PM11:15 富士山5合目
ここから頂上までの参考タイムは5時間10分(休憩含まず)と地図には書いてある。
最悪なコンディションの僕は、どれくらいで登れるのか?そもそも登れるのか?
まさかの過労死という結果もありえる。
不安を抱えながらも、ヘッドライトの灯りを頼りに登山道に入って行った。
(※ちなみに今回は夜なんで写真少なめです。ご了承下さいませ。)
やはりこの時期でも、そこそこ登山者はいるので安心感はある。
道もゴツゴツした砂利道といった感じで、今までの登山を考えたら夜でもそんなに苦にはならない。
おまけにヘッドライトの明かりくらいしか視界はないので、目の前の一歩一歩に集中できて結構楽だ。
あんまり先が見えていると、気持ちが焦って逆に疲れてしまうんだよね。
おまけに、寒いけど行動中は結構涼しいぐらいの感じで登りやすい。
結構風はあるが、「蝶ヶ岳地獄の突風ナイト」の時の事を思えばそよ風だ。
「どうした、富士山。こんななもんじゃないだろう。」
いつもと勝手が違い、Mゲージも溜まっていかないのでついそんなことを呟いてしまう程に楽だ。
そんな感じで口笛気分で登っていたら、徐々に道が荒れて来てひどく足下が急になってきた。
斜面は次第に鋭さを増し、足下も滑りやすくて、とてもじゃないがヤバい状況になって来た。
「うそだろ。みんなこんな所登って行っているのか?」
と思って周りを確認したら、ガッツリ登山道から外れた所を歩いていた。
ライトの明かりに集中しすぎて、登山道を見失っていたのだ。
あぶない。まだ6合目を過ぎた辺りなのに早くも遭難する所だった。
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しかしその後は実に快調に高度を上げていく。
ここでは僕が登山時に意識して効果の高かった事をご紹介しよう。
今回から導入したプラティパスのリザーバーが絶大な効果を上げた。
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これなら、こまめな吸水をしながらも立ち止まる事なく歩き続けられる。
今時のザックにはたいがい、こいつを入れるスペースとチューブの取り出し口がついている。
これでチューチューと水分をこまめに取る事で、披露も軽減し高山病予防にもなった。
今後の登山ではマストアイテムになる事間違いない。
難点を言えば水の残量が分からない事くらいだろうか。
そして呼吸法は「三浦式呼吸法」を取り入れた。オギノ式とはひと味違う。
これは勝手に僕が命名した呼吸法だが、高山病対策に抜群の効果を上げたと思っている。
何か良い呼吸法はないかと考えながら登っていたら、エベレスト最高齢登頂の三浦雄一郎氏が、サントリーセサミンのCMで披露していた呼吸の仕方を思い出したのだ。
息を吸う時はソバをすするような感じで、口をすぼめて一度吸って、さらにもう一度吸う。
そしてふ〜と吐く。
スムーズに子供が産めてしまいそうな呼吸法だが、酸素濃度が薄い場所ではこの方法が酸素を効果的に体に浸透してくれる事が分かった。
これはいいぞ。うろ覚えのCMだったけど、僕にとってはセサミン以上の効果を上げた気がする。
あとはとにかく「LSD」。
決して麻薬のLSDではない。ビートルズの曲でもない。
最近結構言われだした「Long Slow Distance」。とにかくゆっくりと長い距離を歩くという事。
これを意識しないと、ついついハイペースになってガス欠になってしまうのだ。
歩幅も出来るだけ短く。足裏は地面に対して接地面積を大きくとる。
登山の基本だ。(これをちゃんと下山時も守っていればあんな事にはならなかったんだが)
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そんな感じで進んでいると、元祖七合目あたりでバターN君を追い抜いた。
参考タイムよりもかなり早いペースで登っている。
というか、なぜかまるで疲れない。ほぼノンストップでガシガシ登っていく。
さては、これが世に言う「クライマーズハイ」というやつなのか。
それともただのナチュラルハイなのか?
なんだかすごく楽しいぞ。
疲労も負傷もすべてピークを越えて、無感覚ゾーンに突入してしまったのか。
12キロザックを背負って毎夜さまよった効果か出ているのか、ザックがとても軽く感じる。
まるで黒い鉛の服を脱いで、スピードアップしたの孫悟空のような感覚だ。
八合目を過ぎた辺りから、次第に僕の前に他の登山者のヘッドライトの明かりが見えなくなって来た。
後ろを見ても誰かが追いついてくる気配がない。
最高だ。
あのアホみたいに人だらけのイメージだった富士山で感じる孤独感。シビレる。
九合目に着いた時尿意を催した僕は、誰も来る気配がなかったので小屋の裏の崖に立って放尿。
ヘッドライトを消すと、頭上には満天の星、眼下には富士宮の夜景、視界を遮るものは何もない。そんなパノラマ絶景を僕の黄金水が切り裂いていく。
快感だ。
この時の感動は忘れられない。ユーコンでのパノラマうんこを超える快感だ。
と思っていたら、諸葛孔明が祈祷でもしたかのように急に風向きが変化し、崖下からの突風が襲いかかる。
突如、シャケのようにふるさとに帰ってこようとする僕の黄金水。
慌てて避けたが、危うく崖から落ちる所だった。
もし落ちていたら、翌朝にちんちん丸出しの変死体が発見された事だろう。
なぜ彼は丸出しだったかというミステリーだけを残して。
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頭が痛いぞ。
ついに高山病の症状が出て来たのか?
