節分の日。
それは豆をまいて家から鬼を追い出し、厄除けをするという微笑ましい行事だ。
しかし、ここに鬼によって家を追い出されてしまった親子がいる。
行き場を失った親子が、寒風吹きすさぶ山頂で羨ましそうに下界を眺めている。
一体この親子に何が起きてしまったのか?
登山はしないと言いながら、なんだかんだと2週続けての親子登山。
そんな親子の爽やかな節分の一日に迫ってみよう。
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まだ記憶に新しい「新春ロンリーマラソン」。
僕は新年早々その無謀な挑戦で激しく足を痛め、長くドクターストップでランニングが出来ずにいた。
そしてそろそろ治ってランニング再開かと思った先週。
こーたろくんのミルクセットを洗いに階段を下りて行く際、なんと僕は豪快に足をグネって滑落した。
万が一このまま哺乳瓶を落として割ってしまったら、間違いなく嫁によって僕の頭が割られてしまう。
僕はそれを阻止するべく、階段を落ちながら瞬時にジョジョ立ちのような無理な体勢で踏ん張った。
そして見事に僕の治りかけた足に波紋が疾走。
再び足の痛みと戦う日々が始まり、全然ランニングが出来なかったのだ。
でもこの節分の日にやっと足が完治し、約20日ぶりのランニングの再開。
そして走ってみたら猛烈に体が重くてかなりしんどい。
5キロ地点から早くも膝が悲鳴を上げ、10キロ走りきるのがやっと。
走り終わった頃には膝を痛めすぎて、びっこを引きながらという惨憺たる帰還だった。
復帰戦で早くも故障してしまうという清原状態。
この日は大快晴だったが、膝を痛めたおかげで山に登りたいなどという欲求を押し殺す事は出来た。
でもこのあまりの衰えっぷりは相当にショックだ。
すかさずチューブトレーニングとバランスボールトレーニング開始。
もちろんその間、りんたろくんの面倒を見なくてはならない。
そこで僕は彼にYouTubeでウルトラマン見せつつ、僕はトレーニングするという反則技を使ってしまった。
あまり長くりんたろくんにパソコンを見せると嫁が怒るんだが、どうしてもこの衰えてしまった体に活を入れたくてしょうがなかったのだ。
良い感じで汗をかいていると、僕は背後に激しい殺気を感じた。
恐る恐る振り返る僕。
するとドアの隙間から「鬼」が覗いているではないか。
眉間のシワがグランドキャニオンくらいにえぐれた鬼。
すごく怒っている。
せめて何か言ってくれればいいのだが、その鬼はただただ「無言」で僕を見ている。
その無言は、もはやどんな金棒よりも僕の精神をメッタ打ちに殴り続ける。
鬼を追い出そうにも手持ちの豆が乳首しか無い。
完全に追いつめられた僕に対し、鬼は重い口を開いた。
「殺すぞ」と。
わなわなと恐怖におののく僕とりんたろくん。
やがて鬼は「しょうもないことやっとらんで、家を出て外でりんちゃんに体を動かせて来い」と言った。
こうして鬼の言葉の豆まきによって家を追い出された僕と息子。
鬼も家からマゾ払いができてご満悦な様子だ。
しかし考えようによっては、これは「災い転じてマゾ来る」ではないのか?
りんたろくんを運動させるという名目で、ちょっとした山に行けるって事じゃないのか?
ちょうど膝を痛めているから、低山でも上質なマゾが楽しめるのではないのか?
