「パックトランピング」
それは「パックラフト」を基本にし、「登山」「トレラン」「釣り」「野天温泉」「マゾヒスティング」を混在させた一人きりの異種格闘技戦。
わずか1泊2日程度の日程で、どこまでやりたい事を無理矢理詰め込めるかの消耗戦。
一言で言うならば、「長期で旅に出るチャンスがない奴隷のために開発されたセルフSMサービス」こそがパックトランピングなのである。
僕は「サド嫁に苦しむ全国の奴隷達のために、新世界のパイオニアになる」と宣言し、昨年の夏に北アルプスに旅立った。
その時、背中に背負われた重量は実に24キロ。
本人は「これは夢とロマンの重さである」と言い張っていた。
しかしその結果、エクトプラズムを大放出させて死線を彷徨うという生き地獄を味わう事に。
そしてやる事なす事が後手後手となり、メインのパックラフトが数十秒しかできなかったというハイパーまさか。
最終的に暗いトンネルで恐怖に取り憑かれた挙げ句に壮絶な過労死を遂げた。
各方面から「結局何がしたかったんだ?」と言われて終わった悲劇の戦いだった。(参考記事:極マゾ後悔日誌1〜限界エクトプラズマーの絶望)
その伝説の高瀬パックトランピングから8ヶ月。
僕はその時の反省を元に、パックトランピングにおける「荷物の計量化」をずっと考えて来た。
そこでまず手を付けたのがパックトランピング用の「ザック」なのである。
条件は「軽量」「防水」「丈夫」「汎用性の高さ」。
今シーズンは新たに「沢登り」という新種目も取り入れるつもり。
だから、仮想1泊2日で「沢登り・登山・テンカラ釣り・パックラフト」をする事に耐えられる軽量の新ザックが欲しい。
今回はそんな全国に一人いるかいないかの人のために送るザック購入記。
毎度恒例の何の参考にもならない道具企画。
興味ある変人だけ先に進むといい。
では、我がザック探しの迷走の記録。
ここにしっぽりと書き残しておくとしよう。
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真っ先に浮かんだのはあのザック。
以前から僕がずっと欲しい欲しいと周りに言っていた、パーゴワークスの「カーゴ40」だ。
はっきり言って、今でもこれがベストな選択だと思っている。
前モデルで足りなかった部分が見事に補われた傑作ザックだ。
でも現在在庫切れで、次回入荷が5月中旬以降との事。
「火がついたら一直線」「思い立ったらすぐポチリ」でお馴染みの僕が、5月まで待てるわけがない。
なぜもっと早く買っておかなかったんだろう…。
で、結局待ちきれなかった僕は他のザックを探し始めてしまう。
そしていつものように「マニアック欲望スイッチ」がONされ、深い深いWebという深海に引きづり込まれて行く事になる。
やがて潜りに潜り、調べに調べた中で出て来た深海魚。
それがこの、ULAの「EPIC」なのです。
カーゴ40をよりシンプルにした感じのこいつ。
30-70Lまで対応可能で、カーゴ40よりはより水際を意識した雰囲気。
背面フレームも入ってるっぽいし、背負いごこちもそれなりにいいだろう。
マニアックさも申し分なしだ。
で、ほぼほぼこれに決定だと思って一応アウトドアギアの相談役に確認をとる。
その相手とは、ギア選びに困った時に入店してしまうランボーズデポのオーナー。
闇の物欲商人でお馴染みの「ランボーN」である。
今まで彼に相談すると全く別の次元に連れて行かれ、気づいた時には相談内容と全く関係ないものを買わされた事もしばしば。
ちょっと前では4シーズンのシングルウォールテントを相談したら、まさかのフロアレスモノポールテントを買わされた事もあった。
最近では沢用の靴の相談をしていたら、いつのまにかフルドライスーツを買っていたと言うまさか。
ランボーズデポはこのように意外性抜群の店で、買おうと思ったものを売ってくれない。
しかし彼のうんちくを聞いているといちいち目からウロコが落ちるため、ついつい逆らえずにポチリとしてしまうのである。
そんなランボーN曰く「これは試したことあります。結果からいうとザックが左右のどっちかにズレて背負いづらいです。」と言うじゃない。
彼がそう言うなら間違いない。
これにて我がザック探しの旅は一気に白紙に戻った。
そこで僕は再びWeb平原に旅に出た。
そして方々を彷徨い歩き、やがて行き着いたのはHMG(ハイパーライトマウンテンギア)の「4400 Porter Pack」。
ここ最近ずっと気になっていたHMGのザック。
実際この4400 Porter Packに限らず、HMGザックでパックラフト背負ってる人は多い。
やはりキューベンファイバーを使用した軽さと、格好良さとマニアックさがたまらない。
しかもこの容量なら冬用のザックとしても軽量化に一役買ってくれそうだ。
そこで再びランボーズデポに稟議を上げる。
こないだの甲斐駒男塾でランボーNは、この4400 Porter Packとはモデル違いだが、まさにこのHMGのザックを背負っていたのだ。
