富士山/静岡

富士6苦フェス5〜熱狂の下山ライブ〜

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我々は下山を開始した。


しばらく降りて行くと、見覚えのある別ルートが姿を現した。

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まさに僕が登りの時に、プチ遭難へのきっかけとなった別道だ。

足下を見ると一応ロープが張ってあったみたいだが、僕は全く気づかなかったんだ。

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もう少ししゃんと張っとていてよ。

この1本のロープに気づかなかった事で、僕は剣ヶ峰で切ない夜を越す事になったわけだ。

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昨夜は真っ暗だったから分からなかったが、やっぱり景色が開けていると気持ちいい反面高度感があってちょっと怖い。

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しばらくはのんびりと下って行く。

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しだいに、本日の朝出発の登山者たちと沢山すれ違うようになる。

基本、下り側の人間が道を譲って待機しなくてはならんので、しだいに僕らのペースは遅くなって行く。

途中、登山道とブルドーザー道との分かれ道があり、僕らは二手に分かれた。

最短距離だけど足場は悪くて人が邪魔な登山道を、僕とB旦那さん、横綱Kさん、元美のKさん。
距離は長いが歩きやすくて人がいないブルトーザー道をバターN君、タオラーSさん、ジャバS君、女優Eちゃんが進む。

同ルートの横綱Kさんは、早くも先行してすごいスピードで下って行った。

彼はトレッキングポールなどという軟弱なものは使わない。

彼が使うのは太い「金剛杖」一本。実に男らしい。


僕らの視線はまだまだ雲の上だ。

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この辺までは快調に下って来た。

僕のクライマーズハイ状態もまだまだ続いているのか、疲れてはいるんだがまだまだ全然元気だった。


しばらく進むと、なんとMTBを担いで登ってくる奴らがいる。

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どんだけマゾなんだ。僕も交ぜてくれないか?


下っていると、いろんなタイプの登山者とすれ違う。

MTBマゾトリオの他に、短パン一丁上半身裸のムキムキ筋肉じじぃや、高山病でひん死状態のトレイルランナー、りんたろ登頂記を彷彿とさせるベビーキャリアで子供背負って登る人、「山、なめてます」といった感じの軽装の若造たち、山ガールから山ババァまで実に多種多様なる人間交差点。

見ていて飽きないが、登ってくる人が増える程にどんどんペースは落ちて行く。


そこで僕とB旦那さんは「弾丸下り野郎」スイッチを入れて、一気にペースアップを図る。

まさにムササビのように登山道を駆け下りて行く二人。

トレッキングポールを巧みに駆使して、走るように下って行く。

登りの人がいれば急ブレーキか、鮮やかに避けながら下って行く。

ここにきて僕のナチュラルハイ状態は最高潮の時を迎え、ノンストップでトレイルランナーのように富士山を駆け抜けた。

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数十分後、「富士6苦フェスティバル」が高らかに開演の時を迎えた。


