富士山/静岡

富士6苦フェス4〜ガンダーラ巡り〜

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僕は不安のまま剣ヶ峰を下り、頂上から見えていた富士館へ向かった。

はたしてみんなはそこにいるんだろうか?

もしや僕という存在は、もうみんなの中で「過去の人」のカテゴリーに入ってしまってないだろうか?


富士館が近づくにつれて、誰かが僕を発見した。みんながいた。手を振っている。

よかった。忘れられてなかった。

ましてや5合目の特設モニターで僕を観察していたわけでもなかった。

感動の再会。

僕は一番早く登って来たのに、一番遅く合流するというよく分からない結果となったわけだ。

みんなの認識としては、ここが山頂集合場所だったようだ。

(山頂手前で遭難しているので、この場所を見つけることが出来なかったのだ)


B旦那さんがウイスキーを飲ませてくれた。

長く孤独と寒さに震えていた僕の体が温まっていく。やっぱりビールよりもウイスキーだ。

単独行ばかりの僕だが、やはり仲間の存在はウイスキーのように心を温めてくれる。


やっとみんなで記念撮影が出来た。

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これだ。これこそ華やかな登頂記念写真だ。

あんな心霊写真のようなものでもなければ、全身真っ黒で写るものでもない。

実にいい笑顔だ。

もし僕が合流出来なかったとしたら、写真右上辺りに楕円形にくりぬかれた僕の顔写真が入る所だった。そんな寂しい結果にならずに本当に良かった。


みんなのカメラでも記念撮影。

B旦那さんのカメラで撮影した際に、僕は無理をして回転しながらジャンプをして昇竜拳を放ちながら写真におさまった。

そのとき、着地した左足首にピリッとした痛みが走った。

つい数日前に普通の道でグネッて痛めた場所を、さらに痛めてしまうアクシデント。

記念撮影では、はしゃぎすぎてはいけない。

またひとつ教訓ができた。

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富士山頂でのお楽しみと言えば、ご来光後の「お鉢巡り」だ。

富士山の火口を起伏に添って歩いて、1周するというもの。

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なんだかんだ、ここを回ると2時間近くかかるらしい。

なので、ご来光を見たらお鉢を巡らずに帰って行く人が結構いたりする。

我々メンバーの中にも、「お鉢巡りはしたくないなあ」という顔をした人が何人かいる。

まあとりあえず荷物をここに置いて、行けるだけ行ってみようということに。

何故か僕だけは荷物を背負って行った。富士山頂だって、燃やせ!脂肪肝だ。


そして、みんなで剣ヶ峰を目指した。

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僕個人としては本日二度目の登頂アタック。そう一日に何度も剣ヶ峰にアタックする物好きな奴はいないだろう。


観測所下に着くと、僕がいた時は想像も出来ないくらいの人だかり。

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9月と言えど、やっぱり頂上渋滞は起きるんだなあ。

寒かったけど、先に登っておいて良かった。


みんなはやはり違いの分かる人達だ。

わざわざ渋滞待ちをする剣ヶ峰登頂にはこだわらず、観測所下にて満足の記念撮影会。

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決して月刊サブ9月号の表紙ではない。

達成感に満たされた男達は、快晴のもとで素敵な笑顔を見せるのだ。


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休憩中の女優を背後から覆面のファンが襲いかかろうとしている一コマに見えるが、決してそんなわけではない。

ここでは誰もが充実した笑顔になるのだ。


ふと、下を見るとグッタリとした赤い彗星が登って来ている。バターN君だ。

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彼は見事に高山病男と化してしまって、大変つらそうだ。

非常につらそうだったが、容赦なく彼もお鉢巡りに同行する事に。

彼にとっては「お鉢巡り」というより「どM祭り」だ。

ちょっと羨ましいじゃないか。

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ジャバS君と横綱Kさんが先行して、ハイペースで消えて行く。

後で聞いたら、なぜか政治の話で大盛り上がりだったようだ。なんて渋い男達なんだ。


僕らはのんびりとお鉢を歩く。

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雨乞いを祈祷する山の仙女のようだが、彼女は決して下界に向けて天津飯ばりの気功砲を放とうとしてるわけではない。

ただデジカメで風景を撮影しているだけなのに、実に絵になる女だ。さすが女優だ。



稜線ではないが、絶景が続いて僕のテンションも向上の一途だ。

ほんとにこれだけ晴れるなんて信じられない。僕は夢を見ているのか。

僕の中の辞書から「快晴の旅」という言葉が消えかかっていたから、改めて僕は「快晴」を噛み締める。

これから僕を誘おうって思ってる方は、1週間予定をずらして僕を騙してから誘ってほしいものだ。

今この富士山の中にいる人間の中で、一番感動しているのは僕だろう。

登頂の喜びよりも、晴れた事に対する喜び。

悪天候男は晴れるだけで、果てしないヨロコビに包まれるのだ。

一般の人には分かるまい。僕だけの快感。

ただ、調子が良すぎて不安もつきまとう。

噴火しないよな?


そんな幸福感に包まれながら歩いていると、大沢崩れの辺りでちょっとした人だかりが出来ている。

みんなが崖の下を覗き込んでいる。

さては誰か滑落してしまったのか。

僕らも覗き込んでみると、思わず「うおっ」と声を出してしまう。

影富士じゃないか!

