◉日々のツレヅレ

新春隔離病棟〜ある男の開幕戦〜

年が明けて二日が経った。

ここまでのあの男の出来事を振り返ってみよう。

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その男の大晦日は毎年仕事だった。

某百貨店の新春看板設置に狩り出され、その作業は夜間まで続く。

だから男はここ数年家族で年を越すなんてことはなかった。

だいたいが帰宅時の車の中で寂しく年を越え、一人小声で「ハッピーニューイヤー」と己に呟くのがいつものことだった。


しかし今回の大晦日は違った。

いつもより大分早く仕事が終わったのだ。

今年は雪も降ってないから、年内には帰れるぞ。


男は嬉しかった。

やっとみんなで年を越えられる。

みんなもきっと喜んでくれるだろう。

もう一人でハッピーニューイヤーなんて呟かずに済むぞ。

みんなの驚く顔が楽しみだ。


男はアクセルを踏み、急いで我が家を目指した。


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男は立ち尽くしていた。

部屋は真っ暗だ。


みんなもう寝てるじゃない。

男が思い描いていた、暖かい家庭の年越しの姿はそこには展開されていなかった。


確かに驚かすつもりで電話をしなかった事も敗因だ。

それにしてもどんだけ冷めた家族なんだ。


結局男は今年も一人きりで、寂しく年を越した。

彼の2012年は、こうして華々しく幕を開けた。


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明くる日の元日。

長く仕事の波に翻弄されていた男は、やっとここから遊べるぞという気持ちでいっぱいだった。

しかし起き抜けから凄まじく体がだるい。

男は新年一発目から、見事に風邪に侵されていた。

開幕戦の初球をいきなりレフトスタンドに運ばれてしまったかのようなガックリ感。


三日前からりんたろくんが風邪を引いているから、それが見事に移ったんだ。

りんたろくんも朝からふとんにゲロってしまう波乱の幕開けだ。


そして新年一発目の嫁の言葉。

普通は「おはよう」「おめでと」や、出来た嫁なら「本年もよろしくお願いしますね」なんて言うところだろうが、うちの嫁は「ティッシュ取って」でスタートしてきた。

挙げ句「おい、そこのクソ豚ハゲ野郎」と、いきなり2012年度のDSY大賞候補の発言が飛び出し男を驚かせる。


嫁の新春サド初めが終わったところで、男は嫁から指令をくだされる。

りんたろくんが吐いたゲロ付きふとんを、コインランドリーで洗ってこいというミッションだ。


世が正月浮かれムードに浸る中、男はふとんを車に積んでコインランドリーへ。

もちろん、新年早々コインランドリーで布団洗ってるのは男だけだ。

あまりにも切なすぎる元日の風景。

ゴウン、ゴウンとドラムが回る音だけが響き渡る。


コインランドリーの中にいると、どんどん「切なさ」と言う名の沼に沈んで行くのが分かったので、男は車に移動してDVD鑑賞を始める。

男がツタヤで借りてきた「キン肉マン」のDVDだ。

35歳の子持ちのおっさんが、一人元日にコインランドリーの駐車場で「キン肉マンVSブラックホール」の試合を見る姿は、あまりにも痛々しい惨劇だった。


男は諦めた。

今日は風邪も引いてるし、疲れも残ってるからしょうがない。

男は「明日からが本当のスタートだ」と自分に言い聞かせた。


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翌1月2日朝。

朝起きると信じられない腰痛が男を襲う。

ぎっくり腰までは行かないが、「その手前5秒前腰痛」だ。

まだ開幕2イニング目なのに、めった打ちを食らった気分だ。


なんて事だ。

今年もか。

今年もなのか。

今年こそ飛躍の一年ではなかったのか。


今年こそ「こんなはずじゃなかったのに」って言うはずじゃなかったのに。

本年も荒れるシーズンを予感させるスタートダッシュだ。


一階に下りると男の眼前に凄惨な光景が広がっていた。


風邪が治らずぐったりするりんたろくん、風邪をうつされて発熱しうなだれる嫁、さらにお義父さんとお義母さんも風邪に侵されでぐったりしている。

咳をする者、うなり声を上げる者、タンが絡む者、腰を押さえる者。


男の脳裏には次のブログ記事のタイトルのワードが次々と溢れ出る。

「家族内パンデミック」「フェーズ6ニューイヤー」「新春隔離病棟2012」「病みましておめでとう」。


男は神に問う。

お正月ぐらいは安らかな日常を許されないのかと。


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と、こんな感じの男の二日間でした。

ある種、男にとってはいつも通りのありふれたスタートを切ったわけだ。


やはり、今年もこの男から目が離せそうにない。



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