快調に飛ばしていた僕は、トレッキングポールで体の勢いを殺す事に失敗。

挙げ句、左足首をグネり激しく横転。

横滑りで回転し、頭を下にした状態で停止。

凄まじい横転っぷりに、他の登山者は僕に釘付けだ。

とても恥ずかしいので、すぐに起き上がろうとしたが、とても足首が痛い。


6苦のトップバッター「左足首捻挫」が華々しく登場し会場を盛り上げる。

三日前の平地グネり、そして富士山頂記念撮影の昇竜拳の時のグネり、そして今回の横転野郎でこの左足首は決定的な爆弾を抱えてしまった。

先ほどまでムササビのような快調さをキープしていた僕は、とたんに鈍牛の動きと化す。


そして「左足首捻挫」とハイタッチして新たなアーティストがステージへ上がる。

6苦の2番目アーティスト「全身疲労」が観客を煽りだす。

待ってましたと歓喜するドMな観客達。

ここに来て、唐突にクライマーズハイの状態が終了した。

スターで無敵状態だったマリオが、突然元に戻ってクリボーに当たって小さくなってしまったかのような脱力感。

どっと体に押し寄せる疲労感と各種痛み。

思えば、朝起きてから30時間近く不眠不休なんだ。疲れない方がおかしかったんだ。

鉛を背負ったかのような、重厚感あふれる体を引きずって僕はさらに下って行く。


2組のアーティストがひとしきり会場を暖めた所で、静かに3組目のアーティストが登場する。

6苦の3番手は「まめ&靴擦れ」の夢のコラボレーション。

普段はソロで活動しているが、このフェスの為にスケジュールを合わせて来た。

じわじわと会場を重い空気に引きずり込む美しいハーモニー。

足裏はすり切れたような痛み、踵も予防シートをしているにも拘らずやはり痛い。親指と小指の外側もじんじん痛み、人差し指の第二関節の頭ににはまめができて痛い。

珠玉のバラードはやがて熱を帯び始め、ハードなナンバーへと転換して行く。

そして気づく。

靴の中用ホッカイロが入れっぱなしで、なにやら低温火傷的な気配。

靴擦れにムレや熱気は御法度なのに、僕は火に油を注ぎ続けていたのだ。

ホッカイロを取り出そうとも思うんだが、ゲーターを脱いで靴を脱いでとかやる事すら億劫になっていた。

もう少しでゴールだろうからって放っておいたら、彼らは素敵なバラードからハードメタルへと進化していた。


そして6苦の4番手がステージに乱入して来た。

「両膝の痛み」だ。

正確にいえば、両膝の外側の激しい痛み。

正直立ってられない程の痛み。

瞬く間に僕はお馴染みの下山スタイル「産まれたて子馬」と化した。

一歩一歩がズシズシと骨に響いてくる。

両膝にヤン車のウーハーを搭載してしまい、会場にものすごい重低音が響き渡る。

狂喜乱舞する会場のドM客たち。


しだいに、膝の痛みをカバーすべくトレッキングポールへの負担が激しくなる。

6苦の5番目のバンド「両腕筋肉破壊」が舞台下からドライアイスのスモークとともに登場だ。

先週の無謀なボルダリングジムにて破壊された僕の両腕の筋肉へ、体重の全ての負荷が襲いかかる。

きしむ筋肉。そしてまだ完治していない指のむけた皮がさらにズルむけて血が滲む。


そしてついに大御所が登場。

トリを飾るのはやはりコイツだ。

6苦のラスト、苦痛のカリスマアーティスト「THE 腰痛」だ。

重い荷物を背負ってのトレーニングの日々で、かなりな状態まで来ていた我が腰痛。

ここにきてその痛みは最高潮の時を迎え、THE 腰痛は宙づりロープで会場高く舞い上がる。

会場のドMなファンの奴らも失神者続出の痛みだ。

今くしゃみでもしようものなら、その場で僕の腰はぎっくり腰になるのが自分でも分かる。


凄まじいまでのマゾの祭典。

富士山のすべては、この下山時に凝縮されていた。

基本的に富士山が悪いわけではない。

すべて己の体調管理の問題。

ただのセルフSMプレイだ。


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富士6苦フェスが始まってから、下山までは随分時間がかかった。

あまりの膝の痛みに後ろ向きで歩いたりしてた程だ。

やはり、人間の体は坂を下るようにはできていない。


フェスのステージには6組の出演アーティストが勢揃いして、ハードな「昴」を大合唱。

奇声を上げる者、ヘッドバッキンを繰り返す者、客席にダイブする奴、火を噴いてる奴、中には殴り合いを始める者もいる。

もはや僕の体のフェス会場はグチャグチャの無法地帯。


フラフラと6合目を越えた所で、B旦那さんと合流。

彼も僕と同様、スターウォーズのカクカク「C3PO」状態だった。

富士山の荒野をさまよう二人のC3PO。

二人とも人間の動きをしていない。

数時間前まで、あれほどかっ飛ばしてムササビのように駆け下っていた二人の哀れなる姿。

じいちゃんばあちゃんハイカーの長蛇の列に遭遇し、一人一人に哀れみの視線や言葉をかけられる僕ら。

「大変だったのねえ」「後ろ向きだと楽だよ」「がんばれ、あと少し」

逆に惨めさが増すからやめて。ほっといておくれ。


ゴールが近づいて来た。

あれほど他の下山者をごぼう抜きしていた我々だったが、最終的には老夫婦に抜かされるという惨状。

そして二人は崩れ落ちるようにゴール。


伝説のフェスティバルが終わった。

完全燃焼。

観客もだれもアンコールの催促をしない程の完全燃焼だ。

その時の惨状を後世に残すべくB旦那さんが撮影したものが、生還報告時に使用した下の写真だ。

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随分時間が経ってから全員が生還。

ここで劇的ビフォーアフター記念撮影だ。

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↑出発する時の記念写真はこんなにみんな笑顔だったが、

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↑なんということでしょう。すっかりみんなおっさん的な深い疲れがにじみ出ている。

しかしさすが女優。ただ一人変わらぬ笑顔を保っているのはさすがのプロ根性だ(自称だが)。



みんなでメシ食って温泉行こうという話になったが、僕は方向が逆なのでお先にドロンだ。

みんな、ありがとう。後半を除けば、とても楽しい登山だったよ。

もう、しばらく富士山はいいかな。これ以上の天気も無かっただろうしね。

またみんなでなんかやりたいものだ。

その時はまた、1週間ずらしでお願いします。


こうして僕の富士登山挑戦は終わった。

9日の朝起きてから、31時間が経過していた。

これからさらに岐阜に帰らねばならん事を考えると、それだけで吐きそうだ。


〜富士6苦フェス エピローグへつづく〜



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