◉日々のツレヅレ

愛と誠〜ある夫婦の攻防戦〜

多くの方が誤解しているようだが、ここで一つ言っておこう。

僕はちゃんと嫁を愛している。



このブログをよく見てる人は「え?」と思われたかもしれない。

「あんた嫁の文句ばっかり言ってるじゃないか」と思われた方もいるだろう。

しかし、はっきり言って僕は嫁にゾッコンだ。


さらに矛盾発言をするならば、僕は極度の寂しがりやだ。

「あんた一人旅ばっかで、誰もいない所で野宿ばっかやってるじゃないか」と思われた方もいるだろう。

それはただ単に気が合わない人達や社会に囲まれているより一人でいる方が寂しくないってだけのこと。

だから基本的には寂しがりやなんです。


なので僕は嫁に幾度も甘えん坊アタックを試みる。

しかし延々と続くお預け状態。

それがまた僕を狂わせてならない。

そこには特殊なサドとマゾの関係性が存在するのだ。


よく分からない前置きだったが、実はこの度4度目の結婚記念日を迎えた。

そこでここらでそんな我々の結婚記念日を振り返り、僕らのアツアツぶりを見せつけてやろうというのが今回の記事の狙いだ。

誰もがうらやむ理想の夫婦の姿がそこにはある。


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とあるフランス料理店のディナーを僕は予約していた。

そこはメディアへの露出を一切禁止している隠れた名店で、ブログですら掲載してはいけないというお店。

メニューも無く、その時期に最も旬な食材でのお任せコース一本。

こんなお店が家からすぐの場所にある。


僕だってやる時はやるのだ。

おにぎり一個で一日中川を下るような男にとっては贅沢の極みだ。

しかしここは日頃の感謝の意味も込めて、嫁をねぎらってやるんだ。

もう一度奴を口説き落として、当時の優しさを思い出させてやる。


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僕は早くも苛ついていた。


予約時間は18時。

現在17時45分。

なんと嫁がこれから髪をセットするって言ってるじゃない。

あなたさっきまで横になってのんびりテレビ見てたじゃないか。


僕は誰よりも予約時間に間に合う事を重視する男だ。

いくら客だからといっても約束の時間に遅れる事は準備万端で待っている相手に対して失礼だ。

こんな時だけ沖縄時間になりやがって。


焦る僕。

ソワソワすると、どこか大事な部分の力が抜けてしまうようだ。

僕はうかつにも凄い臭いすかし屁をこいてしまった。


たちまちスナック菓子のような臭いが部屋に充満し、りんたろくんがうんちを漏らしたと騒ぎになった。

丁度長い事りんたろくんの便秘が続いていたから、やっとうんちが出たかと喜ぶ嫁とお義母さん。

父の代わりに冤罪の対象になった我が息子が僕を見ているが、僕は軽く目をそらす。


やがてりんたろくんのオムツチェックが始まり、うんこが無い事が発覚。

追いつめられた僕は大人しく罪を認め、自白した。

嫁だけならまだしも、お義母さんにまでこんな報告をする事になってしまったこの恥辱感。

りんたろくんがうんこをしてないガッカリさと、僕の屁に対する不快感が混在した顔で僕を睨みつける嫁。


そして時計は18時を指す。

遅刻で嫁を怒るところが、なぜか結果的に僕が怒られてしまった。

僕は見事にスタートダッシュに失敗した。

早く体勢を立て直さねばならない。


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歩いて行ける距離だから、夫婦二人で仲良く歩いて行く。

久しぶりに二人きりだ。

ここはひとつ先制攻撃で主導権を握ってみよう。

僕はドキドキしながら軽く嫁の手を握ってみた。


すると握り返して来ると思いきや「暑い」と言って振りほどかれた。

目にも留まらぬ早さで行き場を失った僕の右手が中空をさまよう。

きっとあれだな、照れてるんだな。


主導権争いが続く。

僕はそっと肩に手を回してみた。

とにかく攻めの姿勢を崩さないザック戦法で押しまくる。


その際に嫁の肩甲骨あたりに手が触れた。

すかさず嫁が「あ、そこ。そこ押して。」とまさかの指圧請求。


結局僕は嫁の肩甲骨を指圧しながらの予期せぬ移動となった。

ここではっきりと上下関係が形となって現れたわけだ。

見事に主導権を奪われてしまった。



それにしても歩くのが遅すぎる。

これは強行採決に抵抗する野党の牛歩戦術なのか?

