神は存在する。
苦しみ抜いた者にこそ神は微笑む。
この世に報われない苦労なんて存在しない。
諦めなければ誰にだって光は射すのだ。
今回は「神に愛されてしまった男」のお話。
美濃地方に古くから伝わる昔話。
頑張って耐え抜けば、きっと人は救われるというありがたいお話だ。
今回はそんな希望に満ちた口伝を村の長老に語っていただきました。
お子さんがいる人は、是非子供にも読み聞かせてあげるといいでしょう。
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むかしむかし、ある所にマゾ太郎という名の中年がおった。
彼は山や川で遊ぶ事が三度の飯より好きな男で、村でも評判のマゾ野郎じゃった。
8月。
そんなマゾ太郎に試練が訪れたのじゃ。
それは彼のお義父さんが入院する事になり、彼は一年で一番大好きな「夏」を丸々家庭内育児に費やす事になったんじゃ。
もちろん養子として飼育されているマゾ太郎は勝手に遊びに行く事も出来ず、日々悶々とした毎日を過ごしたそうじゃ。
放浪中毒者のマゾ太郎にとって、それはそれは地獄のような日々が過ぎて行く。
そんな時に限って、この時の8月はまれに見る「大快晴」の連続での。
連日のように行楽日和が続き、マゾ太郎は暗い室内で発狂寸前の毎日じゃ。
しかしそんな中、お義父さんの手術は大成功。
これにて晴れてマゾ太郎による「9月大爆発宣言」が炸裂したんじゃ。
もうこの時点で、すでに彼の遊びに対する渇望っぷりは限界じゃった。
彼にとってこの時の9月とは、水も持たずに灼熱の砂漠を1ヶ月彷徨った末のオアシスのようなもんじゃ。
それはもう「待て」を命令された飢えた犬が、あとは「ヨシ」というかけ声を待つばかりと言った状態。
お預け状態が長く辛かったせいで、マゾ太郎の9月への熱い思いは過去最大級のものとなったんじゃ。
そんな待ちに待った9月に企画されたものが「塩見岳退治」。
塩見岳とは、3,047mの南アルプスの雄。
「漆黒の鉄兜」という恐ろしい別名で呼ばれる岩の城じゃ。
その本来一泊二日の行程のハードな山を、あえて「日帰り」で退治してやろうというご乱心プラン。
夏を失って深刻なマゾ不足に陥っていた彼は、今までの鬱憤の全てをこの山にぶつけようとしていたんじゃ。
このご乱心プランに乗って来たのは横浜組と静岡組の仲間達。
彼らとともに見事塩見を退治してやると意気込んでおった。
それはもう見ていて哀れな程に、マゾ太郎はこの塩見岳を楽しみにしていたんじゃ。
そんな中、マゾ太郎はいつものように仕込みを開始した。
8月頭からの長期的戦略により、彼は塩見岳直前に親不知を抜いて自らを追い込んだんじゃ。
その時の事を詳しく知りたければ、情熱大陸で放送されているからそれを参考にすると良いぞ。(参照:あるマゾピニストの情熱大陸〜仕込みの流儀〜)
この時マゾ太郎は、院内脱糞してまでも完璧なマゾ仕込みを完成させたんじゃ。
おかげで彼は「抜糸前の鈍痛」というスパイスを抱えたまま、過去最大級の戦いに臨む事になった。
これにはさすがのマゾ太郎も「ちょっと仕込みすぎたかのう」と反省してしまった程じゃ。
この時、仕込みとしてのフリは万全だったんじゃ。
もうこれで満腹ですと言った仕込みっぷりじゃった。
しかし彼はアイツの存在をすっかり忘れていたんじゃ。
それは彼の大親友の「モクモクさん」の事じゃ。
桃太郎には犬・猿・キジと言った具合に、当時のマゾ太郎にもモクモクさんという相棒が常に寄り添っておった。
いつも呼んでもいないのに勝手に現れては、マゾ太郎に極上のマゾを提供し続けて来た竹馬の友じゃ。
今回マゾ太郎が8月の夏を自宅軟禁中、モクモクさんは安心して実家に帰省しておったそうな。
モクモクさんにとっても8月は貴重なお盆休みになったようで、その間日本列島は大快晴が支配したんじゃ。
せめて雨が降ってくれればマゾ太郎も救われたんじゃろうが、結果的にモクモクさんはいてもいなくてもマゾ太郎を楽しませたんじゃな。
