木枯らしの中、落ち葉を踏んで佇む大五郎とチャン。
行き場を失った子連れ狼が晩秋の森をさすらう。
紅葉トライアングル翌日。
家庭的にもカメラ的にも遊びに行けない三連休最終日。
そんな僕を嘲笑うかのように、空は大快晴に包まれた。
こんな日に登山なんて出来たらどれほど素晴らしい事だろうか。
しかし僕には子守りという重要なミッションがある。
もちろん子守り指令があるとは言え、家でのんびりなんて行為をしてしまえば僕は瞬時に発狂してムンクと化してしまう。
でもりんたろくんを連れて出て行ったとしても一眼レフカメラが無いから、やたらと景色がいい所は精神的によろしくない。
その悔しさは前日の見事すぎる香嵐渓の紅葉で身に染みている。
さあ、この晩秋大快晴のハイパーアウトドア日和をどうやり過ごすか?
そんな子連れ狼のさすらいの一日を追って行こう。
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目が覚める。
カーテンを開ける。
人を馬鹿にしたような大快晴。
そしてその場でうなだれる。
一体この一連の流れを何度体験した事か?
遊べない日に限って開催される神の嫌がらせ。
こんな日こそ雨が降ってくれれば心は救われるというのに。
ここで思いがけぬ情報が舞い込む。
嫁が出かけるのはお昼前だということ。
という事は午前の僅かな時間で遊べるのではないか?
早速僕は嫁との交渉のテーブルに着き、秋の空のように爽やかなプチ土下座をかます。
そして見事に3時間の自由時間を拝領する事に成功した。
さあ、この限られた時間で何をすべきか?
この大快晴の一日を精神的に乗り切る方法はたった一つ。
僕がそこで導き出した答えは、「午前中の早い段階で、もう動けませんってくらい自分の体を痛めつける」ってこと。
そうすれば「山に登りたい」なんて気も起きなくなって、心穏やかに子守りに専念出来るはずだ。
即座に僕はランニングを開始。
ランニングなら一眼レフも必要ないし、そもそもそこには楽しさすら必要ない。
徹底的に自分の体を破壊する事が目的だからだ。
どうせなら最長ランニング記録の更新を目指してやろう。
過去の最長記録は25キロ。
この時は途中で無念のリタイヤをし、散々嫁に罵倒された挙げ句にお義父さんに車で迎えに来てもらって平謝りするという名場面が繰り広げられた。(参考記事)
屈辱にまみれた、あの時以来の挑戦だ。
延々と走り続けて、約10キロ地点。
すこぶるいい調子で、このまま行けば記録の更新は達成出来ると確信。
途中で奇麗だった長良川を撮影する余裕もある。
しかしこの写真を撮った直後、突然iPhoneの電源が落ちた。
何度やっても画面は立ち上がらない。
原因不明の強制終了に立ち尽くす男。
ここまでのランニング記録が見事にぶっ飛んでしまった。
たちまち僕のやる気が銀河系の彼方に吹き飛んだ。
結局このまま走り続けても、何キロ走ったのかも分からないし記録にも残らない。
僕は天を仰ぎ、大きくため息をついてから無念の帰宅ラン。
当然音楽も聴けないから、無音のストイックランニングだ。
やがて家に到着。
結局往復20キロくらい走ったが、それを立証出来る材料は何も無い。
記録にも記憶にも残らない中途半端な戦い。
そんな秋の大快晴修行ランニングはこうして終了した。
(ちなみに帰宅後にiPhoneは原因不明の復活。人を馬鹿にするアプリでも入れてしまったんだろうか?)