そして先週に引き続き悪魔が現れて、僕の指を操ってiPhoneで周辺の低山を探し始めた。
選ばれた山は419mの「南宮山」(なんぐうさん)。
こうして家を追い出された男達は、嬉々として山に逃げて行った。
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南宮山は、麓に南宮大社という有名な神社がある由緒ある山。
その歴史ある南宮大社に、「おっとっと」をポリポリ食べながら侵入して行くりんたろくん。
突然外に追い出され、寒いしYouTube見たいしで彼のテンションは低い。
僕は見かねて「この先のお山には鬼が棲んでいるんだぞ。今日は節分だから、今からそいつらを退治しに行こう」と言ってみた。
すると単純なりんたろくんはすぐにテンションがアップ。
こうしてりん太郎はマゾにおっとっとを与えて、そいつをお供に鬼退治に向かった。
神社の奥の方にある、雰囲気のいい鳥居のアーチをくぐって行く。
やがて登山口に到着してスタートです。
今日は一応、あくまでも「りんたろくんを運動させろ」という鬼からのミッションをこなさなくてはならない。
なので出来るだけ彼を担がずにサポートに回る。
彼には人生初の自力登頂を目指してもらいます。
結構な階段が続くが、今日の彼は一味違う。
実に逞しく登って来るじゃないか。
そしてウルトラマンを歌いながら楽しそうにしているぞ。
彼の成長に目を細めるお父さん。
最近はめっきり嫁のインドアDNAを滲ませていた彼だったが、やはり僕の息子でもあるのだ。
早速彼とともに、いつもお父さんが一人でやってる己撮りにチャレンジ。
りんたろくんは不思議そうに「お父さん、カメラわすれてる」と言ってきたが、「大丈夫。これは鬼退治を成功させるためのおまじないだ」と言い聞かせた。
彼の中に潜むであろうマゾな心に訴えかける、お父さん流の愛情登山だ。
もちろんカメラを取りに戻るのはお父さんだけ。
しかしいずれは、彼にもこの楽しさが分かる日が来るはずだ。
その後も頑張って登るりんたろくん。
これはいよいよ初の自力登頂達成か。
そう思って見ていると、次第にうつむきながら歩き出すりんたろくん。
まだ3合目くらいなんだが、徐々に彼のペースとテンションが落ちて来た。
よくよく顔を覗いてみると、早くも嫁と同じ無感情の表情に。
やはりここに来て、ついに彼の中に潜むインドア鬼のDNAが呼び覚まされたのか?
早くもその表情には僕の遺伝子を垣間見ることが出来ない。
そしていつものように「ボク、疲れちゃうの」「休憩したいの」「おウチがいいの」「暖かいのがいいの」と愚痴をこぼし始めた。
僕は必死で「そんなんじゃお母さんになってしまうぞ。鬼になっちゃうぞ。頑張って歩こうよ。」と彼を励ます。
そしてここからは、僕と嫁の遺伝子がりんたろくん内で激しく合戦を始めることになる。
そう、まさにここは天下分け目の「関ヶ原」のすぐ近く。
2013年「南宮山遺伝子の戦い」がついに勃発した。
戦の火ぶたは僕の遺伝子が切って落とす。
まずは僕の遺伝子が彼に山を登る力を与え出す。
するとすかさず嫁の遺伝子が反撃。
彼は反省猿のようなポーズで停滞を決め込んで、動かなくなった。
それを見た僕は、再び僕の遺伝子を呼び覚ますべく彼を枝で引っ張って登ってやる。
すると嫁のサド遺伝子が枝を奪い、僕のオシリをぺしぺし叩いて来た。
この時の嬉々とした表情は完全に嫁だ。
こうして一進一退の激しい遺伝子攻防戦が続く。
そしてついに均衡が破れ、この遺伝子対決に決着の時が訪れた。
果たして彼の中にはどっちの遺伝子がより多く含まれていたのか?
