屋久島横断野郎/鹿児島

屋久島横断野郎1〜もののけな夜〜

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なぜ屋久島だったのか、きっかけが全く思い出せない。

まだ登山を始めるずっと前の事だし、旅と言えばカヌーしかなかった。


でも基本的には、カヌーもそうだけど「人力」での旅にしか興味が持てなくなっていた頃。

で、やっぱり行き着いちゃったんだね。

人力の最たるもの、「歩き旅」に首を突っ込みたくなったんだね。


当時の僕はホーボージュンさんやシェルパ斎藤さんの影響を受けて(知らない人が見るとプロレスラーみたいな名前の二人だ)、いわゆる「バックパッキング」という旅スタイルに憧れを抱き始めていた。

必要最低限の荷物のみを背中に背負い、自由の重さを噛み締めながらの旅。

今までの僕は100%野田知佑さんの影響で成り立っていたが、ちょっと新しい世界への扉を開いてみたかった。

カヌーなんて所詮旅の道具の一つに過ぎないわけで、自由を感じる旅ができればその方法は何でも良かったってのもある。

屋久島に行こうとしたのも、きっと歩き旅に最適な場所だと感じたからだろうな。



ただこの頃の僕の体力の無さと行ったらのび太級に酷いものだった。

日頃全く運動もしないし、体重だって今より10キロ以上太ってた。

今思い起こしても、よく行ったもんだ。


20キロ近い荷物を背負って4日間歩き続ける旅。

天の邪鬼な僕は縄文杉だけ見て帰って来るという一般的なスタイルには目もくれず、体力なしの初心者のくせに「屋久島横断」を企てた。

まあ、あんまり記憶が残ってないから大した事は書けないけど気楽に振り返ってみよう。


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いきなり出ました桜島。

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写真がここから始まってるから、なんとなくここから始めよう。

ここから船に乗って屋久島を目指したわけだね。


で、荷物を背負った後ろ姿がこれ。

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当時これから歩き旅を始めるにあたって選んだのは、グレゴリーの60Lのバックパック。

この中にテントや寝袋やマット、着替えや食料などの「4日間を山の中で生きる為のもの」が詰まっている。


カヌー旅の頃は荷物の量や重さは全く気にせずにいたが、自分で背負うとなるととてもシビアに必要なものの選定眼力が必要だ。

結果、余分なものが削ぎ落されて「本当に必要なもの」だけが炙り出される。

人が生きて行くのに必要なものの量なんて、実はたかが知れているってことを思い知る。

この60Lのバックパックがあれば、自分は自由に生きて行ける。

この感覚は当時僕を非常にコーフンさせた。


ただ体力が伴ってないから、凄く大変だったけど。


船に乗っていると異質な形の開聞岳が見えて来る。

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当然当時は山に興味ないのでこれが開聞岳とは知らずに眺めていたが、その異様な山容をみて「ああ、旅してるなあ」「ここではないどこかに来てるなあ」と感慨深く眺めたもんだ。



屋久島に上陸し、宮之浦港から白谷雲水峡の入口までバスで移動。

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バスで移動中も、そのさすがの「森密度」に感心する。

で、白谷雲水峡の入口に到着。

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ここで僕は椅子から立ち上がろうとした時、買ったばかりの一眼レフカメラにバックパックが引っかかってそのままカメラを地面に叩き付けるように落としてしまった。

そしてカメラのカバーが見事に割れ、出だしから激しくブルーになった事を記憶している。

もちろんその模様は大衆に晒され、そこにいた人々の注目を浴びて恥ずかしかった事もちゃんと記憶している。



スタートして暫くは奇麗な川沿いを気分よく進んで行く。

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さすがの水の美しさと、森の深さ。

どこで爽健美茶の撮影をしても絵になりそうな雰囲気の道を進んで行く。


やがて「飛流おとし」と言う名の、何やら必殺技的なネーミングの滝が登場。

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見事にネーミング負けしていない勇壮な滝だ。

ゲリしてる時の排便時の腸の内部はこんな感じなんだろう。


その後も秘境感たっぷりの光景が続く。

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上手く言えないけど、小さな頃からこの手の光景を見ると冒険心を煽られてひどく僕はコーフンする。

秘境って奴は何とも言えない魔力で男心を刺激する。

グラビアアイドルの胸の谷間に思わず引き寄せられるのは同じ原理だろうか?



