壁をよじ登る父と、渋い表情で株価を見つめるおっさんのような息子。
なぜこのようなシュールな親子の画からスタートしてしまったのか?
そもそもこの日はりんたろくんの運動会当日。
りんたろくんの人生初の運動会で、彼はこの日をとても楽しみに待っていたはず。
一方、父もこの日は名古屋のアウトドアフィルムフェスに行くはずだった日。
父は父で、この日を半年程ずっと楽しみに待っていたはず。
それではなぜ先ほどのような悲しい世界が展開してしまったのか?
無念親子の素敵な土曜日。
これは一度振り返ってみる必要がありそうだ。
最近は父のマゾな記事が続いたので、ここらで平和なファミリーストーリーです。
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りんたろくんもついに人生初の運動会。
親としても「ついにここまで来たか」と感慨深いものがある。
りんたろくんも「ボク、かけっこ1番になるからね」とやる気がみなぎっている。
そして今日まで色んなダンスとか一生懸命練習して来たようだ。
お父さんとしても楽しみでしょうがないね。
そんな中、いよいよやって来た運動会当日の朝。
彼は僕との血の繋がりをまざまざと見せつけて来た。
思いっきり土砂降りじゃないか。
息子よ、お前もか。
これほどの悲しげな後ろ姿は、父さんまるで自分を見ているようだよ。
楽しみにすればする程、準備をすればする程に勢いづくマゾDNA。
余計な所ばかり律儀に父の意思を受け継がなくてもいいのに。
まだ4歳の身では雨マゾを楽しむには早すぎるだろう。
心の底から彼に謝りたい。
こうして土曜日の運動会は翌日曜日に順延。
でも日曜日の天気も雨予報で、なおかつ巨大台風が接近していて運動会開催はもはや絶望視された。
もう気の毒過ぎて見てられない。
一方、父の方はこの日は運動会が終わってから名古屋に行く予定だった。
実は半年前にその存在を知ってからずっと楽しみにしていた、世界最高峰のアウトドア・ドキュメンタリー映画祭「バンフ・マウンテン・フィルム・ フェスティバル・イン・ジャパン2013」の名古屋開催の日だったのだ。
名古屋ではたった1日だけ開催されるこのフィルムフェス。
登山やロッククライミングはもちろん、カヤックありトレイルランニングありの垂涎フィルムのオンパレード。
僕にとっては、それはもう宝石箱のようなフェスなのだ。
しかもいつもは雨で泣かされる僕だが、フィルムフェスとなれば屋内なんで雨もクソも関係無い。
この日のような雨だろうと、珍しく心穏やかに最高のアウトドア世界に入り込めるのだ。
しかしそんな僕の前に立ちはだかる影。
恐る恐る振り返ると、その影の主が言った。
「まさかこんな時に一人で名古屋に遊びに行くなんて言わんよね?」と。
突如岐阜で開催された「サディスティック・フェスティバル2013」。
しかし僕もかなり楽しみにしていただけに簡単には引き下がらない。
僕はこのフェスをどれほど楽しみにしていたかを切々と説いた結果、サド・フェス主宰者は「りんちゃん連れてくなら許す」と言ってくれた。
すかさず僕はりんたろくんに「お山の映画見に行こうか?カヌーとかもあるよ。」と揉み手で交渉開始。
なんだかんだ言っても、彼はこの父が手塩にかけて育て上げたアウトドアボーイ。
喜んで付いて来るはずだ。
すると息子は光の速さで「みたくない」と言うではないか。
挙げ句、聞いてもいないのに「カヌーきらい。つめたいから。」という悲しいレスポンス。
これにて父があれほど楽しみにしていた名古屋行きは、実にあっさりと消滅した。
あんなにも楽しみにしていたのに。
もう我ながら気の毒過ぎて見てられない。
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こんな気持ちのまま家にいたら精神が腐ってしまう。
僕は「この雨の中でも親子でマゾれるものは何か無いか?」という答えを探し、ネットの森の中を徘徊。
すると未就学児でもボルダリングが出来るボルダリングジムを発見。
そして家から高速使ってはるばる1時間以上かけてやって来たのが、名古屋市守山区にあるこの「プレイマウンテン」という所。
以前僕が行ったジムに比べて、中は広くてとても綺麗な所だ。
自宅周辺にもいくつかジムはあるんだが、当然危ないからどこも小学生未満は受け入れてくれない。
