◉日々のツレヅレ

怒りの休日〜亀裂編〜

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何だか嫁がすごく優しいぞ。

遊びに出かける僕に「いってらっしゃい、気をつけてね」と優しく微笑む嫁。

ついに彼女も、一般的な優しい妻になってくれたのか。

すごく嬉しくて、僕は幸せに包まれた。



そしてそこで目が覚めた。

日曜日の朝が来たのだ。

自分の妻が優しかったという夢を見るなんて、なんて悲しい事なんだ。

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昨日ほどではないが、本日も外はいい天気。

もちろん僕は山にも川にもいけない。

本日はりんたろくんが飛行機好きという事で、各務原の自衛隊基地に「航空ショー」なるものを見に行くのだ。


行くからには僕は全力で楽しむのがモットーだ。

色々ネットで調べてみた。

すると、なにやら「ブルーインパルス」という奴らが凄いらしい。

あのよくテレビで見るような、戦闘機が5機くらい隊列を組んで飛びまくるアレだ。

目の前で見れば、さぞ迫力ある体験が出来るだろう。


ブルーインパルスが登場するメインイベントは11:00〜11:45。

出来れば10時には現場に到着しておきたい。

その事は事前に嫁には伝えておいた。


しかし、いつも嫁は朝の準備に異様に時間がかかる。

僕はものの30分もあれば朝飯含めて全ての準備が完了するが、嫁はたっぷり2時間はかけてくれる。

その間僕は晴れた空を見つめながら、ただただイライラするばかり。

昨日から沸騰しているマグマが破裂しそうだ。

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自衛隊基地の最寄りの駅に到着した。

ホームに降り立った時間は11:40。

ブルーインパルスの飛行時間は11:00〜11:45。



この瞬間、僕の中のマグマは限界点を迎えた。

バオー来訪者のように体中に亀裂が入り、プシュウプシュウと湯気が出始める。


あれ程言ったのに、なぜこの時間になるんだ。

是が非でもブルーインパルスとやらを見たかったわけではなかったのに、こうなってくると凄く見たかった気がして来たぞ。

僕のイライラが止まらない。

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とりあえず会場に到着した。

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メインイベントが終わって、みんなホクホク顏で帰宅の途についている。

さぞやブルーインパルスを堪能したんだろう。

僕だって十分にブルーな気持ちを堪能しているぞ。



会場に入場し、僕は立ち尽くした。

これは初詣なのか。なんだこの人混みは。

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僕が人混みが大嫌いな事は前回記事で述べた。

僕は群衆にまみれると、吐き気、めまい、頭痛、そして酷いときは呼吸困難に陥る。

それ程に激しい群衆アレルギー体質なんだ。

それでも飛行機好きのりんたろくんのためにお父さんは頑張るぞ。


しかしその決意もあっという間に萎んでしまった。

僕の前にはお下劣な光景が広がった。

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ここはウッドストックなのか?

この人間の群れは何事だ。

こみ上げてくる吐き気。

どうしても見たいわけじゃないのに、この中に突入しなくてはいけないのか?


一体何が楽しくてこんな思いをしなくてはならんのだ。

山や川なら「人がいない」「行列もない」「金もかからない」「いい運動にもなる」「飯もうまい」「気分も景色もよろしい」等々いいとこずくめなのに、なぜみんなここに来ているんだ。

僕の体の亀裂は、さらに鋭く広がっていく。


突破口が見当たらない。

どこから突っ込んでいけばいいんだ。

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僕は深海に潜っていくような気分で、大きく息を吸って突入していった。


かろうじて展示してあった戦闘機までは辿り着いたぞ。

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しかし、メイン会場までの道のりは果てしなく遠い。

これは登山の藪漕ぎよりもハードだぞ。

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とりあえず、隙間を見つけてやっと落ち着く。

富士山下山時と同様の激しい疲労感が僕を襲う。


会場には陽気にKARAの曲が流れている。

韓国の基地では絶対日本の曲は流れないだろうに。

全く平和な国だ。こんなんだから竹島を占拠されてまうんだ。

もはやそんな些細な事にまで愚痴がこぼれてしまう状態だ。

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次の航空イベントが始まった。

かろうじて見る事は出来たが、飛び立ったのはりんたろくんの好きな飛行機ではなくヘリコプターだった。

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うーん。いまいち迫力に欠けるぞ。

明らかにメインイベント直後の「箸休め」イベントの色が濃くなって来た。

りんたろくんの表情も実に微妙だ。

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君がアホみたいに喜んでくれないと、お父さんは報われないぞ。


やがて上空のヘリから、二人の自衛隊員がパラシュートで降下して来た。

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解説のアナウンスが流れる。

「只今降下しておりますのは○○○○。48歳独身でございます。」


僕は飛行機を見に来たんだ。

なぜこんな人混みにまみれて、独身のおっさんが空から降って来るのを眺めなければならんのか。


人命救助でございますとアナウンスされ、ヘリによる救助の模様が展開されているようだ。

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人混みで全く見えないが、米粒のような人間がスルスルと引き上げられている。

出来る事なら、今僕をこの場から引き上げて救助していただきたい。


こうして「箸休め」ヘリコプターショーが終わった。



次の航空イベントまで随分時間がある。

りんたろくんも退屈だったのか凄く眠そうだ。

結局我々は帰る事になった。

一体何をしに来たのだろうか?

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我々への追い打ちは止まらない。

そこにはさらなる地獄絵図が展開され、僕らは帰宅難民と化した。

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僕は発狂した。

体内のマグマは行き場を失い、亀裂から溢れ出す。

もう限界だ。

爆発の時は近い。

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長い長い時間が過ぎ、帰宅した僕の心はすでにズタズタに切り裂かれていた。

この快晴の2日間を返してくれ。

僕の怒りは思いがけない方向へ向かっていく。


すでに夕方だったが、僕はトレーニングウェアを身にまとい家を飛び出した。

日曜日の夕方にしてようやく解き放たれた僕は、ついに爆発した。

僕はすでに正常な判断能力を失っていた。



唐突に「ひとりハーフマラソン大会」がスタートした瞬間だった。


怒りの休日〜爆発編〜へつづく



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