御池岳/滋賀

御池厄除け復活祭 前編〜いざ地獄の断頭台〜

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天気がころころ 無茶ぶりこ

御池にはまって さあ変態

悪寒が出て来て こんにちは

モクモク一緒に マゾりましょう



激しい風に乗ってどこからか聞こえるわらべ歌。

僕は薄れゆく意識の中で確かにその歌声を耳にした。

そして何度もその暴風に吹き飛ばされ、遥か天へと舞い上がる夢を見る。


ここは御池岳テーブルランドの樹林帯。

私は激しい強風の中、テントごと飛ばされる恐怖と戦いながら朝を待っている。

外は吹雪で白一色。

翌日の青空なんてミジンコの糞ほども期待出来ない状況。

吐く息が白いのは寒すぎるのか、それとも風邪がぶり返しているのか。

心無しか各所の関節が痛い。

そしてここまでの体力の消耗度もスペシャルだ。



しかし覚悟は出来ていたはずだ。

例え悪天候だろうと、絶賛風邪中だろうと、これは私自身が選んだイバラの道。

このところの厄まみれ人生に、己の力で強制的にピリオドを打つ荒療治。

ここで無理してでも山行っとかないと、待っているのは発狂死のみ。



ううむ、顔が冷たいな。

テント内に発生した凍った結露が、小雪となって我が顔面に降り注ぐ。


本当にこれで正解だったんだろうか?

どこかに「希望」のカケラは落ちていないのか?


とりあえず、ここまでの顛末でも振り返ってみようか。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


朝。

待ち合わせ場所の藤原簡易パーキング。


私の胸は「希望」で打ち震えていた。

3ヶ月ぶりの登山、そしてやっと訪れた今シーズン初の雪山登山。

そんな私の復活祭を祝福するかの様に、今「希望の光」が降り注ぐ。

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天気予報は決して良くなかったが、なんとここに来て青空と太陽が出現。

我が脳裏に走馬灯のようにこれまでの辛すぎた日々が駆け巡り、いろんな顔が現れては消えて行く。

追突して来た女の顔、電話越しの保険会社の男の顔、救急病院で絶叫するこーたろくん、脱ぎ捨てた服を片付けてくれないばかりか逆ギレする嫁の顔、etc…。


そんな感動で涙する男の元に1台の車が到着。

まさにその人がこの晴天を運んで来てくれたかのようなタイミングだ。


そう、その人こそが今回餓死寸前の僕に「肉」を投入して来たご本人。(前回予告編参照)

それがこの陽光に照らされながらグッと親指を立ててる晴れ男。

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まるでサンドウィッチマン富沢と中川家剛とピエール滝と若き日の綾小路きみまろが合体してまろやかになった感じのこの男。

彼の名は「ジャンダラK」という。


実は彼は僕と同年同郷の間柄。

何度か当ブログにコメントを寄せてもらった縁で、僕が勝手に「沢登り師匠」に任命させてもらった人。

そして彼も「じゃんだらりん登山日記」というブログをやっており、元大学ワンゲル部員だけあって山の技量もピカイチ。

僕のブログは無駄に文章が長いので、「ちゃんとしたブログが見たい」という方は間違いなく彼のブログを読んだ方が良い。(参照:じゃんだらりん登山日記


ちなみに「じゃん・だら・りん」とは三河地方の方言である。

分かりやすい例文で言うと、標準語で「そこの味醂見てごらん。すごく液がダラダラでしょう?まるで醤(ジャン)だね。」という一文があったとしよう。

これを三河弁で言うと、「味醂見てみりん。でらダラダラだら?醤じゃん。」という事になる。


そんな僕と同じ「三河武士の魂」を有するジャンダラK。

彼はメールの時点で「晴れ男になってみせます」と意気込んでいたが、どうやら本当に晴れ男だったらしい。



しかし相手が悪かった。

僕はかつて何人もの「自称晴れ男達」を闇に葬り去って来た過去がある男。

しかも今日は3ヶ月分のパワーが溜まっている。

まだ駐車場から出たばかりだというのに。

早くも世界は白に包まれた。

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さっきまでの青空&太陽の記憶は遥か彼方に飛んで行き、まだ道路なのにスタートのウキウキを雪が吹き飛ばして行く。