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結局中途半端に体力が残ってしまい、まだまだ体のうずきが止まらない。
でももう大人しく子守りに徹しなくては。
りんたろくんを引き連れて、嫁を駅に送ったその足で一路各務原市を目指す。
やって来たのは木曽三川公園の「かさだ広場」という場所。
とっても平和で「正しい親子の広場」といった風情が逆に新鮮だ。
よくよく考えたら、普通の親子はこういう場所で遊んでるんだね。
3,000mの山とかに連れて行ったりはしないんだね。
ここにはロープで出来た巨大なジャングルジムみたいなのがあった。
そんじょそこらの3歳児とは経験が違う所を見せつけてやろうぜ、りんたろくん。
勇ましい出だしで逞しく登って行く息子。
しかし登った先は、次々と上から子供が降って来る無法地帯だった。
すっかり怯えて微動だにしなくなる男。
よく考えると彼はこの歳にして多くの山を登頂して来たが、基本的に全部お父さんが背負っているからこの人は何もしていない。
ゆえに体力も無ければ度胸もないというチキン野郎だった。
仕方なく、お父さんが彼を抱えてネットをよじ登って行く。
不安定な足場でりんたろくんを抱えながらは中々にハードな作業だ。
そして僕は発見した。
「これはインナーマッスルを鍛えるのに調度いいではないか」と。
以前から「子守りをしながら筋トレをする方法はないものか?」と模索していた僕には最適な遊具だ。
りんたろくんも異常に喜んでいるから一石二鳥。
僕は本日二度目の肉体破壊に突入。
何度もてっぺんまで登っては下って来てまた登るを繰り返す。
子供だらけのジャングルジムで、息を切らせながら昇降運動を繰り返す36歳。
ひとしきり筋肉が破壊されたから、これでこの大快晴でも平静を保つことが出来そうだ。
大満足で昼メシのコンビニ弁当だ。
りんたろくんはワイルドに弁当のご飯を原型のまま持ち上げて食らっている。
でも、ごはんに微かに付着した野菜は徹底的に除去してから食べる細かさも持ち合わせる。
巧みに野菜をご飯の中に忍び込ませても、絶対に嗅ぎ分けて野菜を食わない。
そんな事だからいつも便秘に苦しんで大号泣の難産排便になるんだぞ。
まあ、お父さんのマゾを引き継いでいてそれすら楽しめるなら何も言わんけど。
飯も食ったし、ここらで合体して周辺探索だ。
地図にはこのかさだ広場の奥に「各務原アウトドアフィールド」という森があると記載してある。
どんなもんだとそこに向かってみた。
いつものように己撮りができないから、今回は影撮りしかできません。
今日のような日には悪魔超人のブラックホールに出くわさないように注意しなくてはいけない。
所詮公営のもんだから大したもんじゃないと思っていた。
でも進んで行くと、思いのほか手つかずな感じの広大な森が広がっていて気分がいいぞ。
やるじゃないか各務原市。
なんだこの「ランドネ」的なふんわりしたアウトドア空間は?
アウトドアとは眉間にシワを寄せてグハグハと嗚咽を漏らしながら堪能するものじゃなかったのか?
今僕はとっても平和で心穏やかに過ごせているぞ。
何だかとてもいい気分だ。
背中では延々とりんたろくんがウルトラマンタロウのテーマを歌い続ける。
我々の後ろには微笑ましい若いカップルが手を繋ぎながらのんびり歩いている。
なんてのどかなんだろう。
もうのどかすぎて、ここなんて畑の中みたいじゃないの。
そしてこの先は行き止まりになってるじゃないの。
おい、どこだここは?
まさか我々は道に迷ってしまったのか?
こんなのどかな場所ですら遭難してしまったのか?
行き止まりで唖然とする僕。
振り返るとカップルが僕を見ている。
僕は「ひょっとして迷ってます?まさか僕に付いて来ました?」と聞くと、苦笑いでカップルは頷いた。
カップルは付いて行く男を間違ったのだ。
多分ここに詳しいデキル男と判断したんだろう。
しかし彼らが勝手に運命を預けた男は、イチローの打率クラスの遭難率を誇る男だったのだ。
結局そこで畑仕事してたおっさんに弱々しく道を尋ねるデキナイ男。
何とかおっさんに正規ルートを教えてもらい、標高数十メートルでの低標高遭難を免れた。
そしてもはや僕に不信任案を突きつけたカップルは、颯爽と我々の前を歩く。
なんだか悪い事しちゃったなあ。
まあこのくらいのトラブルがあった方が、お互いの絆が強まるってもんだ。
きっと僕は良い事をしたのだ。
結局いつも通りのプチトラブルを楽しんで、無事に畑を脱出です。
いやあ、何気に結構楽しかったな。
