8/18(水)
現在ユーコン川の川の上。
手がかじかんで書きづらいが、元々字は下手なので問題はないだろう。
たった今、カナダガンの群れが頭上を飛んで行った。
今朝は6:00に目が覚めた。
しかし、昨日の夜はハエの音がとんでもなくうるさくて寝にくかった。
日本のクマンバチの1.5倍くらいの羽音なので、テントの外で何十匹と飛ばれるとまるで耳元で飛んでいるかのような音だ。
寝る時は暑くてもテントは閉めきって寝袋にくるまって寝ないといけないのもつらい。
後々確実に冷え込んで、えらい目にあってしまうからだ。
朝起きて、早速焚き火を起こしコーヒーを湧かして飲む。
この時点で完全に目が覚める。
至福のひととき。
今までためたビール缶などを完全に焼き切る。
(ナイフの先にはクマの爪をあしらったシルバーアクセ。シルバー職人の会社の先輩に選別で頂いたものだ。このアクセは今でも大切な宝物となっている)
7:40頃出発。
朝の川霧の中のカヌーは、とても神聖な気持ちになる。
ネイティブの人達のあがめる「神の存在」を認めざるを得ない瞬間でもある。
昨日から続く山火事跡(BURN区間)はさらに荒々しい世界を演出する。
しかし焼け跡に群生するファイヤーウィードが、僕に力を与えてくれる。
それにしても、昨日の昼頃は暑くて泳いでもいいんじゃないかってくらいだったのに、朝になるととんでもなく寒い。
水に手を入れたら冷たすぎて火傷するんじゃないかというくらいの感覚。
でも試しに手をつけてみると、なんと温かく感じるのだ。
どういうことだろう?
時折手がかじかんだ時は、川に手を入れて温めながら下るという不思議な体験をする。
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現在12:35。
その後次々と外人軍団に抜かれる。
その中の一人が英語で話しかけて来た。
外人「クマ見たか?」
僕 「見たよ」
外人「今朝か?」
僕 「昨日だ」
会話終了。
心から英語が話せない悔しさを噛み締める。
今回の旅用にオークションで買った「ピンズラーアメリカ英会話」の成果をまるで発揮出来ない。
日常会話で「クマ見たか?」で始まる例文なぞは収録されていなかった。
そのまま流されて行くと、和田さんが大きな中州でこれから出発しようとしている所だった。
立ち寄ってみると、ビッグサーモンヴィレッジには気が付かなかったようだ。
僕はその場で一刻休憩して、和田さんは先に下っていった。
僕も程なくして出発すると、300mほど下流に和田さんがいた。
そこにはゴールドラッシュ時代の、朽ち果てた金の堀削機のようなものが川に埋まっていた。
金の亡者の夢の跡。
生きてる内にせっせと金持ちになっても、行き着く先はこんなもんだ。
その後もまた一人本を読みながら流されていく。
erickson’s woodyard,good high water campと地図に載っていた場所に立ち寄る。
やや高台にあるキャンプ地で、しばし休憩がてらぼーっとする。
再び水上の人となり、今日も昼食になるであろうサラミを食って現在に至る。
リトルサーモンまであと25kmだ。
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現在21:15。
リトルサーモンヴィレッジのテント内で記す。
あの後もひたすら本を読みながら下った。
もういい加減、景色にも無感動になってきて、でっかいバンク見ても「あ、そう」くらいにしか思えんくなって来た。
どんどんユーコンが日常化している。
いよいよ日本に帰っても、社会復帰出来そうにない。
やがてTWIN CREEKSという所に出た。
1本目のクリークは、ユーコンに入って初めての飲めそうな小川でキャンプ地もかなり良さそうだった。
2本目の小川に期待して進んだんだが、ユーコン特有の沼的小川で、上陸して釣りをするが釣れずにすぐに出発。
長い長い読書の時間が過ぎて、やがてリトルサーモンリバーまで来た。
リトルサーモンヴィレッジまですぐそこだ。
ビールビール。頭の中はそれ一本だ。
しかしどうにも村の気配がしない。
嫌な予感がする。
ふと双眼鏡を覗くと、誰かが岸でパドルを振っている。
和田さんだ。
誰かがそこに待っているとことは実にいいもんだ。
嬉しくなって、漕ぐ手にも力が入る。
到着して真っ先に「ビール売ってました?」と聞いた。
「何もないです。」
え?ビールどころか何もない?