さすがのランボーズデポでもこれなら売ってくれるはずだ。
しかし彼は簡単には首を縦に振らない。
そして言う。
「これは完全防水ではないです。一瞬だけなら沈しても浸水はほとんどないですが、すぐにジワジワときます。縫い目のシームリングも不完全です。HMGはとにかく軽いですが軽さだけなら他にもいくらでもあります。」と。
なんて頑固なショップなんだ。
中々稟議が通らないぞ。
さらに彼は続けざまに「でもザックが完全防水じゃなくても結局は内部で防水パッキングするから何でもいいんですよ。沢系は特に。みんなデザイン重視じゃないですか。」と一度突き放す。
その上で「今は倒産したゴーライトのジャムとかが熱いですね。もう手に入らないから皆がやっきになって買ってますよ。僕も悩んでます。」と別の次元へと誘いをかける。
こうして僕は再びランボーズデポが仕掛ける「四次元物欲殺法」の餌食となり、さらなる別次元の深い闇へとズブズブ落とされて行く。
その中でなんとかゴーライトのジャムを探し当てたが、どうしても色が気にくわなかった。
もう人気のカラーはとっくに売り切れなのである。
そんな感じで僕が十分弱り切り、まともな判断能力が薄れたタイミングで再びランボーズデポが動く。
テントの時もそうだったが、彼はこの段階で意外な一石を僕のさざめきたった心に投じて来るのだ。
彼は静かに言う。
「キューベンファイバー素材は耐久性が不安で沢では使いたくない。しかしこんな選択肢がありますぜ…」と。
そしてニヤリと不敵な越後屋顔になってこう言った。
「キューベンにナイロンを配合して剛性をあげているかなりアツい奴がいます。」と。
そして彼が取り出したのは、マニアック極まりないアメリカのガレージメーカー「Zpacks」のザック。
その「Arc Haul Backpack」を見たとき、一目見てビビビッと電流が走った。
軽量のキューベンにダイニーマ編み込んで強度十分。
シンプルかつ必要十分な外付け。
しかもUL系ザックのくせに背面フレームも付いて背負い心地も悪くなさそうで、風通しのメッシュまで配置。
か…完璧じゃないか。
しかもヒップハーネスも取り外せるからパックラフトに括り付ける際も邪魔にならない。
さらにはワクワクさせるオプションパーツも豊富。
軽量・強度・背負いやすさ・汎用性・オプション、そのどれもが優れたバランス。
ついに辿り着いてしまったパックトランピングの理想型ザック。
これで中身を軽量のドライサックで包めば怖いもの無し。
さすがは闇の商人の隠し球。
とんでもないやつをぶち込んできやがった。
闇商人もフフフと口角を上げながら「カッチョいいでしょ?多分、このザックは日本では誰も持ってないでしょうね。」と僕の天の邪鬼心をくすぐって来るというクロージングに入った。
これにて見事に僕の腹は決まった。
弾丸即決男は早速オプションと送料込みのお見積もりを依頼。
するとこんな結果に。
えーっと..今のレートで計算すると…..
うおおおおッ!
55,000円だとッッッ!!
さすがにザックに55,000円はやり過ぎじゃないのか…。
いくら判断能力が薄れているとは言え、さすがにちょっと高すぎる。
惜しい。
実に惜しい。
私がもっと高給取りであったならば…。
今の私には55,000円の絶壁を登攀するだけの力はない…。
こうして僕はやっとの思いで辿り着いた理想ザックからの撤退を余儀なくさせられる事に。
闇商人の「チッ」という舌打ちが聞こえた気がしたが、やはり二児のパパとして踏み越えてはいけないラインがあるのである。
そこからは再び大迷走が始まる。
何とかこのZpacksに近づけるよう、迷走に迷走を重ねた僕はUL系の世界へ迷い込む。
それがこのゴッサマーギアの「ゴリラ」だ。
ULザックの中では強度的にもバランスが取れたモデル。
これに対してはランボーズデポも「完成されたモデルだと思います。渓流全然オッケーですよ。」と太鼓判。
しかし一度Zpacksを見てしまった以上、背面フレームが無いという事が気になって食指が動かない。
そもそも今までの僕は背面フレームが無いULザックの世界には足を突っ込まないようにして来た。
何か一つでもUL系ザックを買えば、それを活かすために他の物もUL化しなくてはいけないのは明白。
そんな事になったらまた散財の沼に落ちる。
しかもあのUL系の人々のオシャレで都会的なスタイルが僕には合いそうにない。
僕はあくまでもUM(ウルトラマゾ)の存在だからだ。
なんにしてもこの手のマニアック商品は、現物を直に確認出来ない地方者の弱みがある。
ってことでゴリラは候補から消えた。
これにより、気持ちが「ザックが欲しい」から「早くこの悩みから抜け出したい」という焦燥感に変化。
もう何が何だか分かんなくなって来た。
自分にとっての正解が全く分からない。
じゃあフレームがあって多少ULで色々バランスが良いのはどれだ?