そして9月の塩見岳に向けて、モクモクさんは見事に照準を合わせて帰って来た。
しかも実家ですっかりリフレッシュして英気を養いすぎてしまったようでな。
モクモクさんは「台風15号」という素敵な状態になって押し寄せて来たんじゃ。
頭を抱えるマゾ太郎。
「8月あんなに晴れてたのに」「これから私の自由が始まるというのに」
そう呟く彼をよそに、天気予報は無情にも晴れ予報から雨予報へ。
そして時間が経つ程に、山頂の風速予報が「20m」へと進化。
ただでさえハードな山がさらにスペシャルハードな状態になり、そんな中に抜糸前鈍痛を引っさげて突入して行く羽目になったマゾ太郎。
もはやここまでか。
村の誰もが「今回ばかりはさすがのマゾっつぁんでも無理じゃ。またお預け食らって発狂するのが関の山やで。」と口々に噂したそうじゃ。
この時、マゾ太郎は天を睨んでこう言うた。
「私は夏を捧げました。大快晴でも一歩も外に出ず、一ヶ月間ひたすら育児道に邁進しました。その上親不知までも奉納いたしました。」
そして涙目になりながらこう叫んだ。
「そして待ちに待ちに待ちに待った塩見岳退治です。こんなに耐えて頑張った私をあなたはお見捨てになるのでしょうか?そんな報われない話があっていいものでしょうか?」と。
これには神もさすがに哀れに感じたのか。
この日以来、なんとみるみる天気予報が好転して行くではありませんか。
しかもあれ程絶望視された「台風15号」が温帯低気圧に変わって消滅。
ついに奇跡が起きたんじゃ。
神はやはり存在する。
ひたすら耐え、ひたすら頑張り、ひたすらに準備して、誰よりもこの塩見岳を楽しみにしていたマゾ太郎が報われないわけが無い。
ちゃんと神様はそんな彼の努力する姿を見ていてくださったのだ。
そして塩見退治の運命の日前日。
ついに長過ぎた8月の最終日。
なぜかマゾ太郎は「病院」にいたんじゃ。
実はマゾ太郎は台風の消滅とともに、体にある異変を誕生させていたんじゃ。
何やら喉が痛いし、頭が痛いし、咳が出るし。
やがて水の様な鼻水がだーだーとこぼれ出して頭がぼーっとし始める始末。
そう。
彼はここに来て「風邪」を引きおったんじゃ。
神は彼の頑張りに対し、「風邪」という名の最高のプレゼントで報いてくれたんじゃな。
台風の「風」が「風邪」に姿を変えて、ピンポイントでマゾ太郎に光臨。
あまりのありがたさに涙と鼻水が止まらないマゾ太郎。
その時の彼は、もはや「仕込み」というレベルを超絶した仕上がり具合にただただ呆然としておったそうじゃ。
しかしそれでもまだ彼は諦めなかった。
そんな事で簡単に諦められる程、今回の塩見岳は軽い存在ではない。
このまま塩見退治がお預けになった日には、間違いなく精神に重大なダメージを負ってしまう。
そこで彼は「意地でも一日で治す」と宣言したんじゃ。
それはもう阿修羅のような形相じゃったと伝えられておる。
しかしもう負の連鎖はもうだいぶ前から走り出しておった。
ここに来て親不知抜歯による化膿止めのために貰っていた薬が、その後の彼の運命を狂わせるんじゃ。
この薬と同時に飲んでいいと処方された風邪薬は、驚く程に治癒効果の薄いものだった。
所詮その薬は、痰の切れを良くするだけの軟弱な薬だったんじゃ。
これにより、治すどころかみるみる症状が重くなって行くマゾ太郎。
もがけばもがく程に死地へ吸い込まれるアリ地獄のような負の連鎖。
村の者達も「もうやめてくれ。とてもこれ以上彼の姿を見ていられない。」と悲痛な叫びだったと言う。
上がって行く体温。
垂れ続ける水の様な鼻水。
いよいよ絶望視される塩見岳。
アウトドア界一「季節の変わり目に体調を崩しやすい男」の本領が発揮された瞬間じゃ。
この時マゾ太郎は叫んだという。
「トキを呼んでくれ。秘孔「心霊台」を打ってくれ。一日だけで良い。明日動ける体を我に与えてくれ。塩見岳さえ行ければ、その場で発狂して死に至る程の激痛に襲われて白髪になってもいいんだ。」と。
