さあ、三日目ですな。
カヌーの時もそうだけど、一人旅ってこの三日目あたりからいい案配になって来るんだよね。
少しづつ俗世の垢が取れ始めて、久しぶりに本来の自分との対面を果たす。
五感が研ぎ澄まされ、思考回路もシンプルになって行き、徐々に自分の中に潜む野生の記憶を垣間見る事が出来る最高のお時間。
普段の自分がいかに無駄な考えに支配されて、無意味にストレスまみれになっているかがよく分かるのもこの頃だ。
僕が今、日帰りの旅では満足できないのはこうしたステキな時間が三日目以降に訪れる事を知っているからかもしれない。
でもこの感覚を嫁さんに説明するのは非常に困難な事なんだよなあ。
まあ、これ以上書くと愚痴になってしまうからこの辺でやめておこう。
日帰りでも行かせてくれているだけ感謝でございます。
それでは一人愚痴&フォローが炸裂した所で、三日目を振り返って行こう。
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朝、日の出とともに新高塚小屋を出立。
一人旅の三日目の朝って、なんだか心静かに迎えられる。
二日掛けて心と体がその土地に馴染んで、いよいよがっぷり四つでその日一日に向きあえる感じがする。
初日に比べると当然高揚感は落ち着いて来るが、体内時計が屋久島タイムに切り替わって下界とは違う心地の良い時間を漂うことが出来る。
少しづつ明けて行く空と朝の清冽な空気感を味わいながら進んで行く。
暫く進んで行くと樹間から不思議な山が現れる。
山の名前は知らないので、僕はこの山を「横たわったBカップ乳首山」と名付けた。
せっかく朝日のくだりからキレイな文章でまとめて来たのに、ここに来てやはりこの様なお下劣な表現が出て来てしまう。
でもそう感じてしまった自分にウソをつく事はできない。
そう、あれはAでもCでもない。断じてBカップだ。
ちなみに登山道はこんな感じの道を進んでます。
やはり白谷雲水峡の頃と比べると、より登山色が強くなって来ている。
本人は「登山」ではなく、あくまでも「旅」の感覚で来ているので、内心「参ったな」って弱音も出てしまう。
当時は登山経験全くないから、全くもって無謀な男だよ。
いよいよ景色も開けて来る。
意図してない展開に「あ、これはさては登山しちゃってるのか?」と今更ながら認識を始める男。
しかし「頑張らない」という基本スタンスは崩さない。
本日も出発から1時間もしないうちから、早くも大休憩が始まる。
このようにいい感じの「寝床」を発見し次第、精一杯寝転んでダラダラする。
ただただ気持ちよろし。
思い起こせば、最近の僕は日帰りという限られた時間枠の中での無茶なカヌーや登山が多かった。
当然こんな風に「寄り道ダラダラ」をする余裕もなく突っ走って来た。
でもこれ書いてて思い出したけど、本来の僕の旅スタイルは「いかに頑張らずにダラけるか」がモットーだったはずだ。
ちょっとこの写真の中でグウタラしている男に教えられた気がします。
ただコイツ、体力無いだけなんだって僕は知ってるけどね。
それにしても天気が凄くいいぞ。
この突き抜けるような蒼穹の空が信じられない。
これが366日雨が降るって言う屋久島かい?
これは367日目のパラレルワールドなのかい?
まるで1Q84的な世界にでも迷い込んでしまったようで、快晴慣れしていない僕はただただ戸惑うばかりだ。
そう考えてしまうと、不思議な岩など出て来ると何かのメタファーな気もしてきたりする。
一体この岩は何を暗喩していたのか?
この数年後に訪れる「養子の重圧」を表現していたのだろうか?