やはりこのあたりか。
グラナイトギアの「ニンバストレース」あたりなのか。
これは前々から気になっていて、パックトランピング関係無しに欲しかったザック。
軽さと強度と背負い心地のバランスが素晴らしいザックだ。
でも待てよ。
だったら別に今までのグレゴリーのトリコニ60でいいんじゃないか?
確かにニンバスは軽量だが、トリコニは荷物を軽く感じさせてくれる機能性があるからトントンじゃないか?
容量も似たり寄ったりだし….。
そもそも沢でガンガン使うのは気が引けてしまう。
ダメだ、こうなって来ると変わり種にしか目が行かなくなって来る。
ニュージーランドの変わり種、AARNの「ナチュラルバランス L」はどうだ?
前面に比重を持って来る事でバランスを取るという革新的ザック。
前面に何かと色んなものを付けたがる僕にはピッタリじゃないのか?
しかも完全防水。
しかし何かが間違ってる気がする…。
パックラフト積むの大変そうだし、そもそも前がごちゃつきすぎて沢登りの際に危なっかしい。
夏場は乳首が蒸れて乳擦れを起こしかねないし。
でも何となくこれならライフジャケットみたいに浮きそうだから、ライフジャケット持って行かんでも良くなったり….。
いやいや、多分パックトランピング向きじゃない気がする。
じゃあ、こいつはどうだ?
VARGOのフレームザック「TI-ARC BACKPACK」。
これならチタンフレームで軽いし、「パックラフトを積んで下さい」と言わんばかりの上下のスペース。
これはかなり良い線行ってるんじゃないのか?
最近ではこれのキューベン素材の物まで出て来て(これ)、猛烈にそそって来る。
でもザック部分の容量36Lと言うのがちょっと少ないような…。
そして4万円オーバーという価格を考えると、中々手が出ない。
でもここが落としどころな気がするし…。
かと言って二児のパパが手を出すお値段では…。
あああ…
もうダメ…
もう何だか色んな事が混乱してもう何も考えられなくなって来た…
やっぱあれもこれもと多くを求めるからいけないんだ。
パックトランピングも高瀬ルートのような「長距離縦走型」と、沢登りを絡めた「短距離濃密型」に別れるはず。
長距離縦走型にはそれ用のザック、短距離濃密型にもそれようのザックで挑むがベスト。
どうせいつも多くを求めるあまり失敗してまた買い替えるんだから。
暫くの間は長距離縦走型にはトリコニ60背負って中身を軽量化すれば良いじゃない。
であれば、今必要なのは1泊2日の沢ザック兼パックラフトザック。
背負い心地よりも、「絶対的な防水性と強度」のザックが一番使い勝手いいんじゃないのか?