彼の9月に対する執念の程が伺えるエピソードじゃ。
それほどまでに、マゾ太郎はこの塩見退治を楽しみにしておったんじゃな。
しかしトキは現れず、現れたのは「アミバ」じゃった。
おかしな秘孔を突かれてしまったのか、マゾ太郎の全身が瞬く間に「あせも」で覆われて行く。
アウトドア界一の「肌の弱さを誇る男」の本領が発揮された瞬間じゃ。
たちまち全身が赤くなり、ブツブツだらけで猛烈に痛痒い。
しかし一気に風邪を治すには、一気に汗をかいてウイルスを死滅させなければならない。
しかし一気に汗をかくをほどに、あせもの勢力図は破竹の勢いで全身に拡大。
止まらない地獄の悪循環。
結果的に、風邪の悪化とともに全身あせもまでも併発させるマゾ太郎。
村人達も「さすがにもう見てらんねぇ。塩見退治なんてしなくても誰もがあんたを日本一のマゾ太郎と認めているよ。いい加減諦めておくんなせぇ。」と。
しかしそれでもマゾ太郎はまだ諦めないんじゃ。
彼はフラフラになりながらも、決戦に向けての準備を進めた。
まるで「アシモ」のようなぎこちない動きの「あせも野郎」じゃ。
そして激しい頭痛と発熱と全身の倦怠感。
もちろんその間も抜歯手術跡はジンジンと痛み続けている。
もはや何が痛くてどこが調子良いのかもわからない「地獄チャンプルー」じゃ。
それでも奇跡を信じ、何とか彼は塩見岳に行く準備を整えたんじゃ。
今回のために新調したアイテムやエネルギージェルも抜かりなく用意してある。
計算し尽くされ、無駄な物は何も無い完璧なパッキング。
しかし「まさか自分の体内に無駄な物があったとは」と驚くばかりのマゾ太郎じゃ。
もちろん荷物だけじゃなく、彼はこの日に向けて日々トレーニングを怠らなかった。
週2で15kmづつ走ったり、50km先の会社までMTBで往復したりと限られた時間内で必死で体を作って来た。
しかし「まさか前日になって体力も筋力も根こそぎ持って行かれるとは」と驚くばかりのマゾ太郎じゃ。
さああとはこの風邪とあせもを治し、子供達をお風呂に入れた後に現地に向けて旅立つのみ。
残された時間をひたすら横になってウイルスとがっぷり四つの大相撲。
ここまでの地獄は、きっと最高の塩見岳に向けての試練。
神はきっと最後に微笑んでくれるんだ。
数時間後。
出発予定時刻。
子供を風呂に入れていたのは、マゾ太郎ではなく彼の嫁さんじゃった。
そしてそこには、塩見岳どころか家のトイレにすら満足に辿り着けないマゾ太郎の姿があったという。
そんな状態でも彼は外出着を着込み、行くか行かないかの自問自答を繰り返していたんじゃ。
よっぽど8月の鬱憤が溜まっていて、よっぽど塩見岳に行きたかったんじゃろう。
しかしただでさえ今回は通常の登山ではない。
最高の体調でも相当ハードな行程だけに、もうこれはマゾのレベルを遥かに越えた危険なものじゃ。
ついにマゾ太郎は決断した。
それは勇気ある決断だった。
彼は塩見岳退治をついに断念したのじゃ。
マゾ太郎は善戦虚しく、「部屋からすら」出る事が出来なかったわけじゃ。
自宅の扉も越えられなかったという痛々しすぎる結末。
横浜組の仲間達にLINEで「行けない」というメッセージと共にスタンプ送信。
そして山口百恵のように静かにiPhoneを床に置き、再び寝間着に着替えて隔離部屋の闇の中へ消えて行った。
その時、マゾ太郎は虫の息でこう呟いたと伝えられておる。
「もう神なんて信じない…」と。
そしてこの時点からマゾ太郎は新たな戦いに突入して行く。
塩見岳の戦いを諦め、「死を見るだけの戦い」をスタートさせたんじゃ。
そこからの朦朧度の加速っぷりは凄まじく、間違いなく出かけてたら死んでたねって状態に。
やがて時計は0時を回り、日付が9月1日に。
誰よりも「9月1日」に熱い想いを馳せていた男が、長い我慢の8月軟禁生活の末についに「その日」に辿り着いた。