でもここは子供用の簡単なウォールが設置されていて、親の付き添いがあれば4歳のりんたろくんでもOKなのだ。
りんたろくんとしても、カラフルで楽しげなジム内の雰囲気に興奮気味。
基本的にインドア派の彼にとっては、この世界のが性に合っているのかもしれない。
そしてものすごいスピードで走り出し、
ものすごい勢いで登り出した。
まるで壁に飢えていたかのような情熱。(※カメラがぶれているだけだけど)
父としても、やっと息子に合ったアウトドア的な遊びが出来たかとガッツポーズ。
彼がこのままボルダリングにはまってくれれば、「子供の面倒見ながら自分も遊ぶ」という十分に大義名分が立った夢の状態が実現するのだ。
で、上まで登ると滑り台で降りて来れるから下りも安心。
さあ、張り切って第2登目と行こうじゃないか。
どんどん登って元を取ってくれよ。
お父さんは期待を込めて、ビジターではなくて高かったけど「会員」になったんだからな。
何気にここ結構お値段高いんだぞ。
どんどん登って、今後もどんどん通って一緒に楽しもうぜ。
なんて事を考えていたら、急にりんたろくんの動きが止まった。
僕は「おい、どうした?まだ1回しか登ってないぞ」と言うと、彼は言った。
「だって疲れちゃうの。もうおしまい。おウチ帰ろ。」と。
うそだろう?
うそだよね?
これ、何? ドッキリ?
いやいや、驚かそうとしたってお父さんは引っかからないぞ。
だってお父さん、なけなしのお小遣い使って、登録料とレンタルシューズ代込みで5,700円も支払ったんだぜ。
お父さん、そのサプライズはちょっと笑えないなぁ。
だってまだ開始5分と経ってないんだぜ。
僕は慌てて彼をおだてにおだて、最終的には「おもちゃ買ってやるから」とそそのかして何とか彼を登らせようとする。
しかし彼はホールドを「つまむ」だけで全く登って行く気配を見せない。
挙げ句、「はい、登ったよ。これでいい?おウチ帰ろ。」と言い放つ。
クッ、嫁の血め。
イオンの駐車場とかで少々入口から遠目の場所に駐車するだけで、「ここしかなかったの?歩かないかんがね。疲れるがね。どうしてくれるの。」と言い放つあの女の血が息子の中に充満している。
もうこうなると奴の意思は固い。
どんなにヨイショしても無駄だ。
このまま帰るわけにはいかないから、仕方なくりんたろくんにiPhoneを渡してゲームやって大人しくしててもらう事に。
他の子供たちはとても楽しそうに壁を登っているのに…。
わざわざ高速使って1時間かけてやって来て、5,700円払って息子にiPhoneゲームさせてる私は一体何者なのだ?
こうなったらりんたろくんがゲームに飽きるまでの間、何とか元を取ろうと必死のお父さん。
僕としても来るべき「ジャンダルム戦」に向けて(いや、行くかどうかはわかんないよ)、クライミングの訓練と高所恐怖症の克服訓練だ。
あと書くまでもないが、ジム内で己撮りしてるのは私だけです。
で、その結果オープニングの写真のようなシュールな画にこの親子が収まる事になったわけです。
そしてそこでは、上まで行って恐怖のあまり固まるお父さんも撮れていると言うわけです。
見た目は対した事無いけど、たったこれだけの高度で凄まじく怖いんです。
はっきり言ってジャンダルムなんて絶対に行けません。
そしてりんたろくんの渋い表情でお分かりの通り、彼はゲームに対してはここ一番の集中力を見せつけ、うまい具合にお父さんの時間は確保された。(良い事ではないけど)
たっぷりと1時間半程登った所で、ついに指の皮が剥けてしまった。
そしてもう完全に握力もなくなってしまった。
ペットボトルのキャップすら満足に空けられない。
これは腕の力に頼り過ぎてる証拠なんだけど、意識してもどうしても最終的にこうなってしまう。
出来ればちゃんと通ってしっかりと初歩から教わりたい所だが、恐らくここの会員証が僕の財布から出て来る事はもう無いだろう。
肝心のりんたろくんがこんな状態だからな。
もうすっかり横になってくつろいでいらっしゃる。
こんな事なら無理矢理フィルムフェスに連れて行けば良かったのか。
結果的にフィルムフェスにも行けなかった挙げ句に、大金を失って握力まで失う事になってしまったよ。
でも帰り際に何とか2回だけ登ってくれたりんたろくん。
そして「楽しかったか?」と聞けば「楽しかった。また来よう」と摩訶不思議なことを言ってくる。
我が息子ながら、早くも心の中が見通せない。
それともただ単に気を使ってるだけなのか?