かつて葬って来た晴れ男達がそうであったように、これにはジャンダラKも「まさか!」という表情。

早くも「これが噂に聞くカヌー野郎の世界観なのか」と驚きを隠しきれない様子だ。


と、こんな感じでお互い挨拶代わりの「力」を見せ合って登山口へ。

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今回はこの木和田尾道から侵入し、峠一つ、谷一つを越えて、地獄の直登戦線の果てに御池岳のテーブルランド(広い台地状の世界)を目指すのだ。


そして「木和田尾」と聞いてピンと来た人は相当なこのブログのマニア。

そう、ここはかつて僕が初めて「リアル遭難」しかけた記念のエリア。(参考記事:鈴鹿セブン四発目〜藤原岳〜後編

この時は助けを求めて来た青年を助けようと見事に二重遭難してしまったという失態だった。

あの青年も厄まみれ男に助けを求めるとは、ほとほと運のない男だった。

あれ以来、この木和田尾には近づいていないが今回は大丈夫だろうか?


そして早速襲いかかる「さあ迷え」と言わんばかりの不明瞭木和田尾ワールド。

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ただでさえ風邪ひいて頭がボーっとする中でこれはキツい。

しかしこの木和田尾道を何度も経験済みのジャンダラKはスルスルと進んで行く。

もはや一体どこがルートなの?という世界でもしっかりナビゲート。

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実に頼りになる三河武士だ。


しかしもう一方の三河武士は早くも虫の息になっていた。

久しぶりの登山、かつこの数日風邪で寝込んでたんだから無理もない。

しかも風邪は治ってなくて、本来なら家で横になってなきゃいけない状態。

たまりかねて休憩する様は、もはやちん毛の中を彷徨うケジラミのように惨めだ。

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なぜ彼はここまで無理をしてしまうのか?

やがてはまだ峠一つも越えてないのに、早くもバテバテになって「メシ食いましょう…」と大休憩。

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恐らくこの時点でジャンダラKさんは「あれ?こいつ全然動けねえじゃねえか。大丈夫か?」と不安になった事だろう。

正直僕自身も「あれ?全然体が動かない。この先大丈夫か?」と不安で一杯だ。

だがこれは登山ではなく厄払い。

楽しいだけではこのヘドロのような厄は振り払えないのである。



やがて木和田尾道を抜けて白船峠に到達。

いよいよ世界はグレイッシュな氷の世界へ。

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ここまでサクッと着いたみたいになってるが、本来ならこの時点で一般的な鈴鹿の山一個登ったくらいの場所。

しかし目指すテーブルランドはまだはるか先。

このせっかくゲロ吐く思いで上げて来た高度を無にするかのように、一旦ガツーンと真の谷まで下降して行かねばならんのである。

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雪も膝下まで深くなって、悲壮感漂いまくる世界。

いよいよこれから鈴鹿の深部に向かって行くという緊張感。

ビジュアル的に、絶対に風邪ひいてる人が立ち入っちゃいけない領域だ。


実は喉元まで「いやあ…僕、そろそろ帰ろうかなあ…」なんて言いかけてしまったほどしんどかったが、とにかく行ける所まで行ってみようと「エイヤッ」と突入。

ムッハムッハと深雪をかき分けて行く。

そして何度もハマっては「ガハッー!ガハッー!」と悶絶する事に。

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しかしその表情を拡大してみると…

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ニヤついている!