予定では塩見岳登山口駐車場でワクワクしながら車内で眠りについているはずだった。
しかし現実は自宅の隔離部屋で悪寒でガタガタ震えながら高熱で苦しんでいる。
もちろん上がった熱のせいで抜歯跡がうずき、発汗のせいで全身のあせもも止まらない。
彼は必死で気を紛らわそうと、ラジオをつけてみたんじゃ。
すこしでもDJ達の明るい軽妙トークに癒されようと思ったんじゃな。
しかしなぜかそこでは、あの落合博満が延々と映画について語り尽くすといったまさかな番組が1時間に渡って繰り広げられていたんじゃ。
何度確認しても「AM」じゃなく「FM」じゃ。
FMラジオの世界で落合博満が出現するのは極めてレアな状態じゃ。
もちろんあの暗いボソボソとした俺流トークが、みるみるマゾ太郎の症状を悪化させて陰鬱な気持ちを増大させたのは言うまでもない。
せめて内容が野球なら救いがあったが、オレ流の007トークが非常に重かったんじゃ。
この頃には頭痛がもっと酷くなって、あのかき氷食った時の「キーーン」がずっと続いてるような状態でな。
それはそれはもう地獄というやつじゃ。
しかも処方された薬が鎮痛薬のロキソニンと一緒に飲んじゃダメって薬だったんで、もうその痛みをただただ真正面から受け止め続けるしかなかったんじゃ。
あれはかなり辛かったからかのう..。
それとも悔しさからなのかのう…。
マゾ太郎の目から大量の塩水が出続けていたんじゃ。
彼はこんな時でも「塩見」をしていたんじゃなぁ。
そのまま夜が明けても彼の風邪は酷くなるばかりじゃ。
9月になっても結局自宅におるばかりか、みるみる気力も体力も失われて行った。
彼の相棒達も「我々はいつになったら出番が来るんですか?」と切ない表情だ。
出発を待つ昨日と変わらない彼らの姿が、マゾ太郎にはより痛々しい光景として目に焼き付いた事だろうさ。
そしてこうしているこの瞬間、マゾ太郎の仲間達は塩見岳で戦っている。
しかしマゾ太郎も、彼らと一緒に遠く岐阜の地で一人戦っていたという事実は変わらない。
仲間達が塩見岳退治を達成した時、自分も必ず風邪退治を達成してやるという強い決意が芽生えた瞬間じゃ。
しかし状況は好転しないまま、仲間達の下山予定時間になろうとしていた。
マゾ太郎は、彼がトレラン用で立てた「15時」下山は無理だとしても、恐らく仲間達は「17時」過ぎには下山するだろうと踏んでいた。
マゾ太郎は彼らの下山完了・偉業達成の報を待ちわびた。
しかし17時を過ぎても18時を過ぎても一向に連絡が来ない。
携帯に電話してみても、みんな圏外で繋がらないんじゃ。
そしていよいよ辺りが暗くなってしまった19時。
もはやヘッドライトを付けないと歩けない時間帯になっても、全く彼らへの電話が繋がらないではないか。
いよいよマゾ太郎の脳裏に、想像したくなかった二文字の漢字がくっきりと映し出されたのじゃ。
そしてついに彼は、セーラー服と機関銃の薬師丸ひろ子風にこう言ったんじゃ。
「遭…難……」
全く快感を感じないこの言葉が、いよいよ現実のものとして押し寄せたのじゃ。
マゾ太郎は大いに焦り始め、その38度の高熱でぼーっとする頭で必死でどうするべきか考えた。
しかし考えれば考える程に熱は上がって行き、熱が上がれば上がる程に冷静な判断が出来ない。
本来の下山予定時間から4時間も経過している。
もうどんなに脳内でシュミレーションしてみても、最終的には悲惨な末路にしか行き着かない。
もはやそれは「いけない!ルナ先生状態」の危険な思考回路じゃ。
これがルナ先生ならちょっとエッチな個人授業で彼らを導いてあげられるが、「動けない!マゾ先生」のマゾ太郎としてはどうする事も出来ないんじゃ。
マゾ太郎はこう考えた。
今まさに仲間達はリアルな遭難をしている所かもしれない。
その事実を知っているのはこの世界中で自分だけ。
言い換えれば、彼らの命運は今自分が握っているのではないのか?