この後ろ姿がその全てを物語っている。
ついにりんたろくんは動かなくなり「ダッコダッコ」と言い始めたので、結局僕が担いで登ることに。
「南宮山遺伝子の戦い」は、僕の遺伝子の圧倒的惨敗で幕を閉じた。
急に元気になったりんたろくんは、持っていた枝で僕をぺしぺししながら「行けぇー走れぇー」と上から命令して来る。
その姿は嫁そのもの。
完全に彼の遺伝子は鬼に支配されてしまったようだ。
まあいいさ。
とりあえずりんたろくんに運動させるという鬼の命令は達成したわけだし、ここからは大人のマゾタイム。
痛むヒザと重量アップしたりんたろくんの重みを味わいながら、じっくりとこの体を虐めぬいてくれるわ。
状況設定としても、「もの凄く快晴なのに僕の登るルートは終始日陰である」という状態。
下界はこんなに大快晴なのに、我々の元に日の光は降り注がない。
ゆえに、ずっと陰鬱で寒々しい道を歩き続けるのだ。
このようにいつも日に当たらないので「アウトドア野郎のくせに常に美白を保つ男」として長くこの世界に君臨しているわけです。
それが巡り巡って、嫁に「この白豚野郎」と言われるというマゾ循環になるわけです。
その後もワッセワッセと登って行く男。
途中、何度かりんたろくんが「ねえ、鬼はまだ?」と聞いて来る。
彼を奮い立たせる為に「鬼退治に行こう」とついたウソが、今になって僕を苦しめる。
どう考えてもこの山中に鬼はいないし、出て来られても本気で困る。
でも最近ウルトラマンの必殺技だと言いながら、村上ショージの「ドゥーン」を教え込んで痛い目に遭った手前、あまりウソばかりついていると信用されなくなってしまう。
そこで、他の登山者と「こんにちわー」とすれ違った後、ひそひそ声で「りんちゃん、今のが人間に化けた鬼だよ。ちゃんと挨拶したから良かったけど、もし挨拶しなかったら食べられてる所だったよ」とウソをウソで塗固めて行く。
そんな自分の情けない父親ぶりに若干落ち込んだ。
やはりウソはいけないので、僕はりんたろくんに真実を告げた。
「鬼はね。今りんたろくんのおウチで横になってテレビを見ているよ」と。
そんな僕の前に迫力あるご神木が登場。
なんだか嫁に責められているようなバツの悪い気分。
まるで「結局ろくに運動させてないばかりか、やっぱりお前が山登ってるじゃないか。このビチグソ野郎。」とでも言われているようだ。
でもそんな僕だって子供の為に神に祈るのだ。
それがここにある「子安神社」。
子育ての神様が祭られている祠で、全国的にもとても由緒あるものらしい。
しっかりとここで、嫁の子育てが少しでも楽になるように祈願しておいた。
そして子安神社のご利益なのか。
あっという間にりんたろくんがスヤスヤと眠りに落ちた。
そして彼が背中で眠ると、不思議とズシリと重量がアップする。
子安神社は子供を安らかにするが、マゾにも容赦ない安らぎを提供してくれるようだ。
やがて開けた山頂が見えて来たぞ。
そこに立つと、眼下には濃尾平野が丸見えだ。
正直、思ってもいなかった絶景。
全く事前情報も無く、どうせ大したことないと思って登って来ただけに思わず「うおっ」と声が出てしまった程。
よく見れば名古屋のシンボル、ツインタワーもハッキリ確認出来た。
こんなに天気が良くて眺望もバッチリって中々ないぞ。
でもなぜか山頂でも相変わらず「日陰」で、とっても寒いんだけどね。
そして肝心のりんたろくんは、毎度お馴染みの山頂スリープ。
彼はある意味、快晴だろうと濃霧だろうといつだって絶景を見る事は出来ない。
まあ今日に限っては「山頂に鬼がいる」と言った手前、このまま寝ていてもらうしか無い。
せっかくなので彼の登頂記念写真を撮ってやろう。
ちゃんとポーズしてよ。
ハイ、ぐにゃり。
今度は別アングルで、帽子もかぶって。
ハイ、ぐにゃり。
いい思い出になったね。
絶対覚えてないだろうけど。
寒いのですぐさま下山開始。
しかしここからが本当の戦いだった。
何と言っても僕は今朝10キロ走って猛烈に膝を痛めている。
当たり前だがぐにゃり太郎を担いでの下山は、強烈な負担が膝にのしかかるのだ。
下り初めから相当に膝が痛くて、まともに真っすぐ下って行けない。
なんとかトレッキングポールで負荷を分散させるが、思わず「ぐあ、ぐお、いてててて」とヨロコビの声が漏れてしまう。
途中でりんたろくんが起きたので「下りくらいは自分で歩いてくれ。頼むよ。お父さん膝がえらいことになってるのよ」と訴えたが、彼は「イヤヨ。疲れちゃうもの」とかたくなに降りようとしない。
僕が追い込まれれば追い込まれる程、そして苦しみに顔を歪ませる程に、やはりりんたろくんの中の鬼の遺伝子が色めき立つのか?
