何だか嫁がすごく優しいぞ。
遊びに出かける僕に「いってらっしゃい、気をつけてね」と優しく微笑む嫁。
ついに彼女も、一般的な優しい妻になってくれたのか。
すごく嬉しくて、僕は幸せに包まれた。
そしてそこで目が覚めた。
日曜日の朝が来たのだ。
自分の妻が優しかったという夢を見るなんて、なんて悲しい事なんだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
昨日ほどではないが、本日も外はいい天気。
もちろん僕は山にも川にもいけない。
本日はりんたろくんが飛行機好きという事で、各務原の自衛隊基地に「航空ショー」なるものを見に行くのだ。
行くからには僕は全力で楽しむのがモットーだ。
色々ネットで調べてみた。
すると、なにやら「ブルーインパルス」という奴らが凄いらしい。
あのよくテレビで見るような、戦闘機が5機くらい隊列を組んで飛びまくるアレだ。
目の前で見れば、さぞ迫力ある体験が出来るだろう。
ブルーインパルスが登場するメインイベントは11:00〜11:45。
出来れば10時には現場に到着しておきたい。
その事は事前に嫁には伝えておいた。
しかし、いつも嫁は朝の準備に異様に時間がかかる。
僕はものの30分もあれば朝飯含めて全ての準備が完了するが、嫁はたっぷり2時間はかけてくれる。
その間僕は晴れた空を見つめながら、ただただイライラするばかり。
昨日から沸騰しているマグマが破裂しそうだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
自衛隊基地の最寄りの駅に到着した。
ホームに降り立った時間は11:40。
ブルーインパルスの飛行時間は11:00〜11:45。
この瞬間、僕の中のマグマは限界点を迎えた。
バオー来訪者のように体中に亀裂が入り、プシュウプシュウと湯気が出始める。
あれ程言ったのに、なぜこの時間になるんだ。
是が非でもブルーインパルスとやらを見たかったわけではなかったのに、こうなってくると凄く見たかった気がして来たぞ。
僕のイライラが止まらない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
とりあえず会場に到着した。
メインイベントが終わって、みんなホクホク顏で帰宅の途についている。
さぞやブルーインパルスを堪能したんだろう。
僕だって十分にブルーな気持ちを堪能しているぞ。
会場に入場し、僕は立ち尽くした。
これは初詣なのか。なんだこの人混みは。
僕が人混みが大嫌いな事は前回記事で述べた。
僕は群衆にまみれると、吐き気、めまい、頭痛、そして酷いときは呼吸困難に陥る。
それ程に激しい群衆アレルギー体質なんだ。
それでも飛行機好きのりんたろくんのためにお父さんは頑張るぞ。
しかしその決意もあっという間に萎んでしまった。
僕の前にはお下劣な光景が広がった。
ここはウッドストックなのか?
この人間の群れは何事だ。
こみ上げてくる吐き気。
どうしても見たいわけじゃないのに、この中に突入しなくてはいけないのか?
一体何が楽しくてこんな思いをしなくてはならんのだ。
山や川なら「人がいない」「行列もない」「金もかからない」「いい運動にもなる」「飯もうまい」「気分も景色もよろしい」等々いいとこずくめなのに、なぜみんなここに来ているんだ。
僕の体の亀裂は、さらに鋭く広がっていく。
突破口が見当たらない。
どこから突っ込んでいけばいいんだ。
僕は深海に潜っていくような気分で、大きく息を吸って突入していった。
かろうじて展示してあった戦闘機までは辿り着いたぞ。
しかし、メイン会場までの道のりは果てしなく遠い。
これは登山の藪漕ぎよりもハードだぞ。
とりあえず、隙間を見つけてやっと落ち着く。
富士山下山時と同様の激しい疲労感が僕を襲う。
会場には陽気にKARAの曲が流れている。
韓国の基地では絶対日本の曲は流れないだろうに。
全く平和な国だ。こんなんだから竹島を占拠されてまうんだ。
もはやそんな些細な事にまで愚痴がこぼれてしまう状態だ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
次の航空イベントが始まった。
かろうじて見る事は出来たが、飛び立ったのはりんたろくんの好きな飛行機ではなくヘリコプターだった。
うーん。いまいち迫力に欠けるぞ。
明らかにメインイベント直後の「箸休め」イベントの色が濃くなって来た。
りんたろくんの表情も実に微妙だ。
君がアホみたいに喜んでくれないと、お父さんは報われないぞ。
やがて上空のヘリから、二人の自衛隊員がパラシュートで降下して来た。
解説のアナウンスが流れる。
「只今降下しておりますのは○○○○。48歳独身でございます。」
僕は飛行機を見に来たんだ。
なぜこんな人混みにまみれて、独身のおっさんが空から降って来るのを眺めなければならんのか。
人命救助でございますとアナウンスされ、ヘリによる救助の模様が展開されているようだ。
人混みで全く見えないが、米粒のような人間がスルスルと引き上げられている。
出来る事なら、今僕をこの場から引き上げて救助していただきたい。
こうして「箸休め」ヘリコプターショーが終わった。
次の航空イベントまで随分時間がある。
りんたろくんも退屈だったのか凄く眠そうだ。
結局我々は帰る事になった。
一体何をしに来たのだろうか?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
我々への追い打ちは止まらない。
そこにはさらなる地獄絵図が展開され、僕らは帰宅難民と化した。
僕は発狂した。
体内のマグマは行き場を失い、亀裂から溢れ出す。
もう限界だ。
爆発の時は近い。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
長い長い時間が過ぎ、帰宅した僕の心はすでにズタズタに切り裂かれていた。
この快晴の2日間を返してくれ。
僕の怒りは思いがけない方向へ向かっていく。
すでに夕方だったが、僕はトレーニングウェアを身にまとい家を飛び出した。
日曜日の夕方にしてようやく解き放たれた僕は、ついに爆発した。
僕はすでに正常な判断能力を失っていた。
唐突に「ひとりハーフマラソン大会」がスタートした瞬間だった。
怒りの休日〜爆発編〜へつづく
怒りの休日〜亀裂編〜
記事が気に入ったら
股旅ベースを "いいね!"
Facebookで更新情報をお届け。
MATATABI BASE
この記事へのコメントはありません。