ここで捜索願を申し出ないと、仲間の命が救われないかもしれない。
しかし早まれば余計なお世話になりかねない。と。
思いがけず突入した一人きりの自問自答の戦い。
これにより、治りかけて来た風邪は再燃し、悩めば悩む程に頭から煙が立ちのぼって体温も急上昇じゃ。
マゾ太郎は朦朧とする意識の中で、まず塩見岳の中腹にある山小屋の予約電話番号を調べた。
実際には小屋ではなく麓の電話受付の番号があったので、思い切ってそこに電話をしたんじゃ。
「今日日帰りの予定でそちらに8人くらい登山者が入っています。宿泊者ではないですがそちらの小屋に伝言があるか目撃したって情報は無いでしょうか」と。
電話を受けた人も、通報者がものすごい風邪声なのでこちらを救助者と思ったかもしれないの。
しかしちゃんと電話の人は無線で小屋に連絡を取ってくれたんじゃ。
「どうやら夕方5時くらいにそれらしきパーティーが小屋を過ぎて行ったそうです。何やらひどく疲れきった様子だったようですが、そのまま下山していきました。あの調子で、なおかつ夜道になりますから下山は8時近くになるでしょうね」と。
よかった。
これで彼らの無事は確認できたとホッとするマゾ太郎。
と同時に「彼らはなんて極上なマゾを楽しんでるんだろうか…」と嫉妬も飛び出す。
小屋の人が言っていた「ひどく疲れきった様子」という所に、仲間たちの充実ぶりが伺えたんじゃ。
でも無理して行っていたら、間違いなくマゾ太郎は「星」になっていた事だろうのぅ。
やがて仲間達からの「ぶじです!おりました!」という連絡を受けたマゾ太郎。
しかし彼らは山を下りたが、マゾ太郎は熱が上がった。
マゾ太郎は「死を見る岳」の下山口が見つからないままだったのじゃ。
しかしここで下山連絡待ちをするという、残された家族の気持ちが痛い程分かったマゾ太郎。
実に良い体験をさせてもらったが、出来れが平熱の時にお願いしたかった所じゃの。
その後、再び布団の中で孤独に病と戦ったマゾ太郎。
結局あれほど憧れ続けた「9月1日」を、完全に布団の中で過ごすという究極のマゾを完成させたのじゃ。
その頃にはもう彼の目には涙はなかったと伝えられておる。
しかしそれは決して吹っ切れたわけではない。
もう涙が枯れ果ててしまっていたんじゃろうな。
もはや「無」の境地に達してしまったマゾ太郎。
8月を頑張り抜いた末に、やり過ぎな神の祝福を浴び続けてしまったマゾ太郎。
やがて熱も下がり始め、呼吸も穏やかになって行くマゾ太郎。
そして一瞬の静寂が暗い室内を支配した時。
マゾ太郎は静かに息を引き取ったと言う。
そんな救いに満ちたお話。
むかしむかしのお話じゃ。
ワシもこの話をりんたろうじいさんから聞いた時は涙したものよ。
頑張った者は必ず報われるのじゃ。
めでたし。めでたしじゃ。
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いかがだっただろうか?