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予想もしていなかっただけに、結構驚いた。

なんて事だ。気分良すぎる。絶対噴火するぞ。

僕は晴れているだけでチビリそうなのに、もう失禁ものだ。

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今日来て良かった。

予定外だったけど本当に良かった。

旅の神は今頃、僕が行く予定だった乗鞍岳で地団駄踏んでいる事だろう。

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弱りきった赤い彗星、バターN君が追いついて来たので影富士と一緒に記念撮影をしてあげた。

しかし彼はこの時点で影富士の存在に気づいておらず、撮り終えた後に下を見て「うおっ」って驚いてた。

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やがて周りは西遊記のロケ地のような、荒涼とした雰囲気になって行った。

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悟空(B旦那)「お師匠様、休んで行きましょうよー」
沙悟淨(バターN)「もう、へろへろッスよー」
三蔵(女優E)「勝手にしなさい。おいて行きます。」

といった会話が聞こえてきそうな雰囲気だ。

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勇ましく、敵のアジトに向かう悟空。手には如意棒だ。

しかし、実際はトイレに行くと言って岩陰に消えて戻ってこないバターS君の捜索に向かう後ろ姿だ。


当の沙悟淨(バターN君)はどこにいたかというと、

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遠く後方で猪八戒(元美のKさん)と一緒に道ばたに倒れ込んでいた。

サディスティックな三蔵法師(女優E)は「オルァッ!行くぞぅ!」と悟空をせかす。

天竺への道は遠く険しい。

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お鉢巡りも半分をすぎた辺り。

絶景の山中湖だ。

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フルカラーの水墨画のような光景が眼下に広がる。

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元気そうにポージングしているが、この辺りでみんなそろそろ体の疲労感を認識し出す。

ちょっとしたハイキング的な気分でこのお鉢巡りを始めたが、結構こたえるものがあるのだ。


若干疲労感が漂い出した三蔵法師ご一行。

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沙悟淨(バターN君)が写っていないのは、グッタリして追いついて来ていないのだ。

新たに写ってる、何故か一人荷物を背負っているマゾ野郎は玉竜(三蔵の馬)といった所か。

物欲しそうな玉竜(僕)。三蔵法師から罵られるのを待っているのか。

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やがて、山梨県側の吉田口の登山道が現れた。

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今登って来た人も、お鉢を巡って来た人も満足感に包まれる。

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こちら側にも富士頂上の石碑がある。

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もはや剣ヶ峰だろうが富士館だろうが山梨側だろうが、どこが頂上でもいいさ。

お鉢まで来れればみんな頂上だ。(でも頂上で集合という曖昧な約束をすると、一人ばかり剣ヶ峰で孤独な夜を送る奴も出てくるので注意が必要だ)


沙悟淨(バターN君)が追いついて来たので、記念撮影だ。

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見よ。この全ての煩悩から解放されて幸福に包まれている男の顔を。

彼は高山病と激しい疲労によって、いち早く天竺に辿り着いてしまったようだ。


勇ましく下界を見下ろす三蔵法師。

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次に罵倒すべき男を捜しているのだろうか?

お師匠様。玉竜(僕)はここにいますよ。

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山梨県側のお鉢はなにやら全体的に荒々しい。

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体力的につらくなってくるのもこのあたりだ。

この辺りまで来ると、正直「もうお鉢巡り、いいや」って気持ちになってくる。

結構距離も長く感じて、意外と時間がかかる。



三蔵法師様はズンズンと進んで行く。

必死で僕も追いついて行く。

すると結構な幅の狭い崖の道で、ふいにお師匠様の帽子が風にあおられてフワッてなった。

帽子が飛ばされたと思ったお師匠様はすごい勢いで振り返り、「あ!帽子!」と叫ぶ。

その声にビクッとして、僕は反射的にお師匠様の視線の先に体を反転させて、飛ばされた帽子を取ろうと素早く動く。

足下はすぐそこが崖。

恐ろしすぎて、一瞬口からエクトプラズムが飛び出すほどだ。

僕は命がけでお師匠様の帽子をキャッチするのだ。

そして、ミスして罵られるのだ。


と思ったら実は帽子なんて飛ばされていなかった。

「ごめんなさい。」とあやまる三蔵法師様。

でも口元はニヤリと満足げな微笑みを浮かべていた。

師匠と馬の束の間のSM行脚。

天竺までの道は長く険しい。

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我々はヘトヘトになりながら、お鉢を一周して元の場所に戻って来た。

素晴らしくも、中々ハードなるお鉢の旅だった。


しばしの休憩の後、下山を開始した。

みんなが行きに登って来た登山道とは別の道で降り始めた。

混乱する僕。

僕はこの時点で、やっと登りの時にプチ遭難していた事を知ってぞっとした。

一体僕はどこを登ってお鉢に出れたんだろうか。

とりあえず生きてたから良しとしておこう。



そしてここからが実は「本物の富士登山」の始まりと言っても過言ではなかった。

富士山のサドっぷりは下山時にこそ集約されていたのだ。

小田和正、マイケルジャクソン、坂本九、ゴダイゴと繋いで来た前夜祭ライブはもう終わった。
(分かりにくいだろうが、記事のサブタイトルが全て音楽繋がりだったんです。)

マゾの祭典「富士6苦フェスティバル」がいよいよ開演の時を迎える。

僕は意気揚々と駆け下って行った。


〜富士6苦フェス5へつづく〜



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