何にせよ彼は僕の子であると同時に、間違いなく嫁の子だと言う事がハッキリと分かった。
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その後、近くにある「貴乃家(きのや)」という所で昼飯。
実はここは僕が大学生時代に足しげく通った「青春の店」。
学生には嬉しいボリュームの定食を出す店で、メニューも豊富。
実に15年ぶりくらいにやって来たが、店内は何も変わっていなくて実に嬉しい。
そしてよくここで友達に「どうせ俺には彼女なんて出来ないさ。このまま一生童貞野郎なのさ。30歳過ぎても、夜も安心なヤラサーティーとなって男の操を貫いてみせる」と息巻いていたものだ。
しかしあれから15年が経って、なんと今我が子を引き連れてここに来る事になろうとは。
実に感慨深いものがあるなあ。
そして定食に付いてくるコーヒーも相変わらずだなあ。
なんて思っていたら、りんたろくんがコーヒーをお新香のキュウリの上にぶちまけた。
たちまち僕の青春の味が、きりりと冷えた渋い味に。
これは偶然の事故だったのか?
それとも運動会が延期になった挙げ句に、変なとこに連れてこられた我が子の復讐劇なのか?
その謎は誰も分からない。
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その後は、ご機嫌を取るべく彼の大好きな温泉へ。
たちまちテンションが上がり、「挟まり好き」の彼はご機嫌で券売機に挟まれている。
いいぞ。
この調子で行けば「最終的に良い旅だった」と気持ちよく終われそうだ。
しかしそんな親子の楽しい時間を奪い取る、温泉からの刺客が登場。
それがこのUFOキャッチャーだ。
りんたろくんが仮面ライダーの景品に夢中になり、テコでもその場を動かない持久戦に突入。
仕方なく何度か挑戦してみるが、良い所まで行って全く取れない。
やがてりんたろくんが涙目になって「なんで取れないのよう」と父を責めるような目。
湯水のように投入されて行く我が100円玉の数々。
意地になってこの機種の攻略法をネットで調べてみると、「この台は腕とか関係ない確率台。通常はアームが途中で緩む仕組みで絶対に景品は取れない。ゆえに攻略法は無く、根気よく資金を投入すればいずれアームが強くなる時が来る。ひたすらそれを待ちましょう」とある。
なんというサディスティックなUFOキャッチャーなのか?
おかげで1,300円もここで無駄に使ってしまったじゃないか。
結果的に高速・ガソリン代、ボルダリングジムと昼飯と温泉代、そしてこの悪徳マゾキャッチャーによる出費でトータル1万円を越えてしまった。
何も得たものは無いと言うのに。
僕はただ親子で雨の日を楽しく乗り切りたかっただけなのに。
そして、その1万円を払った最終的な結果が「景品を取れない不甲斐ない父を、涙を流して恨めしげに見つめる息子」という悲惨な末路へ。
一体どこから歯車が狂ってしまったんだろうか?
1万円を失った挙げ句に、父親としての威厳までも失ってしまった気がする。
こうして息子は運動会を失い、父はとても多くのものを失った土曜日となった。
このままでは誰一人報われないぞ。
まあでもなんだかんだ彼は楽しんでくれたと信じたい。
温泉に入った後は機嫌も治ってたし。
そして帰宅。
ひとしきり怪獣ごっこで楽しいひとときを過ごす。
そして二人で寝転んでいると、我が息子は「ねえ、お父さん…」と何かを言いたそうな目でこっちを見て来た。
さては「今日ね、楽しかったよ」とでも言うのかな?
