◉日々のツレヅレ

卵をめぐる大冒険

紹介せずにはいられない本に出会った。

と言っても、僕も知り合いに紹介してもらったものだけど。



実はこのブログは、旅の記録のみならず、良かった本や映画なんかも紹介していこうってんで始めたもの。

しかしどんどん方向性が偏って行って、最近はただのマゾ日記になっている。

ここらで一つ、ちゃんと本を紹介してみることにする。

読書好きの人に送る、珠玉の逸品です。




本のタイトルは「卵をめぐる祖父の戦争」。

卵をめぐる祖父の戦争 (ハヤカワ文庫NV) 卵をめぐる祖父の戦争 (ハヤカワ文庫NV)
(2011/12/05)
デイヴィッド ベニオフ

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別にジジイ達が卵の取り合いをしているお話ではない。

これだけでは、全く訳の分からない邦題だ。


原題は「CITY OF THIEVES」なんだけど、「泥棒達の街」と訳さずに「卵をめぐる祖父の戦争」と邦題をつけたのは実にお見事だ。

題名を見た瞬間「うお、一体どんな話なんだ?」と一気に引き込まれた。


そして、「ナイフの使い手だった私の祖父は十八歳になるまえにドイツ人をふたり殺している」から始まる冒頭の一節。

この手の冒険心をくすぐる「含ませ方」が実に秀逸だ。


センスのある知人からの紹介と、そそる邦題と、ミステリアスな冒頭の一節。

この本を買うのに、これ以上の理由は必要無いだろう。



この本はアメリカの映画脚本家が書いたものだが、作品の舞台はナチス包囲下の旧ソ連「レニングラード」。

作家である孫が祖父に戦争当時の事を取材をし、祖父が当時の事を物語ると言った流れになっている。


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作品の出だしはちょっと読んで行けるかが不安だった。

なんせ、僕は外国の本は普段あまり読まない。

基本的に登場人物の名前がカタカナだらけで覚えられないからだ。

しかも、難解な名前が多い旧ソ連が舞台。


本の登場人物紹介の欄で、「レフ・アブラモヴィッチ・ベニオフ」やら「ニコライ・アレクサンドロヴィッチ・ヴラゾフ」などのアナウンサー泣かせのカタカナが踊っていた。

大いに不安になる。



そしてこの時代のナチスドイツとソ連の戦争の事の予備知識が全くなかった。

僕は東洋史は好きだけど、欧州史は上記の理由でどうにも馴染めない。


ナチスに関しては手塚治虫の「アドルフに告ぐ」での知識しか無く、ソ連(ロシア)に関しては井上靖の「おろしや国酔夢譚」が精一杯の僕の知識だ。


という事で最初は状況把握のためゆっくり読んで行ったから、中々進まなかった。


ただ読んでいると、当時のナチスによる「レニングラード包囲戦」の凄まじさが生々しく伝わって来る。

よく日本でも「城を包囲して兵糧攻め」なんてのがあるが、規模が全く違う。

「都市」を丸ごと包囲しての凄惨すぎる兵糧攻め。


攻城戦なら降伏開城で終わる所だが、ナチスの目指すは妥協なしの「皆殺し」。

あまりにも酷すぎる包囲戦の背景が知りたくて、ウィキペディアなんかでも調べて予備知識を得た。


包囲はおよそ900日ほど続き、その餓死者はなんと約100万人!

100万人ですよ。信じられます?


包囲中、当然食料の配給は底をつき、次第に人々は壁紙の糊や砂糖の染み込んだ土を食べ、やがてペットを食らう。

そして凄惨度は増して行き、ついには人肉を食らい出すという地獄絵図。

特に子供の人肉は美味とされたので、市内では子供の誘拐・殺人が横行したとも書いてある。


こんな凄まじい過去の歴史があったとは。

僕はこの事実に関して何も知らなかった事を恥じた。


で、この本と同時進行でこんな映画も見た。

「レニングラード 900日の大包囲戦」
レニングラード 900日の大包囲戦 [DVD] レニングラード 900日の大包囲戦 [DVD]
(2010/09/03)
ミラ・ソルヴィノ、ガブリエル・バーン 他