なんだかんだと朝からずっと動き続けているから、結構気分は落ち着いて来たぞ。
でもまだ時間があるからもちろん帰らない。
ギリギリまで遊ばないと快晴の休日さんに失礼だ。
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向かった先は近くの河川環境楽園って所。
以前紹介した事のある、地味な淡水魚の水族館「アクアトト岐阜」がある広い公園だ。(参考記事)
今回は水族館には行かずに園内をうろつく。
りんたろくんはこのバルーン遊具に相当はまった様子で大喜びで跳ね回る。
まるでどっかの教祖のような浮遊スタイルで大ハシャギだ。
そこにいたお友達とも意気投合し、子供同士の微笑ましい追いかけっこが始まる。
しかしテンションが上がり過ぎたりんたろくんが、大声で奇声を発しながらお友達を強烈な勢いで猛追。
最初は笑っていたが、その迫力にすっかり怯えてしまったお友達がついに号泣。
結局僕とりんたろくんでその子の親御さんに平謝り。
テンションが上がりすぎると見境無く突っ走り、最終的に嫁に必殺の平謝りを炸裂させるというお父さんとの血の繋がりを感じた一幕でした。
この一件で急速にりんたろくんのテンションが激落ち。
気を取り直して、のんびりと園内をうろつく。
たまにはこういう平地でうろつくのも悪くない。
大五郎は若干ブルーだし、子連れ狼は朝から動き続けて疲労困憊。
こうまでしてやっとこの親子に訪れた平穏な時間。
落ち着きが無い親子は何かと大変なのだ。
こうして満足した二人は家路についた。
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帰宅後。
ついにあの敵が大五郎に襲いかかる。
案の定、便秘5日目の彼は苦悶の表情で「オシリ、なでなでしてッー」と泣き叫ぶ。
慌てて大五郎の尻を必死でなでなでし続ける子連れ狼。
さすがの剣豪も、内側からの敵襲になす術が無い。
随分と長時間に渡る戦いだったが、まるで出て来る気配がなくお産はついに持ち越しに。
時間が時間だったので、僕は落ち着いたりんたろくんとお風呂へ。
ひとしきり風呂の中で「ウルトラマンVSゼットン」ごっこで戦った後、満足して風呂を上がる。
そして彼の体をバスタオルで拭こうと思ったその時。
僕の眼前に信じられない光景が展開された。
なんと大五郎のケツから「茶色い練り物」がコンニチハしているではないか。
今まさに褐色のミニ大五郎が、満を持して娑婆に飛び出そうとしている瞬間だったのだ。
脱衣所は一瞬にして脱糞所と化した。
たちまち全裸でパニックになる子連れ狼。
今まで風呂での放尿は多々あったが、脱糞に至るという事態は未経験だっただけに動揺が止まらない。
すかさず僕は大声で助けを呼ぶ。
そしてこんな時に限って嫁はまだ帰って来ておらず、お義父さんは嫁を迎えに駅へ行っている。
この場にはお義母さんしかいない。
僕は急いでバスタオルを腰に巻いたが、お義母さんがトイレットペーパーを持って来た時、絵に描いたようにバスタオルがハラリと落下。
それとほぼ同時に大五郎の分身も落下。
同時に投下された親子爆弾。
全裸羞恥パニックの子連れ狼と、双子・三つ子と出産が止まらず泣き叫ぶ大五郎。
平和だった昼から一転、惨劇に翻弄される脱衣所での親子劇場。
結局はこうなってしまうのか。
長い長い戦い。
やがて全てを出し切った大五郎は満足げな笑みを浮かべ、その頃に嫁も帰宅。
何事も無かったかのように戯れる母子の背後には、グッタリとうなだれる疲れ果てた狼が一匹。
晩秋をさすらった子連れ狼。
行き着いた先はお馴染みのエンディング。
真っ白な灰になった狼はこうして大快晴の休日を乗り越える事に成功。
結局ずーっと親子で一緒だったこの三連休。(記憶に残っていないランニングは除く)
彼が大きくなるまで、あとどれだけこうして親子二人で遊べるんだろうか?
今後も噛み締めながら二人の時間を大事に過ごして行こう。
りんたろくんもあと2ヶ月もすればお兄ちゃんだ。
その時はちゃんと弟くんの世話をするんだぞ。
お父さんもいつ君のお母さんにこの家を追い出されるか分からないんだから。
とりあえず、いい加減オムツを卒業してクソくらい一人でこなしてくれ。
頼むぜ、りんたろお兄ちゃん。
さすらいの子連れ狼〜脱衣所の決闘〜
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MATATABI BASE
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