確かにもう3500m付近の未知の領域。高山病になってもおかしくはない。
しかしいろいろ検討してみると、頭痛の原因はヘッドライトだった。
ネットで買ったやつが、今日帰宅時にちょうど家に届いた滑り込みセーフな一品。
来週使うと思っていたから、一度もテストもしておらず箱のままこっちへ持って来たやつだ。
なので、ろくにベルトの調節もしないで使っていたから、顔デカの僕の頭を締め続けていたのだ。
調整し直そうにも、ヘッドライトを照らすライトがないので、真っ暗で調整できない。灯台下暗しだ。
使い慣れていないから、手探りで調整する事も出来ない。
結局その後も、西遊記「おしおき悟空」状態。
三蔵法師に呪文を唱え続けられ、締まり続けるヘッドライト。
しかし、ここまで来たら一つぐらい痛い箇所が増えた所で、クライマーズハイの僕には屁でもない。
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快調に続く一人旅。
しかし快調すぎてひとつの不安がよぎる。
5時間で登る予定が、頂上まであと40分程なのにまだ3時間しか経っていない。
素晴らしいタイムなのはいいんだが、このままだとクソ寒い頂上で2時間くらい待機しなければいけなくなる。
寒がりで、野郎のくせに冷え性の僕にはそれはヘビーだ。
まさかこんなにスムーズに登って来れるなんて思ってもいなかった。
僕は仮想富士山として1ヶ月半で10山登るなどの随分過剰なトレーニングをして来たが、さてはやり過ぎてしまったのか。
男塾風に言えば「壱月半十山怒得無連覇」を勝ち抜いて来たのだ。(民明書房刊参照)
中にはヒル男爵、笹眼鉄、脱水鬼などの鎮守直廊三人衆の厳しいドM難関も突破してきた。
おかげで江田島平八並みの体力を身につけてしまったのは喜ばしいが、極寒の中で二時間待機はいただけない。
しかしここまで来たら、ひとつの野望がふつふつと顔を出す。
「今日富士山を登っている人の中で、トップで頂上に立ちたい」というもの。
基本「人と争う事は旅ではない」という信条の僕だが、この時は頂上を独り占めしたいという願望が僕を支配した。
それはいつも混んでるディズニーランドを独り占めできるという、マイケル的な満足感に浸れる絶好のチャンスだった。
僕はLSDをやめ、足早にひたすら頂上の剣ヶ峰を目指す。
(※この時彼は気づいていない。下山時に発覚する事だが、彼はこの時登山道を外れて軽く遭難しているのだ。)
さすが、頂上直下の急登ルート。実にハードだ。(遭難してるから)
道は複雑で、どこが登山ルートなのか分かりづらい。(そこは登山道ではない)
足場はかなり悪い。最後の難関だ。(そりゃしんどいよ)
そしてやっと火口の淵に出て来たぞ。(本ルートならゴールの鳥居をくぐる感動を味わえたのに)
いよいよ3,776mの剣ヶ峰、富士山の頂が見えて来た。
周りには誰一人いない。
剣毛峰は最後の急坂ルートだ。(ここも日が出てから気づいたが、ルートを外れてハードコースを直登していた)
グハグハ言いながら登っていくと旧富士観測所が見えて来た。
やった。誰もいない。
1位で登頂だ!独り占めだ!マイケルだ!
と思って行ったら、1位の人がヘッドライト消して体育座りで座ってた。
僕の達成感は一瞬にして崩れ去り、せっかくの富士山登頂はガッカリ感に包まれてしまった。
こんな事なら無理して変な野望に突き進まなければ良かった。普通に達成感を味わえたはずなのに。
蓮舫に詰問された人の気分だ。2位じゃダメなんです。
それでもやはり登りきった自分を褒めてやりたい。
5時間の参考タイムのところを、休憩ありで3時間40分で登ったのだ。
あの特訓の日々は間違っていなかったんだ。
他に人がいるからと言って、日本最高峰での独占感は実に味わい深いものがあった。
僕はその時点で、日本一高い場所に立つマゾ男となったのだ。
そして寒さで震えている1位の人にお願いして、登頂記念撮影。
なんか登頂記念写真ってもっと華やかなイメージだが、いやに地味だ。
なにやら墓を撮影した心霊写真のようで、僕が亡霊に見える。チャクラ光ってるし。
同じマイケル気分でも、これではスリラーだ。
正直、これだけ登って来たが体がほとんど疲れていない。
いつまでこのクライマーズハイ状態がが続くのか。
そしてご来光に向けて、これから2時間にわたる極寒と孤独との戦いが始まった。
〜富士6苦フェス3へつづく〜
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