そこからは大真面目で苦しみに耐えながら下山する父と、陽気にウルトラマンを歌う子の風景。
僕の膝のカラータイマーがサイレンのように鳴りたくっている。
僕は二週連続で子供に「お父さん、もうダメかもしれない」と弱音を吐く結果となった。(先週は膝ではなくて腸の限界でした)
もうお父さんはこれ以上戦えそうにない。
それでもスタートが遅かったからすっかり日が暮れ始める。
こんな低山で救助要請してなるものかと、なんとか痛む膝を引きずって下山。
ここで僕は確信した。
これでまた当分ランニング出来ないな、と。
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帰りに「グルマン」という有名なパン屋さんで、嫁へのお土産をかかさず購入。
これで何とかご機嫌を取って、おウチに入れさせてもらおうという作戦だ。
りんたろくんにも高価な石窯メロンパンを買ってやった。
あんまり美味そうに食っていたから「お父さんにもちょっと頂戴」とおねだり。
すると彼の中の鬼の遺伝子が再び顔を出す。
彼はめんどくさそうにメロンパンをちぎって、僕の手のひらにそれを置いた。
りんたろう…。
父さんは少々悲しいぞ。
確かに父さんは「ちょっと」という言葉を使ったさ。
でもこれじゃメロンパンというより耳くそじゃないか。
鬼の遺伝子め…。
こうして僕は膝と心をボロボロにしながら帰宅した。
さて、今度は「鬼は家にいる」なんて言ってしまった手前、どう説明したものか。
まさか嫁の前に連れて行って「これが鬼だよ」なんて言うわけにはいかない。
りんたろくんに嘘つき呼ばわりされたくないが、かといって僕はまだ死にたくない。
そう思いながら玄関を開けた。
すると本当に「鬼」がいた。
一瞬、リアルに嫁が鬼になったと戦慄が走った。
でもよく見ると、鬼の仮面を被ったお義父さんでした。
りんたろくんも「うわあ、オニだぁ」と大喜び。
お義父さん、心よりありがとうございます。
これで嘘つきお父さんにならずに済みました。
もし嫁に「お母さんが鬼だ」なんて教え込んだ事がバレた日には、たちまち僕は海苔で巻かれて南南東に向けて吊るされる所だった。
そして無言で食べ尽されていた事だろう。
このあとは平和に豆まきをして、無事に節分の行事完了。
嫁の機嫌も良くなっていて、なんとか僕はお払い箱にならずにこの家に帰って来ることが出来たようだ。
そして最後に僕は密かに追加節分。
僕は余った節分の豆を、そっとりんたろくんにぶつけておいた。
彼の中の鬼の遺伝子が出て行く事を願って。
節分遺伝子合戦〜鬼嫁は内マゾは外〜
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MATATABI BASE
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こんにちは、yukon780さん。
先日、コメントさせて頂きましたキキです。
yukon780さんは、文章力や言葉にとても長けていますね~。
「素晴らしい!」の一言に尽きます。
そしてとても良いご主人、お父さんです。
私もyukon780さんのような、ご主人とお父さんにめぐり逢いたかったです!
奥様もお子さんもとても幸せな方だと思います。
りんたろうくん、とても可愛いですね~。
とても子供らしいお子さんです!
心優しいyukon780さんとユーモアたっぷりの奥様ならではの、お二人の間に育てられたお子さんだと思います。
私もやり直せるならもう一度、子育て、しなおしたいです(苦笑)。
うちはもう大学2年と高校2年なので、ちょっと寂しいです(苦笑)。
お身体、ご自愛ください。。。
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キキさん、毎度ありがとうございます!
文章が長けているというより、ふざけた例えばっかりで僕以外に伝わりづらい文章でございます。
そして基本的に主婦層の人にはあまり評判がよくない(遊び過ぎ)ので、褒められるととても嬉しいです。
できればその優しさを我が家の鬼に少々注入していただけるとうれしいんですが。
なんせ今朝も一発「このウンコ野郎」と言われて家を出て来ただけに、その優しさが余計身に染みます。
そしてりんたろくんももっと子供らしく外ではしゃぎまくってほしいけど、中々のインドア派でして。
でも自由にすくすく育ってるからそれだけで僕は十分です。
でも確かにそこまで子供が大きくなったら、ちょっと寂しいですね。
でも考えようによっては、どんどん自由に遊びに行けるじゃないですか。
多分どんな状況でもメリットとデメリットがあるのが人生ですからね。
いっそアラスカに移住して僕が遊びに行ける環境を作っておいていただけると助かります。
その時は僕を巨大な養子として迎えてください。
そしたらガンガン親子遊びできますよ。