すると彼は唐突に信じられない事を口走って来た。
「お父さんは何でボクのおウチにいるの?」と。
そして「借りてるものは返されるの?いつ岡崎に戻るの?」と言うではないか。
衝撃的発言。
我が息子は僕の事を「借り物」だと思っていた事が発覚。
彼は僕の事を「レンタルお父さん」だと認識していたのだ。
確かに最近「岡崎のおばあちゃんがお父さんのお母さんなんだよ。お父さんはヨウシっていう奴なんだよ。」と教えた記憶はある。
彼はそれをどう解釈したのか、彼の中では嫁が僕を岐阜に借りて来たという図式に落ち着いてしまった模様。
そして最近保育園で絵本を借りて来る事が多い彼は、「借りたものは必ず返す」という概念を学んでいたのだ。
僕は悲しみに暮れながら「お母さんが父さんを岡崎に返しちゃったらどうする?無くは無い話だよ。」と聞いてみた。
すると彼は言う。
「いやだ!お父さんはずっと僕のお父さん!」
そして「だってお父さんの事大好きだもん!」と。
りんたろう…。
色々あったが、最終的には彼は嬉しい事を言ってくれた。
なんだか裏目裏目のオンパレードだったこの雨の土曜日。
1万円を無駄に費やした気がしたが、最後にはちゃんとお金で買えないものを手に入れたね。
ありがとう、りんたろう。
ついでに「じゃあカヌーは好きか?」と聞いたら「カヌーきらい」とハッキリ言った。
まあ。
いいけどさ。
さあ、明日こそ張り切って運動会だ。
雨も止んで来たぞ。
頑張ってかけっこ1番になって、お父さんと一緒に親子競技頑張ろうじゃないか。
こうして親子は再び翌日の運動会に向けて動き出す。
そしてこの日の夜。
再びシトシトと雨が降り出していた。
運動会への旅路 後編へ 〜つづく〜
運動会への旅路 前編〜雨の1万円サタデー〜
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MATATABI BASE
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借りもので返されるお父さんの下りはちょっとドキドキしましたが、雨降って地下足袋ぢゃなくって地固まるじゃないですか!お父さんよかったじゃないですか、ホント。
コーヒーキューりですが、絵の方を先に見たので、味な店だなあ、黒蜜に寒天とかぼすのデザートか、こりゃ常連さん沁みるだろうなぁって思いきやですよ!アクシュデントとは、びっくりでした。
ボルダリングは何とか行きそうですね、ホッとしました。
カヤックは真夏日に水遊び感覚でというのはいかがでしょうか?無論きれいな臭くない川ですよ。
しかし、レンタルパパ、これからのビッグビジネスになるかもしれませんな。
・エンジニア系パパ ・マンが大好き系パパ ・一緒に酒飲み系パパ ・頑固一徹パパ ・アウトドア万能パパ いろいろ品揃えればOK じゃないでしょうか?
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hamatoshiさん、コーヒーキューリは無くは無い味でしたよ。
コーヒーには勝手に砂糖も入ってるから、ある種新感覚のスイーツでした。
ただ青春の味を堪能しようとしてた矢先の新種デザートに若干戸惑いましたがね。
その後ボルダリングに関しては「また壁登りたいか?」よ聞けば「行く、行く」と行ってくるから、よっぽどカヌーよりは光が射してます。
ただ遠くて値段も高いのが厳しい所。
やはり何事も犠牲という名の血を見ないと改革は出来ないんですね。
カヌーもGWのまだ水が冷たい時に行ってしまったのがいけませんでした。
かといって夏の清流には鮎釣り師がいてカヌーできないし。
まずは水遊びからやってみますが、以前連れてったときは夏でも「冷たいからもう帰る」と言ってました。
強敵です。
とりあえず、hamatoshiさんの周りで「レンタルマゾパパ」や「レンタル加齢臭」、もしくは「レンタル雨男」をお望みの方がいればおっしゃってください。
時給500円で駆けつけます。