このあたりから「森の屋久島」から「岩の屋久島」へと徐々に変貌して行った。
その後も進んで行くと、
突然目の前に巨大な丸い岩のGANTZが現れた。
インディージョーンズの名場面を思い起こさせる丸い岩。
今にも転がって僕に襲いかかって来そうではないか。
そんなインディーガンツ(勝手に命名)を越えると、広々とした稜線に躍り出る。
そして眼前にはまたしても不可思議な光景が。
まるで緑のウンコに埋まる岩のトウモロコシのようなこの光景。
こう見えて、岩の一個一個は実に巨大。
こいつはいよいよ大変な所まで来てしまったようだ。
道も過酷な雰囲気になっていき、木道が作られているんだけどひたすらに急登だ。
そして横は切り立っていて、高度感も出て来て非常に怖い。
振り返れば、高所恐怖症の僕は軽く足もすくんでしまう。
ここからは暫く、ひたすら急な階段を登り続けるようなハードプレイ。
もちろん当時の僕は二段上がっては立ち止まりを繰り返すのでまるで進まない。
そして本日何度目かの大休憩。
憐れなほどの猫背で、この先も続く山々をゲッソリと眺める男。
いよいよ辺りは巨岩で溢れ返り、自分が小さな虫にでもなった気がして来る。
この山は技量こそそんなに問われない気がするが、ただただ必要なものは「体力」のみ。
もしくは強力な「マゾの意志」だ。
僕がなんとか頑張れたのも、当時もその内に秘められた潜在的なマゾの力の成せる技だったんだろう。
そして踏ん張りながら、その後も「ごつごつ」で「もこもこ」な稜線を進んで行く。
でもしんどいって言っても、やはりこんな異質な風景の中を進んで行く事はとても幸せだ。
何度も言うが、晴れてるってことがとにかくありがたい事だって僕は知っている。
こうして神様は最初の歩き旅で僕にたっぷりの蜜をお与えになり、すっかり味を占めた僕を今後じっくりと雨で弄んで行くわけだ。
このジゴロヤクザや悪徳カジノみたいなやり方に僕はいつもやられてしまう。
こういういい時の状態を少しでも垣間見てしまうほどに、僕はまたこれを求めて旅立ってしまう。
これが旅の魔力なのか。
ゲロ吐きそうになりつつも、ひたすら登り続ける。
そしてついに「宮之浦岳」の山頂に到達した。
実はこの宮之浦岳が九州最高峰だと知ったのは後の事。
西日本でも三番目の山で、日本百名山にも連なっているなんて事ももちろん知らない。
何も知らない初心者だからこそ登れた気もする。
それでも僕は頑に「これは旅であって登山ではない」と言い張っていた。
今となってはどっちでもいいことだ。
ここまでの長い行程を考えると、景色の素晴らしさもグッと来る。
で、登山じゃないと言いつつ登頂記念撮影。
人選ミスにより見事な逆光で撮影されてしまったが(富士山もこんな写真だったな)、何とか僕は屋久島のてっぺんに立ったのだ。
後はこのまま島横断を続けて、逆側の海を目指すのみ。
縄文杉同様、この山頂も通過点に過ぎない。
しかし格好良く通過点なんて言ってる割には、もうお腹いっぱいなほどの達成感に満たされたいる。
正直もう体力が残っていない。
でも当たり前だが進まないと進まない。
縦走ルートなので、まだまだ山を越えて行かねばならない。
でもここからはしんどいけども、とてもいい雰囲気の道を進んで行く。
登山にはまった今の僕から見れば、ヨダレが出そうなほど素敵な登山道。
永田岳に向かって、アリが這うような道がクネクネと伸びている。
写真では随分可愛らしいスケールの雰囲気だが、拡大するとそのデカさが分かる。
左下にちっちゃな人間がいるのがお分かりだろうか。
当時の僕は気が遠くなりそうな気分だったろう。
それにしても不思議な岩が多い。
やはりかつてここには「でいだらぼっち」がいて、岩で遊んでいたんじゃないだろうか?