そう、今彼は心の底から3ヶ月ぶりのマゾの悦びを全身で噛み締めているのだ。

こうなってくるともうこの男は誰も止められない。

「風邪は現場で治す」と公言していたように、こうなると不思議と風邪の症状も吹き飛んで行く。

彼はスーパーサイヤ人のように痛めつければつけるほど強くなって行く不思議な生物なのである。


この背後から迫り来る「グハー!グハー!」というトランス状態の男の迫力につられ、ジャンダラKも負けじと埋没遊戯。

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ここは地獄か天国か。

ここから先はマゾの花園。

昨日今日マゾになったばかりの新人は決して立ち入ってはいけない領域。

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死して屍拾う者なし。

僕らは好きでこういう事をしているんです。



そんな埋没パーティーをひとしきり楽しんでいると、やがて「真の谷」への入り口に到達。

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ここは別名「魔の谷」。

さらにその別名に別名を加えるなら「超人墓場」と呼ばれているとかいないとか。


かつて僕は鈴鹿セブンマウンテンを「7人の悪魔超人」に例えて撃破して行ったが(参考記事:鈴鹿セブン完全制覇〜7人の悪魔超人編〜)、鈴鹿山脈の最高峰はあくまでも御池岳。

言ってみれば御池岳はセブンマウンテンを統括する「悪魔将軍」。

その悪魔将軍と戦う為には、この超人墓場を脱出してその先の最大の難関を突破して行かねばならない。

それがこの「地獄の300m大直登断頭台」である。

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写真ではその気の遠くなるような迫力が伝わりきらないが、基本的に膝上クラスの深雪の急斜面が延々と続く大技。

途中で心が折れた者から順に、このように再び超人墓場に突き落とされるのである。

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この谷にはそんな無念の末に死んだジェロニモとかが埋まっているのである。


しかしここでひるんではマゾの名折れ。

しかも我々は、背中に傷を負わず常に前のめりで死んで行った三河武士の末裔。

ここでついにスノーシューを装着し、

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数々の超人の屍を越え、

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いざ、地獄の断頭台へ。

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瞬く間に心臓が破裂寸前。

鼓動はたちまち16ビート。

全身に突き抜ける山吹色の波紋疾走(オーバードライブ)。

これは想像以上にハードだぞ。


もう一歩一歩の体への負担がハンパ無い。

角度が急すぎて、一歩進むごとに半歩分ずり落ちるスノーシュー。

そのずり落ちを止める為に腿は常時強烈パンプアップ。

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かろうじてジャンダラKの先頭ラッセルで階段状になった道をしれっと盗みながら進むが、それでも一歩づつの負荷が凄まじい。

1m進むだけでぐったりなのに、これが300m続くという。

さすがは悪魔将軍である。


もはや何もしゃべる事も出来ず、ただひたすら「グハー…グハー…グエッ!ムハァ〜…」という音しか漏れて来ない。

そして勝手に「治った」と言い張っているが、確実に風邪による全身倦怠感がこの地獄をより華やかなものにしてくれている。


そんな後方から追ってくるダースベイダーから逃げるように、果敢に悪魔将軍の攻撃をかわして直登して行くジャンダラK。

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何気に彼のマゾい所は、これでいて彼は夜勤明けでそのままここに来ていると言う点。

しかも明日下山したらそのまままた夜勤に突入して行くという変態さ。

またここに新しいタイプの追い込み系マゾ超人が現れたようだ。


そんなハイパー超人について行くのがやっとの超人強度1万パワーの男。

ついに僕の心はボッキリと折れた。

その隙を悪魔将軍が見逃すはずもなく。

僕は無抵抗でマットに沈められた。

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そして息を引き取った。

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もはやここまでか…。

いささかおマゾが過ぎてしまったのか…。


しかし、それでも彼はなお生きていた。

本音を言えばこの時正直喉元までゲロが遡上していた。

しかし彼は立ち上がる。

この3ヶ月、溜まりに溜まったストレスはこの程度では発散されはしない。

悪魔将軍の攻撃なんて今の僕には通じない。

なんせ僕自身が「厄災将軍」なのだから。



こうして息を吹き返した厄災将軍と夜勤将軍の二人の超人。

それでも見上げる先はエンドレスフィーバー。

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こうなったら意地と意地のぶつかり合い。

我々「マゾ・ミッショネルズ」のタッグプレーでこの急登を撃破してみせる。


と、タッグプレーと言いながらただひたすら先頭をジャンダラKに行ってもらって、僕は「必殺ラッセル泥棒」に徹する。

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今の彼になら時給5,000円を払っても惜しくない。

今頃彼は「なんでこんな奴に声かけちゃったのかなあ…」と後悔しているに違いない。

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いよいよお互いにヘロヘロしてきた状況で、ついにテーブルランドの入り口を捉えた。

