◉日々のツレヅレ

怒りの休日〜爆発編〜

日曜日の夕方。

もうじき快晴の土日が終わろうとしている。

この奇跡の快晴連休に、遊びに行けなかったばかりか悲惨な時間を過ごしてしまった。

結果僕の中に不満のマグマが充満し、亀裂から湯気が溢れ出した。


このままこの土日を終わらせるわけにはいかない。

こんな気分を引きずったまま、明日からの1週間を仕事なんて出来ない。

今この夕方という時間から出来る、画期的なマゾプレイはないものか?

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僕は家を飛び出し、走り出した。

行き先も解らぬまま、暗い夜の帳の中へ

嫁には縛られたくないと、逃げ込んだこの夜に

自由になれるのか

35の夜。



行ける所まで走ってやろう。

限界を越えた所に「救い」があるはずだ。

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距離やペースは二の次だ。

まずは「岐阜城を目指す」。この一点に目標を絞った。

岐阜城と言っても、お城まで行こうとすれば登山になってしまうから金華山の麓の「信長像」が目標だ。


妄想テーマは「緊急の書状を岐阜城のお館様に届ける足軽役」に決まった。

急いでこの書状を信長公に届けて援軍を仰がねば、城が包囲された味方は全滅必至だ。

気分は長篠城の「鳥居強右衛門(すねえもん)」だ。(マニアックすぎるか?)

いいぞ、緊迫して来た。



正直岐阜城はかなり遠い。

今までの僕の最長ランニング距離は13キロ。

岐阜城までは間違いなく13キロ以上ある。

しかも岐阜城に行くという事は、帰って来る事を考えたらすごい距離だ。

まあ無理を承知で行ける所まで行ってみよう。

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長距離ランニングに対して、乳首問題も準備万端にした。

今までワセリンを塗って凌いでいたが、やはり乳首を痛める事が発覚。

ついに乳首から流血してしまった僕は、今回は最終手段「絆創膏」にトライする。


一人で鏡に向かって乳首に絆創膏を貼る姿の痛々しさよ。

横に貼るべきか縦に貼るべきかでちょっと悩んだ。

どっちがオシャレに見えるだろう。

結果縦貼りの方が若干オシャレに感じた。


そしてそんな事を考えてしまった自分がさらに情けなく思えた。

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延々と走り続けて、ついに自己ベストの13キロを突破した。

自衛隊基地での疲労を引きずっている割には、中々のペースで来ている。

懸念された膝の痛みは多少出て来たとはいえ、大分強化して来たからまだまだ行けそうだ。


しかしここからは未知なる領域。

体力的には全く問題なかったが、土踏まずの部分が痛み出した。

両足とも非常に痛い。


「これだ、これこそいつもの感じだ。」


僕は快感に包まれていく。

ここから先、どんな苦痛が僕を襲うんだろうか?

期待感は高まるばかりだ。

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15キロ地点。

たった2キロとはいえ、やはり13キロ地点からの間に膝裏が痛くなってきた。

土踏まずも相変わらず中々の痛みだ。


しかし、僕はついに岐阜城(金華山)の信長公への拝謁に成功した。

誰もいない夜の岐阜公園で、ひとりガッツポーズ。

誰も見ていなければ、誰も褒めてはくれない。そこがまたいい。


とりあえずここで5分間ストレッチ。

さらなる戦いに向けて、膝をリストアした。


さあ、これで信長公への援軍要請は達成したぞ。

ここからは急ぎ城に引き返し、味方に援軍が来る事を伝えて鼓舞しなければならぬ。

鳥居強右衛門と化した妄想野郎は再び走り出す。

武田軍の包囲網をすり抜けて帰還する決死行が始まった。

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ここから20キロ地点までは、ほとんどトランス状態で走っていた。