で、結局行きつく所はここ。
やっぱりランボーNも沢で使っているという「ハーネス付き防水バッグ」のタイプに辿り着いてしまった。
この時彼は何故か沢ではなく白馬三山大縦走の時に担がざるを得ない状況だったわけだが、本来は沢やパックラフトで使っている。
で、この路線で「それでも多少背負い易そう」ってのと、「マニアックさ」の両面からリサーチ。
するとここに辿り着いた。
それがEXPEDの「TORRENT50」なのである。
結局超絶的にシンプルなこの世界に到達。
日本ではたまに30Lのやつが売ってるが、これは50Lタイプで個人輸入しなくては手に入らないというマニアックさが良い。
背面ハーネスもご覧の感じで、他の同タイプのものよりは背負い易そう。
まあ背負い心地に関しては多くは期待しない方が良いだろう。
で、これの使用サンプルがご覧の通り。
沢はもちろんのこと、
当然カヤック(パックラフト)でも行けて、
やんないけどクライミングのアタックザックとして、
なんなら二つあれば自転車旅にも対応し、
肝心のトランピングだってご覧の通り。
これぞパックトランピングの「短距離濃密型」に最適なザックだ。
というかもう降参だ。
いい加減この悩みから解放されないと人生が先に進んで行かない。
僕は満を持して再度ランボーズデポに稟議を上げる。
どうか通って欲しい。
気分は「あの人に会いたい」的な特番で、カーテンの向こうから生き別れの母が出て来るかどうかの依頼人の気分。
やがてランボーズデポのカーテンがサッと開く。
そこにはランボーNの姿が。
彼は言う。
「そうそう、これイイですよね。僕がシートゥー買った後に出たんですよこのエクスペッドのモデル。これがあればこっち買ってましたね、間違いなく。軽いし、防水機能がシートゥーより断然高い。そして拡張性も高い。あとウエストベルトが取れるのは沢では有効です。」と。
そしてついにこの瞬間が。
「カヌー野郎にはもってこいのザックじゃないですか。」
これで腹は決まった。
やっと頑固店主ランボーNが首を縦に振ってくれた。
ついにこの数ヶ月に及ぶザック選びの苦しい旅に終わりが告げられる時が来た。
僕はランボーNが「でもね…」とか言い出す前に、光の速さででAmazonUSAにてPOCHIRI。
EXPEDが輸入規制がかかっていたというまさかがあったが、そこは転送サービス使って根性のユタ州経由でのJAPAN発送。
そして待ちに待ったり2週間。
ついに我が家にTORRENT50がやって来たのである。
悩みに悩んだだけあって、いざ届くと思わず抱きしめそうになってしまった。
でもこのままじゃパドルとか着けられないんで、再び工作作業に悩む日々。
それがまた延々と2週間ほど続いた。
そんな日々の末、色々やった挙げ句に結局最終的には普通にショックコードつけただけの「パックラフト日帰りエディション」が完成した。
パックラフトとメシセットなどを内蔵した日帰りパターン。
この状態だと背負ってても快適、かつ無駄がない。
これは日帰りの沢登りやパックラフトには最高のザックではないか。
しかしである。
ここに高瀬ルートと同様の1泊2日の荷物を搭載してみたら、当たり前だがとてもじゃないがまともに背負えない。
腰で背負わないから、ショルダーベルトの肩への食い込みっぷりがハンパ無いのだ。
それはもはや、突然レイに飛翔白麗を食らったユダ気分。
こんなんじゃとてもこれ背負って数時間歩くなんて無理。
僕はULを目指していたのであって、決してUDを目指していたわけじゃない。
分かってはいた事だが、ちょっとこの時はショックで写真を撮り忘れているほどだ。
やはりノーフレームザックは、せいぜい総重量13キロくらいまでが限界だ。
ってことで結局「荷物も計量化しなくては…」という禁断の炎が燃え盛る。
思わず「じゃあザック買わないで、トリコニ60のまま荷物だけ計量化すれば良かったんじゃないのか?」と自分にツッコミを入れてしまったほどの事態に。
結局はこうなってしまうのか…。
で、やっぱり僕は「ダメだダメだ」と思いつつも、再びランボーズデポの扉をノックしてしまうことに。
そして荷物の計量化に向け、新たな物欲のヘドロに飲み込まれて行く。
闇商人ランボーNも「シシシ…やはり戻って来たか…」と怪しく微笑む。
それからと言うもの、僕は狂ったように軽量新アイテムを購入し続けている。
そして荷物が1g減るごとに、我が貯蓄もみるみる減って行く無間地獄へ。
愛する子供達よ。
二児のパパが踏み行ってはいけない沼に、今お父さんは結局堕ちて行ってしまったよ…。
本当に申し訳ない。
そしてひとしきりアイテムを買うと、僕はランボーズデポを出て行く。
そこで最後にこのような言葉が交わされた。
僕「これと決まれば即断即決。どうせ買うんだから少しでも早く、が僕の失敗の元でもあります。」
ランボーN「わかります。子供過ぎですよね、僕ら….」
僕「ええ…ガマンできないんですよ….」
こうして人は「UL」と言う名の散財世界に落ちて行く。
素直に早めにカーゴ40を買っていればこんな事にはならなかったろうに…。
なぜ5月中旬まで待てなかったのか…。
そう。
これが光のあたらぬ世界で密かに繰り広げられる裏パックトランピング。
ここまで来るともう後戻りなんて出来ないのである。
これからパックトランピングの世界に首を突っ込もうと思っているそこのあなた。
いるかどうか分かんないけど。
とにかく悪い事は言わない。
子供達を泣かせてはいけない。
どうか普通の世界で生きておくれ…
パックトランピングザック迷走記〜闇商人への稟議書〜
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MATATABI BASE
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