もう予約時間を10分もオーバーして、僕のソワソワが止まらない。


僕は「もう、あかん。おんぶして担いで行く。」と高らかに宣言した。

そしてすかさず嫁の前に立ち、おんぶポーズでウェルカム体勢を取った。

そこで嫁は予期せぬ行動に出た。

なんと両足をがっぱり開いたおんぶ体勢の僕に、強烈な浣腸を食らわせて来た。


不意をつかれた僕は「オウッ」と言う断末魔の叫びを発し、そんな僕を見て嫁は嬉しそうにニヤリとしている。

形はどうあれ、今日一番の嫁の笑顔が飛び出した。

これがドSの嫁とドMの旦那が繰り広げる、いわゆる「ニャンニャン」という時間だ。


こうして何とか二人とも気分を良くしてお店にたどり着いた。


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やはり出て来るメシはどれもシャレていた。

大皿のセンターにちょこんと盛られたオシャレな食材達。

正直全て一口でなくなってしまうほどのオシャレさで、僕にはあまりにももどかしすぎる。


でも嫁は非常に満足しているようで、どうやらここにして良かったようだ。

嫁の機嫌も良くなって来たので、僕はここぞとばかりに山や川のステキさを野暮にならない感じでアピールしてみた。

功を奏したのか「まあ、そこまで行きたいんなら行ってこればいいんじゃない」という良い流れになって来た。

いいぞ、いいぞ。

さすがフランス料理だ。


僕は一番近い目標である鈴鹿セブン制覇(残りあと2山)を今月中に達成したいと情熱的にアピール。

早くしないと鈴鹿の山は「ヒル」だらけになってしまうと。


すると嫁が視線を料理からそらす事無く「ヒルに食われて死んで来い」とボソリと言った。

およそフランス料理店で発せられるべきお言葉ではないように聞こえたがいかがか?

恐らく人間の死に方で最も悲惨な死に様ではなかろうか?

隙間なく僕の体にしがみつく大量のヒル達。

奴らは僕の血で膨れ上がり、最後に残されるのは死に際にやっとダイエットに成功した僕のひからびた死体だけが残るんだろうか?


これはきっと彼女なりのジョークだったと受け止めよう。

ジョークであって欲しいものだ。

一度生命保険が追加されてないかチェックしておくべきだろうか?


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ホクホク顏でお店を後にした我々。

再び夜道を家に向けて帰って行く。


夜風が心地よく、お互いの心がほぐれて行くようだ。

なんだかんだ言ったって、お互い好き合って結婚したもの同士。

彼女もきっとお母さんから一人の女に戻って来たに違いない。


街灯の下で僕はイタリア野郎のように軽く愛を囁き、静かに顔を近づける。

すると嫁の眉間にシワが寄り、テレビ番組で芋虫を食べる現地人を目撃した女性リポーターのような歪んだ顔を僕に見せて来た。

そして「死ね」って言われた。

我が奥さんにこれほどまでに拒否されると、さすがに切なさが止まらない。


それでも負けじと愛を求める男と、頑に抵抗する女の街灯下の攻防戦。

こんな所を誰かに見られたら、結婚記念日がたちまち僕の連行記念日になってしまう。


しかたなく僕は諦めた。

1回の表から頑張ってコツコツとヒットを重ね、試合終了時には20安打したにも拘らず奇跡の完封負けを食らったような気分だ。

僕の愛は残塁の山を築き続け、走者達は「寂しさ」と名を変えて惨めに僕の心のベンチに帰って来る。


もはや嫁のゴールネットに僕の愛を突き刺す事は不可能なのか?

一昔前のイタリア代表のカテナチオを彷彿とさせる固いデフェンスライン。

これは相当にトリッキーなドリブルで突破しなくては彼女を振り向かせる事は厳しいようだ。


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という事で翌日の僕は、相当トリッキーな行動に出る事になります。

こんな時は己の肉体をトコトン追いつめるのが吉だ。

それは金華山登山の全10ルートを一日で完全制覇してやろうというもの。


この誰も達成していない偉業(ネットを見る限り)を達成し、嫁を振り向かせてみせる。

こうして方向性を見失った勘違い男は、翌日金華山に向かった。


日本一女心の分からない男と、男のロマンはクソ食らえという女のバガボンド。

やがて来る巌流島決戦に向けて、二人は今日も己の刀を研ぐ。


それでも最後に言わせてもらいます。

僕はちゃんと嫁を愛しています。

これからもよろしくお願い奉ります。

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