真っ暗な長良川沿いのサイクリングロードを無心で駆け抜ける。

周囲が暗いと、心と体が分離していくような感覚だ。


心の中では、なんだかどこまでも走れそうだという気分で満たされていた。

正直全く疲れていない。まだまだ行ける。


しかし体はそうはさせじと、痛みの信号を脳に送り続ける。

いよいよ膝裏の筋が痛くなって来た。

足裏にも水ぶくれ的なものが出来始める。


そろそろ限界なのか。

でもここまで来たら、ハーフマラソンの距離まであと少し。

21.0975キロまでがんばろう。

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やがて僕はハーフマラソンの距離を完走した。

今朝起きた時点で、その日の夜に自分がハーフマラソンを完走するなんて露ほども思っていなかった。

全く想定外だったが、思いがけず「ひとりハーフマラソン大会」をクリアした。

およそ2時間15分。やればできるもんだ。


しかしそんなことはどうでもいい。

強右衛門になっている僕としては、なんとしてもスタート地点まで帰りたい。

家まではまだあと8キロ以上ある。

ここでリタイヤしてしまえば、お義父さんに車で迎えに来てもらう事になる。

それは申し訳ないし、何より恥ずかしい。

行ける所まで行くんだ。

ゾクゾクするわ。

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25キロ地点を過ぎた。

さすがのマゾ野郎でも、やっとこさ我に返った。


僕は一体何をしているのだ?


無益な無理を重ねる愚かしさにようやく気づいた。

膝を壊しちゃ元も子もないじゃない。

痛さ的にこれ以上は走らない方がいいと、僕の中のリスクマネジメント部が信号を鳴らす。



戦いが終わった。

トータル25.44キロ。

3時間に迫ろうかという長い戦いだった。

jog2.jpg

jog.jpg


残念ながら、あと5キロを残しての敗退。

鳥居強右衛門(すねえもん)にはなれなかったか。

せいぜいスネ夫程度か。

いや、よく考えれば強右衛門もあと少しの所で武田軍に捕まってるから、妄想的にはOKか。

ちなみに強右衛門はこの時、磔(はりつけ)の刑で殺されてる。

やはり負けは負けか。

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無念の中、嫁に電話した。

お義父さんに車で迎えに来てほしい旨を伝えるためだ。


しかし電話した場所が悪かった。

周りに何の目印になるようなものがなく、居場所を伝えるのにもぐもぐしていたら、

「歩いて帰って来い」「お前が悪い」「自業自得だ」「周りに迷惑をかけるな」

と、まさかのドS攻撃に晒されてしまった。


ハーフマラソン完走者の僕に送られたのは、「賛辞」でも「賞賛」でもなく「罵倒」だった。

褒められたくてやってるわけじゃないが、罵倒されるのはさらにヘビーなものだ。



僕はうなだれて、トボトボと歩き出した。

寒風吹きさらす11月末の夜が、僕の心を冷やしていく。

しだいに心だけじゃなく、体も汗が冷えて来てとても寒くなって来たぞ。

やばいぞ、このままでは風邪を引いてしまう。


しばらく歩いて、ようやく目印になる建物がある場所まで出たので再度電話をした。


「お願いします。このままでは風邪を引いてしまいます。助けて下さい。」


「分かったわ。りんちゃんに風邪うつされたら嫌だで。お義父さんに行ってもらうで平謝りしときゃーよ。」


屈辱だ。

こんな事なら無理してでも完走しておけば良かったか。

謝るならまだしも、「平謝り」という言葉がより僕に突き刺さる。

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僕は紳士服の青山の駐車場でブルブル震えながら迎えを待った。


やがてお義父さんの車が到着した。

しかし何故か嫁以外の一家全員が車に乗っているではないか。

お義父さん、お義母さんとりんたろくんだ。

なぜこんな大事になっているんだ。

恥ずかしさや情けなさが倍増じゃない。


結局僕は「すいませんでした。ご迷惑をおかけしました。面目ございません。」と平謝りして車に乗り込んだ。

こうして僕の戦いが終わった。

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この2日間は一体なんだったのか?

勝手にマグマを増大させ、挙げ句爆発させて体がボロボロになった。

インフルエンザの予防接種で始まったのに、最終的に風邪を引いて終わるという本末転倒な結果に終わった。


快晴だからといって、焦りすぎた結果がこれだ。

もう少し大人になろう。


怒りの休日3部作はこれにて終了だ。

前半はひたすら愚痴で、後半はただの公開マゾプレイ。

ここまで読んで下さったヒマなあなたに感謝いたします。

長々とぶちまけたおかげで、多少スッキリしました。


さあ、明日からはポジティブにマゾって行くぞ。

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