ここからの貴公子と女王様は、最高にセクシーな山容を惜しげもなく披露してくれた。
僕の中の辞書から「快晴」「快楽」「痛快」「愉快」などのワードが消えかけていただけに、忘れかけた感覚を噛み締める。
振り返れば、Hくんが腕をポリポリ掻いてるだけなのに、甲斐駒ケ岳をバックに実に絵になっている。
何気ない光景ですら、彼をひと味違う男に引き立てる。
雄大な光景をバックにさらに突き進む。
真っ青な空に吸い込まれて行くようだ。
なんだか青春してる感じがするじゃないか。さすらってる感が出てるじゃないか。
僕にとっては随分遅れて来た快晴の青春。
すっかり女王様に惚れてしまったぞ。
やがて仙丈小屋に到達。頂上まであと20分ほどだ。
山小屋には泊まりたくないが、こんなロケーションならそれもありかも。
風も出て来たので、急いで山頂を目指す。
思いのほか、ここから山頂までは結構しんどかった。
僕らが5合目の分岐点で回避した稜線コースの方を見れば、アリのような登山者が見て取れた。
なんかすごくこんな光景が好きだ。下界ではこのような光景は中々見られない。
基本、文字はあまり必要ない。
壮大な光景が好きなんだけど、日本でも山に登ればちゃんと広がってるんだな。
ガツガツ登って行きます。
Hくんも色々と悩みがあるのだろうか。頭から煙が出ている。
あとちょっとで頂上だ。
みんな自然と笑顔が溢れてくる。
もう僕にいたってはヨロコビでもらしそうだ。
そしてついに登頂成功。
マゾの分際で女王様の顔を踏みつける事に成功だ。
頂上からの眺めは、まさに360℃の大展望。
おや。
あれはさては富士山ではないか。
もはや脱糞ものだ。
僕は先月登った富士山を閑雅深く眺めた。
そして登山隊での記念撮影。
考えてみると、僕は今年本格的に登山を始めて以来仲間とともに登頂した事がなかった。
基本的にいつも一人だったし、いたとしても眠っているりんたろくんが一緒だったくらいだ。
富士山ではあれほどの大勢で行ったのに、まさかのロンリー登頂・ロンリーナイト・ロンリーご来光だった。
いつも僕は一人登頂を果たしても、軽く「ヨシ」と呟いてうなずく程度の切ない登頂だった。
でも今回は仲間がいる。空も晴れてる。景色も素晴らしい。
辛すぎた過去のマゾ登山を思い出し、悲しい登頂の歴史を繰り返して来た男は必然的に全身でヨロコビを表した。
それがオープニングのプラトーン写真へと繋がるのだ。
周りに多くの登山者がいるが恥ずかしがってる場合じゃない。
アウトドアの世界に踏み入ってからもはや10年以上が経ったが、ついぞいい事がなかった。
僕の辞書では「トラブル=日常」と訳されていたほどだ。
喜べる時に喜んどくもんだ。
ほら、そんなこと考えていたらすごい勢いで雲が迫って来ているぞ。
先ほどまでの快晴が嘘のように雲に浸食されて来たが、今回は奴らも一歩遅かったようだ。
そそくさと我々は逃げるように下山を開始した。
さあ、ここからは5合目にマゾルートに行ったおかげで残しておいたスイーツな稜線歩きが始まる。
これだよ。これ。求めていたものは。
快晴と圧倒的な景色での稜線歩き。最高だ。
しかし、残念ながら僕の体は最高ではなかった。
下山開始わずか5分にして、僕のガラスの両膝が早くもヒビだらけだ。
痛い。もう痛い。まだ雲の上なんだが。
3000m付近での下山時の膝痛は、中々に今後をを不安にしてくれる。
まだ頂上付近なのに、いつもの「産まれたて子馬スタイル」が炸裂した。
今日の抑えのエースC3-POは6回表からの緊急登板だ。
試合終了までこの強力な打線を抑え込むことが出来るだろうか?
しかしこの緊急登板も想定内だ。
今回は秘密兵器をスギ薬局で購入して来ていた。
サポートタイツは履いているんだが、さらにその上からの膝サポートだ。
これを装着する事により、動きはよりC3-PO化するがそこそこ痛みの軽減にはなる。
でもこれから慢性的にこの膝と付き合って行かねばならないんだろうか。
登りだけなら結構へっちゃらなんだけど。
どこかにこんな山ないかな。
遅い昼食を済ませ、稜線歩きは続く。
アップダウンが続き、結構ガッツリと岩場を登ったりもする。
そして、富士山に次ぐ標高2位の北岳が見えて来た。
来年以降の目標だ。
どれほど痛い目に合わせてくれるだろう。ゾクゾクする。
森林限界まで下降し、あとはもうただただ下山。
もう僕の下山スタイルも、一つの新しいジャンルとなりつつあるほどの完成度だ。
前衛的なダンスのように下って行く。
下山ダンスという種目があればそこそこ上位に食い込む自信はある。
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長い事かけてやっとこさ北沢峠に到着した。
山梨側のバスは最終便の15:30で、ギリギリの到着だった。
下山後のコーヒーどころか、記念撮影する暇もなくみんなはバスに乗り込んで行く。実にそつのない登山となった。
みんなに遅れる事20分ほどで、僕も長野側のバスに乗り込む。
陽気なバスの運転手はいちいちいろんなものに解説を入れてくれる。
その度にスピードが落ちたりとまったりするもんだから、バスが進まないこと。
でも途中でカモシカは見れたけど。
繰り返されるストップ&ゴーで、すっかり車に酔ってしまいつつ駐車場に到着した。
いつもの僕の登山だと、この時点で「完全燃焼」の文字が刻印されるが本日はそこそこ余裕がある。
たまにはこんな登山もいいもんだ。
というかこういう登山がしたかったんだ。
今回の登山がこの先にある地獄の登山前の蜜なのか、それとも今後は楽しい登山ライフを予告しているのか。
今後も彼の登山から目が離せない。
※結局iPhone4Sをどうするかの結論は出なかった。もうちょっと悩もう。
〜仙丈ヶ岳 完〜
仙丈ヶ岳3〜抑えのエース緊急登板〜
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MATATABI BASE
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