上陸してこの目で確かめてみると、そこはドラクエの廃墟を思わせるような光景だった。
砂利道のメインストリートに、誰もいないキャビンが転々とあるだけの廃村だったのだ。
ビールがなくて落胆する僕に、和田さんがビールとウイスキーをくれた。
持つべきものは同朋である。心底ありがたい。
しばらく二人で村を探検する。
キングサーモンをスモークするフィッシュキャンプをやっていたので覗いてみた。
そこには体格もビッグサイズなインディアンママと白人パパとその子供二人と犬がいた。
英語が少々話せる和田さんがいたので、しばし話をした。
するとママがキングサーモンのスモークを少しくれた。
実に美味だったが、益々ビールが欲しくなる。
するとママがおもむろに、クーラーボックスから何かが入ったビニール袋を取り出した。
中にはなんとこれでもかってくらいのイクラが詰まってるじゃないか。
そうだ、インディンの人たちは昔からイクラをそれほど重宝していないので、野田さんもよくフィッシュキャンプでイクラを貰って醤油漬けして食っていたな。
日本の感覚で言えば、10人分のイクラ丼が出来そうなほどの量のイクラを頂いたのだ。
まるで野田さんのユーコン旅を地でいくような体験に、もう嬉しくてしょうがなかった。
しかも僕はイクラが大好物なんだ。
これ以上ない笑顔で「サンキュー!」と言ってテント地へ戻る。
もう僕と和田さんは大興奮だった。
早速この旅であまり出番がなかった醤油を、丸ごと1ビンだぼだぼとかけて醤油漬けにした。
和田さんもかなり野田さんに打ちのめされている人なので、ニヤニヤが止まらない。
ちゃっちゃとテントの設営を済ませて、いざイクラ丼作りのために薪を集め始める。
するとおもむろに白人パパが「ブルンッ」とチェーンソーを動かし出し、でかい倒木の丸太をガンガン切っていく。
無言でバスバス切ったあと、「これ使ってくれ」って感じでその薪を指差した。
カッコいい。
なんて豪快でカッコいいんだ。これがユーコンの男か。
なんだかとても温かい気持ちになり、彼らファミリーには本当に感謝だ。
リトルサーモンヴィレッジは思っていたような村ではなかったけど、思った以上に温かい場所だった。
もうこの時の充実感ったらなかったよ。
そして英語が話せる和田さんにも感謝だ。
ほんと、いい体験ができた。
でっかい薪で豪快に焚き火を作り、速攻で米を炊く。
米を皿に盛って、ついにイクラを投入。
イクラは大量にあるから、もうご飯なんて見えないように山盛りに盛ってあり得ないイクラ丼が誕生した。
イクラ2:ご飯1の比率。
これぞ「キングサーモンのユーコン風イクラ丼」だ。
食ってみると実にウマい。
と言うかかなりウマい。
とても幸せな時間。
しかしさすがに2杯目となるとくどい。
それでもまだ大量にイクラが残っているので、ジップロックに入れてユーコン川で冷やしておき、また明日食べるのだ。
その後、日没までまったりと和田さんと語らう。
野田さんの話を中心に、日本の川の事など色々話した。
これほど考え方が似た人なんて日本では全く会えないのに、こんな果ての地で(果ての地だからこそ)会えるとは。
彼は今年の10月から高知県で働くそうだ。
いつか四万十川行った時にでも、酒の一杯でも飲みましょう。
やがてユーコン独特の赤オレンジ色の夕日が山に消えていき、我々はそれぞれのテントに入っていった。
今日は実にいい日だった。
しかしさっきから大量のハチ軍団が、そうはさせじとテントの回りを飛びまくっている。
テント回りに5台くらいテレビを置いて、同時にF1中継を放送しているかのような爆音だ。
でも今日の僕の気持ちはとても穏やかなので、少々の事は気にせず寝るとしよう。
いよいよこの旅も明日と明後日で終了だ。
残り約55キロ。
もう一息。
がんばらずにがんばっていくか。
ユーコン川漂流記〜8日目〜へつづく
ユーコン川漂流記〜7日目〜荒野のイクラ丼
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MATATABI BASE
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