途中の岩場では、ボルダリングを楽しむカップルもいたりして実にのんびりとした時間が流れる。
そんなカップルを羨望の眼差しで僕はマジマジと見つめる。
夫婦で来られるって事は素晴らしい事なんだよ、君たち。ちゃんと噛み締めて。
いよいよ巨大美術館の石のアート会場のような雰囲気になっていく。
ううむ、アートだ。
どんなに頑張っても、やはり自然が作るデザインには敵いようがない。
やがて永田岳山頂に到達し、パノラマの海の景色を堪能。
堪能って言ってるけど、正直この頃の僕は薄れいく意識と戦っていたと記憶している。
とにかく体力ははるかに限界を超えていた。
あんな所に岩が乗っかっているのも幻覚に違いない。
フラフラの意識と不可思議な岩の光景の連続に、妙に平衡感覚が狂ってた気もする。
そしてここから道は急降下。
いよいよ島の逆側に向かっているという実感が湧いて来た。
こんな先も見えないような所からロープを伝って降りて行く。
肉体疲労時の急降下。
僕が「ファイト」と言っても、誰も「一発」とは応えてくれないフラフラ単独行。
急降下は続き、やがて本日の目的地「鹿之沢小屋」が現れた。
倒れ込むようにゴール。
暫くは死んだように動けなかった。
近くに名前通りのキレイな沢があったので、素晴らしい匂いに包まれた汗まみれの溜まった衣類の洗濯。
もちろん洗剤なんて使わず水洗いのみ。
ついでに半裸になってセクシー行水もかかさない。
実にワイルドな瞬間だ。
相変わらず僕しかいないようなので、朝露で濡れたテントなども全てぶちまけて乾かす。
重要な道しるべも、僕によって臭い洗濯物にまみれて憐れな光景だ。
こんな臭そうな方角には進みたくないものだ。
さあ、これでやっとこさ落ち着ける。
のんびりメシでも作ろうかと思っていたら、なんと他の登山者がやって来た。
しかもさっきボルダリングしてたカップルじゃないか。
僕もビックリしたが彼らもこの不審物が散らかりまくった光景に驚いていた。
僕は慌ててパンツや靴下を回収し、改めて目立たない所へ移動。
その間に、カップルが顔を洗おうという事で沢に向かって行った。
先ほど僕がパンツや靴下を洗い、尚且つセクシー半裸行水をした沢で顔を洗い出すカップル。
水が流れて行っているとは言え、心の底から申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
彼らは屋久島の恵みと僕の恵みを顔いっぱいに浴びて、満足げに沢から帰って来た。
ほんと、ごめんなさい。
彼らは外でテント泊するようで、僕は白谷小屋で叶わなかった初の避難小屋泊にチャレンジ。
小屋の中は頑張れば10人ほどは寝れそうな板敷きの床があって、ちょっとした土間もある。
外に人もいるし、白谷小屋ほど怖い場所でもない。
今日もとんでもなく疲れていたので、メシを食ってさっさと寝た。
夜中。
ガサゴソと音がする。
この小屋には僕しかいないはずなのに、明らかに誰かかが僕の荷物をあさっている音がした。
小屋の中は真っ暗。
一瞬にして恐怖に取憑かれる僕。
枕元のヘッドライトを取ろうとして動いた途端、ドタドタドタと何者かが逃げいく音。
スパッと灯りを着けたが誰もいない。
誰かがこの小屋から出て行った形跡もない。
僕はその場で恐怖に打震えた。
見ると床に僕の大事な食料が散乱していた。
カロリーメイトに至っては袋が破られて、バキバキに割れて散乱している。
そこで気がつく。
この小屋は「ワイルドディズニーランド」だったという事に。
目認できないが、小屋の中はやんちゃなミッキーマウス達の巣窟だった。
追っ払ったと思って眠りにつくと、暫くして再び「ゴソゴソ」と動き出すリアルミッキー。
その度に僕はガバリと起き上がっては奴らを追い払う。
何度このアトラクションを繰り返した事だろう。
僕は諦めて全ての食料を寝袋の中に入れて、食料と一夜を共にする決意をした。
メシと一緒に寝るなんて事が、我が人生に降り掛かろうとは思ってもいなかった。
これにはさすがのミッキー達も諦めたようだ。
しかしこの寝苦しさと言ったらない。
あまり寝返りを打つと、それこそ自らの力でカロリーメイトを粉々にする結果になり、ミッキー被害と大して代わりが無くなる。
こうして僕はこの「夢の小屋」で悪夢のファンタジーを堪能し、まるで疲れの癒せない眠りに落ちて行った。
「二度と避難小屋には泊まらない」
マルタイ棒ラーメンをマイクのように口元にはべらした男はそう呟いた。
こうして体を癒すはずの夜に男は疲労を積み重ねて行く。
そして翌日の遭難脱水野郎に向かって動き出した。
屋久島横断まで残り1日。
ここからが正念場だ。
〜屋久島横断野郎4へ つづく〜
屋久島横断野郎3〜鹿之沢の夜襲〜
- 屋久島横断野郎/鹿児島
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