僕は初めてこの昔話を聞いた時、「ああ、人って頑張れば必ず報われるんだな」と号泣した事を覚えている。
今回僕は諸事情あって塩見岳に行けなかったが、このマゾ太郎という人の事を思えば何とか頑張って生きて行けそうだ。
実はこのマゾ太郎には後日談がある。
死んだと思われていたマゾ太郎は実は生きていたというお話だ。
それによると、その後も風邪と闘いながらも無理して彼は仕事に行っていたらしく、2日間ほどフラフラになりながら仕事をしていたらしい。
そして多少状態が良くなりそうになって来た3日目。
消えたと思われたモクモクさんが、マゾ太郎に回復をさせじとばかりに大量に押し寄せた。
鬱憤が溜まっていたのはマゾ太郎ばかりではない。
久々の出番で大張り切りのモクモクさんのやり過ぎなご乱心。
ついに彼の会社の前はこんな状態に。
持つべきものは親友だ。
モクモクさんはあまりにも遊びに行けないマゾ太郎に「川」を提供し、カヌーで遊ぼうよと誘ってくれたのだ。
しかし勢いあまりすぎて社内にまで水が浸水。
結果雇われ人のマゾ太郎は、必死で水かき作業させられる羽目に。
風邪を押して無理矢理仕事しに来たのに、仕事とは全く関係のない肉体作業に従事するマゾ太郎。
治りかけた風邪が再びぶり返し、流れ出る汗が全身のあせもを再発させる。
その上、体力がた落ち状態で土嚢を積むというスペシャルタイム。
神に愛された男の9月からの転落っぷりが止まらない。
彼はこの時でもまだ「死を見る岳」の下山口が見つからなかったようだ。
さて、昔話はここまでだ。
今週末の僕は9月第二弾の「乗鞍岳」が控えているね。
これもすごく楽しみにしていた登山だから今からワクワクするね。
何故か猛烈に体がだるいけど、張り切って体力も回復させて行かないとね。
でもなんだか天気予報に傘みたいなマークが居座ってるんだよね。
まさかそんなわけないよね。
だってあれ程頑張ったんだもの。
冗談にしてはタチが悪いよね。
もう神にお供えするものは何も無いよ。
握った手のひらから血が滴り落ちて来ちゃった。
なんでだろう。
今週末、もし雨が降ったらね。
月曜日の朝刊の一面記事を見てごらん。
きっとそこには、渋谷のスクランブル交差点を全裸で発狂して泣き叫びながら疾走する男が写っているかもしれないよ。
ひょっとしたらそいつはマゾ太郎なのかもしれないね。
どうかそんな彼を捕まえないでね。
ただそっと一枚のハンカチと、一言の優しい言葉だけかけてあげて。
よく頑張った。
君は何も悪くないんだよ、と。
神は存在する。
苦しみ抜いた者にこそ神は微笑む。
この世に報われない苦労なんて存在しない。
諦めなければ誰にだって光は射すのだ。
そう、誰にだって….。
神に愛された男〜仕込み過ぎの彼方に〜
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MATATABI BASE
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いっそ、「カヌーで遊んでる不謹慎な男」として報道されたらステキでしたのにーーーー☆次回はぜひ実現してください。なんならゴゴスマスタッフにスクープ撮れますよって連絡しときますんで、言ってくださいね。今週末も天気が悪かったら(なんて、追い討ちかけてすみませんが)乗鞍登山を15日に延ばしてくださいね。私たちも、14日から平湯キャンプ場でキャンプして15日は乗鞍登山ですから~。「乗鞍で息子と仲間をかばって熊にやられる男」ってのどうでしょう???
って、完全にあそんじゃってますが、お体お大事にしてくださいね。
まずは、それが一番です。
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あぁっ 涙が止まらないぃ
いままで 散々 笑い泣きは させて頂きましたけど、まぢ泣きされられるとはっ
どんだけ この日を 待ち望んでたか わかっているつもりなので、後半は もう 文字が霞んで よく見えなかったですよ…
9月に入って 秋雨の野郎がステイしたり 台風が バッチリスケジュール合わせて 遊びにきてますが、まだ 残暑ありますから 頑張って 一緒に 遊びましょ
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ルーシーさん。
もういっそ「不謹慎男」でも「偽イクメン野郎」でもどんな非難も喜んで受けます。
神が助けてくれないなら、いっそ悪魔に魂を売ります。
とにかくもう限界の限界の限界です。
乗鞍に熊が出ても、今の僕なら勝てそうな気がします。
今僕を刺激する奴は大怪我間違い無しでございます。
でも天気予報が….
そして体力も全然戻らない….
せめて夢の中でだけでも…
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白夜ネコさん。
これが本家ユーコンの力。
もはや現場に行かずともここまでのマゾを楽しむ領域にまで達しました。
僕もこの記事を書いてて涙が止まらなかったです。
おかげでこっちは大豪雨でえらいことになりましたよ。
白夜ネコさんならマゾ太郎の気持ちは察してあまりあるかと思います。
もうかれこれ7月頭に行った焼岳以来、一度も山に登ってません。
これだけ家にいると、もう「歩き方」すら忘れてしまいそうです。
そもそも涙で前が見えませんねん。
もうこうなったら有給使ってでも意地で塩見岳にはリベンジかましてやろうかと画策してます。