このあたりまでは優雅にトレッキングしてたけど、ここからはいよいよ登山道的な雰囲気に。

深い深い森の中に吸い込まれて行く。

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この時の僕はあくまでも「歩き旅」という心意気で来ているから、「登山」という概念を全く持っていなかった。

しかし屋久島横断という事は、何気に九州最高峰の宮之浦岳を通過しなくてはならない立派な登山だ。

もうこの時点で息が上がっているこの男の無謀っぷりに、今では愛おしさすら感じる。


ただはやりそこは屋久島。

素晴らしい森の姿を惜しげもなく提供し続けてくれる。

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今更書くのもなんだけど、もののけ姫の舞台のモデルとなった森がこの白谷雲水峡の森だ。

何か「蠢き」すら感じる森の生命感。

自分が何か大きな生命の体内に侵入した毛ジラミのような気分になって来る。

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所詮森でしょ?って思ってたけど、やっぱり本土の森とは比べられないほどの生命力に溢れているのを感じる。


そんなこと感じながらグハグハと進んで行くと、突然巨大なスギちゃんがワイルドに現れる。

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ドラクエの木のモンスターを実写化するとこのくらい迫力があるんだろうな。

ただただ圧倒だ。

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こいつの名は「二代大杉」。

何やら自然災害で折れた一代目の木株に二代目が着生して成長したものらしい。

いやあ、屋久島来ましたって感じだね。


その後も苔むした登山道(もう登山道って書きます。この頃やっとこれは登山だと気づき僕はフラフラ状態だった)を登って行く。

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森の妖精に見えるけど、フラフラでピントも合わない男の姿です。


やがて気持ち悪い木の怪物が現れる。

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もはやアートだ。

ううむ、さすが屋久島。

やはり自然に勝るデザインはないな。

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こんな感じで写真ばっか撮ってるから、全然前に進んで行かない。

まあ目的は登山じゃないし、あくまで旅なのでこれでいいのだ。


やがて「三本足杉」に到達。

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男も負けじと「三本足」をアピールしているが、彼の三本目はポークビッツなので自立する事は到底出来ない。

それに引換え、この三本足杉の見事なる迫力。

一体何でこんな事になっちゃったんだ?


飽きさせない白谷雲水峡の登山道。

仕込んでないけど、こんなオシャレな事になってる場所も。

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誰かが置いたんだろうけど、粋な事をするものだ。


さらに進んで行くと、何やら迫力ありすぎる雰囲気の場所に到達。

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もうこれ生き物だよね。

そのまま足を絡めとられて食われそうなほどの迫力に満ちている。

そろそろ夕方だし、なんだか怖いじゃない。



その後、相当に予定時間をオーバーして今日の宿泊予定地の「白谷小屋」に到着した。

ここは無人の避難小屋で、僕としては人生初の避難小屋泊。


しかしそこには誰も先客はおらず、小屋の中は真っ暗であまりにも怖すぎる空間だった。

僕は体中さぶイボでいっぱいになりながら小屋から脱出。

結局小屋の外でテント泊する事にした。

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写真から小屋の真っ暗さと陰湿さともののけさがお分かりだろうか?

あのまま小屋の中で一夜を過ごしたら、きっと気が狂うほど怖かったに違いない。

いつも川原でテント泊して来た僕にとって、山中でのこのテント泊は非常にハイレベルなものだった。


あまりの怖さに出来るだけ小屋に背を向けて過ごしたけど、どうにも背後に気配を感じてならない。

やがて夜が近づき、本日この場所で野宿するのは僕一人だという事を確信。

GWの屋久島だから、正直大混雑を予想していた僕の思いを見事に裏切る現実。

登山口ではあんなに人がいたのにみんなどこに行ったんだ?

僕はそんなにマニアックなルートをチョイスしてしまったのか?


僕はそのまま恐怖という名のもののけに支配され、暗く長い試練の夜を過ごす事になった。

さっきまで散々見て来た木のモンスター達が、ざわざわと動き出してこっちに向かって来ている気がしてならない。


この時のテント泊は、かつて和知野川で体験した恐怖の野宿以来(参考記事)の忘れられないテント泊となった。

しかしあの時と違って、車で脱出なんて事は到底無理。

ウイスキーを浴びるように飲んでもまるで酔えない。

疲労で眠りたい体と、恐怖で覚めまくってる頭とのせめぎ合いで軽く金縛りに見舞われる男。


僕はそのまま泥のような意識に埋没し、寝たのか起きてるのか分からないまま夜に突入。

こうして深い森の片隅で一人の男は夜と戦った。


夜の森ってとても怖いんだと知った日でした。



〜屋久島横断野郎2へつづく〜



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