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こちらはイギリス人女性ジャーナリストとレニングラードの女性警官の二人を中心に、この包囲戦を描いた作品。

この映画とセットで見れば、よりこの本の背景が分かるからおすすめだ。


最近では写真家のセルゲイ・ラレンコフって人が、一枚の写真上に同じ街の第二次世界大戦時と現在の様子をPhotoshopで加工したものを並べて作品として世に出していたりする。

20120123horrible_siege_of_leningrad20.jpeg

ここにいくつか載ってます。(参考


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話が本からそれてしまった。

元に戻そう。


そんな感じで読み進んで行くと、主人公のレフがあれよあれよとアクシデントに巻き込まれて行く。

いろいろあった末、コーリャという相棒と共に「卵」を1ダース調達しなくてはいけない状態に陥る。

もちろん、食料がないレニングラードで「卵」を探すなんて容易な事じゃない。


なんでそうなったとかは、ここでは書かないよ。

本編読んで楽しんでね。



そして、ここからが俄然楽しくなった。

もう、ページをめくる手が止まらない。


なんと言っても、このレフとコーリャの掛け合いが最高だ。

こんな悲惨な状況でも、ジョークと卑猥な話が大好きなコーリャ。

そして、どこかネガティブで常に頭の中でブツブツ呟き、性に悶々とする主人公のレフ。

この二人の掛け合いは、下手な漫才師よりも面白い。



そのユーモアさが、また一層対極にある「悲惨な戦争」を浮き上がらせる。

これはあの名作映画「ライフ・イズ・ビューティフル」を彷彿とさせる。
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(2009/11/20)
ロベルト・ベニーニ、ニコレッタ・ブラスキ 他

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この映画も僕の大好きな映画だけど、この映画が好きな人には僕の言わんとしている事は伝わるだろう。



実はこのレフという主人公が結構自分に重なった事も良かったのかも。

なんだか意気地があるように見えて意気地なしのチキン野郎で、思考回路がやけにネガティブ。

女性に対してもひどく臆病なくせに、頭の中ではひたすら妄想ばっかり。

自分の容姿や才能にもコンプレックを感じまくり、まあ言ってみればどうにも情けない奴。

でも案外、大半の男ってそんなもんだとは思うけどね。


それだけにコーリャの存在が、より一層魅力的に写る。

豪放磊落でおしゃべりで明るくて、誰とでもすぐ仲良くなって、そこら中に女がいる。

とにかく1週間でも女を抱けないと気が狂う質で、行軍中でもオナニーしてしまう驚異的なアホ野郎。

でも、コイツが度々核心を突いた良いことを言ったりするから面白い。

どこまでが本気かも分からないけど、それがまたコイツのカッコいい所。


本のラストを読み終えてから、再び冒頭のプロローグ部分を読むと思わず「ニヤリ」としてしまう。

祖母は料理が出来ないんですよ。



おっと、もうこれ以上はあんまり内容には触れないでおこう。

本編で存分に楽しんでおくれ。

僕の中でこの本は、暗い戦争の話でありつつも「青春ロードムービー」のような作品だ。

「ライフ・イズ・ビューティフル」と「モータサイクル・ダイアリーズ」が合体したかのような作品。
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ガエル・ガルシア・ベルナル、ロドリゴ・デ・ラ・セルナ 他

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紹介しておいてなんだけど、どんどんどんな内容なのか分からんくなるでしょ?

それでいいんです。


「冒険」と「青春」と「友情」と「恋愛」と「愛国心」と「戦争」と「飢餓」と「笑い」と「涙」と「アクション」が入り乱れる一大傑作。

ヴィクトリノックスの多機能ナイフみたいに、次々とそんなワードが飛び出します。


僕の中で、エッセイ以外の「小説」としては新田次郎の「アラスカ物語」に次ぐ傑作との出会いだった。


是非に読んでみて。

そして「卵をめぐる冒険」に旅立ってみて下さい。




ああ、なんか久々にちゃんとした記事を書いた気がするよ。

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