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もう少しだ。

もう少しで極楽浄土のテーブルランドだ。


辺りの光景もいよいよその時に向けて美しさを増して行く。

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もう体が疲れすぎて、台湾スイーツの雪花氷にしか見えない。

だがあともう少しなんだ。


この先には台地状の広大な雪原が広がり、空の青と雪の台地と樹氷とのコントラストがたまらない絶景が待っているという。

口の中をゲロの酸味で一杯にしながら、苦労して登って来た者だけに許された大絶景。

ひょっとしたらここまでの苦労を見てくれていた山の神が、ここに来て一気に大快晴を提供してくるかもしれない。



いざ、感動の瞬間へ!

青と白の大絶景!

着いたぞ!

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これがテーブルランドだ!

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私は叫んだ。

心の限り叫んだ。

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井戸田のように叫んだ。

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「白〜〜〜い!」と。





…毎度の事だ。

正直こうなる事は登る前から分かってた。

いや、この計画が持ち上がった段階から覚悟は出来ていたんだ。


むしろこれでいいんだ。

今、僕はこうしていつも通りの真っ白な世界に身を置く事が出来ている。

それだけでも幸せだ。

この白さ。

もはや母の懐に抱かれているような気分である。



こうして僕らは真っ白なテーブルの上に上陸した。

もはや精根尽き果てて頭の中も真っ白だが、まだこれからが本当の勝負。

これからこの病弱な体で、寒風吹きすさぶ雪原での雪上テント泊。

しかも初導入の底なし根性テント「富樫源次(シャングリラ3)」の初現場張り。

もうここは自宅の庭ではない。

いよいよダイレクトに大地をこの身に感じながら凍死する時が来たようだ。


そして不適に笑うジャンダラK。

彼は「今夜、俺のホルモンが爆発するぜ」とニヤリとする。

一体彼は何を企んでいるのか?


そして反撃の機会をうかがう悪魔将軍。

実体を持たない彼が次に一体どんな攻撃を仕掛けてくるのか?

そもそも御池岳の山頂を落とす事は出来るのか?


いよいよ風雲急を告げて来た厄除け復活祭。

そして一話で終わらせようと思ってたのに、久しぶりすぎてまた余計な長文になってしまってまさかの後編へ。


果たして彼は最後に笑う事は出来るのか?

色んな事を耐えて来た男に光は射すのか?


運命の歯車は、壮大なフィナーレに向けて動き出したのである。




御池厄除け復活祭 後編へ 〜つづく〜



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コメント

  1. SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    yukon780さん、長文お疲れ様です。

    じゃんだらKがやってきました。

    出だしから、イカシタ替え歌ですね~。
    ダウンしているはずなのに、こんな長文ブログを書けるあたり、
    さすがはマゾ超人!!
    まさか、ドクター・ボンベに診てもらいましたか?(笑)

    あんだけへとへとになっているのに、カメラを撮ってる辺りはマゾ超人。

    後編も楽しみにしています。

    • yukon780
    • 2015年 2月 08日

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    climb likeさん、お疲れ様でした!

    まさしくドクターボンベに診てもらって、ぜえぜえ言いながら書き上げました。
    しんどいからサクッと一話完結にしようとしたんですが、やっぱりむだに長くなって行きました。
    後編もさらに長くなってます…。

    そしてどんなにしんどくても写真だけはかならず撮るのがマゾのお作法です。
    結果的にclimb likeさんの後ろ姿ばっかりですが、己撮りしなくていい分だけ助かりました。
    地獄の断頭台のシーンはもう何もする気力なかったですからね。
    おかげで凄く合成しやすい良い絵を撮っていただきましたよ。
    何気にあの一枚の合成作業が一番時間かかったかもしれません…。
    そんな裏マゾも感じてみていただければと思います。

    後編はおまとめ動画もあります。
    よろしくお願いします!

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