るとしようか。
今日もよく漕いだ漕いだ。
今日の日が終わっていく。
僕は今心から充実感を味わっている。
ユーコン川漂流記〜4日目〜へつづく
ユーコン川漂流記〜3日目〜フルライフ
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MATATABI BASE
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